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初めてのトレーニング

今回が第1話となります。

転生した爺さんが異世界で最初に行うことは……。

ワシの名は塩川剛一、名前はまだない。


……


享年82歳にして生後3日目じゃ。


……


あ、ありのまま起こった事を話すぞい……。


ワシは死んだと思ったら産まれていた……。


何を言っているか分らんかもしれんが、ワシも何が起こったのか分らんかった……。


催眠術だとか超スピードなんてちゃちなものではない、もっとファンタジーなものの片鱗を味わったのじゃ……。


……うむ、まあ脳内茶番はこのくらいにしてじゃ。


あまりに暇すぎるのでしょうもない事を考えておったが改めて自身が置かれている状況を整理しようではないか。


そう考えて四肢に力を入れるがやはりいまいちうまく力が入らない。


寝転んでいる状態なので視界は天井以外捉えていない。


ならばとばかりに首を動かそうとするが全然動かない、まあまだ首が座っておらんからのう……。


結論、3日前から一切状況は変わらず自発的な活動は寝る、排便、催促のために泣くの3つしかできないという事じゃな。


産まれ落ちてからすぐに泣き止むと電池が切れるように眠りにつき、意識が回復してからずっと確認していることじゃが、やはり生後3日じゃと早々に変化は起きないようじゃな。


思わず赤ん坊らしくないため息をつくが、今のところ部屋には誰もいないことは気配で確認済みじゃ。


今日の朝までは母親も産後すぐだったので一緒に横になっておったが、今日の朝から体を起こして動き出し、ワシはベビーベッドのような柵付きのベッドに移されて一人眠らされている。


自分で回りを確認することができないため、抱き上げられる時に固定された状態で視界の端々に映るものからしか状況が確認できていないが、ワシの家と思われるここは木造のそこまで大きくない一軒家のように思えた。


まあまだこの部屋から出たこともないので、どの程度の大きさとか全然分らんがの、そもそも赤ん坊の視点じゃと大きさの比較も難しいわけじゃし……。


赤ん坊……、そう今のワシは赤ん坊なのである。


現代日本の地方のアパートでひっそりと息を引き取ったと思ったら、少なくと日本でも、ワシが知っているどの言語圏にも属さない地域で赤ん坊として産まれておった。


最初は夢かと思ったが、どうも3日間体感した限りじゃと現実としか思えんし、しかも母親がのぅ……。


考えていたところで扉の向こうから人がやってくる気配がし、扉が開く音がする。


足音や気配から母様かのう。


するとベビーベッドをのぞき込むようにして母様が顔を出した、金髪碧眼の美女、そしてワシの常識からは考えられないほどに上に長い耳である。


地球にもアフリカ圏だかの一部族に耳が長い人々はいる、じゃがその部族は元々耳が長いわけではなく後天的に伸ばしているはずじゃった。


そしてそのような人々も耳たぶをいじって長くしているだけであり、上に耳を伸ばせるということは人体的にはほぼ不可能だったように記憶しておるのじゃが……。


ワシを見下ろしながら笑顔で手を振ってくる母様の耳はどう見ても不自然にいじった形跡もなく、健康的な耳であるように思える。


そしてその母様の瞳をじっと見つめることで、瞳に映ったワシの姿をうっすらと確認すると……。


うむ、やはりワシの耳も母様ほどではないが、長いの、上に。


この事も3日間ずっと確認してきた内容じゃったが、やはり間違いは無いようじゃ。


笑顔で手を振ってくる母様に応えるように、精一杯笑顔らしきものを表情に浮かべながらできる限り手を動かす。


どうやら朝別れてから体感で3時間ほど経過しているので様子を見に来たようじゃな、気配は近くにあったので簡単な家事を済ませながら、泣き声がすればすぐに飛んでくるつもりだったのじゃろう。


ワシ自身に子供がいなかったので詳しくは分らんが、ワシはあまり泣かない子供の方なんじゃろうな、まあ多少は我慢が聞くわけじゃし。


産まれてすぐ泣き喚いた事からわかっておったが、異世界転生した赤ん坊は全く泣かないとか無理なもんじゃなぁ……。だってなく以外に意思表示のしようがないんじゃし。


腹が減っても排泄しても自分の手で対処できず、放っておくと生死にかかわる以上積極的に泣いていかないと簡単に死んでしまう。


そう、異世界転生、というやつじゃよな、どう考えてもコレ……。


満面の笑顔を浮かべてワシを抱き上げながら、お尻のあたりを確認する母様の視界に入らないタイミングで遠い目をするワシ。


知らないだけかもしれんが聞いたこともないような言語、これも知らないだけかもしれんがファンタジー世界でしか登場しないほど耳の長い、エルフとしか形容ができない女性、そしてその人物が母親である。


