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新ログ・ホライズン  作者: 東の外記・しげき丸
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29/38

狂王ダノーブとの戦い(5)

 まえがき

 

 天高く馬肥ゆる秋。と言いたいのですが残暑厳しすぎで馬痩せそう(^^;)。

 皆様もお体にはお気を付けください。

 それではお待たせしました。

 長い長い伏線となりました、班長とロンダークの因縁についに決着のつく本編をどうぞ。

 もう元ネタエピソードから四半世紀以上経ったんだなー(遠い目)。

 ―第29話:狂王ダノーブとの戦い(5)-

 

 -1-

 

 中国サーバー、黒龍結社本部。

「モンブランは美味しいですか? 花貂」

 そう訊ねるエプロン姿のクラスティ。

「はい、仙人様!」

「それにひきかえ姫は一口食べたきり、気に入らないようですね? いらないなら花貂にあげたらどうです?」

「………。気に入らないのはモンブランではありません」

 こめかみをひくひくさせるレイネシア。

「どうして、こんな美味しいのを作れるのを貴方は今まで黙ってたんですかっ!?」

「聞かれませんでしたし」

「私ミカカゲさんと離れ離れになって! もう食べれないだろうって諦めてたんですよっ!! なのに今まで内緒にしてるだなんて、貴方って人は私の心なんか御見通しの癖に、そっちは重要な事を隠してばかりっ! どれだけ人をいたぶれば気が済むんですかっっ!!?」

「サディストなもので」

 しれっと紅茶を飲むクラスティ。

 ぷっつん。

「知りませんっ! もう知りませんっっ!! ミカカゲさんのケーキより貴方なんかを優先した私が馬鹿でしたっ! これからは3食後と3時に毎回デザートを要求しますッッッ!!」

 くつくつと笑うクラスティ。

「仰せのままに、我が姫」

「当然ですっ!!!」

 犬も食わぬその光景に呆れかえる高山、滄溟、朱恒ら側近たち。

「あほらし」

「ケーキよりこっちの方が胸焼けしますよ」

「御馳走様」


 -2-

 

 ヤマトサーバー、ウェストランデ、サカイ、閲兵式場のはずれ。

「貴方にこのウルフちゃんを優しく撫でる勇気はありますか?」

 セララのその問いに、ロンダークは虚を突かれ、暫く放心していた。

「…………!???、馬鹿を言え、犬なんか撫でるのに勇気なんか要る訳が有るかっっ!??」

「やっぱり無いんですね」

「何だとぉっ?!!」

 激昂するロンダーク。

「だってもしそれが有ったのなら、今頃貴方は良い友達に囲まれて楽しく過ごして、地球に戻れなくされたから好きにしてやるなんて、復讐ぶった泣き言を喚かずに済んでる筈ですっっ!!!」

「な―――――――――」

 ロンダークは絶句する。

「今のお前は妻を亡くしたばかりの頃の我輩にそっくりにゃ。ロンダーク」

「っ?」

「吾輩の妻は、飲酒運転のトラックに轢かれて亡くなったにゃ」

「――っ!」

「世界は元から残酷で理不尽なのにゃ。ありふれた悲劇の一つに過ぎないのにゃ、ロンダーク」

「――なら、お前は俺達の側の人間じゃないのかっ!? 何で偽善者ぶってるっ!!?」

「奪われて苦しいと辛いと思うのは、絶望に暮れるのは、それが幸せだったからにゃ」

「そうとも、俺達は奪われたんだっ!!」

「幸せだったのは、優しさを沢山貰えたからにゃ、優しさを通い合わせたからにゃ。それは掛け替えの無いものにゃ」

「そうとも、だから復讐しろよっ! お前もっっ!!」

「でもその貰った掛け替えの無い優しさが、妻のいない孤独な世界の我輩を救ったにゃ」

「…………」

 ロンダークの心も視界もその瞬間真っ白になった。

「気が付けば妻の優しさが、いつの間にか自分の優しさに生まれ変わっていたのにゃ。妻の口癖が自分の口から衝いて出ていたのにゃ。行いとなっていたのにゃ。その優しさを出会う人に向ける度に、友達が増え、孤独は癒されて行ったにゃ。

