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新ログ・ホライズン  作者: 東の外記・しげき丸
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30/38

狂王ダノーブとの戦い(6)

 あっという間に今年ももうすぐ終わりの11月。

 気温も激しく変わる時期です。皆様お風邪などお引きにならぬようお気を付けください。

 そうれはそうとやらかし。

 ヴァディスはミナミに残らせる予定なのに、ついうっかり濡羽の漫才相手としてアキバ行の船に乗せてました。

 やべー(TT)www

 今話UPの前に編集で29話のその部分を影姫ジェラルドに差し替えましたが、今更読み返す気のない方にはこれをもってその報告とさせていただきます。大変申し訳ありませんでした。

 それではダリエラとトウヤが再会したり、色んな人が巡り合うべくして巡り合う本編をどうぞ。

 -第30話:狂王ダノーブとの戦い(6)ー

 

 -1-


 ウェストランデ、イコマ、フロウデン本部、〈記録の地平線〉女子部屋。

「ねえねえ、アカツキさん、最近はシロエさんとどうなの?」

「気になります~」

 アカツキにぐいぐい詰め寄る五十鈴とセララ。就寝前のパジャマトークである。

「まあ、そうだな。最近は良くお互いの髪を触り合ったりしているぞ」

「「うらやましいい~~~」」

「そうか?」

「「私ももっとモフりたい」「よ~」「です~」」

「それで、どんな触り心地なの?」

「細くて柔らかいクセっ毛だからな、小型犬を撫でているような心地良さだ」

「はあ、いいな~、アタシももっとルディのレトリバーみたいな触り心地をもっと堪能したいんだよね~。でも、そういうのって、やっぱ恋人同士にならないと駄目かな?」

「まあ、普通そうだろう」

「う~~~ん。でも恋人同士ってよりも、今の関係の方がいいかなとも思うんだ。グイグイ来られてもなんか恥ずかしくて困るし。だから最近変に意識しちゃって困るんだよね~」

