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新ログ・ホライズン  作者: 東の外記・しげき丸
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26/38

狂王ダノーブとの戦い(2)

 謹賀新年明けましておめでとうございます。

 今年は貴方にとっていい年でありますように。

 本年もどうか新ログホラをご贔屓宜しくお願い致しますの東の外記です。

 さて、無事濡羽とシロエの間に和解の道が開け、シロエは正式にミナミに協力する事になったのですが、今度は今度でミナミで直面する無理難題。一体どうやって解決するのやら。

 まあでも、シロエのいつもの飄々と『格好悪い事と戦う』と言う肝腎な軸だけは、相変わらずぶれないまま書いて行こうと思います。

 請うご期待。

 それではいつものように本編をどうぞ。

 m(--)m

 

 ―第26話:狂王ダノーブとの戦い(2)―

 

 -1-

 

 アキバの試作艦、クラスティ救出チームが使用した〈シュツルムシュバリエ〉は、従来の蒸気船に加えて、燃焼の排煙圧から電力を取り出し、酸素の吸入や操舵のアシスト機能を付け加えた、車で言う所のターボチャージャー艦である。

 本来無駄に排出されるエネルギーの再利用。機械工学者の卵であるシロエは単純に地球に在る技術を応用したが、ミナミの精霊船はエネルギーの再利用を全て精霊の力を使ってやっているのではないかという結論に辿り着いた。

 燃焼の補助にサラマンダー、水蒸気生成の為の水の循環にウンディーネ、酸素の吸入にシルフィード、燃焼で出来た灰を再び木材に錬成する為のノームとドライアド。

 原理さえ分かればロデ研と海洋機構がそれを再現する事は難しくなかった。

 こうして精霊船の原理に電気チャージャーの両方の長所を兼ね備えた、新型蒸気船は誕生したのである。

 〈タイフーンタイクーン〉〈エアリエルエンプレス〉〈ハリケーンハイエロファント〉〈サイクロンキャッスル〉と名付けられた4隻の大型艦と、〈ウィンドポーン型〉と名付けられた量産型小型船の数々は、ヤマト全域への交易へと乗り出した。


 そしてミナミへの交易に派遣された、〈エアリエルエンプレス〉と〈ハリケーンハイエロファント〉の2隻の内、〈エンプレス〉の甲板では宇宙的アイドル(自称)てとらが五十鈴と共に、いつものように船員相手にオンステージを繰り広げている。

「いえーい! みんなノってるー!?」

「「「イエー!!!」」」

「じゃあ、この勢いで、ミナミも僕の歌で征服しちゃうよ~!!」

「「「ウォォォーーー!!!」」」

 ありふれたアイドルのリップサービス。

 景気のいい煽り文句。

 普通ならそうだ。

 だがこの船に乗っているごく一部の者は、その台詞がタダの冗談や軽口で無い事を知っている。

「まったく、何故シロエ殿が腹黒と呼ばれているかつくづく思い知ったよ」

 演奏する五十鈴たちのマネージャーを務めるルンデルハウスは苦笑と共に呟いた。

 

 -2-

 