 ロンダーク。

 お前が奪われあれほど苦しんだ掛け替えの無い優しさは、ちゃんとお前の中に在るにゃ。

 言葉にして、行いにして出してくれと待ちわびているにゃ。

 お前にとってそれだけ掛け替えの無かった優しさにゃ。幸せにゃ。

 それで友達が作れないはずなど無いにゃ」

 ロンダークはボロボロと涙を落としていた。

「―――ロクでも無い奴らだったんだ」

 嗚咽の混じる声。

「馬鹿で、アホで、憎まれ口ばかり叩き合って――――――。

 それでも、俺はそこが居心地が良かったんだ。

 憎まれ口を叩いても叩いても、それを許してくれるくらい優しい奴らだったんだよおぉぉっ」

「その優しさを、出してあげる勇気を持ってください。ウルフちゃんを優しく撫でて上げるような勇気を出して下さい」

 そう言ってセララはもう一度ウルフを差し出す。

 ロンダークは、おずおおずと、その頭を撫でた。

 ウルフがその手に頬ずりを返す。

「あ、ああああああ」

 後はもう言葉にならない。

 ひたすらむせび泣く。

「吾輩は思い上がっていたにゃ、吾輩が、叶わぬなら他の誰かがお前に何かを与えてやれると。

 そんなのは傲慢だったにゃ。無理な話だったにゃ。

 お前に何かを与える必要などどこにもなかったのにゃ。

 お前の悲しみこそが、お前かもう十分な優しさを与えられている何よりの証拠だったからにゃ」

 

「ケッ」


 にゃん太とセララは振り返る。

 遠巻きに旅の仲間たちがいる。

 自分達を心配して見に来てくれたのだろう。

 だが一人、ずかずかと歩み寄る女性は心配などではなく、その反対の感情でここに来たのだ。

 

「随分と醜くなっちまいやがって、あんなにドス黒く美しかったのによぉ」


 北伐将軍、ミズファは。


「せっかく育てた手駒を喰いやがって。いつぞやの意趣返しかい。根に持つタイプだねえ、アンタも。アタシを斬る度胸も無いから下っ端で満足しとこうって? セコイねえ、どうも」

「――――」

「おっと、アタシに優しさだのなんだのって説教は通用しないよ。

 だってアタシ優しくするのもされるのも大嫌いなの。会話が鉄と血で成り立つ事が幸せなの。

 文句が有る?」

「―――――いつか後悔するにゃ」

「いつかっていつよ? たった今アタシを後悔させれなけりゃアンタの負け、お分かり?」

 にゃん太は句が継げれなかった。

 ミズファは鼻で嗤い勝ち誇り踵を返す。


「はっ」


 シロエは鼻で嗤う。

「成程こいつは班長の大きな手では救えませんよ。―――――矮小過ぎて」

 ミズファは目を剥く。

「何だって?」

「ちんけなボウフラだから大きすぎる班長の指の隙間から逃げるのが得意だって言ったんですよ、このボウフラ。聴こえなかったんですか?」

 思わずナズナが顔を覆う。

「あーシロの奴キレやがった」

「先輩格好いい」

 尻尾を振るソウジロウ。

「いたっ、何で蹴るんですマヒルさんっ?」

「いやなんとなく」

「あーそれ分かる」

「黙っていろ主君のいいトコロだ」

「こんなちっぽけで臆病で弱虫で言い訳好きの偽善者なんか、班長みたいな大きな人が理解できる訳無いんです。僕みたいなセコイ人間でないとね」

「………聞き捨てならないね。

 臆病で弱虫で言い訳好きな偽善者だって? このアタシが?

 そんなのはアタシみたいに自分の欲望に正直に生きていない、お前らみたいなホントは醜い本音をいっぱい抱えている癖に綺麗事の言い訳の偽善で覆い隠してる凡俗の事だろうが!?

