第27話 激熱演出発生! ギャンブル&ヨミ、全財産(愛)を賭けた一撃
中枢のさらに深部。
そこはもはや部屋ではなく、巨大な儀式場だった。
球形空間の中心に、黒い核。
その周囲を回る幾重もの演算環。
海、空、影、記憶、感情、欲望――あらゆる波形が数式みたいに可視化され、白い床と黒い天井の間を渦巻いている。
その中央で、バビル0世の本体が浮かんでいた。
人型ですらない。
無数の目と回路と光輪が組み合わさった、管理そのものの怪物。
それが静かに、しかし絶対的な圧で、ダイチたちを見下ろしている。
――最終確認。
――第五継承者は非合理。
――情動保持者群も不安定。
――よって全処理を実行する。
「上等じゃない」
最初に前へ出たのはヨミだった。
《ネフティス》を片手に、黒髪を揺らしながら、彼女は正面から0世を睨み返す。
「私は人間の愚かさを知ってる。弱さも、裏切りも、醜さも知ってる」
《ネフティス》の先端が紫黒に燃える。
「でも、それを理由に全部管理していいなんて、誰が決めたのよ」
ギャンブルがその隣へ立つ。
いつもみたいに軽薄に肩をすくめたが、その目は本気だった。
「アタシはさ、勝率の低い勝負って嫌いなの。胃が痛くなるし、だいたい損するし」
「だったら下がってなさい」
「やだよヨミ様。今日は、人生で一番アツい台なんだから」
彼女は腰のポーチから、小さな金属板を何枚も取り出した。
歴代ホールや温泉街やヨミ基地で回収してきた、古代暗号機の認証チップだ。
「坊や! 全部、ここで使う!」
「全部って、お前……」
「全財産。全データ。全演出。
ついでに、今までのアタシの負け分も、まとめてオールインだ!」
ジュピターが驚愕する。
「そんな一括投入したら、制御盤ごと焼き切れます!」
「いいの。だって今から焼き切るのは、向こうだもん」
ロプロスが笑う。
「嫌いじゃないわ、そのバカさ」
「でしょ?」
0世の周囲から、無数の迎撃環が起動した。
白い光線、重力圧、感情凍結波――まともに食らえばひとたまりもない。
「ロデム!」
「影領域、展開」
「ロプロス!」
「空間軸、こじ開ける!」
「ポセイドン!」
「全部、受ける!」
三人の新形態が同時に動く。
影が光線を呑み、翼が軌道を裂き、水膜が重圧を受け止める。
その隙にダイチとヨミが中央祭壇へ走り込み、ギャンブルが認証チップを演算環へ叩き込んでいく。
――異常入力。
――確率変動を確認。
――不正演出。排除。
「不正じゃないわよ」
ヨミが杖を突き立てた。
「こっちは正面から反逆してるの」
その一言で《ネフティス》が大きく唸る。
ダイチの指輪も呼応し、黒と白の波が中央核へ伸びた。
だが0世は冷静だった。
――対話系継承者。
――支配系継承者。
――感情依存個体。
――全て観測済み。
「残念」
ギャンブルが笑う。
「アタシの“本命”は、まだ見せてない」
彼女は最後の認証チップを口にくわえ、にやりと笑った。
「坊や! ヨミ様! 今!」
ダイチとヨミが同時に、指輪と杖を中央核へ向ける。
ギャンブルが最後のチップを投げ込む。
演算環が激しく明滅した。
液晶演出みたいな古代文字が、球形空間中へ弾け飛ぶ。
激熱
全回転
確変確定
「おい、何だこの表示!」
「勝ち演出よ! 文句ある!?」
空間そのものが巨大なパチンコ盤へ変質する。
釘に見えた回路が進路となり、核へ流れ込む確率そのものが書き換わっていく。
0世が初めて明確に動揺した。
――理解不能。
――未来予測に誤差。
――非合理演算の比率、上昇。
「当然でしょ」
ヨミが唇を吊り上げる。
「恋も、嫉妬も、未練も、負けず嫌いも、全部ノイズだと思ってる貴方に、人間の最後の一押しなんて読めるわけないじゃない」
ロデムの影が、0世の足元を縫う。
ロプロスの翼が上空の光輪を断つ。
ポセイドンの水圧槍が中央核の防壁をこじ開ける。
ギャンブルが、最後にダイチへ向かって叫んだ。
「坊や! あとはアンタの役目!」
核の中心が露出する。
そこには、地球そのものへ向けられた巨大な砲口があった。
バビル0世の最終破壊兵器。
――地球消滅光線、発射準備開始。
「来るぞ!」
「止めなさい、古神ダイチ!」
ダイチは息を呑み、指輪を握り込んだ。
だが、その瞬間、0世が逆手に取る。
――ならば問う。
――お前は誰を選ぶ。
――三機か。敵幹部か。街か。世界か。
――全ては救えない。
その問いは、刃みたいに鋭かった。
ダイチの足が、一瞬だけ止まる。
――選べ。
――切り捨てろ。
――それが王だ。
だがその瞬間、背後から七つの声が重なった。
「選ばせないわよ!」
「主様!」
「主!」
「主様!」
「坊や!」
「アニキ!」
「古神くん!」
ダイチは目を閉じ、そして笑った。
「……だから、お前は駄目なんだよ」
0世が沈黙する。
「僕は王様なんかじゃない。
切り捨てて正しい顔するくらいなら、最後まで全部抱える」
指輪の光が、再び膨れ上がった。




