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プランB 34



BD試作機の試験から三週間後、ムーンベースから発進した宇宙船は全部で144隻になる。 宇宙船と言っているが、小型の衛星に融合炉と特製のホール通信を搭載しただけのものだ。 各々が所定の位置について測定開始を待っている。

各船は4基のプロープを展開しつつ、縦横12隻でほぼ正方形を形作っている。


太陽ダイブが成功した二日後の試験で、ローズの考案した質量測定法は成功を収めた。 ホール通信を使用した、質量観測方法だ。


それを受けたSFは、観測衛星の大量発注を決定した。 三週間後には、144隻プラス予備の衛星が準備された。 世間では ”SF最初の成果 ” として地球圏で話題になった、そのために作った組織なので当然だが。


用意された衛星に使用されているのは小型の融合炉で、家庭用を流用しただけだったりする。 ジャンプする訳じゃないから、その出力で十分だとされた。


『 各船所定の位置に着きました、ムーンベースとのデータリンク正常 』

『 各機プローブ展開完了 』

『 全機観測準備完了 』

『 ムーンベース、信号の受信状態良好、データ処理を開始します 』


『 ローズ博士、準備完了しました 』


『 うむ 』


モニターの中のローズは偉そうに見える、威厳とか風格がタップリに見える。 実際にムーンベースの科学者ではナンバーワンなのだから、それは間違いではない。 それでもヒロとジュンからはそう見えない、歳相応の無邪気な女の子に見える。


「 それで、これから何をしようとしてるんだ? 」


「 ブラックホールの位置を特定しようとしてるのよ 」


「 なるほど? 」


ヒロは理解できていない、試験内容も知らされていない。 ジュンはローズと一緒に準備していたが、ヒロは別の仕事がある。 彼は科学者ではない。


ジャンプ機関もホール通信も、終末の目標空間に質量が存在すると曲がる性質が在る。 曲がる量は質量の相対差に比例して大きくなる。


ジャンプした宇宙船の質量の方が、ジャンプ先に在る質量より明らかに大きい場合はそんなに曲がらず、ジャンプ先にある質量が弾き飛ばされる。 ジャンプ先に恒星や惑星が在れば、もちろん曲がるのはジャンプする船の方になる。 質量保存の法則は偉大なのだ。


「 ・・・ホール通信の収束先の距離設定を同じにして照射するの、目標地点のズレを集計して処理すれば観測先の質量の大きさと形状が大体分かるのよ。 ズレは時間と波長の両方で観測するわ 」


「 フェイズドアレイレーダーみたいな? 」


「 その認識であってるわ、波長で照射の向きは変わらないけどね 」


ジュンの説明を聞き終わったヒロは、モニターのローズを見ながらコーヒーを飲む。 彼の仕事は、空間安定化装置などの製造上の質問に対する技術的解答になっている。 何も無ければ、基本的に残業は無いし自宅勤務だ。 色んな理由で(メインはスポンサーに対する不信感だ)勤労意欲が激減中のヒロは、暇な事に苦痛は感じていない。 自宅勤務だし。


今回の探査はローズとジュンが考案した方法になる、観測範囲は光学的な観測より狭くなるが、即時性では遥かに早い。 十光年先の ”今 ”を観測できるのだ。


同一方向に向けて同一距離になるように指向されたホール通信波による、巨大な質量を探し出す、手間が掛かる作業が始まった。 始まったのだが、光も音も出ないのでモニターを見ていても何の変化もない。