 舐めてんじゃねえぞ、コラ!!?」

「身を優しく寄せ合うから温もりを分かち合えるんです」

「?」

「血を啜れば一時の血の温もりを味わえても、すぐに毛皮が濡れて冷たく固まり惨めな思いを味わう。その惨めさを忘れたいから、また次の血を啜る」

「―――」

「何故そうなるか教えましょうか? 貴女には何も無いからです。空っぽだからですよ。

 自分の幸せも宝物も臆病だから見つける事も探す事もしなかった。ただ怠けて逃げ回った。

 そんなもの最初から無ければ他人に踏み躙られずに済むと言う、この上無く弱虫な理由で。

 自分が何もなく惨めだから他人も惨めでないと寂し過ぎて生きて行けない。だから惨めにする為に傷付ける。貴女の幸せなんてのは更に惨めったらしい八つ当たりに過ぎないんですよ。

 自分を魅力的な人間にする努力もしない癖に、彼氏のいる女の靴に画びょうを入れる憐れな僻み女そのままじゃないですか。

 そうやって人を傷付けておいて、相手も自分を憎み拒めば、ほら見ろお前も人を憎み拒むような醜い人間だから殺してもいいんだ。私は正しいと、言い訳の偽善に酔っぱらう。

 相手が自分を殺さなければ、臆病者と誹り嗤う事でマウントを取ってやったと、これまた自分を誤魔化す言い訳の偽善に酔っぱらう。本当はこの上なく憐れまれているのに。

 人の血を啜る吸血鬼の成り損ないのチンケなボウフラ以外の何だって言うんです?」

「~~~~~~っっっ!!!!!」

 イズファは剣を抜きシロエに付き付ける。

「快楽殺人者なんてみんなワンパターンなんですよ。性も無い。そこらにいる一見平凡そうな人達を見る方がずっとみんな個性豊かで面白いです。貴女は見ててつまらない」

「殺してやる殺してやる殺してやる」

「御存知でしょう?いくら僕が後衛職でも貴女にくらいなら魔法で削り勝てますよ。

 オマケに僕は冒険者です。死んでもすぐ大神殿で生き返りますよ御愁傷様。

 それに気付いてるんでしょ? 今更僕を殺しても、もう僕を負かせませんよ。既に貴女の負けなんですから。図星突かれて逆切れみっともな~い、ですよね」

「~~~~!!!?」

「それ以上動くな」

 言葉の主はアカツキ。ミズファの心臓の裏に音も無く刃を突き付けている。

 シロエの眼鏡が光る。

「これでもやりますか? 貴女只の無駄死に犬死にになりますけど? まあやるならご自由に」


 ミズファは泡を吹いてへたり込んだ。

 

「やりすぎですにゃあ」

「まあ、大人気なかったですね。お叱りは後で受けます」

 しれっとした顔のシロエであった。

「ぶはははは!

 また出た陰険狡知蛇蝎の如し! 逆さ蝙蝠鉄面皮!!

 バスガイドバスガス爆発炸裂~~~!!!」

 腹を抱えて笑うKR。

 一方濡羽は複雑な表情で萎れたミズファを見つめる。彼女がスカウトした人間でもあるので、彼女なりに同情も有るのだろう。

「……………」

 ぽふ。

 気付くとヒリュウが濡羽の頭に手を乗せていた。何も心配いらないと言わんばかりに。

「任せとけって」

 そしてつかつかとミズファに歩み寄る。

「しょうがねーよなー。ビビってるって認めるのも怖いぐらいビビってたもんな。お前がわりー訳じゃねー、ビビらせたみんながわりーんだ。だからビビらせたみんなを真似して、もっとビビらせる奴になるしか無かったもんなー」

「―――――――」

「言っちまえよ、ビビらせやがってバカヤロー!って。今も周りのみんなが無自覚にお前をビビらせてるのに腹が立って、バカヤロー!って言いたいはずだぜ」

「バカヤロー…………どいつもこいつもアタシを踏み潰しに来やがって、アタシも踏み潰し返して何が悪いってんだ、バカヤロー…………」

「お前はさ、そこで負けてんだよ。踏み潰し返すんじゃなくて、相手がビビるまでバカヤローって罵倒すりゃよかったんだ。噛みついたりひっかいたりするのはその後な。それがいい女の作法ってもんだぜ」

