第13話 ツンデレの限界突破! ロプロス、空中デートで素直になる
温泉街から戻った翌日の夜。
ダイチは屋根の上にいた。
「……何で毎回、呼び出し場所が高いんだ」
「地上だと邪魔が入るからよ」
月明かりの下、ロプロスが腕を組んで立っている。
白いワンピースの上に薄手のカーディガン。いつもの戦闘的な雰囲気より少し柔らかいのに、口を開くと相変わらずだ。
「ほら、乗って」
「乗る?」
「私の後ろ」
背中の光翼が静かに開く。
ダイチはため息をついて、その後ろに立った。
「落とすなよ」
「誰に言ってるの」
「それはそうなんだけど、信用してないわけじゃなくて」
「……信用してるの?」
「してる」
「っ」
ロプロスの肩がぴくりと揺れた。
「……じゃあ、しっかり掴まってなさい」
「はいはい」
次の瞬間、地面が遠ざかった。
夜の街は、上から見ると別の世界みたいだった。
道路は光の川で、家々の窓は小さな灯りの群れ。遠くに海、さらにその向こうに、薄く黒い塔の影。
ロプロスの飛行は速い。だが今夜は、見せびらかすような急旋回はしなかった。
むしろ、ダイチが景色を見られるように、高度と速度を細かく調整しているのが分かる。
「……優しいな」
「は?」
「飛び方」
「そ、そういう意味じゃないわよ!」
「分かってる分かってる」
「分かってない顔!」
夜風に髪が流れる。
しばらく無言で飛んだあと、ロプロスがぽつりと言った。
「私、昔は空だけでよかったの」
「昔って、起動前?」
「もっと前。記録の中の、私になる前の私……みたいなもの」
彼女は視線を前へ向けたまま続ける。
「誰にも縛られないのが自由だと思ってた。命令も、期待も、嫉妬も、全部いらないって」
「うん」
「でも主と会ってから、分からなくなった」
「何が」
「……他の女と話してるだけで、胸の奥がうるさいのよ」
ダイチは思わず吹き出しかけたが、ぐっとこらえた。
「笑ったら落とす」
「顔見えなくても分かるの怖いな」
「主のことだから分かるのよ」
少しだけ沈黙。
ロプロスの声が、前よりずっと小さくなる。
「嫌なの」
「……」
「ロデムが近いのも、ポセイドンに抱きしめられてるのも、ヨミと話してるのも、ギャンブルにからかわれてるのも。全部嫌」
「ロプロス」
「別に独占したいわけじゃない。そう思ってた。でも違った」
彼女は急に高度を落とし、山の上の展望台へ降り立った。
夜景が見下ろせる場所。人はいない。
ロプロスは振り返らないまま言う。
「主が自分で選んだ相手でいたいのよ」
「……」
「命令だから守るんじゃない。主が“お前がいい”って言ってくれるから、隣にいたい」
「うん」
「なのに、主はみんなに優しいから、全然分かんなくなるの」
その声は、泣く寸前だった。
ダイチはしばらく黙ってから、彼女の隣に立つ。
「ロプロス」
「何」
「僕、まだ誰をどう選ぶとか、正直そこまで整理できてない」
「最低」
「否定できない」
「最低ね」
「でもさ」
「……」
ダイチは夜景の向こう、黒い塔を見た。
「君がいないと困るのは本当だ」
「っ」
「飛べるからとか、強いからとかだけじゃなくて。ロプロスがいないと、この面倒くさい毎日がたぶんちょっと足りない」
「それ、褒めてる?」
「かなり本気で」
「……変な言い方」
ロプロスはようやく振り向いた。
目元が少しだけ赤い。
「でも、嫌いじゃない」
「よかった」
次の瞬間、彼女は急に顔を近づけた。
「だったら覚えときなさい。私は簡単に譲らない」
「お、おう」
「他の女の前でも、ちゃんとそういう顔しなさい」
「どういう顔」
「私が特別って分かる顔!」
「難易度高っ」
ロプロスがふっと笑った、その時。
背中の翼が、今まで見たことがないほど強く光った。
「何だ!?」
「認証反応……?」
光が空へ立ち昇り、塔の上空へ向かって一直線に伸びる。
遠くの黒い塔が、それに応じるみたいに脈動した。
ダイチの指輪が熱を持つ。
頭の中へ機械音声。
――第三鍵、確認。
――最終防衛線、解除条件の一部を満たしました。
「第三鍵……ロプロスの翼が?」
「どういうことよ」
その時、展望台の階段下から拍手が聞こえた。
「いやー、青春だねえ」
「げ」
ギャンブルだった。
その隣には、当然のようにヨミもいる。しかも顔が怖い。
「主、説明して」
「いやこれは」
「空中デートしてたのね」
「その言い方やめろ!」
「デートじゃないわよ!」
「そういう否定の早さが一番怪しいのよこの鳥女ぁぁぁ!」
夜景の綺麗さが台無しになる勢いで、修羅場の幕が上がった。




