神(自称)との対話
前回
目が覚めたと思ったら神(自称)がいた。
目の前で鎮座する神を名乗る女性はこちらの反応を伺っているようであり、姿勢を崩さない。
……勝ったな。
「ああ」
え、何この神(自称)、フランクすぎるんじゃけど。
「神と言ってもそこまで大した存在ではありませんので、あなた方が定義するような力は有していますが、例外を除けば使用は許可されていない以上はいてもいなくても同じ程度の存在です」
先ほどのやり取りと、こちらの反応に満足したのか姿勢を崩し普通に座る。
「色々と聞きたいことはおありだと思いますが、まずは体を形成してください。思考を全て読まれるのはあまり気持ちよくはないでしょう」
言われてみれば言葉を発していないのに会話が成立しておるな。
というか言われるまで気づかなかったが体ないしの、意識だけ浮遊しているような感覚というか、言ってみればわし、今幽霊みたいなものかの。
体を形成?どうすればいいんじゃ?
「自身の体を強くイメージしてください。あとはこちらで補助いたしますので」
イメージか、えーとここがああで、あそこはこうじゃったかな?
「……なるほど」
言われた通り強くイメージするとぼんやり自分はここにいると思っていたあたりに輪郭が現れ、徐々に像を結んでいく。
肉体の形成が終わるころには、空中に浮かぶ可愛らしい赤子の姿がそこにあった。
「あー、あー、うむ、この姿でも一応しゃべれるのじゃな、声が昔のままじゃと少し違和感を感じるが、まあ今の時点で話したことがないので自分の声が分らん以上は仕方がないのう」
ぷかぷかと浮いているのは仕様なのか彼女のサービスなのかは分らんが、とりあえずこれで会話するのに問題はあるまい。
「ところで先ほどの『なるほど』、とはどういう意味でしたのじゃろ?」
「通常今世であなた程度の年齢なら、今世ではなく前世のイメージで形成されることが多い、というかほとんどの方が前世のイメージで形成されると聞いていたので。そこで今世の姿を思い描くところがあなたらしいと思いまして」
「ふむ、まあ確かにイメージはしやすいじゃろうが、前世の体は役割を終えておりますので、今世を生きるとなったからにはワシの体はこれ一つですじゃ」
しかし形成するので、ではなくすると聞いていたので、とはのう。
彼女が転生を行ったのは初めて、という事じゃろうか?
「それで、今回お目通りを許してくださったのはどういった理由ですじゃろう、エンジュ様」
「敬語も敬称も結構ですよ、塩川さん。いえ、レイさんとお呼びした方がこの場合あなたは好ましいのでしょうね」
座ったままだった彼女が立ち上がりこちらに歩いてくる。
座ったままでは全身が見えなかったが、彼女は黒のジャケットにワイシャツネクタイ、下はタイトスカートにストッキング、黒のハイヒールといったやり手OLのようなスーツスタイルじゃった。
髪は黒というよりも紺に近い色合いで肩程まで伸ばし、ポニーテールでまとめ、前髪は左右に分けておる。
眼鏡は品が良く、丸い白縁で目が大きく見える程度の大きさじゃった。
年のころは若く見え、二十代前半程度に見えるが実際はもっと若く……いや、神であるなら見た目で年齢は分らんか。
母様の例もあるしのう。
第一印象は『THEできる女』な彼女はワシの目の前までやってくると右手を差し出してきた。
「改めまして、よろしくお願いします」
「えーと、よろしくお願いしますじゃ」
請われるままにぷにぷにの右手を差し出すとそっと握ってくるエンジュさん。そのまま数度上下させて握手完了じゃ。
「……一つお願いしてもいいでしょうか?」
「……なんじゃろうか?」
「抱っこさせてもらってもいいですか?」
「……少しだけなら」
なんじゃろう、出会ってから一番圧力を感じた気がするんじゃが。
恐る恐るワシの体に触れると胸元に抱き寄せるエンジュさん。
ほぼ無表情じゃったが気持ち口角が上がったようにも見えるの。
「……まだですかの?」
「もう少し……、いえ、話が進みませんね。申し訳ありません、ありがとうございました」
名残惜しそうにワシの体を放すと、再びぷかぷかと浮き始めたワシと向かいあう。
「では改めまして、今回お呼びしたのは本来転生前にお会いして色々とお伝えするのが通例でしたが、生憎今回はあなたの転生のために少々私が立て込んでいましたので、今回時間を設けさせていただいた次第です」
「えーと、エンジュさん、ワシにも敬語は不要ですじゃ」
「申し訳ありません、ずっとこういった口調で話してきたため他の話し方には慣れておらず、このまま話すことをお許しください」
お許しくださいと言ってものう、自称とは言え神様に敬語使われるとなるとどうも落ち着かんのじゃが。
しかしそう言う彼女が少し困ったような表情を浮かべていることから事実なのじゃろう。
「そういう事でしたらどうぞ、そのままで。無理をされる必要ないからの」
「ありがとうございます。話を戻しますが、お気づきかと思いますがあなたは私の手で今世への転生を果たしました」
うむ、神(自称)が出てきた時点でそこは想像がついておるの。
「私から様々なことをお話しする形でもよろしいのですが、すでに転生を果たされて一年を過ごされたレイさんならば聞きたいことが多数おありかと思います。ですので質疑応答の形を取ろうと思っていますがいかがでしょうか?」
「ふむ、なるほど。確かにその方がワシにとってはありがたいですの。その方向でお願いしますじゃ」
「わかりました。内容次第ではお答えできないこともありますが、それではまずはどのような事から?」
質問を促すエンジュさん、このような機会があるならと、最初から聞くことは決まっておった。
「この体には、本来の持ち主がおるのじゃろうか?」
転生。
前世の記憶を引き継いだまま、別の人間として生まれ変わる。
ただその体は本当にワシの物なのじゃろうか?