 ウェストランデ、イコマ、プラントフロウデン本部。

 “監視塔”ゼルデュスはフロウデンの第3席であり、鉄血の宰相である。

 その綽名の如く遠く広くまで透徹に見渡す視野を持ち、また配下による情報収集も怠らない。

 そして監視塔は同時に巨大かつ精巧緻密な機械仕掛けの時計塔でも有った。冷淡に酷薄に、完璧に只完璧に、秒刻みでフロウデンを管理し差配する。

 その手腕が無ければインティクスの完璧すぎる計画をフロウデンは実際に遂行は出来なかっただろう。フロウデン躍進の最大の功労者の一人で間違いは無い。

 抜けば妖刀と呼ばれるシロエでも、普段は平凡茫洋とした青年に過ぎないが、彼には普段の所作から一部の隙も見受けられない。見るからに難敵難物である。

 彼は4人が不在の十席会議の事実上の議長として口を開く。

「ことも有ろうに姫様が“腹黒眼鏡”を第11席として迎え入れると言う」

 その時の眼鏡の光には確かに殺意が込もっていたと他の者は語る。

「いんじゃないの?」

 面白がるように、いや、事実面白がってKRが囃し立てる。

「俺は認めない」

 荒ぶる手負いの虎、ナカルナードは唸り声を上げる。

「奴は過去に俺達のギルドの戦闘指揮を、不利と見るや放り出して逃げ出したチキンだ。絶対に認めない」

「その発言を採るには、君はあまりにも失態を重ね過ぎている」

「――――」

「それにさ、アイツが傭兵参謀を放り出したのって、『頼めば何でもやる便利屋』『小間使い君』って風評被害に嫌気が差したからって聞いたよ。ま、本人に確かめた訳じゃないけどね」

 それ以降はシロエが初心者と古馴染みしか相手にせず、それ以外のギルドと関わらない時期が有ったのは確かだ。

「そんな事はどうでもいいのだ、KR。問題は奴がアキバの事実上のトップである事なのだよ」

「“一番”も結局懐柔されやがったしな」

「アインスは姫様の兄貴だから、労せずして事実上の併合が出来る筈だったんだろう?」

 クォンとミズファも口を開く。

「失態続きじゃのう、政治屋に軍事屋」

 シェレド=ガンは勝ち誇ってからからと笑う。事実彼とゼルデュスの開発部門だけ変わらず順調なのだから、誰も言い返せない。

「問題はその失態はほぼ腹黒がらみだと言う事だ。この上席次など与えればこのミナミも奴に壟断されかねない」

「アキバを壟断しようとしてた人が言うと説得力あるね~」

 腹を抱えて笑うKR。

「先生はさ、お嬢が言う様に優し過ぎたんだよ。アキバの初心者が救いたかっただけで、ハナから俺達の味方でもシロエの敵でも無かったのさ。なんでも自分の思い通りの手駒みたいに思うのは勘違いだぜ。みんな面白がる心があるのさ。それについちゃ俺もカナミやシロエと同意見だね」

「心とは結局欲望だ。その気になれば経済でコントロールできる。ハラ黒のそれは一時的に痛み止めを打っただけに過ぎない。だからインティクスの言う様にノイズなのだ。現実とはどこまで行っても経済、政治、軍事、即ち力だ。だからミナミこそ最強でなければならない。最強でなければ姫様の書く小説の中のような優しいお伽の世界など、実現も守れもしないのだ」

「ならどうすんのさ?」

「私は奴をこの会議場に於いて『空気』として扱う。奴はここに居ても誰にも何の影響も及ぼさない。皆も君ら自身の王国を守りたければ彼を空気として扱う事だ。さもなければミナミがアキバに事実上併合され、我等の野望は挫ける事になる」

「うまく行くの~?」

「行くとも。もうミナミの勝利は確定した。いくらノイズが走ろうとも、ただ無視するだけで事足りる」

「次の主人公は若きコウベ領主スターク=ラウンド伯爵さ。彼がヤマトを統一するのはもうゲームのストーリーとして確定しているんだよ。ハシーヴァの時はどうなるかと思ったけど、やっぱり僕は役に立つのさ、どうだジジイ?」

「能力と人格は比例しないとはよく言ったものじゃの、クオン」

「その言葉そのまま返すぜ」

「仲が悪くて結構な事だ。私が求めるのはひとえに計画への同意のみだからな。今後姫様がどう言おうと、ハラ黒眼鏡を会議から実質排除する事に賛成する者は挙手し給え」


 そしてその場で挙手しなかったのはKRだけだった。

 

 -3-

 

