第28話 世界最後の日、君の隣でキスをする
地球消滅光線の砲口が、ゆっくりと開いていく。
その先には、街が、海が、人が、日常がある。
全部が終わるまで、もう数十秒もない。
「ダイチ!」
「坊や!」
「主様!」
叫び声の中で、ダイチは逆に静かになっていた。
怖い。どうしようもなく怖い。
でも、それ以上に、失いたくないものがはっきり見えていた。
「……みんな」
振り返る。
ロデム。
ロプロス。
ポセイドン。
ヨミ。
ギャンブル。
バッカス。
ジュピター。
それぞれぼろぼろだ。傷だらけだ。疲れている。
なのに、誰一人として下がっていない。
「これが最後になるかもしれない」
「縁起でもないこと言うな!」
「でも本当だろ、バッカス」
「それはそうだが!」
ダイチは苦笑し、それから真剣な顔で続けた。
「僕、たぶん今なら分かる。
指輪の力は、命令じゃない。
みんなが、自分で“こっちを選ぶ”って決めた時にしか、本当に動かない」
ロデムが小さく頷く。
「はい」
「だから、最後にもう一回だけ聞く」
ダイチは一人ずつ見る。
「僕と一緒に、世界を取り返してくれるか」
間髪入れずに返事が来た。
「当然です、主様」
「最初からそのつもりよ」
「うん」
「……言われなくても」
「アタシ、こういう負けられない終盤好き」
「アニキなら付き合う!」
「データ的には最悪ですが、感情的には乗ります!」
全員、馬鹿だ。
でも最高だ。
そして、その時だった。
0世の砲口から、感情を凍らせる白い前兆光が溢れ始める。
もう待てない。
ダイチは息を吸い込んだ。
「……じゃあ、来い!」
指輪が爆発的に光る。
だが今度は、それだけでは終わらなかった。
ロデムが一歩前に出て、ダイチの頬へそっと口づけた。
「これは、命令じゃない証明です」
次いでロプロスが、顔を真っ赤にしながらダイチの襟を掴み、額をぶつけるみたいに唇を重ねる。
「特別扱い、ちゃんとしなさいよ」
ポセイドンは両手でダイチの顔を包み込み、泣きそうな顔で笑った。
「主様と一緒に、生きたい」
短い、でも確かな三つの接触。
胸の奥で、何かが完全につながる。
さらにヨミが杖を構えたまま叫ぶ。
「何ぼさっとしてるのよ! 敵総帥を差し置いて三連続とか、あとで覚えてなさい!」
「今それ言う!?」
「言うわよ!」
その怒鳴り声ごと、ギャンブルが笑い飛ばす。
「いいじゃんヨミ様。あとで本番やれば?」
「ギャンブルぅぅぅ!」
その全部が可笑しくて、熱くて、泣きそうで。
指輪が、とうとう真の名を起動する。
――全感情座標、同期。
――最終発動名、確定。
――バベル・グランド・シンクロ。
光が広がる。
要塞の中心から宇宙へ抜けるほど巨大な、黄金と蒼と銀と黒の空間が展開した。
その中では、感情がノイズではなく、力そのものだった。
嫉妬が翼になる。
孤独が影を深くする。
過保護が守護へ変わる。
悔しさが杖を鋭くする。
逆転願望が確率を書き換える。
熱血が拳を前に出す。
臆病さえ、逃げない理由へ変わる。
バビル0世が初めて、はっきりと乱れる。
――異常。
――感情過多。
――演算熱上昇。
――制御不能。
「そうだよ」
ダイチは真っ直ぐ言った。
「それが人間だ」
0世の地球消滅光線が発射される。
だが同時に、バベル・グランド・シンクロの空間がそれを包み込む。
白い滅びの光が、黄金の感情の海へ沈む。
破壊が、熱に、色に、そして“ときめき”に上書きされていく。
ギャンブルが半笑いで叫ぶ。
「うわ、マジでラブコメで砲撃押し返してる!」
「説明すると頭が悪いわね!」
「でも実際そうだろ!」
0世の演算核が、明らかに過熱していく。
冷たく均一だった構造体に、初めて“揺らぎ”が発生する。
――理解不能。
――理解不能。
――理解不能。
「理解しなくていい」
ダイチは前へ出る。
「でも、負けろ」




