ダイブ! 30
ジュンとヒロが夢の国で休暇中でも、世の中は動き続けていた。 彼らが世界の中心ではないから、当たり前だと言えばそれまでだ。
中でも一番大きなニュースは、世界中の宇宙関連組織が合併した事だろう。 スターシップ・フェデレーション 『 SF 』 の誕生である。 SFは三つのブロックに分かれて構成された。
ブロックAは、アメリカを中心として南北アメリカ大陸に所属する国家で構成される。
但しブラジルは除く。
ブロックBは、イギリスとEUを中心としてヨーロッパ各国で構成される。
ブロックCは、中国とインドとロシアを中心として、例外としてブラジルが所属してアジア各国で構成される。 但し日本は除く。
SF結成の主目的はジャンプ機関搭載船の建造を効率的行うため、資材や人員を争いなく分配するためとされた。 打ち上げて使用するのが目的なので、(宇宙船を地上に配置しても意味は無い)、地域毎にまとまるべきなのだが政治が邪魔をした。 ブラジルがブロックCに所属した理由である。
日本はブロックCのはずだが、こちらは国民感情が邪魔をした。 日本が同じブロックに所属するのは許せない、謝罪もしない国家は認めないと言う国が複数存在したのだ。 複数と言っても二か国だけだ。
ガニメデステーションの密造酒の事は広く地球に知れ渡っており、彼の国の評判は地下深くまで落ちていたにも関わらず彼の国の声は大きかった。 良い悪いでなく、そういう国なのだと思うほかない。 彼の国と同じブロックになれないと知った一部女性が抗議活動を起こした、本当に一部だけだったのだが、何故か日本の地上波では大々的に報道された。
反対にブロックAとブロックBからは、日本を歓迎する声が上がった。
むしろブロックAはアメリカと日本は友好国だから、ブロックBはローズ博士と共同研究の成果だから、共に自分たちのブロックに所属すべきだと主張した。
日本政府はまだ態度を決めかねていた、理由は不明である。
ヒロとジュンはSFの統括本部に所属することになった、ヒロはメデタク無職を回避できた。 本人はそれを望まなかった、決して全く望んでいなかった。
無職の旦那を持つのは嫌だと脅され、一緒に研究したいとお願いされ、自宅勤務で良いからと説得され、仕方がなく所属している。 彼は大金を手に入れたので、余生は遊んで暮らすつもりだったのだ。
「 まだ決まらないのね 」
「 みたいだな 」
ニュースは日本国政府の優柔不断を責め、不可解な行動に陰謀論を唱えていた。 言うだけならタダだ、表現は自由だ。 但し、それに伴う責任は取らなくちゃいけない。 当たり前のことだが、ユトリ世代は理解しているか怪しいところだ。 自由と、何をやっても許されるってのは違うのにだ。
庭いじりが終わって休憩中のジュンとヒロである。 改築された我が家は快適で、リビングには大小二つのモニターが設置してある。 その内の一台はヒロのゲーム用であり、当然の事としてもう一台より小さい。
ヒロはモニターが小さい事に文句を言う気はない、0より1が良いに決まっている。 文句を言って自分用のモニターが0になる可能性が、十分に大きい事を彼は理解している。
二人の生活は安定している、午前中は各々で研究や試作をして過ごす。 昼食後は庭いじりだ、夏の初めの季節なので水やりは機械任せになっている。 二人がやるのは雑草抜きや防虫作業だ、まれに収穫もするがまだ三週間だから量も種類も少ない。
初夏ではあるが、すでに外気温は30℃に届く日が在る。 外で作業した後は最低でもシャワーを浴びないと、ソファーに座る気にはなれない。 さっぱりした二人がリビングで寛いでいると、ホール通信の電子音が鳴った。
発信元はムーンベースのローズだった。
『 ブラックホールダイバー試作機じゃ! 』
ローズの声はしたのだが、画面はムーンベースのドッグの映像だった。
「 真ん丸ね 」
「 真ん丸だな 」
ブラックホールダイバーは球形をしていた、ジュンとヒロが設計したのだからそれは知っていた。 複数の空間安定化装置で、複数のフィールドの位相と距離をコントロールするには球形がベストだ。 ローズがそのまま採用するか、ジュンとヒロは自信がなかった。
『 これはこれで良いんじゃ! 試験開始は三日後だからな、それに間に合えば良いんじゃ! 』
試作機の表面は銀色に輝き突起物も窓も存在しない、各種のセンサーが在るから衛星に窓は必要ない。
「 それで、何処のブラックホールを目指すんだ? 」
『 いきなりブラックホールには行かん。 まずは太陽で試験してからじゃな! 』
「 太陽ね、初回の試験としては良いんじゃない? 」
ヒロもジュンもアイスコーヒーを飲んでいる。 二人とも平民だし、貴族の真似事をしてはしゃぎたいお年ごろでもない。 休憩と気分転換には、コーヒーか緑茶がベストなチョイスである。
太陽にしてもブラックホールにしても、今までの衛星で太刀打ち出来ない点では同じだ。 太陽は見た目に高温なのは明らかだが、ブラックホールの内部にも何らかの高エネルギーが在るはずだとローズは考えている。
全てを吸い込んでいるブラックホール内は、高エネルギーの空間であるはずだとローズは考えている。 ローズの理論ではそうなるハズなのだ、入ったエネルギーが何らかの道を通って出ていくと考えていない。