何とも見ごたえの無い観測となった。


-----------------------------


測定は一週間続けられた、もちろん船の乗組員は交代したし様々な補給も行っている。 同じ人員が連続で測定したのではないから、労働基準法違反ではない。


『 いくつかダイブに適したブラックホールが見つかったの~ 』


「 そうね。 規模も軌道も問題なさそう 」


「 ・・・ 」


ヒロは発言する気も発言権もない、彼はエンジニアで科学者ではない。


「 それでも地球から遠ざかる軌道のにしましょう 」


『 そうじゃな。 何が在るか分からんしの 』


モニターに映し出される会議室には、多くの科学者が集まっている。 ムーンベースのトップのローズの計画だからと言うだけではなく、ブラックホールにダイブして中を覗く計画なのだ。 天文学者だけでなく様々な分野の科学者が集まっている、会議室には選ばれた者だけが集っている。 TOPオブTOPの科学者達らしいが、ヒロにはどうでもよい事だ。


自宅から参加しているジュンの隣にはヒロだけだ、彼はコーヒーを飲んでいる。


『 BD初号機は完成済みじゃ。 いつでも試験に投入できる 』


ローズは自慢げに腕を組みながら報告する、だが彼女が作ったんじゃない。 エンジニアや作業員が作った物だ。


「 じゃあ、最初は予定通り小型のブラックホールで試しましょうか 」


『 じゃな。 最初のターゲットはB-04で良かろう 』


彼女は太陽圏から遠ざかる軌道に在る小型のブラックホール、その軌道を指し示した。 会議室のモニターには、観測されたブラックホールの軌道が表示されている。 そのうちの一つが選択されて、色が変わった。


最初に観測されたブラックホールはB-01と名付けられた。 それ以降は順次連番が与えられ、既に23個のブラックホールと思われるものが観測されている。 目で見たのでは無いので多分あると思われている、目で見ようと思ったら光か電磁波が到着する十年は待たないとならない。


だが残念ながら、ブラックホールを裸眼で見られる人類は存在しない。 人類の身体にはそれを可能とする感覚器官は存在しない、魔力を使えば可能らしいが魔力を使う時点で“裸眼“ ではない。


『 おお、何だこれは。 空間に黒い穴が開いているぞ! 』 と言ってブラックホールを見ることが出来るのは、漫画や小説に登場する者だけだ。 ブラックホールは目に見えない、黒くも見えない、ユトリ人類には出来ても普通の人類には無理だ。 無理だったら無理だ。


「 小さいのにダイブするにしても、シールドの出力はそれなりに欲しいわね 」


『 当然じゃな。 お試しじゃが、本番を想定しておかないとの 』


「 あら。 本命はもう決めてるの? 」


『 まだ見つかっておらん。 観測は続けておるがの 』



発言しているのはローズとジュンだけだ、会議室にいるその他の科学者たちはそれを聞いているだけだ。 ブラックホールダイバー計画は、ローズとジュンのプロジェクトなのだ。 その他の科学者はオブザーバーだ、良識ある普通の科学者は意見を求められない限り発言しない。


無理やり発言しても良いのだが、最新の観察データはローズとジュンが握っている。 見当違いの発言を無理やりしたら、1時間後には地球行きのシャトルに乗らされているだろう。


それにローズはもともと学会を重要視していない、学会ぐるみでローズを否定して以来、ローズは以前にもまして学会を軽視するようになった。

彼らはローズの論文だけではなくローズの人格をも否定していたから、ローズでなくてもそうなっていただろう。


彼女は今回の観測もジャンプ装置の延長線上ととらえており、ジュンと二人でやるつもりだ。 人手はSFから借りるつもりだった。 様々な科学者が(一流の本当の意味での科学者だ)集まっているのは、スポンサーがSFを通じて集め、参画をローズとジュンに打診してきたからだ。


スポンサーの依頼はローズもジュンも無視できない、その代わりにローズとジュンはBDプロジェクトを強力に推進する許可をスポンサーからもぎ取った。 二人とも転んでもタダでは起きない主義らしい。


それでも二人は、ナンチャラ会の重鎮と呼ばれている様な、派閥にベッタリの科学者の参画は明確に拒絶した。 必要なのは専門知識であって、派閥の権威じゃないから。


誤字脱字の報告、読後の感想などお待ちしています。


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