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プランB 29



ヒロの実家は富士山の見える田舎に在る、もちろん日本だ。 大手鉄道会社の電車の本数が一時間に三本と言う、それも四両編成と言う紛れもない田舎だ。 その分、空気は綺麗だし騒音も少ない。


帰国したヒロとジュンはそこを自宅として生活をしていた、帰国して十日になる。

敷地が三倍になった自宅には研究室と資材置き場と部品庫が併設され、ヒロの希望で小さな畑も用意された。 小さな小さな畑だ。


「 ダメだ。 真っ赤になってるけど酸っぱい 」


「 何が悪かったのかしらね 」


「 水も肥料も調べた通りやったんだけどな~ 」


ヒロが畑で育てたトマトは酸味が強かった、トマトとしての味は濃かったが酸っぱかった。 甘さが売りの品種だと言うのに酸っぱいのだ。 青いうちに収穫して、店頭に並べられる時に赤くなっているスーパーで売っているトマトとは違い、トマトの味は濃かったのだが酸っぱいのだ。

農家直販品とは出来が違った。


「 もう一度、知り合いの農家に訊いてみる? 」


「 そうするよ 」


素人の付け焼刃と熟練したプロでは比較にならないな、ヒロは改めてそう思った。 プロが無意識でやっている当たり前のことが、実は重要な事だったりするのは良くあることだ。


何でもマニュアルを要求するユトリアンには理解できないだろうが、全てをマニュアル化することは難しいのだ。 それを用意しろと要求するのは簡単だけれども。



ヒロとジュンが所属する組織は、ヒロの実家が在る一ブロックと言うか一区画を丸ごと買い取った。

二人の安全のためと、周囲の安全のためだ。


ヒロの実家は諸々強化され、外観は多少新しくなっただけだが、ホール通信装置と専用の融合炉が設置された。 それによりヒロの自宅は緊急時には完全なスタンドアロン化が可能となった、飲み水は井戸を用意した。 地下水をろ過する装置も備えることになったが、大きな河川が複数ある田舎なので地下水は豊富なのだ。


「 なかなか上手くいかないな 」


トマトの残りを食べながらヒロがつぶやく、美味しいんだけどな~とボソッとつぶやいている。


「 鉢植えのプチトマトにしたら? 」


「 それも並行してやるよ 」


鉢植えならリビングでも育てられる、違う方法を試しておけば保険にもなる、ヒロはそう考えた。


「 専門家には敵わないな 」


ヒロが畑に植えたのはトマト、スイカ、大葉とミョウガだ。 地元では路地でも栽培でき、栽培は難しくないとされているモノだけだ。 素人のヒロが栽培しても一応は出来るのだから、事実として難しい訳ではない。 だが質の面で遠く及ばない、農家はプロなんだなとヒロは改めてそう思っていた。


ヒロが自身の農作業能力の無さを痛感したその日の夜、ローズからホール通信が入った。


『 出来たぞ! 』


「 出来たって何が? 」


画面一杯に広がるローズの笑顔に対して、ヒロの反応は薄かった。


『 ブラックホールダイバーの試作機じゃ! 』


「 もう潜るのか? ブラックホールに? 」


「 そうよ 」


答えたのは画面のローズではなくジュンだった。 ヒロ用のコーヒーも持ったジュンがやってきた、彼女もローズ寄りの人間で彼女の協力者だ。


『 これで私が正しいと証明できる! 』


「 そうなのか?」


ジュンとローズは会心の笑顔なのだが、ヒロは他人事だった。 ブラックホールの中身より、トマトの中身が気になるヒロだった。


―――――――――――――――――――――


夢の国からムーンベースへ戻ったローズはそのまま試作場へと移動した、考えついたらすぐ行動が彼女のモットーだ。 しかしローズは決して考え無しで行動しない、すぐ行動のスタートは熟考から始まるのだ。



明日ヤロウはバカ野郎などと言う者がいる。 何事にも良いタイミングってのがあるのに、とにかく動けば良いじゃんていう。 脳筋やお子ちゃまの発想だ。


脳筋やお子ちゃまは気が付かなのだろうが、仕事には必ず競争相手が存在する。 同業他社がそれにあたるが、競争に慣れていないユトリアンはその存在すら知らない場合が多い。

価格、納期、サービス、性能に品質、その他諸々で負けたら売れない、お金が入らない。 だからまず詳細な分析と考察が必要になる、動くのはその後だ。


学生だったら通用しても、社会人になったらそれは通用しない。 恥をかきたく無いなら口にしない方が良いだろう。 もっともそれを指摘する者は多くない、そういうヤツねって思われるだけだ。



ローズに与えられた環境は特別だ。 どんな物にも納期やリードタイムが在るのだが、スポンサーが彼女に提供している環境はそれを無視できる。


試作機の設計はムーンベースに送信済みで、製造は難しくなかったとローズは製造担当から報告を受けている。 基本設計をヒロとジュンが完了させていたからだ。


直ぐに試作出来るように、ジュンとヒロは既存の装置を組み合わせる形で試作機を設計した。 効率が悪くて大きいのだが納期と言う面では最短に出来る、ローズの性格を見越しての設計だ。


科学者の性格に合わせての設計になる、費用とか効果とかは考慮してはいるが優先順位は低い。 ヒロに言わせれば無駄の塊で納得できない設計ではあるが、お友達設計と言う事で彼の中では調整が済んでいる。 費用がどうなろうと、別に彼の懐は痛まないという点も大きい。


「 それでいつ飛ばせるのじゃ 」


「 あと五日あれば試験は完了します、しかし問題があります 」


試作機の前で製造担当者が彼女の質問に答える。 ローズの前には完成した試作機が在る、直径が五十mの球形である。


「 何が問題なんじゃ? 」


「 試作機の目的地は何処でしょう? 」


「 ・・・ 」


ローズはその答えを持っていない。 目的地が分からなければ飛ばせない、融合炉の容量もバッテリーの容量も決められない。 決まらないから完成しない、飛ばせない試作機は試作機のままだ。



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