第18話 パチンカスギャンブル、最後の勝負! 命を賭けた確変演出
ヨミ帝国の秘密基地は、秘密のわりに生活感があった。
山中の廃テーマパーク地下。
入り口には剥げた看板、内部には蛍光灯のちらつく通路、謎に充実したカップ麺棚、山積みの安売り飲料、そして司令室の隅に置かれた大量のスロット筐体。
「秘密基地っていうか、終電逃した大学生のシェアハウスみたいだな」
「うるさいわね!」
「だって本当だろ」
「否定しづらいのが腹立つ!」
ダイチとヨミは、まだ手が貼りついたままだ。
ジュピターは「あと少しで分解法が!」と騒いでいたが、その“あと少し”が信用できないので全員無視している。
ロデムが基地奥の中枢扉を見つめた。
「ここです。ロデム内部の断片と同波長」
「つまり黒い結晶が」
「基地の深部まで入ってるってことね……」
ヨミの顔が険しくなる。
その時、ギャンブルがひらひら手を挙げた。
「はーい。じゃ、行ってくる」
「どこに」
「決まってるじゃん。アタシの仕事場」
彼女が指差したのは、中枢扉のさらに奥にある一室だった。
重い鉄扉の隙間から見えるのは、異様に巨大なパチンコ型制御盤。
無数の釘、回転体、発光するゲート、そして中央に脈打つ黒い核。
「……悪趣味」
「でしょ? でも、たぶんここがこの基地の心臓」
ギャンブルは、そこで初めて本気の顔になった。
「ヨミ様。あれ、アタシが止める」
「無茶よ」
「知ってる」
「中へ入れば、黒い結晶の直撃を受ける。精神まで持っていかれるかもしれない」
「知ってる」
「それでも?」
「うん」
軽く答えたくせに、その目は揺れていなかった。
「アタシね、今までずっと“次で取り返せる”って顔して、負けをごまかしてきたの。軍資金も、人生も、たぶんちょっとだけ自分も」
「……」
「でも今回だけは、違う負け方したくない」
ギャンブルはダイチをちらりと見た。
「坊やが、バカみたいに諦めないからさ」
「人のせいにするな」
「半分は本気で言ってる」
ヨミは唇を噛んだ。
やがて、静かに頷く。
「……絶対に戻りなさい」
「命令?」
「総帥命令よ」
「了解、ヨミ様」
そのやり取りを見て、ダイチは胸の奥が少し熱くなるのを感じた。
この組織はポンコツだ。金はないし、作戦も雑だし、部下はパチンカスだ。
でも、だからこそ、ここには確かに人間の体温がある。
中枢戦が始まった。
制御室へ入った瞬間、空気が変わる。
巨大パチンコ盤の内側で、黒い結晶核が脈打つたび、壁中の計器が狂ったように明滅した。
ギャンブルはひとり、盤の前へ立つ。
その姿はいつもみたいに軽薄で、でも背筋だけはまっすぐだった。
「さーて。最後のオールイン、始めますか」
彼女がレバーを引く。
盤面全体が起動し、古代文字が流れる。
――観測対象:ギャンブル。
――依存性、高。
――逆転願望、高。
――最適化可能。
「やな診断」
「ギャンブル! 来るぞ!」
黒い結晶片が釘の間から弾丸みたいに飛び出す。
ロプロスが風刃で軌道を逸らし、ポセイドンが水壁で受け、ロデムが影で死角を埋める。
ダイチとヨミは中央ゲートの前で認証阻害を抑える。
「坊や! 右三つ目のチャッカー!」
「は!?」
「そこに指輪の波長、当てて!」
ダイチが右手をかざすと、ゲートが開き、盤面全体の流れが変わる。
ギャンブルはその隙を逃さず、次のハンドル操作を叩き込む。
「よし、乗った!」
盤面上で光球が跳ねる。
だがそのたびに、黒い核が彼女へ語りかける。
――お前は勝てない。
――お前はまた溶かす。
――お前の価値は逆転を夢見る顔だけだ。
ギャンブルの手が一瞬だけ止まる。
「っ……」
「ギャンブル!」
「だいじょぶ……まだ、平気」
でも、口元の笑みがひび割れていた。
ダイチは叫ぶ。
「お前、何でそんなに賭けるんだ!」
「……負けたまま終わるのが嫌だからよ!」
「それだけか!?」
「それだけで、何が悪い!」
彼女は振り返りもせず怒鳴った。
「気づいたら手元に何もない。金も、勝ちも、自信も。
でも次があるって思わないと、空っぽの自分が見えちゃうじゃない!」
制御盤が激しく唸る。
黒い核が、まるで彼女の弱さを喜ぶみたいに輝く。
ダイチは歯を食いしばった。
「空っぽじゃないだろ!」
「……」
「お前、今ここでヨミやみんなのために立ってるじゃないか! それが全部嘘なら、こんな顔しない!」
ギャンブルの肩が震える。
「坊や……」
「勝つから賭けるんじゃないんだろ。負けたまま終わりたくないから賭けるんだろ」
「……っ」
「だったら今ここで、ちゃんと勝て!」
その瞬間、彼女の目に熱が戻った。
「……あは」
小さく笑って、ギャンブルはハンドルを最大まで回した。
「いいね、それ。
アタシの激熱カットイン、見せてあげるよ――!」
盤面が虹色に爆発する。
ゲート全開。釘の流れ逆転。
黒い核の制御が一瞬だけこちらへ傾いた。
ギャンブルは最後のレバーを叩き込む。
「全突っ込みだ、コノヤロォォォ!」
揃った。
確・変・突・入。
巨大制御盤の全ランプが白く反転し、黒い核へ逆流が発生する。
核は高音を上げて砕け、基地全体が揺れた。
「やった……!」
「ギャンブル!」
だが喜ぶ暇はなかった。
天井から瓦礫が落ちる。
警報。赤色灯。基地崩壊アナウンス。
ジュピターが真っ青になる。
「だ、大変です! 中枢停止に伴って、全構造材の浮遊支持が切れました!」
「つまり?」
「基地が落ちます!」
「雑に言うな!」
ギャンブルは苦笑した。
「いやー、勝ってもだいたいロクなことないな」
その時、黒い核の残骸から最後のメッセージが響いた。
――ヨミ帝国、崩壊確定。
――次段階へ移行。
――第五継承者、回収準備を開始。
ダイチは顔を上げた。
「……来るぞ」
「ええ。しかも次は、もっと真正面から」
基地が悲鳴を上げる。
敵も味方ももう関係ない。全員、ここから生きて出るしかなかった。