 ウェストランデ、コウベ。

 スターク=ラウンド。

 コウベ領伯爵は若干20歳、病床の父から領地を引き継いで間もない若輩である。

 だが既に彼を慕う臣下、領民は数え切れない。

「スターク様」

 ラウンド家家老、とは言えこちらもやはりまだ若く20代の臣下が領主に呼びかける。

「何だい? ケネス」

 朱の髪に碧い目の貴公子然とした領主が答える。

「元老院と斎宮院の連名で、スターク様を征夷将軍に任命する書状が出されました」

「ふうん」

「驚きませんね」

「理由は二つある。一つは僕がそこそこ有能な事」

「そこそこでは無いでしょう」

「いや、僕より有能な人間はいくらでもいるよ、君だってそうだ」

「御謙遜を」

「本音なんだけどなあ」

「自分より有能な人間をあれだけ見事に差配できる方はそうおられません」

「いや、僕はみんなにやりたい事をしてもらってるだけだよ。だから本当に何もしてないに等しいね。やっているのは精々ちょっとした御膳立てだけさ」

「そのちょっとが凄いのです」

「お立てには乗らないよ」

「はあ」

 ケネスは溜め息を衝く。主人のこういう所は美徳でもあるのだが、見ていてハラハラする所でもある。もう少し傲慢な位でもいいのに。

 実際ちょっとと言う彼の才能は他に比類ないものだ。

 彼はどんな嘘も見抜く。と言うより、本人が言うには本音がすぐわかってしまうのだそうだ。

 どんなに建前で隠そうが、どんなにさも重要でないように見せかけようが、それが本人にとって気乗りする事かそうでないか、目や表情や息遣いや雰囲気で、たちどころに見抜く。

 なので一切の嘘、ブラフ、駆け引きが通用しない。

『本当はこうなされたいんですよね?』

 と常に核心を突く。

 彼を騙そうとする人にとっては、やり難い事この上無く、彼を信頼する者にとっては常に真意を汲み取ってくれる、有り難い事この上無い徳の人だ。

「二つ目の理由は僕が風見鶏の蝙蝠だからさ」

「いずれの派閥にも属さず自主独立の気風を持つ立派な御方です」

「基本父がお人好しで人格はともかく領主としては無能だった所為で、どの派閥にも無視されてるし、便宜を図って欲しい時はこちらも便宜を図れば済む話だからね」

「はあ」

「だからお立てには乗らないって」

「少しは乗って欲しいのです」

「話を元に戻そうよ、兎に角僕は何処にも波風を立てたくない時には、どの派閥にとっても都合のいい駒なのさ。お流れになった話だけど、レイネシア姫のお見合いの警護を仰せつかったのだってそうさ」

「姫にはスターク様も懸想なされていたのでしょう?」

「五月蠅いな、過ぎた事だ。姫にはもうクラスティ殿と言う立派な想い人がいる」

「スターク様も魔将カッツェーに攫われた姫が実は今も生きていらして、クラスティ様と駆け落ちなされたと言う、巷の流言を信じておられるのですか?」

「僕もたまには信じたい事を信じる」

 スタークは以前からレイネシア姫には親近感を抱いていた。

 どこか自分と同じ匂いがしたのだ。

 それは無駄に華美で権勢欲に明け暮れる貴族の方が自分にとっては異常で、つつましい暮らしを送る庶民の方が親近感が持てると言う事だ。

 適う事なら庶民の様に気楽な服を着て過ごし、ありふれた、だが居心地のいい街角の居酒屋で、気楽な食事を楽しんで日々を過ごしたい。スタークの偽らざる本音だ。

 なので貴族の貴族しか人間では無いと言わんばかりの態度が嫌いだった。

 だが、レイネシアだけは違うのではないか? 自分と同じなのでは?

 エターナルアイスの古宮廷で、冒険者都市アキバで、レイネシアがゴブリンに襲われる民の救済を訴えたと言う噂を聞いた時、スタークの思いは確信に変わった。

 だが、実際にレイネシアの剣となり騎士として民を救ったのはクラスティだったのだ。

 こればかりは巡り合わせと言うものでしょうがない。

「今は心から二人の幸せを願うばかりさ」

「スターク様も負けてなかったと思うんですがね」

「おいおい、相手はキラ星の如き冒険者の中でもナカルナード卿の〈ハウリング〉さえ及ばぬ最大の騎士団、つまりヤマト最強戦力の騎士団長様だぞ。オマケにミナミに匹敵する大都市、アキバの代表でもあったんだ。そして彼の実力は皮肉にも彼がいなくなった事でアキバが二つに割れた事でも証明されている。僕みたいな半端領主が敵う筈もないだろう」

