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「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第3章 未知の海へ!最初の商人と境界の秘宝
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第3話 霧の向こうに何がある?消えた航路の謎

「……なあ、あれって霧だよな?」

船の甲板で、蓮は海の向こうを指差した。

水平線の先。

青い海を覆い隠すように、灰色の霧が広がっている。

しかも、普通の霧とは違った。

風が吹いているのに、霧は動かない。

波が立っているのに、その場所だけ海面が鏡のように静かだった。

「妙ですね……」

ミリアが杖を握る。

「風の魔法を使っても、霧がまったく揺れません」

リナは魔法の地図を広げた。

「この先に、何かがあります」

「島か?」

「分かりません。でも……地図が、その先を描こうとしないんです」

「地図が描こうとしない?」

蓮は地図を覗き込んだ。

確かに、海図には霧の手前までしか記されていない。

その先は、黒い線で塗りつぶされていた。

まるで、誰かが意図的に隠したかのように。

「よし。じゃあ、まずは商売の基本だ」

蓮は腕を組んだ。

「危険な場所に入る前に、情報収集!」

「おお!」

モモが蓮の肩に止まった。

「ぷりん!」

「そうだな。情報収集の後はプリンだな」

「ぷりん!」

「いや、そこまで約束してないから!」

セレナが微笑む。

「蓮様とモモちゃん、息がぴったりですね♡」

「未来の夫婦とペットみたいですね♡」

「誰が夫婦だ!」

「では、未来の夫婦と未来の家族ということで♡」

「話を勝手に進めないでください!」

狼王が大きくあくびをした。

「……出発前から疲れる船だ」

          ◇

「船長、霧の手前で止めてくれ!」

蓮の指示で、船はゆっくりと速度を落とした。

今回の船を操るのは、北方海域に詳しい老船長のガルン。

白いひげに、日に焼けた顔。

長年、危険な海を渡ってきた男だ。

ガルンは霧を見つめ、顔をしかめた。

「ここか……」

「この海域を知っているんですか?」

「ああ。船乗りの間では、昔から有名な場所だ」

ガルンは低い声で話し始めた。

「この霧に入った船は、帰ってこないことがある」

「全員ですか?」

「全員とは限らん。帰ってきた船もある」

「なら、通れるんですね?」

「問題は、その船がどこを通って帰ってきたのか、誰も説明できないことだ」

蓮は眉を寄せた。

「どういう意味です?」

「船長は東へ進んだと言う。だが、船員は西へ進んだと言う。航海日誌には北へ進んだと書かれている」

ミリアが息をのむ。

「空間そのものが歪んでいる……?」

「あるいは、記憶が書き換えられているのかもしれません」

リナが地図を握りしめた。

ガルンは頷いた。

「俺の知り合いにも、この霧に入った船乗りがいた。三日後、別の港で発見されたんだ」

「三日後?」

「本人たちは、一時間しか航海していないと言い張った。食料もほとんど減っていなかった。だが、船の外板には、何十年も海にさらされたような傷があった」

蓮は黙り込んだ。

時間までおかしくなるのか。

スマートフォンを取り出す。

