第4話 海に浮かぶ謎の島!魔物と宝の眠る遺跡
ゴーン……。
霧の向こうから、三度目の鐘が鳴った。
「……見えた!」
船員の叫び声が響く。
灰色の霧が、ゆっくりと左右に割れていく。
その向こうに現れたのは――。
巨大な島だった。
「うわ……!」
蓮は思わず声を上げた。
島の中央には、空を突き刺すような石造りの塔がそびえている。
海岸には白い砂浜。
その奥には、見たこともない巨大な樹木が生い茂っていた。
そして、島のあちこちに、古代遺跡らしき建造物が点在している。
だが、不自然なこともあった。
波が島の手前で二つに分かれている。
まるで、島そのものが海から少し浮いているかのようだった。
「……島が浮いている?」
ミリアが目を見開く。
「いえ、正確には……地面と海の間に、何かがあるように感じます」
リナが地図を広げた。
すると、地図の中央に青白い光が集まった。
【未登録地域を確認】
【名称:境界浮島】
【接続状態:不安定】
【古代遺跡反応:複数】
【魔物反応:多数】
「魔物反応、多数って……」
蓮は画面を見つめた。
「観光地じゃないことだけは確かだな」
セレナが蓮の腕にそっと抱きついた。
「大丈夫です。危険なときは私が蓮様を守ります♡」
「ありがとうございます。でも、まずは安全確認からです」
「さすが未来の旦那様。慎重ですね♡」
「その呼び方、いつまで続くんですか……」
「結婚するまでです♡」
「長期戦確定じゃないですか!」
狼王が呆れたように鼻を鳴らした。
「島に着く前から騒がしいぞ」
そして、蓮の頭の上ではモモが羽を震わせていた。
「ぷりん! ぷりん!」
「モモ、島にプリン屋はないと思うぞ」
「ぷりん……」
モモは明らかに落ち込んだ。
「そんな顔をするな。帰ったら買ってやるから」
「ぷりん!」
「現金なやつだな……」
◇
船は、島の東側にある入り江へ進んだ。
ガルン船長が慎重に舵を切る。
「妙だな……」
「どうしました?」
蓮が尋ねる。
「風が止まっている。帆を張っているのに、船が勝手に進んでいるんだ」
「潮の流れですか?」
「いや、違う」
ガルンは海面を見つめた。
「海そのものが、船を島へ引っ張っているようだ」
その瞬間。
ゴゴゴゴゴ……。
海の底から低い音が響いた。
船体が大きく揺れる。
「全員、つかまれ!」
ガルンが叫んだ。
船の横で、巨大な泡が次々と浮かび上がる。
そして――。
ザバァァァン!
海面から、黒い触手が飛び出した。
「魔物だ!」
触手が船の縁に巻きつく。
ギシギシ……。
木材が悲鳴を上げた。
「船を壊す気か!」
蓮はスマートフォンを取り出した。
【魔物反応を確認】
【対象:深海拘束種】
【危険度:高】
【弱点:魔力核】
「魔力核を探せってことか!」
ミリアが杖を構える。
「私が触手を凍らせます!」
「頼む!」
「氷結拘束!」
冷気が走り、触手の一部が凍りつく。
だが、別の触手が船尾へ伸びた。
「させるか!」
狼王が跳躍する。
黒い爪が触手を切り裂いた。
海魔が苦しそうに身をよじる。
「グォォォォ!」
「まだ来るぞ!」
リナが叫んだ。
海面の下に、さらに二つの影が見える。
蓮は画面を操作した。
「境界追跡……使えるか?」
【境界追跡】
【対象の接続点を検出します】
蓮が海魔を見つめる。
すると、黒い触手の根元に、赤い光が見えた。
「そこだ!」
蓮は船員に叫んだ。
「左舷の下! あの赤い光を狙ってください!」
「そんなところに何があるんだ!」
「説明は後です!」
ミリアが杖を向けた。
「魔力弾!」
光弾が海へ飛び込む。
ドォン!
水柱が上がった。
海魔の動きが止まる。
同時に、蓮のスマートフォンが鳴った。
【境界接続点を検出】
【接続解除を実行しますか?】
「やるしかない!」
蓮は画面をタップした。
【実行】
パキンッ!