別の人間の体に無理に押し入り、その体を奪った結果ではないのか。
もしそうであるならばそれは許されざることじゃ。
質問を聞いたエンジュさんは、小さくクスリと笑みをこぼした。
「何か可笑しかったじゃろうか?」
「いえ、気を悪くされたなら許してください、どこかでそのようなことを聞かれるとは思っていましたが、最初に聞かれるとは……、手間をかけた甲斐がありました」
謝罪するように小さく会釈する様子から、こちらの質問に悪意をもって答えたようには見えない。
「ご安心ください、その体は紛れもなくあなただけのものです。その体は本来産まれるはずのなかったものですから」
「死産……、もしくは流産、かの?」
「いえ、その場合でも肉体に魂は一度宿りますので、レイさんはその場合でも体をその魂に返してあげて欲しいと言いかねませんので」
あー、思考を読まれておったか、まあ流石に死産や流産で生まれてこなかった魂に返しておったかは…、うむ、言ってたかもしれんの。
「死産でも流産でもなく産まれるはずのなかった体?どういうことじゃろう?」
「簡単です。あなたのご両親がいたしているところで本来到達することのなかったオタマジャクシを卵にこう……」
「わかりました、もういいですじゃ」
妙齢の女子が何という事をいいだすんじゃ!
「まあそういう事ですので、貴方の転生は誰にはばかるものでもないという事です。ご安心ください」
「はぁ…わかったのじゃ、それでは次の質問じゃがワシはこの世界で何をすればいいんじゃ?」
異世界転生でありがちなのが何か目的を持って転生させることじゃ。
そりゃ当然神とて慈善事業じゃなかろう、世界を救って欲しいじゃの、その世界にいるだけでリソース的な力が流れたり発生したりじゃったり何かしらの目的があると考えるのが自然じゃ。
只より高い物はないのじゃ。
「いえ、特に何も。しいて言うならばですがこの世界を存分に楽しんでいただければ幸いです」
「いるだけで世界が活性化するとかそういう事じゃろうか?」
「いえ、そういったことも特に」
あれー?本当に慈善事業じゃったのかの?いやいや、まだ安心するのは早いのじゃ。
お約束やテンプレ的には神は神でも邪神というパターンもあったはずじゃ。
転生させた人間や偶然転生してきた人間の苦しむ姿を愉悦の笑みで眺めるような存在なのかもしれん。
「……なにやら失礼なことを考えられている気がするのですが、レイさんを転生させたことで私にはちゃんとメリットはありますので」
クイっと直す眼鏡はハイライトがかって瞳が見えんが、恐らくジト目を向けられているのじゃろう。
思考が読まれずとも何を考えていたかはバレバレだったようじゃ……。
「ごほん、そのメリットが気になるんじゃが質問を続けさせていただくの、なぜワシを転生させたか、じゃな」
咳払いしつつ次の質問をするが、彼女が右手を挙げて静止てくる。
「その質問に答える前に、というより、その質問に答えるために神とはどういう存在であるか説明させていただいてよろしいでしょうか?」
「それが質問の答えになるというのでしたら」
ありがとうございますと答えると彼女は掌をワシに向けると、体の下にベビーチェアーが現れ浮いていた体がそこに収まる。
最初は楽しかったがずっとふよふよ浮いていると落ち着かなくなっていたためありがたい。
エンジュさんの方は先ほどの机に戻るかと思いきや、ワシのすぐ近くに趣味のよさそうなアンティークの椅子を出現させ、そこに腰を落ち着ける。
「まず、神という存在がどういうものであるとレイさんはお考えでしょうか?」
「万能にして全知、世界を見守り、驕った存在に天罰を下すと前世ではされておったの」
神は人を救わない、ただ見守り許す存在である、などと宗教などでは謳われておったな。