「……………あんた、濡羽の色かい?」

「まあ言い方わりーが、そう言えばそうだな」

「ひどい男だね。バカヤロー」

「わりーな」

「ああー、ムカつく、バカヤロー!バカヤロー!!」

 そして怒鳴り散らしながら始まる噛み付きひっかき。

「イテテテ!! やめてホントに噛み付かないで!? 助けて濡羽~!!!」

「あ~ら、知らないわよ色男さん。勝手にやれば」

「あれってカルト洗脳じゃね?」

 呟くソロモン。

「バカヤローって確かにあれの手口ですね」

 頷くヴァディス。

「違いますよ。元々アメリカではああ言ったサイコパスになりかかりの自我の弱い精神失調患者に施す為の立派なカウンセリング法だったんですよ。でもあれを普通の人にやると、自己責任を他人に転嫁させるカルト集団正当化の洗脳行為になるだけです。半端な形での知識の普及が生んだ悲劇ですね」

 更にしれっとシロエ。

「おーいててて。まああれだ、濡羽、お前人を見る目に拘るけどさ、見る目じゃなくって診る目じゃないと駄目だぜ。するべき事もしないで、悪い人に騙された見る目が無かったとかの相手を悪者扱いなんて、正しく泣き言なんだからよ。お前そこらへん駄目駄目だから、もっと俺様に甘えるように」

「う、うるさいうるさいうるさいッ!!」

 がぶり。

「ギャーやめてーミズファさん~何でまた噛むの~!!??」

「ムカつくから」

「やーいザマーミロ、ベー!」


 -3-

 

 閲兵式を終えた軍勢の約半数、東域派遣団は、精霊船エーギルとティターニアに乗り込み東へと旅立ち、残りの半数に見送られて行く。


 ティターニアの船上で濡羽は呟く。

「まったく。何であのバカはいつもああなの。見てらっしゃい、アタシ一人でだってやれるわよ、やってやるわよ!!!」

「まあまあ姫様、意地張らないで」

 宥める影姫ジェラルド。

「まあ百歩譲ってアイツが『お前と二人なら何だってやれるし何処へでも行けるし、何をしたって生きて行けるさ』とか、いい雰囲気で下手に出てくれれば考えてやらないでもないけど!?」

「いや、それは姫様が先にキレたから言えなかったんじゃ?」

「何よ、アタシが悪いっての?」

「いえいえ滅相も無い!!!」


 エーギルとティターニアを見送りながらヒリュウがぼやく。

「はあ」

「どうした?」

 珍しく優しげなカズ彦。

「今日こそは『お前と二人なら何だってやれるし何処へでも行けるし、何をしたって生きて行けるさ』って、カッチョよく決める筈だったのに、どうしてアイツああもキレて、その先を言わせてくれないのかね?」

「お前がマウント取ったからだ」

「マウントなんか取ってねーよ! 頼れる男だって見せて濡れ場アピールしただけだぜ?」

「傍から見りゃあ、マウント以外の何物でもねえ。男の頼れるとこなんざ、黙って背中で見せるもんだ。お前は軽過ぎんだよ」

「はっ、そんな事言ってるから未だに惚れた女に好意の一つも気付いてもらえねーんだよ」

「何だとぉ!!」

 胸ぐらをつかみ合う二人。

「~~~~~~www」

 そしてマヒルは肩を震わせ必死に笑いを堪えていた。

「何が可笑しいの、マヒルちゃん~」

 分からず問うアヤメ。

「野暮すぎてとても言えね~www」

「ヒリュウと濡羽ってさ、絶対結婚したらカレーに掛けるのはソースか醤油かどっちだ?とか下らない事で離婚してはまたひっつくタイプだよね」

「またまたいいネタ乙」

 などとのたまうシロエとソロモンであった。

 

