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プランB 33


ヒロはチョコ付きのポテトチップスを食べている、脂分が少ない胃に優しいものだ。 試作機が太陽の周回軌道に乗って数時間後、ローズは新たな指令を発する。


『 もう十分じゃろう。 試作機を離脱軌道へ移行じゃ 』


『 試作機へ進路変更を送信 』


太陽の周囲は様々なエネルギーや粒子が満載だから、電波での通信は困難だ。 ホール通信が在れば問題ないのだが、今回は搭載されていない。 様々な情報を収集しつつ、場合によっては壊れるまで周回する予定だったので、プリプログラムによるコース変更は組み込んでいない。


『 試作機からの応答信号受信 』

『 試作機進路変更を開始 』


試作機が信号を受信したと返信している、指令センターからのコマンドに対する受信信号だ。 既に試作機は離脱コースに乗っているが返信は続けられている。 指令センターが返信を受信した旨の信号を送信しないからだ、送信していても受信できなければ同じ信号を繰り返す事になっている。


『 データの解析が楽しみじゃの 』

「 そうね。 どんなデータが記録されているのかしらね 」


ジュンは祝杯をモニターのローズに挙げ、ヒロはコーヒーを飲んでいる。


『 試作機にはウィンドウ機能を搭載しておる、それなりのデータは得られるじゃろ 』


「 報告書は読んだわ。 報告書通り機能してくれたら、ブラックホールの中でも使えそうね 」


『 そうじゃ 』


試作機に搭載されているMシールドとEシールドは、M=マテリアル=物質と、E=エナジー=エネルギーを遮断する。

遮断するのは双方向であり、試作機への外部干渉を全て遮断できるが、試作機もシールド外部への干渉が出来ない。 つまり試作機は、暗闇の中を手探りで飛んでいるのと変わらない。


もっと都合が悪いのは、観測宙域にたどり着いてもセンサー類が使えないと観測が出来ない事だ。 観測できないのであれば、そもそも観測機を飛ばす必要がない。 フィールドが在ってもたどり着けても全く意味がない。


であるならばと、ムーンベースの科学者が考え出した手法の原理はピンホールだ。 複数のフィールドを用意する、用意したEフィールドとMフィールドに極小の(原子の大きさらしい)穴を開けてそれをズラして配置する事により、理論的には素粒子以下の大きさの穴を用意して外部の観察を可能としている。


穴の大きさで入射する電磁波は波長を制限できる、有害だったり高エネルギーだったりする波長は入ってこない。 宇宙線やガンマ線も制限できるし粒子も制限できる、そんな穴を複数用意してデータを入手する。 入手したデータを合成すればそれなりの情報は得られるはずだ、とムーンベースの科学者達は考えた。


夜食時に電子レンジを使っていて思いついたらしい、加熱中なのに外に電磁波が出て来てないからだ。 明るいのは照明用の光源があるためで、加熱用の電磁波は目には見えない。


画像以外の観測手段は限られている、高エネルギーが満ちた空間で使用できるセンサーはまだ存在しない。 それらのセンサーが開発されるまで、当分の間は光学観測が主な観測手段になると考えられている。 情けない事だ。


BD試作機のメインの推力は、シールド効果を利用した引力推進を使用している。 まだ細かな制御は出来ないが、シールドで外乱の影響を受けないハズだから軌道は影響を受けないハズだとされた。


試作機だからそれで充分だと主張する科学者達によって、BD試作機は飛び立った。 SF本部から中止指令が出る前にすべての作業を終わらせなければならない、ムーンベースの科学者達の意見は一致していた。 最も声が大きかったのはローズだ、本人はそれを認めない。


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『 ジュン、データは受け取ったか? 』


「 ええ、フォーマット変換中よ 」


BD試作機は太陽の近傍宙域を離れ、母船の待つ宙域まで帰還した。 母船に回収されたBD試作機は、様々な検査を受け異常無しと判定された。 母船の架台に収められ出発前と変わることなくたたずむ姿は、それが人類史上最も太陽に接近して帰還した最初の衛星とは思えなかった。


BD試作機より近づいたとされるモノは存在する、太陽に着陸したとされているモノが存在するのだ。 但し、太陽の表面に当該物の存在が確認できないため、非公式で未公認である。 UFOと同じ存在だが、そう主張する国家は確かに存在する。


今回の観測では、外部からのエネルギーと共に内部のエネルギーにも注意が払われた。 それは熱だ。


機器を搭載して作動させれば当然熱が発生する、そして今回は外部に熱を捨てられない。 フィールドのエネルギー遮断は双方向だ。 それに外部の方が高温で高エネルギーのフィールドとなっている、熱もエネルギーも共に高い方から低い方へと移動する。


だから、何もしないでそのまま排熱しようとしても、熱やエネルギーやその他のモロモロが衛星に入ってきてしまう。


今のところ解決策は存在しない、従って出来るだけ熱を発生しない様に設計されている。 アホみたいに熱を発生する最新の電子演算装置は搭載できない、そこそこの性能でそこそこ熱を発生する物も同じだ。 替りに用意されたのは機械式計算装置だ、摩擦熱は発生するが微々たるものだ。


許容できる範囲しか熱を発生させない程度の電子演算装置になると、単純な繰り返し計算ならむしろ機械式の方が早いまであった。 BD試作機には32の機械式演算装置と、8つの電子式演算装置が搭載されている。

姿勢制御用のジャイロも機械式だ、さすがに真空管は使用していない。 トータルの処理速度は最新の衛星に比べてガタ落ちだ、それでも無いより遥かにマシだ。


液体ナンチャラで冷却する方法は採用されていない。 液体が吸熱して気体に変化する段階で、体積がかなり増えるからだ。 少なくとも、内容積が固定された船内や空間で使用すべきではないだろう。


あれやこれやでBD試作機の記録装置は、昔々の古いデータ方式が採用された。 新たに開発している時間がもったいなかったからだ。 ジュンが、BD試作機から得たデータのフォーマットを変更しているのもその為だ。


船体が充分大きければ、排熱の問題は発生しない。 あくまでも、今回限りの問題となる。


「 映像と赤外線センサーの情報しか無いのね 」


『 仕方なかろう? まともなセンサーが無いんじゃからな 』


「 それもそうね 」


ジュンは祝杯のシャンパンを舐めながらデータを見ている、おつまみはカマンベールチーズだ。 彼女は、ナッツ類はカロリーが高すぎるから寝る前には食べないと主張した。 ナッツもチーズも、そんなにカロリーは変わらないだろうと、ゲームをしながらヒロは思った。 肝心なのは食べる量のハズだ、そう考えたが考えただけだ。 世の中には口に出さない方が良い事もある。


リビングのモニターは通信用と解析用にジュンが両方とも使用しているので、ヒロはテーブル上に表示して遊んでいる。 見にくいのだがやむを得ない。


「 次はブラックホールよね? 」


『 そうじゃ。 位置が分かれば直ぐに飛ばせるように、準備は出来ておる 』


「 スポンサーの連絡待ちって事かしらね 」


『 それじゃがな、待っとられんから三週間後にムーンベースで探査をやることにした 』


ジュンのつまみにチョコ付きのポテトチップスが加わった、摂取カロリーが上がった。


「 ブラックホールを探すの? どうやって? 」


『 なに、簡単なことじゃ 』


モニターの中で胸を張るローズは自慢げだった。



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