物語とフラグ
神様がマブダチ
神であるエンジュと友人になってから二年と三か月が経過した。
ワシは元気です。
今日も今日とて朝の五時ごろ目覚めてスクワットやブレストレーニングに余念なく、日々体を鍛えておりますじゃ。
そんなワシが今何をしているかじゃが……。
「かあしゃま!ご本!ご本!」
痛くない程度に母様の足をペシペシ叩きながら本の朗読を催促しておった。
現在は朝の九時半頃、朝食の後片づけを終えて洗濯の用意をしてる母様の足に縋り付いてペシペシ。
三歳の誕生日の際にエンジュが「思いのほか我が儘にふるまうのですね…」と意外そうにしておったが当然計算ずくである。
「ごめんね、レイ君?母様まだやることがあるからもうちょっと待ってて?」
申し訳なさそうに謝る母様に罪悪感を感じつつもそこは慣れたものじゃ。
「むぅぅぅ!わかったでしゅ!僕いい子にしてるでしゅ!」と返し、母様から離れる。
離れながらもソワソワした様子を演出しつつ、チラチラと母様に「まだかな?まだかな?」と視線を送ることを忘れない。
「…水よ!逆巻け!」
母様が魔法を唱えると、洗濯物の入った桶に水が満ち、高速の水流が巻き起こり洗濯が始まる。
当然衝立などを用意していないので桶から水が溢れ出し、周辺を徐々に水浸しにしていく。
「レイ君待たせてごめんねー?さあ!この間の続きからですよー?」
母様が何事も無いかのように満面の笑顔で本棚から本を抜き出してこちらへと歩み寄ってくる。
……、済まぬ母様、後片付けは手伝うから許してほしいのじゃ。
母様が抜き出した本は比較的子供にも受けのいい勇者物の英雄譚である。
この世界ではまだまだ書物は高価な物のようで、児童書や絵本のような子供向けの書物は存在せぬらしく、内容は子供にとって少し難しいものが多い。
まあその方がワシにとっては好都合じゃが。
食卓の椅子に座ると駆け寄って来たワシを膝の上に座らせ、目の前に本を広げる母様。
「えーと、前はどこで終わったかしらね…?」
「ゆうちゃ!森ぬけちゃ!」
「そうそう、よく覚えていたわね、レイ君賢いわ!」
「えへへ」
頭を撫でてくれる母様に笑顔で答える。
「えーと、そうそうここからね、『四天王最後の一角である魔熊のゴウエンを下した勇者サイロンは、惑いの森を抜け、旅の最後の休息をとっていた』」
うむ、ゴウエンとの死闘の描写はかなり血沸き、肉躍ったものじゃったが、最後はサイロンの起死回生の必殺技で見事決着したところじゃった!母様も切りどころを分かったおるわ!
「『明日、魔王の根城たる魔王城へ向かう事となるメンバーたちは、自らの思いを吐露していく。」』
うむ、最終回前の熱いヤツじゃの。
「『戦士であるゴンゾウは恥ずかし気に呟いた、「俺さ、この戦いに勝ったら…、幼馴染と結婚する約束してるんだよ……」』
ゴンゾウ……!何故!?何故今そのセリフを……!?あかんヤツじゃから!それフラグじゃから!
ま……まぁ、これがフラグなのはワシの前世での話じゃしな?この世界では別に…、のう?
#####
「『魔王サイゴンの右手から地獄の業火が湧きだす!サイロンはその光景を目にし、自分はここで終わるのかと考えた、その時!ゴンゾウが勇者の前に踊りだす!』」
ゴ…ゴンゾウォォォォ!
「『勇者を身を挺して庇ったゴンゾウに駆け寄る勇者!息も絶え絶えながら勇者に微笑むゴンゾウ!「なんて顔してやがる…、俺は世界を、未来を守ったんだ、良くやったと褒めてくれるところだぜ?」』
ゴンゾウ……!ゴンゾウォォォォ!
「『この世界を……、未来を……、ミユキを……、頼んだぜ……、サイ…ロ…ン……』」
ゴンゾウォォォォ!
「『腕の中で息絶えたゴンゾウの死に顔は、実に穏やかであった。自分はやるべきことはやった、ならば仲間たちが求める結果を出してくれると、だからこそ、サイロンは奮い立った』」
サイロン!