「スターク様もこの度征夷将軍に任命されました」

「今更だし、諸侯のバランスを取る為の御飾りだって」

「御飾りでも、スターク様の実力が有れば、すぐに中身も追い付きます」

「はあ、またそうやっておだてて無茶な仕事をさせようとする。だからその手には乗らないと言ってるだろう?」

「ほう、おだてが御嫌なら、いつもの様に無理やり尻を叩かせて頂きますが」

「うっ―――――――――」

 その時、執務室の扉を叩く音。

「何用かね?」

『フロウデンからの御客様です』

「分かった、すぐに向かう」

「お待ちください、私の説教はまだ終わってませんよ!」

「聞こえない聞こえなーい! ほら、お客様をお待たせするのは失礼でーす!」


 “影姫”ジェラルドは時に濡羽の影武者も務める、腕利きの〈娼姫〉である。

 男を籠絡する手管は並々ならず、またオーバースキル〈変わり身の七尾〉をして変幻自在に相手の望む姿になれる。

 今日の姿は銀の髪の乙女。無論スタークの好みのレイネシアに似せたものだ。

 無論そのまま似せると怪しまれるので、少しばかり瞳の色を琥珀に変え、また年嵩かつ妖艶に変えてある。ほとんどの男が身勝手な欲望で夢想するような、極上の容姿だ。

 さしものスタークもその姿を見て一瞬ぎょっとした。

 だがそれだけだった。

 彼は大いに落胆した。彼女はレイネシアとは似ても似つかぬ、彼の嫌いな類の貴族と同じだ。

 おそらくは冒険者以外を人とは思ってはいないだろう。それはおそらく庶民は勿論、彼と同じ貴族をも含む〈大地人〉すべてをだ。取り繕っても分かる。

「お待たせしました。僕がコウベ領主スタークです」

 それでも一応内心は出さず、貴族らしく恭しい礼は施す。

「フロウデンの使者、ジェラルドです。どうかお見知り置きを」

 ジェラルドも席から立ち上がり、二人は握手を交わす。

 虚礼の応酬が続く。スタークは内心欠伸を噛み殺しながら聞き流し、本題を切り出す。

「して、本日の御用件は私めが征夷将軍の名を下賜されました事と、何か御関係がおありでしょうか?」

「ええ、フロウデンと致しましてはスターク様を全面的に支援する事と相成りました。つきましては今後その一切を私めが窓口としてお努め致します。どうか是非スターク様の腹心として、この身如何様にもお使いください」

「はあ」

 気の無い返事。ジェラルドは僅かに焦り、妖艶な流し目を送る。

「如何様にもです、もし、スターク様がお望みならば―――――」

「公私ともに、それこそ閨でも好きにする代わりにフロウデンの言う事を聞け、ですか?」

「――――っ」

「呆れましたね。貴方は、いやフロウデンは僕を担いでヤマト征服でもするおつもりらしい。生憎僕はそんな器ではありません。目の前の民を救えればそれで満足する器の小さい男です。もう少し地に足の着いたお話にまとめ直して出直してきてください」

「な、何を仰います? 私どもは無論地に足の着いたお話をするつもりで」

「はい、嘘ですよね。これから散々ベッドの中で僕を焚き付ける気でいました。反吐が出ますよ。今日の所はお引き取り下さい」

「~~~~!!?」

「何度も言わせないで下さい。仕方ない、冒険者の貴方を力尽くでは退出させられないでしょうから、代わりに僕がこの部屋から退出します。ごきげんよう、サヨナラ」

 ジェラルドは呆然と見送った。


 執務室に戻ったスタークはソファに顔から倒れ込み寝ころんだ。

 その仕草は何処となくレイネシアに似ており、もしこの二人が出会ったなら、大いに共感しただろう。今となってはさほど意味は無いが。

「わざわざ外側だけレイネシア姫に似た女を寄越すとは、趣味が悪いにも程が有る」

「スターク様の目にはそれほど中身が別のモノにお映りだったのですね」

「ああ。僕がレイネシア姫の力になりたいと思ったのは、その民を想う高潔な心にだ。ジェラルドはその真逆さ。そうでなくともフロウデンには、貴族にはこびへつらう癖に、一般の〈大地人〉を人とも思わぬ扱いをする者が多いと聞く。とても手を貸す気にはなれんね」


