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第9話 テスト勉強SOS! ヨミ様と図書館で不純異性交遊!?

 市立図書館は、夜になるとやけに静かだった。


 その静けさの中で、黒髪ゴスロリの美少女が一人、参考書の山に埋もれている。

 しかも眉間にしわを寄せ、完全に戦争をしている顔だ。


「……何してるの」

「見れば分かるでしょ」

「いや、世界征服の会議じゃないことだけは分かる」

「黙りなさい!」


 ヨミは赤ペンをへし折りそうな勢いで握りしめていた。

 机の上には英単語帳、数学の問題集、日本史の一問一答。カオスである。


「テスト?」

「違う」

「じゃあ何」

「高等学校卒業程度認定試験対策」

「もっと重かった!」


 ヨミは盛大に舌打ちした。


「帝国を再建するには、合法的な施設利用申請と、各種資格、それから一般常識が要るのよ」

「世界征服ってそんなに事務的なんだ……」

「当たり前でしょ! 組織運営を舐めるな!」


 怒る元気はあるらしい。

 ダイチは向かいの席に座り、問題集を一冊手に取った。


「で、どこが分からない」

「全部」

「範囲広っ」

「特に英語」

「何で」

「“I have a pen.”と“Pen I have.”の違いが感情的に納得できない」

「感情で英語やるな!」


 思わず吹き出しそうになる。

 だが、ヨミは本気で悩んでいた。世界征服を語る時とは別種の真面目さで、参考書に向かっている。


「……教えなさい」

「命令形だな」

「敵にお願いするのも屈辱なのよ!」

「じゃあ“教えて”って言えば」

「……う」

「ほら」

「……教えて」

「よし」


 その一言で、ヨミは耳まで真っ赤になった。


 勉強会は意外に普通に進んだ。

 ヨミは理解力そのものは高い。ただ基礎が抜けているだけで、筋道を示せばすぐ飲み込む。


「なるほど。つまり関係代名詞は、情報の圧縮装置」

「まあ雑に言うと」

「数学の一次関数は?」

「変化のルール」

「日本史は?」

「だいたい権力争い」

「人類、愚かね」

「急に総括するな」


 静かな館内で、小声のやり取りが続く。

 悪くない時間だった。


 だが、その平穏は長く持たない。


「主、何してるのよ」

「うわっ!?」


 窓の外にロプロスが張りついていた。


「何で窓の外!?」

「監視よ」

「ここ三階だぞ!?」

「飛べるもの」

「便利だな!」


 さらに足元の影から、ロデムの声。


「主様、飲み物をお持ちしました」

「何で館内の影経由で差し入れしてくるんだよ」

「愛です」

「説明になってない!」


 ヨミがこめかみを押さえる。


「……貴様の日常、うるさすぎない?」

「僕も最近そう思う」

「でも」


 ヨミは少しだけ目を逸らした。


「前より、嫌いじゃない」

「え?」

「な、何でもない!」


 その瞬間だった。

 彼女の杖《ネフティス》が、机の下で淡く発光する。

 同時にダイチの指輪も反応した。


「っ……!」

「な、何これ」


 二人の視界が重なる。


 見えたのは、古代の白い部屋。

 そこに立つ二人の少年。顔立ちは似ている。だが片方は光の指輪を、もう片方は黒い杖を持っていた。


 ――双つの継承。

 ――片方は支配を、片方は対話を。

 ――だが、結末は共に滅び。


「……今の」

「貴様も見たの?」

「見た」


 ヨミの顔から血の気が引いている。

 いつもの尊大さではなく、本気で知らないことに触れた人間の顔だった。


「指輪と杖は、やっぱり片割れだ」

「つまり、貴様と私は……」

「敵である前に、同じ仕組みに巻き込まれてるのかもしれない」


 ヨミはしばらく黙り込み、やがてぽつりと言った。


「私は、人間を信じていない」

「……うん」

「弱いし、裏切るし、欲に負けるし、愚かだから」

「そうだな」

「でも、貴様は違う結論を出すのね」

「違うというか……弱いから放っておけないだけだよ」

「それが理解できない」


 そう言いながらも、ヨミの声は前ほど固くなかった。


 館内放送が閉館を告げる。

 二人は本を片付け、同時に立ち上がった。


「今日はありがと」

「礼なんて要らないわ」

「でも助かったろ?」

「……少しだけ」


 その時、ヨミの杖が再び光る。

 杖の先端が、まっすぐダイチの指輪を指した。


 低い機械音声。


 ――認証鍵、片割れ確認。

 ――塔中央制御室、開放条件を一部満たしました。


 ダイチとヨミは同時に顔を上げる。


「塔……?」

「まさか」


 外で雷鳴が轟いた。

 だが空は晴れている。


 図書館の窓越しに見える遠方。

 街の中心にそびえる、あの見慣れぬ古代の塔の上空だけが、黒く渦を巻いていた。


 ヨミが唇を噛む。


「……ギャンブルがやらかしたわね」

「確信っぽく言うな」

「ええ。嫌な意味で信頼してるもの」

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