画面には、見慣れない警告が表示されていた。

【未登録領域に接近】

【境界反応:強】

【空間座標:不安定】

【時間差異:検出不能】

「時間差異まで……」

蓮の背中に冷たいものが走った。

しかし、そのとき。

ピコン。

新しい通知が届いた。

【商人向け機能:航路記録】

【未解放】

【解放条件:失われた航路の情報を取得する】

「航路記録?」

蓮は画面を見つめた。

「これ、今までなかった機能だぞ」

ミリアが覗き込む。

「新しい能力の手がかりですね」

「失われた航路の情報を取得する……。つまり、霧の中に入れば何か分かるのか?」

「蓮様」

セレナが真剣な表情で言った。

「危険です。まだ情報が足りません」

いつもの妻気取りとは違う、落ち着いた声だった。

「あなたが帰れなくなったら、私は……」

セレナは一瞬だけ言葉を止めた。

そして、いつもの笑顔を作る。

「未来の夫を迎えに行くために、海を全部買い占めることになります♡」

「規模が大きすぎる!」

けれど、蓮は彼女が本気で心配していることに気づいていた。

「ありがとう。無茶はしない」

「本当ですね?」

「本当だよ」

「では、手をつないでいてください♡」

「それは別の話だ!」

          ◇

そのときだった。

「船長!」

見張りの船員が叫んだ。

「右舷に、何かいます!」

全員が海を見る。

霧の手前。

波間に、黒い影が浮かんでいた。

最初は岩かと思った。

だが、それは動いた。

ザバァッ!

巨大な頭が海面から現れる。

鋭い角。

青白く光る目。

そして、船体ほどもある大きな口。

「海魔だ!」

ガルンが叫んだ。

「こんな場所に出るはずがない!」

海魔は低く唸ると、船へ向かって突進してきた。

「全員、つかまれ!」

ドォォォン!

船が大きく揺れた。

「きゃっ!」

セレナが蓮の腕をつかむ。

「蓮様、危ない!」

「セレナさんこそ!」

狼王が甲板の端へ走った。

「この程度、我が追い払ってくれる!」

黒い魔力が狼王の身体を包む。

狼王が吠えると、魔力の衝撃が海面を走った。

だが――。

海魔は傷ひとつ負わなかった。

「何だと?」

ミリアが杖を掲げる。

「氷結拘束!」

海面から氷の鎖が伸び、海魔の身体を縛る。

しかし、次の瞬間。

バキィィン!

鎖が粉々に砕けた。

「魔法が効かない!?」

「違う!」

蓮はスマートフォンを見た。

【対象:境界性魔物】

【通常攻撃:効果低】

【境界干渉:有効性を確認】

「境界干渉……?」

蓮は海魔を見つめた。

その身体は、輪郭が時々ぼやけている。

まるで、海の上に映し出された映像のようだった。

「こいつ、普通の魔物じゃない。境界を通って現れているんだ!」

「なら、どうすればいい!?」

ミリアが叫ぶ。

蓮はスマートフォンを握りしめた。

「境界のつながりを切る!」

画面に手をかざす。

【異能:境界支配】

【対象を選択してください】

蓮は海魔の身体を見つめた。

その奥に、細い黒い線が見える。

海魔と霧をつなぐ、一本の線。

「見えた!」

蓮は指を伸ばした。

「切断!」

白い光が走る。

パキンッ!

何かが砕ける音がした。

海魔の身体が大きく揺らぐ。

「グォォォォッ!」

咆哮とともに、海魔の輪郭が崩れ始めた。

そして――。

ザバァン!

