3-5
それからはミアもテオが完食するまで何も言わずにじっと眺めていた。
シメの雑炊もスープも全てを綺麗に平らげたテオは膨れた腹を撫でながら椅子の背にもたれる。
「あー、食った食った。ご馳走様でした!もう食えねー」
「お粗末様」
最後まで見届けたミアは柔らかい表情で答えると片付けを始めようと食器を重ね出す。
「そうだ」
食器を重ねる手を止めミアが呟いた。テオは視線だけを向けミアが何を話すのか待つことにした。
「テオ、私の魔力喰らうか?」
突然の申し出にテオは一瞬思考を凍りつかせた。それから1テンポ遅れて驚きが言葉になる。
「はあ?」
「いや、だから私の魔力を喰らわないか?」
「何でそうなるんだよ?」
今テオは食事を終えたばかりなのである。その状況でなぜ魔力を喰らう話になるのか、テオには理解が出来なかった。
「ミア、お前魔力をデザートか何かだと思ってんのか?だとしても満腹で今は要らねえぞ」
テオの発言にミアは呆れた表情を浮かべ冷ややかな視線で答える。
「あなたこそ消化に血液を使いすぎて脳の回転が悪くなっているのではないか?魔力の話をしたのはあなただろう?魔力による傷の治癒が遅いとは言ってもないよりはあった方がいいのではないか」
ミアの回答にテオはあっと思った。確かにミアに傷の治癒速度の差について説明したときに話している。確かに、魔力による治癒は今の傷には効果が薄い、しかしあるのとないのとでは倍近く治癒速度に差が出る。
だとしてもミアの魔力を喰らうことにテオは気が進まなかった。
テオが思い悩み決断に躊躇っているとミアが少し強めに話す。
「傷の治りなど早い方がいいに決まっているだろう。それに傷が治らずに困るのはあなたであり私なのだ」
全く持ってミアの言うとおりである。もし傷の治りが遅く次の襲撃に影響が出ればその時に困るのはテオでありミアなのである。自分のことはいざ知らず、ミアが困るといわれてしまえばテオは申し出を受け入れるほかなかった。
きちんとミアへと向き椅子の上に正座で座り直すとテオは深々と頭を下げた。
「魔力を喰らわせて下さい、お願いします」
ミアは黙ってうなづくと右手を差し出した。
初めてミアの魔力を嗅いだ時と同じ匂いがする。芳しい香り、高級フレンチで匂うような上品で厚みのある香り。それでいて和食のような素朴さと温かみを感じさせる香り。
テオはこの香りに懐かしさを感じ、ずっと嗅いでいたいと思った。
固定されたままの右手を差し出されたミアの右手へと伸ばす。
次の襲撃のことを考えれば喰らう量はあまり多くない方がいいだろう。自分の傷が治ってもミアの魔力が回復していなければ結局チームとして戦力ダウンとなる。傷の治りと魔力の回復の時間を考えると限界値の5分の1程度。
そう考えながらテオは動きの悪い右手でミアの右手を握る。
「・・・あれ?」
魔力を喰らう、その行為自体は水を飲むようなものでほとんど時間はかからない。しかし、その量には実感として違いがわかる、魔力の質は味として違いがわかるのである。
その量がさっきはほとんどないに等しかった。
「なんだ、それだけで足りるのか?それとも腹が満たされていると喰らえないのか?」
テオの感じた違和感はミアも感じたようで、何かの手違いかと首を傾げていた。
だが、そんなことはなかった。テオは間違いなく限界値の5分の1に相当するミアの魔力を喰らっていた。
「イタッ」
テオの右腕に軋むような痛みが走る。触れてみると熱を持っているのがわかる。
昨晩左半身に感じていた痛みと熱さを右腕と腹に感じる。間違いなく魔力による治癒の際に生じる副作用だった。
しかし、魔力過食によって出来た傷には魔力による治癒は効果が薄いはずである。それが通常の傷と同様の副作用を生じているのはおかしな話。
「ミア、お前の魔力何か変だぞ。どうなってんだよ?」
負傷部位に走る痛みに耐えながらテオはミアに疑問をぶつける。
だが、ミアはその疑問には答えてはくれない。何一つ返答はない。それでも彼女の目が答えていた『その疑問には答えることは出来ない』。二人の心の距離を突き放す返事、しかし彼女の目はこうも答えていた『答えは直にわかるから今は待ってて』と。