「私にはむしろにゃん太さんがグイグイ来てくれる方がいいです」

「うむ、それは私も思う。主君はそのままソファで寝落ちしてしまう事が多いのだ」

「わあ、それひっど~」

「まあ、そうなのだが、それも主君が主君の務めを果たしているからこそだからな。誇らしくも有るのだ」

「はわわ~~私もにゃん太さんの疲れを癒してあげたいです」

「でもアカツキさん、以前は髪の毛触られるの嫌がってなかった?」

「頭を撫でられると言う子ども扱いが嫌だっただけだ。だが私の髪が艶やかで綺麗だから僕も触りたいと言うから、まあ特別にだな」

「「御馳走様です」」

「いいなあ、触りっこかあ。でもアタシの髪はごわごわのタワシみたいな剛毛だから、触られるのは恥ずかしくて、なんか躊躇うんだよね」

「そんな事無いですよお」


 同男子部屋。

「ミス五十鈴はケチなのだ」

「はあ」

「自分は僕の事を子ども扱いしてすぐ頭や髪を撫でる癖に、僕が彼女の髪の毛を触るのは、何かと理由を付けはぐらかして避けるのだ」

「うん」

 こちらではルディとシロエがエール片手に駄弁っていた。班長は黙って聞いている。

「やはりそういうのは恋人同士にならないと駄目なのだろうか?」

「まあ普通そうだね」

「それには彼女に男として求められねば駄目なのだが、それにはどうしたらいいのだろうか?」

「そうだね、僕の場合、髪の毛を褒めたら向こうも触らせてくれるようになったよ。好意を示すのがまず大事じゃないかな」

「うむ。彼女の髪は獅子の鬣の様で威風堂々として美しいと思う」

「………女の子相手にそれは褒め言葉として微妙じゃない?」

「ならどう言えば?」

「赤く気品高く輝くガラス細工のような、と言うのはどうですかにゃあ」

「流石班長」

「………………聞いておいて何だが、実際言うとなるとかなり気恥ずかしい言葉ではないか?」

「「――――――――」」

 普段あれだけ恥ずかしい台詞がスラスラ出て来る癖に。とは思ったが敢えて口には出さない二人だった。

「さて、僕はもう寝るよ、お休み」

 ベッドに潜るシロエ。

「お休みなさい」

「お休みにゃあ」


 布団をかぶっては見たものの、シロエは眠らない。

 とりあえず一人で思索にふけりたかったのだ。

 フロウデンのみんなもとりあえず言う事を聞いてくれるようにはなった。

 でもそれは力尽くでだ。

 相互理解とは程遠い。

 搾取や差別や格差が悪い事は誰でもわかる。

 でもそれは感覚としてなんとなくだ。

 もっと明確に物理現象の様に説明できる何かが欲しい。

 もしそれが出来れば、〈共感子〉問題も解決できるのではないか?

 いや、きっとできる。

 言葉は時に嘘を付く。

 でも数式や図形や立体構造物は、正確に描いた時、そこに嘘の介在する余地はない。

 もっと構造的に考えるんだ。脳内の3DCADをフル回転させろ。

 もっと深くに潜り、もっと高く飛べ。

 そうしてくたくたに考え疲れてから、泥の様に寝るのがシロエの日常となっていた。

 

 -2-

 

 フロウデン本部、第2席インティクス執務室。

「してやられたわ」

 インティクスの呟きに眉をしかめるゼルデュス。肩をすくめるクオン。

 〈大地人〉や低レベル冒険者に対する最低賃金保障や労働時間規定、労災の制定。

 これらをすべてゴリ押しで呑まされた。

 フロウデン製品の生産コストは上がり、アキバ製品との価格競争に不利になる。

 価格競争とは詰まる所相手のアイディアを効率よく盗み、そこに豊富な資本と安い労働力を注ぎ込めば必ず勝てる。現実の地球で中国がそうであるように。

 シロエは巧妙にそこを崩しに来た。

 シロエはアキバ製品の情報漏洩にも以前から手を打っている。

 製品開発は各ギルド員個人の趣味で行い、ギルド内で情報共有はせずとも良く、報告はしたい者だけギルマスにだけすればよい。すべての個人は独立事業主のように扱う。

 例えば〈ロデ研ドレッシング〉と言う製品には必ず〈ミカカゲスパイス〉が必要だが、スパイスの配合はミカカゲだけが知っていて作れればよい。と言った具合いだ。

 その提案は以前からのアキバの空気に合っていたので自然と受け入れられ、それが実に効果的な機密保持手段となっていた。

 相互監視と複雑な契約と機密保持手当と違約金でがんじがらめにギルド員を縛っているフロウデンの方が、その機密保持費用で財政を圧迫している。

 その上これまでフロウデンを支えてきた莫大な資本も、貴族から援助の減額と言う重い事実。

「こうなっては貴方が頼みよ、クオン。どんな小さな〈予言〉でも、必ず報告して」

「任せろよ」

「明日にはイセルスがサカイの港に着く。何としてもスタークにイセルスを完膚なきまでに屈服させるのだ」

 

 -3-

 

 中国サーバー。難民テントの並ぶ原っぱ。

「見ろよ、姫様またこんな所で寝てるぜ」

「疲れてるんですよ、放って置いてあげましょうよ」

「でも誰かが見てないと」

「ならミ・ロード呼んで来いよ」

 クスクスと笑って見守る黒龍結社のギルメン達と、彼等に保護される大地人たち。

 レイネシアは人前でも遠慮なく昼寝できる、念願だった理想の環境を手に入れた。

 だが無論、それに見合う働きをしているからだ。

 特に〈封禅の義〉の争いで故郷を追われた大地人の保護に駆け回るその姿は、冒険者や大地人を問わず、聖女と呼ばれるのに十分なものだったからだ。

 レベルだって最低限レイドについて行ける85レベル。そして彼女の振るう癒しの特別な力は、彼女だけの特別なスキルで、その価値は100レベルオーバーと言っても過言では無かった。

