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「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第2章 新しい異世界カーテンの向こうで大商売!
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第44話 バルトが助けた村人たちの懇願!商業組合に響く救いの声

セントラル商業組合。

朝から、バルトは落ち着かなかった。

机の上には、昨日の取引記録。

保存食十箱。

納品確認書。

支払い記録。

そして――

次の注文、二十箱。

「……本当に、もう一度注文してくれたんだな」

バルトは、何度も注文書を見直していた。

昨日まで、彼の信用値はマイナス999。

誰も取引をしてくれなかった。

店の看板を出すだけで、客に避けられた。

それが今は、少しずつ変わり始めている。

「バルト!」

商業組合の職員が、書類を抱えて走ってきた。

「正式な調査結果が出ました!」

「調査結果……?」

「はい。改ざんされていた取引記録の一部について、正式に訂正が認められました!」

バルトは立ち上がった。

「本当か!?」

「さらに、あなたが提出した納品記録と証言が確認されました。過去の取引についても、再審査が始まっています」

職員は一枚の書類を差し出した。

そこには、商業組合の正式な印が押されていた。

「これまでの記録をすべて無効にするわけではありません。あなた自身が契約を破った件については、引き続き責任を取っていただきます」

「分かっている」

バルトは力強く頷いた。

「俺が本当にやったことから逃げるつもりはない」

「ですが、あなたに押しつけられていた虚偽の違反記録は、訂正手続きを進めます」

職員が続けた。

「その結果、信用値の再計算が行われました」

バルトは息を止めた。

「……まさか」

職員が書類を見せる。

「暫定信用値は――マイナス999から、マイナス620です」

「……!」

バルトは言葉を失った。

ゼロには程遠い。

それでも。

確かに、回復したのだ。

「三百以上も……戻ったのか」

「はい。まだ審査中の記録が残っています。今後の取引実績と補償状況によっては、さらに変わる可能性があります」

バルトは拳を握りしめた。

「ありがとう……!」

その声は、少し震えていた。

マイナス999。

あの数字に、何度も人生を終わらされたと思った。

だが、終わりではなかった。

まだやり直せる。

そう思えたのは、久しぶりだった。

          ◇

そのとき、商業組合の入口から、慌ただしい声が響いた。

「バルトさんは、ここにいるか!?」

「どうしたんですか、そんなに慌てて……」

職員が振り返ると、入口には見覚えのある村人たちが立っていた。

服は土で汚れ、長旅の疲れが顔に浮かんでいる。

だが、その目には強い決意が宿っていた。

先頭に立っていたのは、以前バルトが物資を届けた村の村長だった。

「バルト!」

村長は、彼の姿を見つけると、まっすぐ駆け寄った。

「村長……? どうしてここに?」

「お前が大変な目に遭っていると聞いた!」

村長の後ろから、さらに多くの村人たちが入ってくる。

老人も、若者も、子どもを抱いた母親もいた。

彼らは皆、バルトを見つめていた。

「バルトさんが、商業組合から不正商人扱いされていると聞きました」

「信用値を落とされて、誰も助けてくれないとも……」

「だから、村のみんなで来たんです」

バルトは目を見開いた。

「お前たち……」

村長は、深く頭を下げた。

「俺たちの村が飢えかけていたとき、助けに来てくれたのはバルトだけだった」

「他の商人は、損になるからと見捨てた」

「商業組合に何度頼んでも、誰も動いてくれなかった」

村人たちが、次々に声を上げる。

「バルトさんは、契約のことで問題を起こしたかもしれない。でも、俺たちを救ってくれたことまで嘘にされたくない!」

「俺たちは、バルトさんが悪人じゃないと知っています!」

「どうか、バルトさんを助けてください!」

商業組合の中に、ざわめきが広がった。

職員たちは互いに顔を見合わせる。

バルトは、震える声で言った。

「やめてくれ……俺は、そんな立派な人間じゃない」

「それでも、助けてくれたのはお前だ」

村長は、バルトの肩を強く掴んだ。

「俺たちは、受けた恩を忘れない。お前が間違えたことまで、なかったことにしろとは言わない」

「だが、やっていないことまで罪にされるのは違う!」

村人たちは一斉に商業組合の職員へ向き直った。

「バルトさんの記録を、もう一度調べてください!」

「俺たちが証言します!」

「納品された物資も、受け取った日付も、全部覚えています!」

「バルトさんしか助けてくれなかったんです!」

その言葉が、商業組合の広間に響き渡った。

バルトは、何も言えなかった。