 ―4―


 イースタル、アキバ、〈円卓会議〉議長アインス執務室。

「報告書有難う、ウッドストック」

「いいって事よ。それじゃあな」

 飛空帽を被った髭親父はいつものように飄々と掌をひらひらさせ、立ち去ろうとした。

「――――ちょっと待ってくれ」

「?」

「……いや、いいんだ。済まない」

 ウッドストックは怪訝な顔をしながらもドアの向こうに去って行く。

 閉じられたドアを見ながらアインスは溜め息を衝く。

 ここにいない茜屋をはじめ、参加中小ギルドの総人数は、〈互助会〉のそれを大きく上回る。

 だが経済規模で言えば、〈互助会〉に負けている。

 最初は大ギルドの資本にモノを言わせているからだと思った。貴族からの出資を取り付けてすぐに逆転できるとも。

 だが現実はそうならなかった。

 だから、ウッドストックや茜屋に謝罪し、もう一度すべてを見直し相談すべきだと思った。

 だが、何故か躊躇われた。

 そうしても何故か上手く行かない気がしたからだ。

 結局自分は象牙の塔の青病譚で、カラシンやミチタカら海千山千の実務屋には遠く及ばない。それは分かっていた事だ。だがせめて教育者の端くれとして、皆を良く導きたかったとは思う。

 自分に教育者として何が足りなかったのだろう?

 秘書に30分の休憩を告げ、ほうじ茶を啜る。

 このまま一人で思索にふけるべきか、誰かに相談すべきか?

 何とはなくフレンドリストを開く。

 すると丁度計ったようにヒリュウのアイコンが点滅を始める。念話がかかって来たのだ。

『よう、先生、今いい?』

「ああ、構わないよ」

『聞いてくれよー、濡羽の奴ひでーんだぜ。アキバに着いたらこっぴどく叱ってやってくれよ』

「一体何が有ったんだい?」

 やれやれ、相談を受けてもらうはずが、こっちが相談される側か。と苦笑する。

 聞けば大敗した西の軍の立て直しをヒリュウに丸投げし押しつけて、妹自身はアキバにバカンスらしい。まあ実際苦労するのはシロエで、妹も仕事で来るのだろうが。他にも他人が聞けば馬鹿馬鹿しい愚痴や惚気も散々聞かされた。

 それは妹も悪いがヒリュウにも直すべき点があると説教。

『へーへー、分かりましたよ』

「わかればよろしい」

『んでよ、先生も相談事あるんじゃない? なんか最初声が暗かったぜ』

 アインスはもう一度苦笑する。

 彼のこういう所には敵わない。

「自分に教育者として何が足りないんだろうかと思ってね。

 自分なりに一生懸命、中小ギルドが大手ギルドに追い付くよう、叱咤激励したつもりなんだ。

 新しい事に挑戦しなさい。同じ事ばかり繰り返すのは学ばない人間だ。他人の優れた所を見習って、誠実に仕事に向き合いなさい、とね」

『ああ、そりゃ駄目だ』

「説教臭すぎて、若者の心には届かないんだね。やっぱり」

『ちげーよ。だって好きな事ならさ、何度でも繰り返してーもん。

 でもって、何度も繰り返ししたり考えたりすっからさ、他人が見落として気付かねーよーな新しいバーンとかグワーッっとかジャジャーンに気付けるわけじゃん。

 上手く言えねーけど、新しい事って、学びって、そ-ゆーもんじゃね?

 先生の言ってるのはタダの他人真似だし、それじゃ面白くねーよ。冒険のドドーンやドカーンやヤッターがねーし、好きでもねー事に誠実なんて、それって嘘じゃん?』

「――――っ!」

 ああ、そうか。やっとアインスは得心がいった。

 大手ギルドに敵わないわけだ。

 何せ彼等は好きな事を好きなだけ飽きるまで繰り返しさせているのだから。

『悪い事に味を占めたんなら叱られなくちゃなんねーけどさ。誰にも迷惑かけねーなら、幾らでも好きな事していーじゃん。みんな好きだから繰り返しゲームしてんだしさ』

「ああ、そうだな。全くだ」

 敵わない。本当に。

 妹もよく言っていたが、ヒリュウがそこにいると何故だか物事が上手く行く。決してシロエやクラスティの様に知識や思考力に優れている訳では無いが、カナミや櫛八玉がそうなように、自分の心に真っ正直な人間は、いつも嘘や間違いにすぐに気付けるのだろう。