 その急激なレベルアップが、たとえ彼女が重要NPCとして特別な成長補正を持っているからだとしても、その努力は疑いようの無い物だったし。

 やがて皆に呼ばれてクラスティがやってくる。

「やれやれ」

 そう言いながらもレイネシアに毛布を掛け、自分もその横にごろんと寝転がる。

 その貌は以前よりずっと穏やかだった。

 古馴染みの高山が知る、彼の学生時代から比べてさえも。

 彼が大学院を卒業し、実家の財団に就職してからと言うもの、彼は随分人間味を失っていた。

 彼に取り、社会に出て大人を相手取る事は難しくなかった。

 むしろ簡単すぎて退屈に倦むぐらい。

 だがそれは彼の趣味嗜好に沿うモノでも無く、苦痛でしか無かったのだろう。

 それでも強大過ぎる鴻之池財団の中で生きて行くしか無かった彼は、社会にもゲームにも、以前からの仲間にも、どこか一歩引いた距離で接するようになった。知らず知らずの内に、冷めて白けてリスクを避けて通る事ばかりを選ぶ、よく言えば合理的に、悪く言えば本心よりも保身を常に選ぶ、臆病者になっていた。

 だが今のクラスティを見ていると、それはきっとずっと子供の頃からだったのだと思う。

 我が儘になる事に臆病だった子供心をずっと抱え込んできたのだ。

 でも、その置いてきぼりにしていた我が儘な子供心が、怠惰でおバカだけど、とてつもなく勇敢なお姫様の形を取って現われてしまったのだ。

 だから何のかんの言ってクラスティはこのお姫様に逆らえない。

 レイネシアは彼の我が儘な本心そのものなのだ。

 それが酌に触るから、彼は余計にこのお姫様を苛めるのだろう。

 (自分も地球に還ったらアイツをうんと苛めてやろう)と、保育園の同僚を思い出して呟く高山であった。


 -4-

 

 日本サーバー、イースタル、アキバ。

 西のマルス殿下と彼の率いるミナミとウェストランデの軍勢は上陸し、その首脳部たちがアキバの水楓の館を表敬訪問に訪れた。

 円卓のアインスと互助会のトウヤ、水楓の館の現在の主、サラリヤ公女の3人が表立って出迎える。公女はセルジアッドの娘にしてフェーネル卿の妻であり、他ならぬレイネシアとイセルスの母だ。フェーネル卿は多忙の身である故、子供たちの代わりを出来る存在は身分的にも能力的にも彼女しかいなかったからだ。

 貴族や大人達が慇懃な挨拶を、滲み出る対抗心を辛うじて押さえつつ交わす中、濡羽はトウヤに語りかける。

「久しぶりね、トウヤ」

 その姿も笑みも、まるで違う。

 貞淑で上品で儚げで誰もが見とれるような、それでいて人形めいた作り物の微笑みでは無く、似ても似つかぬ、底意地と性格の悪さが滲み出た、それでいて女一人で生き抜いて来た者だけが出せる豪胆な生命力の魅力に満ちた笑みだったが、何故かトウヤには彼女が誰か分かった。

「久しぶりです。ダリエラさん。以前の嘘付きの顔より、今の笑い方の方がずっといい」

「アンタも言うだけあって、前よりいい顔じゃない」

「カラ元気じゃなくて、ずっときついけど、ホントの元気を出す事にしたんだ」

「覚悟が要ったでしょ?」

「そっちこそ」

 本当に良かった。

 そう思った事をその晩トウヤは悔いる事になる。

 濡羽はダリエラの姿でそれこそ容赦なく毎夜トウヤを遊びにつれ回し、パシリとしてこき使いまくる日々が始まったのだ。

 前もってそうなる予感はしてたのに。

 トウヤは深く深く彼女と知り合った事を後悔する事になるのだった。

 

 -5-

 

 ウェストランデ、サカイの港。

 入港するタイフーン・タイクーン号とサイクロン・キャッスル号をシロエとヒリュウ、インティクスとゼルデュスの12席のうち4席が出迎える。

 歓迎の式典はミナミで行われる。シロエは儀礼兵や仲間達と共に一足先に出迎える事にしたのだが、結託して妙な事をしないようにと、ミナミの重鎮二人が直々に付いて来たのだ。