「概ねその通り、と言えますね。では驕った存在とはどういったものが当てはまるとお考えですか?」
「んー、難しいの。神話などでは増え過ぎた人類を滅ぼすために世界規模の洪水をおこしたり、神に並ぼうとするほどの巨塔を築こうとした際落雷で破壊し、言語を乱したなどと言われておったが」
全て史実ではなく神話や伝承の類であるため、実際に起こったかどうかは定かではない。
「そこなのです、後者の話はある意味では当てはまるかもしれませんが、巨塔を作った程度で神は動きません」
ある意味では当てはまるんじゃな、では当てはまった内容は。
「神に並び立つ、神が有する力を知的生命体が保有しようとした時のみ、神は動くことを許されています」
「許されている、というと力の行使を制限する存在が神の上に存在しておる、という事かの」
先ほどから彼女の口から語られる内容から想像できるに、自身が最高権限を持つものでなく、上位存在がいることを仄めかしている。
「ええ、あなた方の定義では創造神、と言えば伝わりやすいでしょうか」
「ふむ、感覚で言わせてもらうのじゃがエンジュさんの言う神が天使であり、創造神こそが神という認識でいいんじゃろうか?」
「そうですね、ただこの世界だけにおいてならば私は神と定義していいかと」
神という言葉のバーゲンセールすぎてどうもゲシュタルト崩壊を起こしそうじゃが、まあそういう場面なんじゃろう。
「神が有する力は大きく分けて三つです。一つは無から有を作り出すこと」
万物創造という事かの。
「無から有を、という事じゃが魔法は当てはまらないのかの?」
「魔法は魔力というエネルギーを変換して事象を起こしているので、厳密には無から有をとはならないのです。完全なる無から有の力は何物も代償にせず行われることを指します」
なるほど、それが行われるならばまさに神の所業と言えるじゃろうの。
「二つ目は時間操作。停止、逆行、未来への移動などを自分の意志で自由に行使できることです」
これも納得できるの、そんな事が出来れば世界を自分の思うまま書き換えることが可能となるじゃろう。
「最後に自由意志での異世界渡航です。これが出来るならば各神が管理する世界を滅茶苦茶にされてしまいますので」
「召喚や転生は含まれないのかの?」
「異世界への転生は神でなければ行うことはできません、出来たとしても同一世界での転生ですね。そちらに関しては特に咎めていませんし、偶然自然に起きることもありますので」
なるほど、三つとも大いに納得できる内容じゃった。
しかし……。
「……一つ聞きたいんじゃが」
「質問の内容はある程度想像できますが、どうぞ」
「それって、神様動くことあるんじゃろうか?」
エンジュの顔から表情が消えた。いや、最初からほぼ無表情なんじゃがよりそう見えた。
「お答えします、お伝えした内容でしか神は動きません、つまり……、神とは凄く暇なのです」
うわぁ……。まあ確かに今聞いた内容じゃとほとんど動くことは、いや、動けることはないじゃろう。
前世にしてもそのレベルの技術を得るには何千年かかるか想像もできん位じゃし。
というか三つの内どれか一つでもクリアできるならば、ほぼ間違いなくエネルギー問題や物資問題を解決できる手段となるため、いつか手を出しそうな物ではあるが実現できるかはまた別の話である。
「神の仕事の内容を分かりやすく説明するならばですが、オートモードのシ〇シティを延々眺め続けるだけといえば伝わるでしょうか……」
もうそれ罰ゲームどころか単なる罰じゃろ。どうせ目を放したり寝たりすることも許されんじゃろうし。
「えっと、ではエンジュさんはこの世界で、えーと…まあ、千年、二千年それを行ってきた…という事じゃろうか?」
「いえ、この世界はつい最近創造神によって作られ、私が派遣されてきましたので、始まったばかりですね」
ん?この世界がつい最近できた?