巨大な水しぶきを上げ、海魔は海の中へ沈んでいった。

甲板に静寂が戻る。

蓮は肩で息をした。

「……倒せたのか?」

スマートフォンが鳴る。

【境界接続の切断を確認】

【一時的な侵入経路を遮断】

【新能力の解析を開始】

【能力候補:境界追跡】

【解放条件:失われた航路の記録】

蓮は画面を見つめた。

「境界追跡……」

ミリアが駆け寄る。

「蓮さん、大丈夫ですか?」

「ああ。でも、今の力を何度も使えるかは分からない」

セレナが蓮の手を握った。

「だから、無理をしないでください」

「分かってる」

「本当に?」

「本当に」

「では、帰ったら一緒にお茶を飲みましょう♡」

「どうしてそうなるんだ……」

「夫婦の時間です♡」

「まだ夫婦じゃない!」

モモが蓮の頭の上で羽を震わせた。

「ぷりん!」

「モモまで!」

狼王は海を睨んでいた。

「……今の魔物、霧の中から出てきたのだな」

「ああ」

蓮は霧を見つめた。

「つまり、あの先には、まだ何かいる」

          ◇

戦闘の後、船は霧の手前で停泊した。

ガルンが古い航海日誌を持ってきた。

「蓮。これを見てくれ」

「これは?」

「俺の父が残した航海日誌だ。昔、この海域を調べようとしたときの記録だ」

蓮はページをめくった。

最初は普通の航海記録だった。

風向き。

海流。

船の速度。

しかし、ある日付から文字が乱れ始めている。

『霧を発見』

『羅針盤が動かない』

『船員の一人が、島を見たと言っている』

さらに次のページ。

『島は見えない』

『だが、鐘の音がする』

そして、最後のページ。

『この海には、島がある』

『地図から消された島だ』

『島へ入る道は、海にはない』

蓮は息を止めた。

「海にはない……?」

リナが地図を広げた。

「待ってください」

彼女は黒く塗りつぶされた海域を指でなぞった。

すると、地図の上に青白い光が浮かび上がった。

黒い線の下から、細い道が現れる。

それは海上の航路ではなかった。

海の底を通り、霧の中央へ続いていた。

「こんな道、今までありませんでした!」

リナが驚く。

スマートフォンにも通知が届いた。

【失われた航路の情報を取得】

【航路記録:部分解放】

【境界追跡:解析進行中】

【未登録地点を検出】

【名称:???】

【距離:不明】

そして、最後に一つの文字が浮かんだ。

【島】

蓮は海を見つめた。

霧の向こう。

そこには確かに、何かが存在している。

けれど、地図にも記録にも、その姿は残されていない。

「……明日、霧の中へ入ろう」

ミリアが頷いた。

「準備を整えてからですね」

「ああ。今のまま突っ込むのは危険すぎる」

狼王が牙を見せる。

「次に魔物が現れたら、今度こそ我が仕留める」

セレナは蓮の隣に立った。

「私も同行します」

「もちろんだよ」

蓮は微笑んだ。

「全員で行こう」

モモが元気よく飛び上がる。

「ぷりん!」

「分かった。島に着いたら、プリンを食べよう」

「ぷりん!」

「蓮様、私もご一緒しますね♡」

「セレナさんは最初から一緒です!」

一瞬、いつもの空気が戻った。

しかし、蓮は最後にもう一度、霧を見つめた。

あの向こうには、佐伯家の秘密があるかもしれない。

新しい能力の手がかりもある。

そして、誰かが意図的に隠した島。

そのとき。

霧の奥から、かすかな鐘の音が聞こえた。

ゴーン……。

リナが顔を上げる。

「……今、聞こえましたか?」

「ああ」

蓮は答えた。

「鐘の音だ」

スマートフォンが震える。

【警告】

【未知の接続先から呼びかけを検知】

【対象:佐伯蓮】

【応答しますか?】

画面の下には、二つの選択肢が表示されていた。

【YES】

【NO】

蓮は指を止めた。

ヴェルティアの言葉が頭をよぎる。

――もし島で、あなたの名前を呼ぶ声が聞こえても、すぐに返事をしてはいけない。

「……今は、答えない」

蓮は【NO】を選んだ。

すると画面が暗くなり、最後に一文だけが表示された。

【了解しました】

【それでは、島でお待ちしています】

「……!」

蓮の背筋が凍った。

呼びかけを拒否したはずなのに。

向こうは、まるで最初から蓮が島へ来ることを知っているかのようだった。

霧の奥。

鐘の音が、もう一度響く。

ゴーン……。

その音に合わせるように、海の底で巨大な影がゆっくりと動き始めた。

そして、霧の向こうに――。

ほんの一瞬だけ、古代遺跡の尖塔が姿を現した。

蓮は息をのんだ。

「……あそこに、島がある」

失われた航路。

境界を渡る魔物。

そして、蓮を待っている何者か。

次の目的地は、ついに姿を現した。


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