『東の代表を西の代表が出迎えるのは当然の事です』

 と言われれば断るすべも無い。

 シロエとしてはこの期に及んで密談するつもりもなく、ただアイザックやイセルスに挨拶がしたかっただけなのだが。

 やがてタラップから、イセルスとアイザックが降りて来た。

 イセルスはインティクス達と握手して挨拶した後、シロエにも求めて来た。

「貴方が、シロエ卿ですねっ。お噂は姉からかねがね」

 心なしかイセルスの顔が引きつっている。何か恐ろしいモノでも見るようにキョドキョド上目で窺って来る様を見て、シロエはレイネシアが常日頃自分の事を何と言っているか察した。

「別に心配しなくても取って食いはしないよ」

「はっ、はいっ」

 シロエは自分の招いた事とは言え、遠い目をした。ミノリの言う事もっと素直に聞いとけばよかったかなあ、と。

 イセルスは今度は女性二人に挨拶する。

「貴女がたがアカツキさんとセララさんですね! 姉君の言う通り美しくお優しそうですっ!」

 露骨な態度の違い。信頼に満ちた満面の笑み。振る尻尾まで視えそうである。

「ああ、彼女とは友達だった」

「ええ、大変よくお付き合いさせてもらいました! 姫様こそ私達にも気さくに接してくれたんですよ。とても友達思いでしたし」

「―――姉上はお優し過ぎて、他人と深く付き合うと疲れてしまうから、余り仲のいい友達を作り辛かったと思います。そんな姉上の友達になってくれて、こちらこそ感謝しかありません」

「そうだな。ぐうたらなのは、人一倍優しくて、責任を感じ過ぎてしまうからだ。だから、そんな彼女の力になれた事を、こちらこそ誇りに思うぞ」

「もしよかったら、僕の友達にもなって下さい!」

「うむ。いいぞ」

「光栄です~」

「…………………」

 盛り上がる3人を見て、僕もう空気になった方がいいよね。と思うシロエだった。

 一方、ガンをつけ合う男二人。

「ヒリュウだ。11席でフロウデン軍の大将やってるぜ」

「アイザックだ。アキバ軍は俺が仕切ってる」

 どちらも一歩も譲らない。

「それでどっちが連合仕切るかだが」

「白黒つけるか?」

 アイザックの眉根がより、目から炎が噴き出た様にさえ感じる。

「別にいいだろ」

 だが、ヒリュウは涼しく受け流した。

「天上天下唯我独尊、天下統一既になれり。お前もヤンキーの古い言い伝え知ってっだろ?」

「――――!?」


 アイザックの意識が過去の地球に巻き戻る。

 ある夜の埠頭での景色に。

『これからはお前が頭やれよ』

『いいのかよ、俺で?』

 先代はアイザックをバイクチームの次の頭目に指名した。だが確かに自分は喧嘩は強いが、頭目をするならもっと賢く立ち回れるやつだっているのに。と、思う

『今時腕っ節でチームまとめるなんて時代でもねーだろ?』

『そうだな、お前より賢けー奴はいる。でもどいつも俺に言わせりゃ小賢しいだ』

『まるで俺が馬鹿だからいいみたいな言い方じゃねーか?』

『そうだな。馬鹿だからいーんだよ』

『しまいにゃ怒るぞテメー』

『チームのバカ共がみんな可愛くて仕方ねー。そんな馬鹿じゃねーと務まらねーんだよ』

『―――っ』

 アイザックは照れてそっぽを向いた。

『天上天下唯我独尊、天下統一既になれりさ。

 この世の誰もがそれぞれ一番偉い。だから上も下もホントはねーんだ。それを知ってる奴ら、本当のヤンキー同士は争わねー。自分だけが小賢しく人を蹴落として威張っていい思いをして―、争いを起こすのは決まってそんな奴だ。だからみんなが可愛くて仕方ねー、お天道様の心意気を持つ奴しか頭にしちゃ駄目なんだよ。だからお前がなれ』