言語も人種もワシが知らないだけだとしても……。少なくとも転生しとることは間違いがなさそうなじゃのう……。


ニコニコ笑顔のままお尻の様子を確認し終えると、少し小首をかしげながらワシが後ろ向きになるように抱きなおす。


これから何をされるか、昨日の時点で体験しておるワシはさらに遠い目をする。


母様の顔が自分のお尻に押し当てられ……。「クンクン」


これである、精神年齢82歳の中身爺が見目麗しい女性にお尻に顔をうずめられて匂いを嗅がれる。


これが実際の82歳の体で行われていたと思うと羞恥で卒倒していたじゃろう、実際昨日したしの。


少なくとも今回は問題ない事を確認した母様は優しい手つきでワシの頭を撫でる、なんとか遠い目から帰ってきていたワシは、しかし次に母様がとる行動を前に心の準備に大忙しじゃった。


そう、授乳である。


赤ん坊であるワシにとっては生きていくための生命線であり、体を作っていくうえで抗体など作っていく下地となる非常に重要な行為である。


しかし、しかしじゃ、ワシは生後3日ではあるが中身は82歳の爺である。


82歳の爺が見目麗しい女性の胸に顔を埋めて母乳をすするのである、完全に事案発生じゃろう……。


とはいえ、この行為は生きていく上で逃れることのできないものである。


片手でワシを抱きかかえながら、服をはだけていいく母様を見て、この3日間で固めてきた決意を再度総動員していった。


#####


授乳が終わり背中を叩かれてげっぷを出してもらうと母様はワシをベビーベッドに寝かせなおし、部屋を出ていった。


空腹が満たされたため若干の眠気が出てくるが、状況を確認しなおすためにあえて無視する。


まあやはり、転生とやらをしているという事実は間違いなさそうじゃの。


大前提の確認事項ではあるが、現在分かっている限りの情報ではそう結論を出さざるを得んの。


そしてこれの可能性が高いという段階じゃが、この世界は異世界である、ということじゃの。


母様の耳の件もあるがそれ以外にもそう思える要素は確信できるものではないが存在する。


一つは体感時間と日照時間の差異である。


一応この部屋にも窓はあるようであり、そこから日が出ている間は太陽光が差し込んできている。


赤ん坊の状態であり、一日の大半を睡眠に充てているため、体感時間が正確であるかどうかは大いに疑問ではあるが、どう考えたところで前世よりも日照時間が長いのである。


ワシの生活サイクルの体感時間が狂っていなければじゃが、恐らく28~30時間くらいじゃないかの、1日。


多少の誤差は生じるが、1日の内日照時間というのは日の出から日没まで、大体の時間が1日の半分となる。それがワシの体感じゃと14~15時間と考えるとその程度が妥当と言えるじゃろうな。


とにかく、今のワシにできることは寝る、食べる、もらす、考える、情報を収集するという事だけじゃの。


自分にできることを改めて考えるも見事に受動的にならざるを得ない事実に苦笑いが出てくる。


せめてハイハイでも出来るようにならねば碌に情報収集もできんの……。まあ今のままじゃと暇じゃし……体力向上のためにトレーニングでも始めるかの……。


そう考えるとワシは非常に地味にして、生後3日から死にかけの老人まで行えるお手軽なトレーニングを開始する。


「スー……。フー……。スー……。フー……。」


自立呼吸が出来るものならば誰でもできるというトレーニング、そう、ブレストレーニングである。


今回は一般的な知名度も高い腹式呼吸を行う、同時に息を吐きだす時に全身に力を入れる。


空手のサンチン立ちで行う身体操作法をゆっくりと行っている状態である、これならば寝た状態でも少しずつは体が鍛えられるはずじゃ。


今まで考えること以外できることがなかったため、その日は睡魔に負けるまでずっとトレーニングを行っておった。


はい、塩川さんの行動、思考パターンはこんな感じです。

彼は今後も実年齢と精神年齢のギャップに頭を抱えながら折り合いをつけていくことになります。

作風としてはこんな感じとなりますのでゆっくりと楽しんでいただけると幸いです。

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