第20話 共同戦線! バビル5世&ヨミ連合軍誕生!
「というわけで」
翌日。
古神家の玄関前には、スーツケースと段ボールと謎の機材と大量の生活用品を抱えた一団が立っていた。
「今日からここが新本部よ」
「待て待て待て待て!」
ダイチの叫びが朝の住宅街に響いた。
先頭に立つヨミは、当然みたいな顔で顎を上げる。
その後ろではギャンブルが「よろしくねー大家さん」と手を振り、バッカスは筋トレ器具を担ぎ、ジュピターは分解済みの制御盤を抱えている。
さらに整備班の少女たちまで数人ついてきている。
「何でそうなる!」
「基地がなくなったからに決まってるでしょ」
「決まってない!」
「共同戦線を張る以上、戦力の分散は非効率よ」
「理屈は分かるけど情緒が追いつかない!」
貼りついていたダイチとヨミの手は、昨夜ようやくジュピターが分解除去に成功した。
成功はしたのだが、精神的な距離感だけ妙におかしくなっている気がする。ヨミはそれを認めないし、ダイチも深く考えないようにしていた。
「主様。部屋割りは?」
「考える前提で進めるな」
「私は主様の隣」
「却下!」
「じゃあ私が隣」
「ロプロスまで乗るな!」
「主様の保温効率を考えると、同室が最適」
「ポセイドンの理論こわい!」
ギャンブルがくすくす笑う。
「坊や、諦めなよ。もうここ、普通の一軒家としては終わってるって」
「知ってるけど認めたくないんだよ!」
だが現実問題として、他に行き場がないのも事実だった。
ヨミ帝国は基地を失い、0世は全世界規模で介入を始めている。
戦うなら、今は散るより固まるべきだ。
ダイチは盛大にため息をつき、玄関を開けた。
「……分かった。入れ」
「よし」
「ただし!」
全員がぴたりと止まる。
「家のルールは守れ。勝手に壁壊すな、台所爆破するな、学校に巨大兵器持ち込むな、あと夜中に僕の部屋へ侵入するな!」
「最後のだけ難しくない?」
「ギャンブル!」
そんなわけで、超過密共同生活が始まった。
朝の洗面所は戦場だった。
「主様の歯ブラシが近い位置に」
「主のコップは私が用意したのに」
「朝食は私が」
「弁当は私が」
「坊や、シャツの襟曲がってる」
「何で全員一斉に来るんだよ!」
食卓はもっと酷い。
ロデムはきっちり和朝食。
ロプロスはやたら見映えのいいトーストプレート。
ポセイドンは量が多すぎる。
ヨミはなぜか前夜のリベンジで弁当箱を持参し、ギャンブルは朝からビールを開けようとして全員に止められている。
「朝よ!?」
「何、休日の朝ビール否定派?」
「高校生の家でやるな!」
騒々しい。
だが、不思議と嫌ではなかった。
その平穏が壊れたのは、昼前だった。
テレビのニュース速報が緊急割り込みで流れる。
各地で“感情低下症状”が報告され始めたという。
恋人が突然別れを告げる。子どもが笑わない。街頭で喧嘩も起きない代わりに、誰も誰にも関心を示さなくなる。
「……始まったわね」
「無感情波動か」
ヨミがテレビを睨む。
ロデムもロプロスもポセイドンも、顔から色が消えた。
ジュピターが急いで機材を広げる。
「都市全体に薄く散布されています。直接攻撃ではなく、感情の閾値を少しずつ下げていくタイプです」
「厄介すぎるだろ」
「ええ。いきなり殺すよりずっとたちが悪い」
ギャンブルが、珍しく軽口なしで言った。
「笑えなくなる世界なんて、アタシはごめんだよ」
ダイチはリビングの真ん中へ立った。
自然と全員の視線が集まる。
「共同戦線、でいいんだな」
「ええ」
「うん」
「当然です」
「今さら聞く?」
「聞くんだよ、大事だから」
ダイチは一人ずつの顔を見る。
「敵味方は、もう正直よく分からない。でも、バビル0世を止めるために、一緒に戦ってくれるなら、僕は頼る」
「……主」
「ロデム」
「ポセイドン」
「ヨミ」
「ギャンブル、バッカス、ジュピターも」
ほんの一拍置いて、言う。
「力を貸してくれ」
最初に頷いたのはヨミだった。
「総帥命令よ。全員、共同戦線に移行」
「了解!」
「おっしゃあ!」
「はいはい、乗った乗った」
ロプロスは呆れたように笑い、ポセイドンは静かに拳を握り、ロデムは少しだけ目を細めた。
その瞬間、ダイチの指輪が強く光る。
部屋の中央へ古代文字のホログラムが展開した。
――共同戦線、確認。
――感情保持者連合、成立。
――次段階情報を開示します。
全員が息を呑む。
表示されたのは、地球規模の地図。
各地に散らばる光点。
その中心、海底深くに巨大な反応域。
「……何これ」
「最終要塞の座標」
ジュピターの声が震えた。
「バビル0世、本体です」
ホログラムはさらに続く。
――目的:全人類の感情消去。
――処理開始まで、残時間わずか。
リビングが静まり返る。
次の戦場は、もう街一つの騒ぎではない。
世界そのものだ。
それでも、ダイチの周りには七人の少女たちがいた。
重くて、面倒で、騒がしくて、でも確かに熱を持った連中が。
ダイチは小さく息を吐き、言った。
「……じゃあ、まずは今日の晩飯どうする」
「そこで日常に戻るの!?」
「大事だろ」
「大事ね」
「主様らしい」
「腹が減っては戦えない」
「唐揚げなら任せろ!」
「待てバッカス、台所は一個だ!」
笑い声が起きる。
たぶん、これが今の自分たちの武器なのだ。
その夜、ダイチが自室の窓を開けると、遠い海の向こうに黒い光が脈打っていた。
最終要塞。バビル0世。感情を消す世界。
だが背後からは、廊下でまた誰かが騒いでいる声が聞こえる。
『主様の布団は私が敷きます』
『待ちなさい、今夜は私が見張る番よ』
『保温係は私』
『だから何で全員入ってくるのよ!』
ダイチは苦笑した。
世界はたぶん、簡単には救えない。
でも、この騒がしさを明け渡す気は、もうなかった。