 そう言って袖の無いGジャンを、チームの頭が着る特別なエンブレムのそれを、先代はアイザックに渡した。


「俺も馬鹿どもみんなが可愛くて仕方ねー。お前もそうだろ?」

 ヒリュウの言葉に意識が現在に戻る。

「いや、生憎俺はそこまで器がでかくなかったみてーだ。だから俺らの頭はイセルスだ」

 アイザックはさばさばと言ってのけた。

「そうか、まあそれならそれで俺らが争う必要もねー。お互い好きなようにやろうぜ。細かい事はシロの奴がどうにでもするだろ」

「まったくだ」

「ちょっと僕抜きでナニ仕事押し付ける算段決めてるの!?」

「お前押し付けなくても勝手にするだろ、いつも」

「んだんだ」

「いやそうだけどそうじゃなくて!?」

 涙目のシロエ。アイザックもヒリュウも容赦が無かった。

「ちょっと、勝手に決めないでちょうだい!」

「白黒ははっきりつけてもらわないと困る」

 詰め寄ってくるインティクスとゼルデュス。

「ゲームだぜ、お祭りだぜ! みんなで楽しくやった方がいいに決まってるじゃねーか」

 笑って答えるヒリュウ。

「馬鹿をお言いなさい!?」

「目を醒ませ、ここはもうゲームじゃなくてもう一つの現実なんだぞ!!」

「眼が覚めてねーのはお前等だ、バーカ。濡羽が苦労する訳だぜ、こんなアホー共を相手にしてたとはな。まあ、アイツ結構チキンだから仕方ねーか」

「ヒリュウの言う通りだ。この現実ってやつは足を引っ張り合って勝てるようなぬるいゲームじゃねーんだよ。バーカ」

「そうですね。そもそもそれで勝てるくらいなら、ナカルナードさんがとっくに勝っていた。彼だってひとかどの人物ですよ。貴女がたも良く知ってる筈でしょう? それともアイツはとんだ期待外れだった。悲劇の主人公な私や僕ちゃん可哀想とでも泣き言を抜かすつもりですか?」

「うわーひでー」

「俺でもそこまで言わねー」

「シロエち、ハラ黒すぎますにゃあ」

 見ればイセルスが蒼い顔をして、

「眼鏡に逆らってはいけない、敵に回してはいけない」

 とぶつぶつつぶやいている。

 ああ、自分でとどめ差してどうするんだと頭を抱えるシロエ。

「さ、おっかない人は放っておいて、甘いものでも食べに行こうではないか」

 アカツキなりのフォローだってわかってるけど酷くない? と思うシロエ。

「行きましょう、イセルス様」

「あ、は、ハイ」

 セララとアカツキに手を引かれ茶屋に向かうイセルスだった。


 -6-

 

 みたらし団子と熱いお茶で正気を取り戻したイセルスは、無事ミナミに辿り着く事が出来た。

 ミナミにおける西部貴族の拠点、つまり水楓の館と同じ役割を持つ翔鳳殿に案内される。

 当然イセルスを歓待する代表のホスト役はスタークが受け持つ。

「ようこそ、イセルス様。西の軍の総指揮を任せられました、不肖スターク=ラウンドでございます。今日は閣下の接待役を及ばずながら勤めさせて頂きます。お見知りおきを」

「御親切痛み入ります。イセルス=コーウェンです。こちらこそお見知り置きを」

「とまあ、堅苦しい挨拶はこれくらいにして、実は私は閣下と友達になりたいと思っております」 ウィンクをして笑いかけるスターク。

「え、どうしてでしょう?」

「時に閣下は姉君のレイネシア様の事がお好きで?」

「無論です、自慢の姉ですから!」

「私も実はファンなのです」

「ええ、まあ、綺麗な姉ですから」

 少しがっかりした顔のイセルス。

「ええ、あんなに心の御美しい方はそう居られない。あれだけ民を想い、単身冒険者の拠点に乗り込んで勇気ある説得をされる方など」

「勿論です!」

 イセルスの顔が輝く。

「良かった、イセルス様は私と同じ理由で姉君の事がお好きなようだ。此度の戦は民の為の戦。何やら不浄な考えの心得違いも中にはいるようですが、せめて些少ながら私めも、民の為に闘われる閣下の力にならせてください」