見えない何かが砕ける音がした。
触手が一斉に力を失う。
海魔は大きな水しぶきを上げ、海中へ沈んでいった。
静寂が戻った。
「……助かったのか?」
船員が呟く。
蓮は深く息を吐いた。
「たぶん……」
スマートフォンには、新しい表示が出ていた。
【境界追跡:経験値を取得】
【解析進行度:35%】
【新機能候補:接続点の可視化】
蓮は画面を見つめた。
「新しい能力……」
今までは、境界の異常を感覚的に見つけることしかできなかった。
しかし、これからは接続点そのものを見つけられるかもしれない。
「これなら、島の謎も解けるかもしれないな」
ミリアが頷いた。
「ただし、無理は禁物です。今の力も、何度使えるか分かりませんから」
「分かってるよ」
セレナが蓮の服についた水滴を拭う。
「蓮様、濡れてしまいましたね」
「海の上ですからね」
「では、帰ったら私が着替えを用意します♡」
「自分で用意します!」
「遠慮しなくてもいいのに♡」
「遠慮じゃありません!」
モモが蓮の肩で羽を震わせた。
「ぷりん!」
「モモはプリンのことしか考えてないな……」
◇
しばらくして、船は入り江に到着した。
白い砂浜。
透明な海。
鳥の声。
一見すると、美しい無人島だった。
だが、砂浜には妙なものが落ちていた。
古びた靴。
割れた木箱。
錆びた剣。
そして――。
砂に半分埋もれた、小さな金属板。
蓮はそれを拾い上げた。
表面には文字が刻まれている。
「……日本語?」
ミリアが驚いた。
「読めるんですか?」
「ああ。でも、かなり古い文字だ」
蓮は砂を払い落とした。
金属板には、こう刻まれていた。
『佐伯家 調査記録』
『第一回調査』
『境界浮島に到着』
蓮の手が止まった。
「……佐伯家?」
リナが駆け寄ってきた。
「蓮さん、見せてください!」
金属板の裏側には、さらに文字があった。
『島の中心には、境界を制御する装置がある』
『装置を動かしてはならない』
『もし装置が停止すれば、島は海の底へ沈む』
蓮は顔を上げた。
「島が沈む……?」
その瞬間。
ドンッ!
島の奥から、地響きが響いた。
遠くの塔が青白く光る。
そして、地面がわずかに揺れた。
「何だ!?」
ミリアが身構える。
リナの地図が激しく光った。
【警告】
【境界浮島:安定率低下】
【古代装置:起動反応】
【残存時間:不明】
蓮は金属板を握りしめた。
「誰かが装置を動かしたのか?」
狼王が森の奥を睨む。
「……何かいる」
木々の間。
巨大な影が動いた。
ゆっくりと姿を現したのは、石の鎧をまとった獣だった。
頭には二本の角。
身体には古代文字が刻まれている。
その胸には、赤く輝く魔力核。
「古代の守護魔物……!」
ミリアが息をのむ。
魔物は蓮たちを見つめた。
そして、低い声で告げた。
『佐伯の血を確認』
蓮の身体が固まった。
「……今、何て言った?」
魔物の目が赤く輝く。
『侵入者を排除する』
「いやいやいや! 話し合いは!?」
蓮は慌てて手を上げた。
「俺たちは調査に来ただけで、遺跡を壊すつもりは――」
『排除』
「聞いてない!」
魔物が地面を蹴った。
ドォォン!
巨大な爪が振り下ろされる。
蓮たちは左右へ飛び退いた。
砂浜が大きくえぐれる。
「蓮様!」
セレナが蓮の前に立った。
黒い魔力が彼女の周囲に広がる。
「この方に手を出すことは、許しません」
ヴェルティアほどではないにしても、セレナの魔力も相当なものだった。
だが、魔物は一歩も退かなかった。
『佐伯の血』
『鍵を持つ者』
『扉を開けよ』
蓮は息をのんだ。
「鍵……?」
その言葉に反応するように、蓮のスマートフォンが震えた。
【古代遺跡の認証装置を確認】
【血統照合:一致】
【新能力候補:境界鍵】
【解放条件:遺跡の中枢へ到達する】
蓮は画面を見つめた。
「境界鍵……。これが新しい能力なのか?」
だが、詳しく確認する余裕はなかった。
守護魔物が再び動き出したからだ。
「まずは、こいつをどうにかしないと!」
狼王が吠えた。
「蓮! 魔物の注意は我が引き受ける!」
「頼む!」
ミリアが魔法を準備する。
リナは地図を開き、遺跡へ続く道を探した。
セレナは蓮の隣で、静かに微笑んだ。
「蓮様。必ず生きて帰りましょう」
「ああ!」
蓮はスマートフォンを握りしめた。
島の中心にある古代遺跡。
佐伯家の調査記録。
そして、蓮だけに反応する守護魔物。
この島は、偶然見つかった場所ではない。
誰かが、佐伯家の人間が来ることを待っていたのだ。
そのとき、島の中央から再び鐘が鳴った。
ゴーン……。
守護魔物が動きを止める。
そして、蓮を見つめた。
『鍵を持つ者よ』
『扉の前へ』
『最初の商人が待っている』
蓮の顔から笑みが消えた。
「……最初の商人?」
霧の向こう。
古代遺跡の扉が、ゆっくりと光り始めた。
その扉には――。
佐伯家の紋章が刻まれていた。