 先生とは先ず生きる人とはよく言ったものだ。

「私こそみんなからもっと学ぶべきだったな」

『おうよ、みんな何がしかスゲーもんな。まあ全部見習ってたら日が暮れっけどwww 好きな事からでいーんじゃね?』 

「そうだな。その通りだ」

 久しぶりに今夜は悩まずに眠れそうな気がする。アインスは穏やかにそう思った。

 

 ―第30話に続く―

 あとがき

 

筆者(以下:筆):「今月のテーマはヲタクと経済でーす」

ロデリック(仮名、以下:ロ):「フフフフ、久しぶりの登場ですよ」

ミチタカ(仮名、以下:ミ):「待て、今回俺もコイツと同じヲタク括りか?」

ロ:「何を今更」

ミ:「俺は技術者だ!」

カラシン(仮名、以下:カ):「目くそ鼻くそを笑う」

ロ&ミ:「「何ぃ?」」

カ:「じょ、冗談ですって!?」

筆:「ヲタクって自覚したり自称していても、他人に言われるとセンシティヴなんですよね~」

一同:「「「まあね」」」

筆:「ヲタクとは基本、子供の頃に好きになったアニメや特撮やゲームとか、機械とか数学とか化学とか、興味を持った同じ事に執着して一つの事を繰り返す気質です」

ミ:「だから研究者技術者にはピッタリなんだよな」

ロ:「まったくです」

筆:「同じ事、同じに見える事から新たな発見をする、一つの事を突き詰める事が出来るのはこの気質あってのモノです」

カ:「それ言ったらスポーツ選手や芸能人だって、その道のプロは大概そうですよ」

アインス(仮名):「それを言われると耳が痛い。私のギルドが君達程の業績を上げられなかったのは、私の過去の不用意な発言『同じ事を繰り返すのは学ばない者だ』のせいでしたからね」

ヒリュウ(仮名):「まあまあ先生、気にし過ぎんなって、それより酒でも飲みに行こうぜ!」

 ―――と言って二人退場。

筆:「まあ、好きこそものの上手なりと言う言葉が有るように、同じ事を何度も繰り返し考えるのは、野球やテニスで言う素振りの様なものです、そこに自己満足だ、なんて批判を気にするのは、プロになって金を稼ぐようになってから考えればいい事で、好きならば何度同じ事を繰り返しても考えてもいいんですよ」

ミ:「だがまあ、それでもちょっと専門的な事を口走るとヲタク臭いとか言って馬鹿にする風潮が流行った時代が有ったからな」

筆:「馬鹿にされるくらいなら自分の意見なんて持たずに受け身の消費者に回る方が楽ですからねえ、考えなくなる訳ですよ」

ロ:「スマホで簡単に知識が入手できてしまい、考える事の価値が低いと見做される事も有って、それでいくら有能な技術者や研究者の目が摘まれた事やら」

ミ:「かつて技術立国と呼ばれた日本がここまで零落している数字がすべてだよな」

カ:「ヲタクでもいいんです。ヲタクを褒め称えろとまでは言いませんが、多様性を認め尊重し合う事が、今からでも日本の経済を盛り返す事なんですよ。ネット民の基本でしょう?」

ミ:「あっ、こいつ」

ロ:「調子よくおいしい処を持っていきましたね」

カ:「僕の取り柄ですからねwww」

筆:「てな所でまた来月」

一同:「「「「じゃあっね~(^^)/」」」」


 蛇足。

 本編シロエのセリフが筆者の別作品、「13個目のピーピングジャック」の主人公が言ったのとほぼ同じだと気付いた貴方はえらい。ええ、使いまわしです。ほかに快楽殺人者を表現する言い回しのストックが無かったんだよ~(TT)。

 まあ、これに関しては数学方程式みたいに常に同じ解になるものだとでも思って見逃してくださいm(--)m。

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