「喜んで! 共に戦いましょう!!」

 友誼の証に両手を固く握り合う二人。

 周りの者は思わぬ成り行きに呆然としたが、東の貴族や冒険者が一斉に拍手を送り始めたため、西もそれに追従せざるを得なかった。内心はどうあれ。

「そんな………こんなのゲームのシナリオと違う…………」

 呆然と呟くクオン。

「馬鹿な、これではまるでスターク卿が自らイセルスの臣下に就いたようなものではないか?」

「どうなってるのよ!?クオン!!」

 詰め寄るゼルデュスとインティクス。

「どうなっておるのだ? ラウンド伯爵を総指揮に据えれば万事うまくいくと言ったのはお主等だぞ!?」

 更にその二人に詰め寄るブロード卿。

「ええ、きっと上手く行きますよ。貴方達の身勝手な思惑と違うだけで、ヤマトの民には万々歳でしょうね。違いますか?」

「貴様が謀ったのか?」

 シロエの胸ぐらをつかむゼルデュス。

「謀ったと言えば、そうと言えなくも無いですけれど、僕が心がけたのはイセルスを彼自身の望む立派な大人になる手助けをしただけです。それで充分だと思いましたからね」

「嘘を言いなさい! 実はずっと以前から間者を放ってスタークをたぶらかしていたのでしょう!?」

 激昂するインティクス。

「どうして貴女はそんな考えしかできないんですか? スタークさんにだって心が有る! もし彼がレイネシア姫と結ばれるはずのNPCだったなら、彼女と同じ理想と心を持っているって、誰もが分かる当たり前の事じゃないですか!!」

「知って…………いたのか?」

 呆然とするクオン。

「何でお前が? そうか、お前もずっと前から運営側の人間だったんだな、なら異常なまでの活躍にも説明が付く。何でだよ?そんな事したら普通クビになるはずだろ?可笑しいだろ?何でお前だけ特別に依怙贔屓されてるんだよ!!このチート野郎!!!」

「五月蠅いですよ、自分の頭で考えもしないカンニング野郎」

「はあ、なんてった?お前が言うか?お前もそうなくせに!!??」

「貴方は自分の力でエンジンが設計できますか?」

「何の関係が有るんだよっ!!?」

「まあ自分の力で出来なくても、設計データを盗んで来れば同じ物は作れます。貴方のやってるのはそう言う事です」

「だからどうしたっ!?」

「でもそのエンジンに問題や故障が有った時、エンジンを作れる実力者の持ち主にはそれに対処する事もできるし、改良もできるけど、カンニングだけした人には当然無理ですよね」

「――――――っ、お前が、ゲーム製作スタッフと同じ能力が有るって言いたいのか?」

「そこまで自惚れませんけど、貴方よりはマシです」

「――――っ、うっっふうぅっ、ふぐうぅっ」

「予知は予測に敵わないんですよ。

 安っぽいフィクションと違って現実では。

 実際未来を予知したなんて人はごまんといますけど、結局それはカンニングと同じで、問題を深く理解している訳でも実地で分かっている訳でもない。実際に不幸な未来を回避したり願いどおりの未来を呼び寄せるのは、綿密な理解の元に現実と言う機械を組み立てる、予測する人たちだ。

 そもそもの思考や経験や感覚の密度が違うんだから当たり前でしょう?