自分が助けた村の人々が、今度は自分を助けようとしている。

それが、胸に痛いほど伝わってきた。

村長は、職員の前に進み出た。

「商業組合にお願いします。バルトを助けてください」

そして、村人たちも一斉に頭を下げた。

「お願いします!」

「バルトさんを見捨てないでください!」

「俺たちの証言を、正式な記録として受け取ってください!」

職員は困惑しながらも、差し出された書類と証言者の名簿を受け取った。

「……これほど多くの証言が集まるとは」

「俺たちは、何度でも話します」

村長は顔を上げた。

「バルトが俺たちを助けてくれたことを、誰にも消させません」

そのとき、奥から商業組合の責任者が姿を現した。

「話は聞かせてもらった」

広間の空気が静まる。

責任者は、村人たちから提出された書類に目を通した。

「これらの証言は、正式な再審査資料として受理する。物資の納品記録、受け取り日時、当時の取引相手について、改めて確認しよう」

「本当ですか!?」

村長が声を上げた。

「ああ。すでに改ざん記録が確認されている以上、今回の証言も無視できない」

責任者はバルトを見た。

「バルト。お前が助けた村々から、これほどの証言が集まるとは思わなかった」

「俺は……ただ、必要だったから物資を届けただけです」

「それでも、誰も動かなかったときに動いた。その事実は、信用を判断するうえで重要だ」

責任者は職員に指示を出した。

「村人たちの証言を記録し、過去の納品記録と照合しろ。虚偽の違反記録だけでなく、正当な取引実績も含めて再計算する」

「承知しました!」

バルトは、拳を握りしめた。

「……ありがとう」

村長が笑った。

「礼を言うのは、こっちだ」

「でも、俺は……」

「お前が助けてくれたから、今の俺たちがいる」

村人の一人が、涙を拭いながら言った。

「だから今度は、俺たちがお前を助ける番です」

その言葉に、バルトの目から涙がこぼれた。

          ◇

「よかったな、バルト」

商業組合の建物を出たところで、蓮が声をかけた。

隣にはミリアとガルドもいる。

「蓮……お前のおかげだ」

「いや、記録を集めて証言したのはお前だろ。それに、昨日の取引をきちんと完了させたのもな」

ガルドが帳簿を開く。

「信用値の回復は、訂正された記録だけが理由じゃない。昨日の取引が正式に記録されたことも、今後の評価材料になる」

「まだマイナス620だけどな」

バルトが苦笑した。

「それでも、前に進んでいる」

蓮は頷いた。

「だったら、次は俺と取引しないか?」

「……何?」

バルトが顔を上げた。

「俺と?」

「そう。実は、仕入れ先を探している商品があるんだ」

蓮はスマートフォンを操作し、商品一覧を見せた。

「保存食、乾燥野菜、豆類。それから、長期保存できる調味料。北方や港町でも売れそうなものを、安定して仕入れたい」

バルトは画面を見つめた。

「これを……俺に任せるのか?」

「全部じゃない。まずは小さな取引からだ」

蓮は指を一本立てた。

「数量、品質、納期、価格。条件を決めて、契約書を作る。納品記録も残す。問題が起きたら、隠さずに相談する」

ガルドが横から付け加えた。

「当然、検品もする。蓮の商会は慈善団体じゃないからな」

「分かってる」

バルトは即答した。

「俺も、同情で仕事をもらいたいわけじゃない」

蓮は笑った。

「なら、話は早い」

          ◇

その日の午後。

蓮たちは、バルトの倉庫を訪れた。

以前は、ほとんどの商品がなく、扉を開けても風が通り抜けるだけだった倉庫。

今は、少しずつ荷物が戻り始めている。

「まず、この乾燥豆を見てくれ」

バルトが袋を開けた。

「北方の農村から仕入れたものだ。品質は安定しているし、保存も利く」

ガルドが豆を手に取り、色と大きさを確かめる。

「異物が少ないな。選別も丁寧だ」

「こっちは乾燥野菜。スープの材料にも使える」

蓮は商品を確認しながら、スマートフォンに数量を入力した。

「日本の食品と組み合わせて販売できそうだな。カップスープに、この乾燥野菜を追加する使い方も考えられる」

ミリアが興味深そうに袋を覗き込む。

「お湯を注ぐだけで食べられる商品と組み合わせるんですか?」

「そう。こっちの世界の食材と日本の商品を組み合わせれば、新しい売り方ができる」

バルトの目が輝いた。

「なるほど……。ただ運ぶだけじゃなく、売り方まで考えるのか」

「商売だからな」

蓮は笑った。

「仕入れる人、運ぶ人、売る人。それぞれが利益を出せる形にしたい」

バルトはしばらく黙っていた。

そして、静かに言った。

「昔の俺は、納品することだけを考えていた」

「……」

「契約を守ることは大切だ。でも、相手が本当に必要としているものを考える余裕がなかった」

彼は乾燥野菜の袋を閉じた。

「それで、困っている村に物資を回したときも、連絡を後回しにした。事情があったとはいえ、相手に迷惑をかけたのは事実だ」

「そこを忘れなければいい」