因果律から生み出された存在は因果律を壊せない、壊せたとしたら何のための因果律なのだ。 ローズの理論の根本はそこにある。 ブラックホールの中にも外にも因果の地平は存在しない、それが彼女の理論だ。
この世の全ては人類が未だに理解出来ない規則正しい何かで満ちている、そうあって欲しいと言うのが彼女の本音だ。
『 因果の地平には何かがある、何があっても不思議じゃない 』 なんてのは、物理じゃなくて宗教じゃろと周りに言っている。
『 試作機は衛星母船内に格納して水星近傍まで運ぶ予定じゃ。 その後は自立航法の試験をしながら太陽に接近させるんじゃ 』
「 それなら、引力推進器関とシールド装置の両方を試せるわね 」
『 その通りじゃ 』
ジュンとローズは試験の詳細スケジュールを話し合っている、ヒロはゲームをしている。 彼がゲームをしていても、彼の今日の勤務時間は終わったから問題は無い。
そう言えば大昔に、太陽の表面に着陸したと発表した国が在ったなとヒロは思い出す。 これまで人類の観測では、太陽には陸地も無いし水面もない。 無いところにはどうやっても着陸出来ないハズだ。
ひょっとして何かの作戦の暗号ではないのか、ボーっと考えながらゲームをするヒロだった。
三日後の水星近傍の宙域。
最新型タンカーのハッチから一基の衛星が姿を現す。 全体が銀色の衛星は、BD = ブラックホールダイバーと呼ばれている、その試作機だ。 BD試作機はタンカーのアームに押し出されて、後部ハッチからゆっくりと船外へと移動する。
『 BD試作機、エネルギー源を内部へ移行 』
『 試作機姿勢制御を開始、制御各軸問題無し 』
『 BD初号機、母船との接続を解除、タンカーからの離脱用意ヨシ 』
『 よし! 発進じゃ 』
声から判断するとローズだなとヒロは思った、ヒロの想像通り総指揮はローズが執っている。
モニターの映像はタンカーからの映像がメインで、ムーンベースのローズは小さく映っている。
『 アンカー解除 』
『 アームオフ 』
マニュピレーターのアームが開き衛星が自立して航行を始める、タンカーと同軌道を等速で水星を周回しているのでそうは見えない。 衛星を離したマニュピレーターがタンカーへと収納されていく。
『 タンカーのEシールド、Mシールド調整開始 」
『 BD試作機、Mシールド展開完了 』
母船が展開しているEシールドの内側で、母船とBDが共同で展開していたMシールドが2つに分かれる。 母船とBDがそれぞれの機関でMシールドを展開した。
『 独立した2つのシールドを近づけるとくっ付いて1つになる 』 と言った特性を利用した、発艦システムを考案したのはムーンベースのエンジニアである。
空間安定化装置は空間を安定化させる過程で、質量に対するシールドとして使用できることが判明した。
シールドを二重に展開することで、内側のシールドはエネルギーに対するシールドとして使用できることが判明した。
宇宙塵や小彗星はMシールドで受け止め、宇宙線や赤外線や紫外線などはEシールドで受け止める。 レーザーもEシールドで防御可能だ。
ビームはビームを構成する粒子に電荷が印加されているが、Mシールドで質量を受け止め、エネルギーをEシールドで受け止めて無効化出来る。 ビームは弾体が極めて小さい散弾銃と言って良い、弾が高エネルギーをまとってはいるが基本原理は散弾銃でしかない。
フェイザーは銃の実物が無いので不明だが、重力も空間も遮断できるのでたぶん防御可能だろう。
それぞれ異なった目標に対するシールドとして使用することから、それぞれをMシールド、Eシールドと呼称する事となった。 シールドをそう呼称するようになったのはローズの個人的な趣味である。
ジュンやヒロの趣味ではなくローズの趣味だ、単なる趣味だから意味は無い。
『 ・・・3・2・1 BD初号機、タンカーのシールド領域を離脱、独自シールドの展開を確認 』
二重のシールドを展開した試作機は、全てのエネルギーを遮断して姿が見えなくなった。 二層のシールドを張り終えたBD試作機は、スラスターを使って減速し徐々にタンカーから離れて行く。
月面基地に居る優秀な科学者たちは、複数のシールドを制御してシールドに窓を生成することに成功した。 スラスターの噴射や通信は、その窓を利用している。
既に引力推進器( 引力の密度を変更して推力に変える )が実用化されているのだが、制御プログラムが間に合わなかった。 メインの推力には引力推進器が用いられているが、ヨー、ピッチ、ロールの各軸制御は、今まで通りスラスターを使用している。
シールドを利用した、完全な引力推進器は初号機に搭載予定となっている。 ムーンベースのエンジニア達が絶賛作業中だ。 きっと連日、遅くまで長く楽しく仕事をしていることだろう。
『 初号機、太陽の周回軌道への偏移完了 』
『 データリンク正常。 試作機ステータスに問題無し 』
『 うむ! 』
モニターの中でローズが力強く頷いた、試験が順調に進んでいるのが嬉しいようだ。
『 それでじゃ。 オペレータE、あれは試作機で初号機ではないからの、そこは間違え無いように頼むぞ 』
『 ・・・了解しました 』
『 あくまでも試作機だからな 』
今度こそローズは満足したらしい、先ほどより嬉しそうに見える。
オペレータは困惑している。
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