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第14話 闇の深淵からの警告! 悪の帝王ヨミの嫉妬は大爆発

「……で?」


 翌日。

 ダイチは旅館でも自宅でも学校でもない、街外れの河川敷で正座していた。


 目の前にはヨミ。

 腕組み、仁王立ち、完全に怒っている。


「昨夜、どういう経緯でロプロスと二人きりで夜空を飛んでいたのか、三分以内に説明しなさい」

「尋問かよ」

「尋問よ」

「裁判の間違いじゃなくて?」

「死刑判決でもいいけど?」

「重っ!」


 少し離れたところで、ロプロスが「別にやましいことは何も――」と強がり、ギャンブルはポテチを食べながら観戦し、バッカスは「何の試合だ?」と首を傾げ、ジュピターはメモを取っている。地獄か。


 ダイチは頭を抱えた。


「飛行訓練みたいなもんだよ」

「夜に?」

「たまたま」

「二人きりで?」

「……たまたま」

「その“たまたま”を粉砕したい」


 ヨミの杖《ネフティス》がびりっと光る。

 危ない。非常に危ない。


「ヨミ様、落ち着いて」

「ギャンブルは黙ってなさい! というか貴方、どうして毎回面白そうに煽るのよ!」

「だって実際おもしろ――」

「黙れ!」


 空気がぴりつく。

 ヨミの感情が荒れているのがはっきり分かった。普段のツンツンした怒りとは違う、もっと深い場所の熱だ。


 その熱に反応するみたいに、《ネフティス》が再び強く発光する。


「ヨミ?」

「……え」


 杖の先端から黒い粒子が漏れ始めた。

 ダイチの指輪も反応する。


「まずい、また黒い結晶か!?」

「違う……これは、血統反応?」


 ジュピターが顔色を変える。

 ヨミは自分の手を見下ろし、初めてはっきり怯えた表情をした。


「何よ、これ……」

「ヨミ、杖を離せ!」

「無理! 離れない!」


 黒い粒子が彼女の足元へ広がり、まるで影が生きているようにうねる。

 その中心から、低い声が響いた。


 ――双つの継承。

 ――忘れられた片割れ。

 ――支配を選んだ血。


「……っ!」


 ヨミが膝をつく。

 ダイチは迷わず駆け寄った。だがロプロスが腕を掴む。


「主、危ない!」

「でも!」

「今のヨミ、ただ怒ってるんじゃない。何かに引っ張られてる!」


 ヨミの瞳が、ほんの一瞬だけ別人みたいに冷たく染まる。


「……人は、愚かだ」

「ヨミ?」

「感情は不要。支配こそ安定。選別こそ慈悲」


 ダイチは息を呑んだ。

 その口調はヨミのものじゃない。もっと古くて、乾いた、機械じみた響き。


 ロデムが静かに前へ出る。


「主様。古代記録に一致。“バビル1世の双子の弟”由来の残留思考です」

「双子の弟……本当にいたのか」

「はい。正規継承から外れ、別系統の管理思想へ流れた存在」


 ヨミは荒い息のまま、必死に杖を握り締めている。


「……見るな」

「ヨミ」

「こんなの……私じゃない」


 その声は震えていた。

 いつもの強がりが、一枚ずつ剥がれていく。


 ダイチはゆっくり一歩踏み出した。


「大丈夫だ」

「何が大丈夫なのよ!」

「君が今、嫌がってるなら、それは君の意志がまだここにあるってことだ」

「……っ」

「飲まれるな」


 ヨミの目が揺れる。

 だがその瞬間、黒い粒子が一気に膨らみ、彼女の背後に巨大な影像を結んだ。冠を戴いた男のシルエット。顔は見えない。ただ、冷たい。


「主様、来ます!」

「ロデム! ロプロス! ポセイドン!」


 三人が同時に動く。

 影像の腕が振り下ろされるより早く、ロデムの影刃が足元を裂き、ロプロスの音圧が輪郭を揺らし、ポセイドンの水壁がダイチとヨミを包んだ。


 しかし完全には止まらない。

 影像はヨミの杖を媒介にしている。外から壊すだけでは足りない。


「ヨミ! こっち見ろ!」

「……見てるわよ」

「君は何がしたい!」

「は?」

「世界を支配するとか、管理するとか、そういう大きい言葉じゃなくて、今この瞬間どうしたい!」


 ヨミは苦しげに顔を上げた。

 黒い粒子に絡まれながら、それでも、確かに自分の声で言った。


「……負けたく、ない」

「誰に」

「こんな、知らないものに!」


 その瞬間、《ネフティス》の光が反転した。


 ダイチの指輪が共鳴する。

 黒い影像が一瞬だけ揺らいだ。


「それでいい!」


 ダイチはヨミの手首を掴んだ。

 熱い。黒い粒子の冷たさと、彼女自身の熱が入り混じっている。


「君が君でいたいなら、そっちを選べ!」

「貴様、命令してるの?」

「してない、頼んでる!」

「……ずるい!」


 泣きそうな声で叫んだ直後、ヨミが杖を振り抜く。

 黒い影像が、自分を繋ぐ核ごと断ち切られた。


 轟音。

 粒子が弾け、河川敷に風が抜ける。


 静寂。


 ヨミはその場に崩れ落ち、ダイチが慌てて支える。

 彼女は息を切らしながら、顔を背けた。


「……見るな」

「無理」

「何でよ」

「心配だから」


 ヨミは数秒黙って、それから小さく呟く。


「貴様、本当に性質が悪いわね」

「悪口?」

「悪口よ。最高に」


 だがその声には、いつもの棘が少なかった。


 その時、ジュピターが震える声で言う。


「み、みなさん……これ」

「どうした」

「《ネフティス》の内部記録、少しだけ開きました」


 彼女が見せたホログラムには、一文だけ記されていた。


 “双子の片割れは、感情を恐れた。”


 そして、その下に続くもう一文。


 “ゆえに、感情を持つ者を管理しようとした。”


 ダイチとヨミは同時にその文字を見つめた。

 これはただの血筋の話じゃない。


 バビル0世と戦う前に、もっと古い対立があったのだ。


 その夜。

 ヨミから、珍しく短いメッセージが届いた。


『……今日は、その

 助かった。

 でも勘違いしないこと。

 次にロプロスと夜飛行したら、本気で殺す。』


 ダイチはスマホを見下ろし、ため息と苦笑を半分ずつ吐いた。

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