蓮は言った。

「失敗したことと、していないこと。その両方を正しく扱う。それが信用を戻す第一歩だ」

バルトは深く頷いた。

「よし。まずは乾燥豆を二十袋、乾燥野菜を十袋。品質と納期を保証する」

「価格は?」

二人は商人の顔になった。

そこから始まったのは、遠慮のない価格交渉だった。

バルトが仕入れ費用と運搬費を説明し、蓮が販売価格と必要な利益を示す。

ガルドは帳簿を見ながら、容赦なく数字を指摘する。

「その運搬費は高い。帰りの荷車に別の商品を積めば、もう少し下げられる」

「だが、乾燥野菜は湿気に弱い。混載するなら梱包費が必要だ」

「なら、その費用を契約に明記しよう」

「異議なし」

ミリアは二人のやり取りを眺めていた。

「……蓮さん、さっきまで助け合いの話をしていたのに」

「商売は別だ」

蓮は真剣な顔で答えた。

「助け合うからこそ、条件は曖昧にしない」

バルトが吹き出した。

「ははっ! お前、本当に商人なんだな!」

「今さらか?」

やがて、双方が納得する条件がまとまった。

最初の取引は、乾燥豆二十袋と乾燥野菜十袋。

納期は三日後。

検品に合格した商品だけを受け取り、代金は納品確認後に支払う。

契約書には、数量、品質、価格、納期、支払い条件がすべて記載された。

蓮とバルトは、それぞれ署名する。

そして――

「これで契約成立だ」

蓮が手を差し出した。

バルトは、その手を強く握った。

「必ず納品する」

「待ってるよ」

スマートフォンが鳴った。

【新規取引契約を登録しました】

【取引相手:バルト商会】

【契約状態:履行待ち】

【信用評価:納品完了後に反映予定】

バルトは画面を見つめた。

「……履行待ち、か」

「そうだ。契約を結んだだけじゃ、信用は完成しない」

蓮は笑った。

「約束を守って、初めて次につながる」

「分かった」

バルトの顔から、迷いが消えていた。

          ◇

夕方。

商業組合から、もう一つ知らせが届いた。

「バルトさん! 追加の報告です!」

職員が息を切らして駆け込んできた。

「再審査中の記録のうち、さらに二件の改ざんが確認されました!」

バルトは目を見開く。

「二件も……?」

「はい。正式な訂正が済めば、信用値の再計算が行われます。ただし、まだ確定ではありません」

ガルドが頷いた。

「焦るな。確定するまでは、今の数値を前提に動けばいい」

「ああ」

バルトは落ち着いて答えた。

以前の彼なら、すぐに信用値を確認し、少しでも数字を上げようと必死になっていたかもしれない。

だが今は違う。

数字が戻るのを待つだけではない。

自分で、信用を積み上げていく。

「蓮」

「ん?」

「三日後、必ず商品を届ける」

「頼んだぞ」

「それから……」

バルトは少し照れくさそうに笑った。

「次の取引も、相談していいか?」

「もちろん。今回の取引がうまくいったら、次の商品も考えよう」

「よし!」

バルトは拳を握った。

マイナス999から、マイナス620へ。

そして、次の取引へ。

まだ道のりは長い。

過去の責任も、消えたわけではない。

それでも――

バルト商会は、もう一度動き始めた。

蓮は倉庫を出ながら、スマートフォンを確認した。

【境界安定率:変動なし】

【新規商業接続:1件】

【取引履行期限:残り72時間】

「……商売の問題が一つ片づいたと思ったら、今度は境界か」

ガルドが隣で帳簿を閉じた。

「まずは三日後の納品を確認しろ」

「分かってるよ」

「それから、次の仕入れ先も探せ」

「はいはい」

そのとき、スマートフォンに見慣れない通知が表示された。

【警告】

【バルト商会との取引契約を検知】

【境界の始点による監視対象に追加されました】

蓮の表情が変わった。

「……何だ、これ」

ミリアが画面を覗き込む。

「境界の始点が、バルトさんとの取引を監視している……?」

バルトも顔を曇らせた。

「俺と取引しただけで、狙われるのか?」

蓮はスマートフォンを握りしめた。

信用値を操作する者たち。

商人の権利を奪う者たち。

そして、世界の境界を利用する謎の組織。

もしかすると、バルトの信用値が落とされたのも、単なる不正ではないのかもしれない。

「バルト」

「何だ?」

「三日後の納品が終わるまで、倉庫の警備を強化してくれ。仕入れ先にも、荷物の行き先を不用意に話さないよう伝えてほしい」

「分かった」

蓮は画面を見つめた。

商売を再開することが、誰かの計画を邪魔している。

ならば――

この取引も、守り抜く。

「せっかく結んだ契約だ。簡単に壊させるものか」

バルトは力強く頷いた。

「俺も、もう逃げない」

二人の商人は、固く握手を交わした。

信用値の回復は、まだ始まったばかり。

そして今度は――

その信用を守るための戦いが始まろうとしていた。

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