↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/30

第20話 共同戦線! バビル5世&ヨミ連合軍誕生!

「というわけで」


 翌日。

 古神家の玄関前には、スーツケースと段ボールと謎の機材と大量の生活用品を抱えた一団が立っていた。


「今日からここが新本部よ」

「待て待て待て待て!」


 ダイチの叫びが朝の住宅街に響いた。


 先頭に立つヨミは、当然みたいな顔で顎を上げる。

 その後ろではギャンブルが「よろしくねー大家さん」と手を振り、バッカスは筋トレ器具を担ぎ、ジュピターは分解済みの制御盤を抱えている。

 さらに整備班の少女たちまで数人ついてきている。


「何でそうなる!」

「基地がなくなったからに決まってるでしょ」

「決まってない!」

「共同戦線を張る以上、戦力の分散は非効率よ」

「理屈は分かるけど情緒が追いつかない!」


 貼りついていたダイチとヨミの手は、昨夜ようやくジュピターが分解除去に成功した。

 成功はしたのだが、精神的な距離感だけ妙におかしくなっている気がする。ヨミはそれを認めないし、ダイチも深く考えないようにしていた。


「主様。部屋割りは?」

「考える前提で進めるな」

「私は主様の隣」

「却下!」

「じゃあ私が隣」

「ロプロスまで乗るな!」

「主様の保温効率を考えると、同室が最適」

「ポセイドンの理論こわい!」


 ギャンブルがくすくす笑う。


「坊や、諦めなよ。もうここ、普通の一軒家としては終わってるって」

「知ってるけど認めたくないんだよ!」


 だが現実問題として、他に行き場がないのも事実だった。

 ヨミ帝国は基地を失い、0世は全世界規模で介入を始めている。

 戦うなら、今は散るより固まるべきだ。


 ダイチは盛大にため息をつき、玄関を開けた。


「……分かった。入れ」

「よし」

「ただし!」

 全員がぴたりと止まる。

「家のルールは守れ。勝手に壁壊すな、台所爆破するな、学校に巨大兵器持ち込むな、あと夜中に僕の部屋へ侵入するな!」

「最後のだけ難しくない?」

「ギャンブル!」


 そんなわけで、超過密共同生活が始まった。


 朝の洗面所は戦場だった。


「主様の歯ブラシが近い位置に」

「主のコップは私が用意したのに」

「朝食は私が」

「弁当は私が」

「坊や、シャツの襟曲がってる」

「何で全員一斉に来るんだよ!」


 食卓はもっと酷い。


 ロデムはきっちり和朝食。

 ロプロスはやたら見映えのいいトーストプレート。

 ポセイドンは量が多すぎる。

 ヨミはなぜか前夜のリベンジで弁当箱を持参し、ギャンブルは朝からビールを開けようとして全員に止められている。


「朝よ!?」

「何、休日の朝ビール否定派?」

「高校生の家でやるな!」


 騒々しい。

 だが、不思議と嫌ではなかった。


 その平穏が壊れたのは、昼前だった。


 テレビのニュース速報が緊急割り込みで流れる。

 各地で“感情低下症状”が報告され始めたという。

 恋人が突然別れを告げる。子どもが笑わない。街頭で喧嘩も起きない代わりに、誰も誰にも関心を示さなくなる。


「……始まったわね」

「無感情波動か」


 ヨミがテレビを睨む。

 ロデムもロプロスもポセイドンも、顔から色が消えた。


 ジュピターが急いで機材を広げる。


「都市全体に薄く散布されています。直接攻撃ではなく、感情の閾値を少しずつ下げていくタイプです」

「厄介すぎるだろ」

「ええ。いきなり殺すよりずっとたちが悪い」


 ギャンブルが、珍しく軽口なしで言った。


「笑えなくなる世界なんて、アタシはごめんだよ」


 ダイチはリビングの真ん中へ立った。

 自然と全員の視線が集まる。


「共同戦線、でいいんだな」

「ええ」

「うん」

「当然です」

「今さら聞く?」

「聞くんだよ、大事だから」


 ダイチは一人ずつの顔を見る。


「敵味方は、もう正直よく分からない。でも、バビル0世を止めるために、一緒に戦ってくれるなら、僕は頼る」

「……主」

「ロデム」

「ポセイドン」

「ヨミ」

「ギャンブル、バッカス、ジュピターも」


 ほんの一拍置いて、言う。


「力を貸してくれ」


 最初に頷いたのはヨミだった。


「総帥命令よ。全員、共同戦線に移行」

「了解!」

「おっしゃあ!」

「はいはい、乗った乗った」


 ロプロスは呆れたように笑い、ポセイドンは静かに拳を握り、ロデムは少しだけ目を細めた。


 その瞬間、ダイチの指輪が強く光る。

 部屋の中央へ古代文字のホログラムが展開した。


 ――共同戦線、確認。

 ――感情保持者連合、成立。

 ――次段階情報を開示します。


 全員が息を呑む。


 表示されたのは、地球規模の地図。

 各地に散らばる光点。

 その中心、海底深くに巨大な反応域。


「……何これ」

「最終要塞の座標」


 ジュピターの声が震えた。


「バビル0世、本体です」


 ホログラムはさらに続く。


 ――目的:全人類の感情消去。

 ――処理開始まで、残時間わずか。


 リビングが静まり返る。


 次の戦場は、もう街一つの騒ぎではない。

 世界そのものだ。


 それでも、ダイチの周りには七人の少女たちがいた。

 重くて、面倒で、騒がしくて、でも確かに熱を持った連中が。


 ダイチは小さく息を吐き、言った。


「……じゃあ、まずは今日の晩飯どうする」

「そこで日常に戻るの!?」

「大事だろ」

「大事ね」

「主様らしい」

「腹が減っては戦えない」

「唐揚げなら任せろ!」

「待てバッカス、台所は一個だ!」


 笑い声が起きる。

 たぶん、これが今の自分たちの武器なのだ。


 その夜、ダイチが自室の窓を開けると、遠い海の向こうに黒い光が脈打っていた。

 最終要塞。バビル0世。感情を消す世界。


 だが背後からは、廊下でまた誰かが騒いでいる声が聞こえる。


『主様の布団は私が敷きます』

『待ちなさい、今夜は私が見張る番よ』

『保温係は私』

『だから何で全員入ってくるのよ!』


 ダイチは苦笑した。


 世界はたぶん、簡単には救えない。

 でも、この騒がしさを明け渡す気は、もうなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。