 -4-

 

 ナインテイル自治領上空。

 シロエ達はそれぞれ鷲頭獅子や鋼尾飛龍に乗って南への帰路についていた。

「そんなに〈大地人〉に対する扱いが酷いんだ?」

「ああ」

 ミナミの現状を訊ねるシロエに、カズ彦は眉間に皺を寄せ答えた。

「俺達がいくら取り締まっても、〈大地人〉への利益配分のピンハネも、過剰労働も、人身売買スレスレの扱いも無くなりゃしねえ」

「カズ彦さんは頑張ってますよ~。そのお蔭でこれ以上酷くならずに済んでるんです~」

 健気に庇うアヤメ。

「一番の問題は常識なんだ。お前さんとこのアキバは、みんな〈大地人〉は血も涙も通う同じ人間の認識みたいだが、ミナミじゃどこまで行ってもNPCってロボット扱いなんだよ」

「うん、そうらしいね。でもそれはインティクスとゼルデュスさんの情報操作だからでしょ?」

 その言葉にカズ彦はキッとインティクスを睨み付ける。

「本当か!?」

 インティクスは忌々しげに舌打ちして目を逸らす。

「…………」

「だってその方がミナミが儲かるもの」

 無言を貫くインティクスに代わりシロエが答える。

「アメリカが故意に国民の経済格差を放っておくのは、その方が工場や農場の単純作業労働者を安い賃金で働かせられて安価な製品を作れるからだ。近年では中国がそれをより効率的に行って、一人っ子政策違反の二人目や三人目、農村戸籍の違法都市移民者、ウィグル再教育労働者と言った存在を奴隷同然の扱いで安価な労働力として用い、世界中に安価な製品を輸出している。フロウデンのやっているのは、オリジナリティの無いその物真似だよ。その為には〈大地人〉は人権の無いNPCのままの方が、実質奴隷として下働きさせるのに都合がいいのさ」

「お嬢! お前も承知の上だったのか!?」

「お嬢?」

 詰め寄るカズ彦やマヒル達。

「否定しないわよ。昔の私は弱かったもの。現実に虐げられたヲタクの楽園を作るために必要ならばと受け入れたわ。でも結局は自分を鎧う力はより強大な方がいいからって言う、偽善に過ぎなかったのよね…………」

「お前、ホントにオレ様がいないとダメダメだな」

 ニヤニヤ笑うヒリュウ。

「うっさい! あー聞こえない聞こえない!!」

 拗ねる濡羽。

「こいつの醜い所はそれだけじゃないのよ!」

 インティクスが突如吠える。

「他にもいっぱいあるわ! 何よりこいつはこの世界で両手の指じゃ追い付かない数の男を色仕掛けで誑かしたビッチなのよ! こいつなんか幸せにする価値なんて無いわよ、ヒリュウ!」

 顔を蒼くし身を強張らせる濡羽。

「ふーん。そっか」

 それに対するヒリュウの返事は素っ気ないものだった。

 だが、それを聞いたアカツキは何故かクスリと笑った。

「だが生憎オレはこいつの事を良く知っている」

「…………ヒリュウ?」

 涙ぐむ目てヒリュウを見る濡羽。

「こいつがやたら記憶力がいい上に重度のエロゲギャルゲ廃人の超弩ヲタクだと言う事もな! お前各ヒロインの台詞を一字一句たがわず記憶してて、相手の好みのキャラを演じてただろう、このやらずぼったくり女!」

 ちーん。

 全滅するロレイル達親衛騎士団。いとあわれ。 

「………て、テメエこの野郎!」

 鋼尾飛龍の後ろに乗るヒリュウの首を絞める濡羽。

「わ、馬、馬鹿止めろ!」

「よくもロマンサーガ文庫とシューズ文庫の絶対極秘案件をべらべらと! ファンがいなくなったらどう責任取ってくれんのよ! 死ね、死んでしまえ!!」

(もう時効ですよね、富士見さん角川さん)