#####
「『そしてサイロンは腕の中にミユキ抱き、友の墓前に誓うのだった。「俺が…お前の分も、ミユキを幸せにして見せる!』」
「糞」(ボソッ)
「あら?レイ君何か言ったかしら?」
「何も言ってないでしゅ!とっても面白かったでしゅ!」
危ないところじゃった、つい本音の感想が口に出てしまったようじゃ。
こういう成分が含まれた物語はワシあんまり受け付けないんじゃよなぁ。
それにしてもじゃが……。
「かあしゃま!ゴンゾーとかミユキって珍しい名前でしゅね?」
この村でも父様の知り合いでも、基本は洋風の名前が多いが、この物語ではそれなりに和風の名前が登場しておった。
「母様もお話や噂でしか聞いたことが無いんだけど、ここよりずーっとあちら側で、海っていう大きな水たまりの向こうにヒノモって国があるんですって、そこの人たちはそんな名前が普通らしいわ」
と母様が西側を指さして教えてくれた。
「ヒノモ!僕行ってみたいでしゅ!」
名前の響きやら島国であるやらで、前世の日本と似たところがあるのではと、かなり本気で行ってみたいのう。
しかし、母様は少し困った様子で。
「うーん、ヒノモに行くのは難しいかなぁ…、海に出る前に帝国っていうとっても怖い国を通らなくちゃいけないから」
「帝国?怖いんでしゅか?」
「そうよー、レイ君が行ったら捕まって食べられてしまうかも」
「怖いでしゅ!じゃあ辞めるでしゅ!」
「偉いわね、レイ君、いい子いい子」
頭を撫でてくれる母様に「えへへ」と対応しながら、帝国というものについて考える。
確かワシらが今いるのは王国であると父様が言っていた。
という事は王国と帝国は戦争状態にある、もしくは冷戦か停戦状態という事じゃろうか?そのあたりは今までの物語などでも聞いた覚えがないため、判断を下すには情報が少なすぎるの。
書物からはその国に住む人々の考えや文化、歴史などが色濃く記載されていることが多い。
ゆえに歴史書などでなくとも、物語の中での生活水準から実際の暮らしの水準、文化レベルなどが想像できるのである。
「かあしゃま!もっかい!もっかい読んで欲しいでしゅ!」
「うーん、困ったわねぇ…、流石に母様もそろそろお家の事をしないとダメなのよ」
「じゃあ僕一人で読んでるでしゅ!かして!かして!」
「うふふ、レイ君は本当に本が好きなのねぇ、それじゃあいつもの約束よ?破ったり汚したりしたらダメですからね?」
一旦本を机に置くと膝の上からワシを下ろし、先ほどまで読んでいた本をワシに渡してくれる。
「やくそくでしゅ!だいじにするでしゅ!」
母様から大事に本を受け取ると、ワシ専用の椅子に座って本を広げる。
「うふふ」
キラキラと輝いた目で本を眺めている様に見えるじゃろうワシを置いて、母様は家の仕事に戻って行った。
えーと、これが恐らく魔王城じゃな、それでここがサイゴン、恐らくこの文字がサを表しておるのじゃな。
母様から本を受け取った後はいつも通り、言語と文字の関係性の解明に取り掛かる。
識字能力。
現代日本では義務教育以前に両親からある程度教え込まれるこの能力は、持っているといないとで生涯に大きな差が生まれる。
文字が読めなければ書面での契約の際、相手側の意図を理解できぬまま契約させられ、自分が意図していない内容を無理やり飲まされるケースまであるという事じゃ。
まあそこまで深刻な事態は現状起こらんじゃろうが、この世界の情勢を理解するには早いうちに得ておいた方がいいじゃろうしな。
こうしてワシはせっせと言語解読と理解にいそしむのじゃった。
二歳の誕生日、エンジュとの再会
「お、呼ばれおったか」
「あ、レイ一年ぶりー!」
「え?」
「ちょっと見て見てー?これこの間行ったカフェで取ったインスタなんだけどー?すっごいバズっちゃてー?もうあーし神扱い的なー?」
「……」
「もうほんと皆あーしのセンスにメロメロ?的な?完璧に時代作るインフルエンサーみたいな?それで次にカフェ行く予定あるんだけどー?レイも一緒にてk…」
「エンジュ」
「はい」
「……無理はしなくていいんじゃぞ?」
「わかりました、一度突き抜けてみれば何か見えるかと思ったのですが」
「何か見えたかの?」
「私には無理です」
↑のエンジュさん、全部真顔です。




