↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/30

第12話 ギャンブルお姉さんのパチスロ講座(※世界を救う鍵です)

「主様。あの女と二人で行くのは反対です」

「珍しく完全に同意だわ」

「主様、危険」

「ポセイドンまで同意見!?」


 翌朝。温泉街のゲームコーナー脇、やたら古いスロットマシンが並ぶ一角で、ダイチはすでに包囲されていた。

 囲んでいるのは味方だが、安心感はない。


 原因はもちろんギャンブルである。


「だーいじょぶだって。坊やを食べたりしないから」

「その言い方がもう危ないんだよ」

「残念。味見くらいはしたかったのに♡」

「朝から最悪だな!」


 ギャンブルは笑いながら、温泉街の片隅にある古びたスロット台をぽんと叩いた。


「ほら見て。昨日の源泉反応、これと繋がってる」

「こんなところにもあるのか」

「ある。というか、古代文明の連中、やたら“揃う”とか“外れる”とか好きだったみたいなんだよね」

「悪趣味……」


 ジュピターが眼鏡を押し上げる。


「正確には、感情の振れ幅を演算資源として利用していた可能性があります。期待、失望、執着、逆転願望……要するに“当たるかも”の瞬間の脳波ですね」

「最悪の発電方法だな……」


 ギャンブルはそこで、妙に真顔になった。


「でも、人間ってそういう瞬間に一番生きてる顔するでしょ」

「……」

「だから嫌いになれないのよ、アタシ」


 その言葉だけは、軽口じゃなかった。


 ダイチは少しだけ目を細める。

 ギャンブルは本当に、ただのパチンカスではない。負けを笑い飛ばしているようで、その実、何かにしがみつくみたいに賭け続けている。


「で、何をすればいい」

「目押し」

「急に俗!」

「でもマジ。坊やの指輪の波長が必要なの。アタシが流れを読むから、止めるのはあんた」


 ダイチはため息をつきつつ、スロット台の前へ座った。

 ギャンブルがすぐ隣へ腰を下ろす。近い。香りが近い。息が近い。


「ちょっと、距離」

「集中しなきゃダメでしょ?」

「それはそうだけど」

「坊や、耳赤い」

「うるさい!」


 後方からロプロスの殺気が飛んできた気がした。振り返らない。怖いから。


 ギャンブルは手を伸ばし、ダイチの右手に自分の手を重ねた。


「いい? 流れはここで読む。止めるのは、この瞬間」

「……お、おう」

「力まないで。恋じゃないんだから」

「余計力むわ!」


 レバーを叩く。

 リールが回る。古い機械音が、妙に低く耳へ残る。


「今」

「っ」


 ダイチがボタンを押す。

 一列目、古代文字。

 二列目、古代文字。

 三列目――


 止まる寸前、ギャンブルの指先がぎゅっと力を込めた。


「ここ!」


 揃った。


 その瞬間、店の照明が全部落ちた。


「またかよ!」

「黙って、来る!」


 液晶が起動し、そこへ映し出されたのは、通常のスロット演出ではなかった。

 巨大な時計。カウントダウン。古代文字。


 ジュピターが青ざめる。


「これ……世界規模の同期時計です!」

「同期?」

「バビル0世の起動準備タイマーかも!」


 数字が減っていく。

 あと、八十八。単位は分からない。時間か日数か、あるいは別の尺度か。


 だが一つだけ分かる。

 これがゼロになれば、終わる。


「止められないのか!?」

「表層制御じゃ無理! でも……」


 ギャンブルが食いしばる。


「深部の確率制御なら、少しだけズラせるかもしれない」

「やれるのか」

「やるしかないでしょ」


 彼女は立ち上がり、温泉街の地面に並ぶ古いスロット筐体を順に見渡した。


「全部繋がってる。こいつら、世界中に張り巡らされた“予兆装置”だ」

「そんなもん街角に置くなよ……!」


 カウントダウンの数字がひとつ減る。


 その時、源泉の方角から爆音がした。

 温泉の湯柱が真上へ吹き上がり、黒い結晶をまとった小型兵装が何体も空へ浮かぶ。


「主様、迎撃」

「ロプロス! 上空!」

「分かってる!」


 ロプロスが翼を開き、露天風呂の上空へ飛び出す。

 ポセイドンは源泉側へ駆け、水圧で湯柱ごと兵装を押し返す。

 ロデムはダイチの影から展開し、残る敵影を拘束する。


 ダイチはギャンブルの隣へ戻った。


「僕は何をすればいい」

「もう一回、賭けるの」

「雑に聞こえるな」

「でも本質よ。世界を少し先延ばしにするために、今ここで“外さない”」


 彼女は笑った。いつもの軽さとは違う、少しだけ震えた笑み。


「坊や、アタシさ。勝てる勝負だけしてたかったの」

「……うん」

「でも、あんた見てると分かんなくなる。そんな非効率で、そんな無茶で、何でまだ折れてないのって」

「折れそうではある」

「知ってる。だからムカつくくらい目が離せない」


 ダイチは一瞬だけ言葉を失った。


「それって」

「告白だと思った?」

「言い方!」

「半分ね♡」


 そこで彼女は、真顔になった。


「残り半分は、本気のお願い。止めて、坊や」


 ダイチは頷いた。

 再びレバーを叩く。回る。流れる。揺れる。


 指輪が熱い。

 ギャンブルの手が震えている。

 でも、止める瞬間だけは不思議と見えた。


「――今だ!」


 三つの古代文字が揃う。


 液晶が弾け、カウントダウンの数字が一気に巻き戻った。


「戻った!?」

「完全停止じゃない。でも、少し遅らせた!」


 ジュピターが歓声を上げる。

 だが安心しかけた、その時だった。


 液晶の奥から、新しいメッセージが浮かび上がる。


 ――遅延確認。

 ――観測対象:ギャンブル。

 ――感情傾向、変質。


「え」

「観測対象……?」


 ギャンブルの顔から笑みが消えた。

 液晶に、彼女そっくりのシルエットが映る。金髪、笑顔、そしてその胸の位置に、黒い結晶の点滅。


「……アタシを見てる」

「ギャンブル!?」

「大丈夫。まだ、大丈夫」


 でも、その声は少しだけ掠れていた。


 彼女はダイチの胸を軽く押した。


「坊や。もし次、アタシが変なこと言い出したらさ」

「何だよ」

「ちゃんと止めてよ。

 ……できれば、優しく」


 その言葉の直後、液晶が真っ黒に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。