 実際に未来を予知したなんて人が、事故や事件の解決に実地で役に立って活躍したなんて話、僕は知りませんよ。ああ、まあ、自称霊能力者で見えない力で自分がどうにかしたんですなんて人、たまにネットで見ますけどね。草生えます」

「「うわあ、ハラ真っ黒」」

 思わず顔を覆うヒリュウやアイザックたち。

「GMコールなんかに頼らず、自分の頭で考えた方がマシだったんですよ。インティクス、ゼルデュスさん。あ、まあ目が曇ってるからそれでも結果は同じか。貴方たちそういう所濡羽さん一人に頼り過ぎてたんですよ。人の心が分かるの彼女だけだったんですから。依存してるくせに理解も示さない。ママにオッパイ貰う赤ちゃんですか? 濡羽さんはあれでも貴方達に依存している事を自覚していたから大人の遠慮をしていたのに、貴女がたは自覚もしないで利用する側搾取する側と傲慢に増長していた。親の脛を齧るマザコンのドラ息子ドラ娘以外の何者ですか? 格好悪い」

「「「ヒデエ」」」

「眼鏡コワい眼鏡コワい」

 トラウマの再発するイセルス。

「やり過ぎだ主君」

 カクテルドレスのハイヒールでスパンとシロエの頭をはたくアカツキ。

「あー、まあ言いたかったのは、情報漏えいを怖れて、僕らアキバに負けるのを怖れすぎて、情報を十席だけで独占したのが不味かったんですよ。もっと情報を公開していれば、ミナミアキバの垣根を越えて本当に予測できる専門家の手に情報が渡っていたはずなんです」

「なー。みんな仲良く力を合わせなきゃ駄目だろー?」

 のほほんと言うヒリュウ。

「ウヒャヒャヒャヒャヒャ! 最高ー! 出たよ潔癖症ロードローラー! 最前列席取ってて良かった!!」

 タキシード姿で馬鹿笑いするKR。

「やれやれですにゃあ」

 

 ―第31話に続く―


筆者(以下:筆):「今月のテーマは『第六天魔王』でーす」

アカツキ(仮名、以下:あ):「ダノーブのモデルになった織田信長の別名だな」

筆:「故有って筆者は少し信長に詳しいです」

あ:「信長の小姓蘭丸で有名な戦国大名、森家に連なる血筋だからな」

筆:「分家から更に他家に婿養子に入った血筋だけどね(苦笑)」

あ:「森家男児を婿養子に取るとはスゴイなwww」

筆:「閑話休題、それはさておき仏教の話になりますが、『僧』とは本来『増』長した『人』を意味する言葉です」

あ:「おおよそ聖職者とは思えん呼び名だな」

筆:「自分達は百姓の様に米を育て人を飢えから救い世を救うでもなく、貴族や侍の様に政をして世を救うでもなく、ただ説法のみで世を救おうと思い上がる者です。という意味ですね」

あ:「そう名乗る事で逆に思い上がってはいけないと自戒したわけなのだな」

筆:「なので精進料理とは、自らを貧しきに置き、貧しい者でも創意工夫で美味しい料理を見付け作る事が出来ると世に広め、諸人快楽の幸せを増やして世を救う僧の仕事とされた訳ですね」

あ:「今でいう貧乏グルメ料理だな」

筆:「ですがまあ、戦国時代の一部の僧は、信じぬ者は無間地獄に落ちるぞとどこぞオ○ム真理教の様な屁理屈で民からお布施を巻き上げ貴族の様な贅沢三昧」

あ:「それで信長とその仲間達は切れた訳だな」

筆:「良くも悪くもヤンキーなんですよね。それに彼等は普通の神道やつつましい暮らしを送る僧には宗派問わず援助や寄付を惜しまぬ信心深い人達だったそうです。正義感が強すぎたんですよ」

あ:「だからと言って史実のアレはやり過ぎだろう?」

筆:「まったくです。手放しではありませんが、司法が整備されてカルト宗教が取り締まられる現代社会万歳です。まあ兎に角以前宗教とSFで大乗仏教とは子供を躾ける為のお伽話と書きましたが、当時の僧や某真理教はそのお伽話を悪用した訳ですね。なので信長は大乗仏教と言うお伽話を滅ぼすと言う意味で、仏教の破壊者、第六天魔王を名乗った訳です」

あ:「志は立派だが、やはりやってる事はヤンキーだぞ」

筆:「ですよねえ。でも筆者も一時ちょっとヤンキーだったんですよ(新信長公記の明智光秀の様に眼鏡キラーン)」

あ:「なにぃっ?」

筆:「と言う所で来月へ続く」

一同:「「まったねー(^^)/」」


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