第10話 激突! 第一次バビル奪還作戦(※予算は三万円)
翌朝。
ダイチは爆音で目を覚ました。
「何だ!?」
飛び起きて窓を開ける。
朝焼けの空を、信じられないものが横切っていた。
巨大ロボットである。
「うわあ、やりやがった……」
「主様、感想が冷静」
「いや昨日までの流れでだいたい察するだろ!」
巨大ロボは、いかにも“限られた予算を根性で盛った”感じのデザインだった。脚部が妙に細い。肩に無理やり砲門をつけた感がある。胸部にはなぜかスロットのリールみたいな装飾。
そしてコックピットらしき部分から、拡声器越しの声が響く。
『聞きなさい古神ダイチ! そして三つのしもべ!』
ヨミだった。
『本日ここに、新生ヨミ帝国の総力を結集した第一次バビル奪還作戦を開始する!』
少し間を置いて、別の声が続く。
『総工費、三万円! うち二万八千円はアタシが昨日勝った!』
『そこ堂々と言うなギャンブル!』
『むしろ胸張るとこでしょ? 奇跡の万枚寸前だったんだから!』
『寸前じゃ意味ないのよ!』
コントみたいなやり取りを、巨大ロボの上でやるな。
ダイチは頭を抱えた。
だがそのロボが向かっている先を見て、表情が消える。
「……塔」
「はい」
「狙いは最初からそこか」
ロデムが頷く。ロプロスは窓枠へ降り立ち、ポセイドンはすでに臨戦態勢だった。
「主、行くわよ」
「分かってる」
塔周辺は、すでに戦場になっていた。
新生ヨミ帝国の雑多な戦闘メカ群。
ロプロスの空中迎撃。
ポセイドンの水圧砲。
ロデムの影からの奇襲。
そこへ巨大ロボが乱入し、スロットみたいな胸部リールを回しながらミサイルをばらまく。
「なにあれ!?」
「ギャンブルが“演出は派手なほうが強い”って」
「悪い知恵が反映されすぎてる!」
ダイチは塔の足元へ向かって走る。
敵も味方も入り乱れ、完全に収拾がついていない。だがヨミの狙いは明確だった。あの塔の中央制御室――杖と指輪の認証が必要な場所だ。
上空からヨミの声。
『古神ダイチ! 貴様の指輪をこちらへ渡しなさい!』
「嫌だよ!」
『話し合いで済ませてあげると言っているのよ!』
「巨大ロボで来てる時点で説得力ゼロなんだよ!」
ロボの肩砲が火を吹く。
ロプロスが翼で軌道を逸らし、ポセイドンが水壁で爆風を受け止める。ロデムはダイチを影で庇いながら、塔の入口まで導いた。
「主様、急いで」
「ヨミは?」
「敵ですが、今は侵入競争です」
「競争って規模じゃないだろ!」
その時、巨大ロボの胸部リールが止まった。
黒・黒・黒。
嫌な静寂。
ギャンブルの声が、急に掠れる。
『……あれ?』
『何よ、何が揃ったの』
『ヨミ様、これアタシが仕込んだ演出じゃない』
次の瞬間。
巨大ロボの全身に、黒い結晶が浮き上がった。
「っ、まずい!」
「主様、下がって!」
ロデムが叫ぶ。
ロボの瞳が赤く染まり、今までのドタバタが嘘みたいな、無機質な動きで塔へ砲口を向けた。
――認証鍵の回収を優先。
――妨害対象、排除。
「乗っ取られた!?」
「黒い結晶が中枢へ侵入してる!」
「ギャンブル、制御は!?」
『無理! 完全に向こうの方が上!』
ヨミの巨大ロボは、もはやヨミ帝国の兵器ではなかった。
黒い結晶に操られた回収端末へ変わっている。
塔へ向けて主砲が充填される。
もし撃たれれば、塔だけじゃない。周辺一帯が消し飛ぶ。
「ロプロス、砲口狙え!」
「分かってる!」
「ポセイドン、出力全開で受け流せるか!?」
「やる」
「ロデム、僕を上まで」
「はい!」
影がダイチの身体を包み、一気に上空へ跳ね上げる。
巨大ロボの胸部、むき出しになったコックピット前面。そこにはヨミとギャンブル、そして必死にレバーを握るジュピターの姿も見えた。
「ダイチ!?」
「古神ダイチ! 何しに来た!」
「助けに来たに決まってるだろ!」
「敵に何を――」
「今それ言ってる場合か!」
黒い結晶がコックピットの後方で脈打っている。
まるで心臓だ。
ダイチは歯を食いしばった。
壊せばいい。たぶん、それが一番早い。
でも、あの中にはヨミたちがいる。
「主様!」
「ダイチ、早く!」
「……くそっ!」
ダイチは拳を握り、黒い結晶へ飛び込んだ。
その瞬間、指輪が最大出力で光る。
視界へ流れ込んだのは、古代都市の最後の光景だった。
塔。
戦争。
逃げ遅れた人々。
そして、同じように“誰も切り捨てられなかった”誰かの絶叫。
ダイチは理解してしまう。
この黒い結晶は、ただの燃料でも兵器でもない。
古代文明を崩壊させた“感情の失敗作”そのものだ。
「うおおおおっ!」
ロデムの影が足場を作り、ロプロスの風が押し、ポセイドンの水圧が背中を叩く。
三つの力に押し出されるようにして、ダイチの拳は結晶の中心へ届いた。
ひび割れ。
次いで、轟音。
巨大ロボの全身から黒い結晶が弾け飛び、制御系が一斉に停止する。
ロボは塔の目前で膝をつき、辛うじて崩壊を免れた。
コックピットのハッチが開く。
ヨミがよろめきながら現れ、ギャンブルは「いやー、死ぬかと思った」と笑い、ジュピターは泣いていた。
ダイチも膝をつく。
右手の指輪が、焼けるみたいに熱い。
砕けた黒い結晶の中から、手のひら大の核がころりと転がり出た。
そこへ、あの冷たい機械音声が響く。
――観測継続。
――第五継承者、適性あり。
――次段階へ移行。
――バビル0世、起動準備開始。
空気が凍った。
「……今、何て」
「バビル、0世……?」
ヨミが呆然と呟く。
塔の上空に、黒い雲が渦を巻く。
その中心で、何か巨大なものがゆっくり目を開こうとしていた。
ダイチは、砕けた結晶を見下ろしたまま理解した。
今日のこれは、勝利ではない。
もっと厄介な本番の、開始合図だ。