「この世界は、今の状態、歴史や文化というものが存在していたという形式で生み出されたのです」
「……それはつまり、この世界の今までは仮初のものじゃった、ということかの?」
抑えきれなかった怒気が声に漏れてしまったが、半ば隠す気もないので問題ない。
「いえ、それは誤解です。なんと申しますか…そうですね、完全に無から想像された世界がこの時間軸まではずっと早送りで進行してきたとお考え下さい。そして担当の神が派遣されてきたことによって通常の進行に落ち着いた、という事です」
「ふむ、すまぬ、早とちりしてしまったようじゃ」
「いえ、私も少し誤解を招く言い方をしてしまいました」
お互いに会釈をもって謝罪とした。
「して?神が暇であるという事は分かったのじゃが」
「それがどうしてレイさんを転生させたか、ですね。言い方は悪く聞こえるでしょうが神の唯一の暇つぶしなのです」
暇つぶし、と来たか。
「担当を初めて最初からオートシ〇シティでは流石に、と言う創造神の配慮ですね。赴任直後の一度だけ、他の世界から一人だけ、自分で選んだ人間を転生させることを許されているのです」
その後数千年、いや、数万年はオートシ〇シティならば焼け石に水どころではないと思うのじゃが……。
「経緯は分かったんじゃが、結局何故その一人にワシが選ばれたのじゃ?」
そう問うとエンジュさんは居住まいを正し、気持ち緊張した様に見える。
「失礼ながら、レイさんの前世を事細かに見させていただきました」
んー、まあ選ばれたという事はそれに近い事はしてるじゃろうと思っとったが。
「あなたの一生を見させていただき、私はあなたの生涯に尊敬の念を覚えたのです」
えー!?ワシ神様に尊敬されるような高尚な人生送った覚えがないんじゃが!?
「自分の信念を持ち、決して曲がらず、それを生涯貫かれました。そして、それを加速させたのがあなたの晩生の生き方でした」
え?晩生の生き方とじゃと……。
「今まで一切かかわることのなかった物事を趣味とし、受け入れられた事です」
悲報、ワシ氏、神様に尊敬された理由がオタク趣味じゃった。
「固い信念を持つだけの人間ならば他にもいました。しかしレイさんは柔軟な思考もお持ちであり、貴方と同世代の人間が毛嫌いする傾向が強い趣味を受け止め、自身の血肉にされました」
あー…確かに、最近の若い者はあんなもので遊ぶから、あんなものを読むからという連中は大勢おったのう。
遊ぼうと読もうといい人間には育つし、遊ばず読まずとも悪い人間に育つものは育つというに。
銃を持って害獣を撃つか人間を撃つかの違いでしかないんじゃがなぁ。
「強固な意志を持ちつつも決して意固地にならず、他者の感性に関心を払い、受け入れる。その人間性に…、その、憧憬を覚えてしまいまして…」
話しながら俯き、表情が見え辛くなったが、視界に入る首筋は若干紅潮しているようじゃった。
エモい。
「それで…、ですね…、私があなたを転生させた理由なんですが…」
恥ずかしそうに上目遣いでこちらを眺めてくる神様。
エモい。
「私と…友達になっていただきたいのです」
……。
「友達……ですかの?」
「はい、友達、友人、ツレ、ダチ、親友、マブダチなどと呼称される関係性です」
言い切ったため羞恥が薄れたのか、先ほどまでと同様の無表情にもどり淡々と告げてくるエンジュさん。
エモかったんじゃがなぁ……。
「えーっとじゃな、確かに友人をツレと呼称する地域もあるようじゃが、その地域でも異性をツレと呼ぶ場合連れ合いというパートナーという意味になってしまうんじゃが」
「そうでしたか、ではツレではありませんね」
困惑のあまりどうでも良い点を指摘してしまう。
「うーむ、しかし言うてもそうそう会えるものではないのではないかの?」
「転生させた人間とは神の意志で一年に一度だけ、この空間に招くことが許されています」
それが転生者の誕生日、という訳ですと付け足してきた。
なるほど、それで今回も誕生日になったとたん呼び出されたという訳かの。
「その時だけでもお話ししていただけると嬉しいのですが…。ダメでしょうか?」
あざとい、この神様超あざとい、捨てられた子犬みたいな目で見られたら否も応もない。
しかもその表情で見てくるのが美少女である。
「ハァ…、一つだけ条件があるが、いいかの?」
「なんでしょうか?」
キリッ!と聞こえてきそうな様子でハイライトの消えた眼鏡を直すエンジュ、なんじゃろうこれ?さっきから演出でやってるんじゃろうか?
「少しずつでいいんじゃ、敬語を柔らかくしていって、将来的には気安くしゃべるようになる努力をしてほしいんじゃ」
「……レイさん」
スッと立ち上がると再びワシに右手を差し出すエンジュ。
「ありがとうございます。努力してみます。これから…よろしくお願いします」
ワシの回答も、当然決まっておる。
もう一度ぷにぷにの手を差し出し返す。
「うむ、よろしくの、エンジュ」
ワシの手を優しく握るエンジュ、異世界に来て初めての友達は、新たな生を与えてくれた神様じゃった。
「レイさん」
「レイ、と呼び捨てで頼むの、友達なんじゃから」
「はい、レイ」
「うむ、なんじゃ?」
「……抱っこしていいですか?」
「……今回だけじゃぞ?」
「……友達……」グッ。