「あー、僕への口説き文句も某ハリウッド女優のパクリでしたよね」

 さりげなく突っ込むシロエ。

「チッ、知ってたのか。道理で引っかからないと」

 舌打ちする濡羽。

「ソロモン、ヴァディス! テメーらかヒリュウにばらしたのは!?」

「「いえいえ滅相も無い! そんな事したら業界から干されて死んじゃう!」」

「こいつらがばらさなくても情報源なんかいくらでもあらあ。好きな女の事なんだからそれくらい耳にして当然だろ?」

「え? まさかストーカー行為を?」

「そこまでするかっ! ちょっとした書き込みに気を配ってるくらいだ! 別垢や偽名使っててもなんとなく分かるんだよ!」

「おお、愛の力ですね」

「流石ですにゃあ」

 感心するソウジロウとにゃん太。だが―――

「きしょ」

 切って捨てる濡羽。

「なんだとー!?}

「うるさいうるさい! アンタばかりアタシの事を何でも分かってる顔しないでよ! こっちだってアンタの弱みの一つや二つ幾らでも握ってるわよ!」

「なら言ってみろよ! ってゆーか何で知ってるんだよ!?」

「ぐっ……、うるさいうるさい!!!」

 いつまでも終わらぬ口喧嘩。

「ふふふっ」

「どうした、セララ?」

 問うアカツキ。

「濡羽さんの小説の通り。ヘラヘラさんと奥さんはいつも喧嘩してるんですよね」

「ふふ。そう言えばそうだったな」

 二人は顔を見合わせてクスクスと笑い合った。

 

 -5-


 ウェストランデ元老院。

 西の貴族社会の中枢は紛糾していた。

 ナカルナードとミズファの立て続けの失態により少なからず失われた領土。

 それを取り返すには新たな戦力が必要であり、その為にアキバの勢力に取り入ろうとするが、レギオンレイド級の戦力を揃えるギルドにはどうにも色よい返事が無い。

 加えて東征して威を示さねばならぬマルク殿下に付けるべき戦力も無い。

 斎宮家家宰にして元老院副議長であるブロードは溜め息を衝く。

 議長職こそ身分からバーゼル侯爵に任せているものの、実質的な取りまとめ役であるブロードの肩にはこれら難題の責荷が重くのしかかっていた。

 会議は責任のなすりつけ合いで何ら進展しない。

 辛うじて決まったのはマルク殿下と東西に二分する軍の一方を率いる名目上の征夷将軍に、ラウンド伯爵を任じた事ぐらいで、それにしてもフロウデンからの提案を、他に落としどころも無いからと消極的に受け入れたに過ぎない。

 自らの席で苦虫を噛み潰すブロードに、家臣の耳打ちが入る。

「何? まことか!」

 不意に立ち上がったブロードに他の貴族達の視線が集まる。

「諸君、喜びたまえ。かつてよりの〈西の納言〉の要請に応え、東の賢者シロエ殿がフロウデン第11席に加わった。同じく第12席に加わった、行方不明であった濡羽殿の右腕ヒリュウ殿とともに軍を率いて下さる。これで領土を取り戻し、東に威を示す事が出来るのだ!!」

「「「おお」」」

 どよめく貴族たち。

「だが果たしてそう上手く行きますかな?」

「何、上手く行かねば責任はシロエ殿にとらせればよいのだ。いつも通り我等は何も傷付かぬ」

「然り然り」

「さしあたってはかねてよりの提案通り〈東の外記〉の名を下賜すれば、喜んで尻尾を振ろう」

「まことまこと」

 調子のいい貴族達に合わせて作り笑いを浮かべながら、ブロードは内心再び溜め息を衝く。

(何が傷付かぬだ。失敗すれば、今回ばかりは我らウェストランデが東の軍門に降る事になり、無傷とは行かぬのだぞ。権力ボケした老害どもが)


 -6-

 

 ウェストランデ、冒険者都市ミナミ。

 シロエ一行とてとら一行はほぼ同時にミナミに辿り着いた。

「おっひさー! シロエさん!アカツキちゃん!セララちゃん!班長!」

「てとら達も元気そうで何より」

「まーかせて!}

「何より何より」

「元気元気」

 レリアとリトカのモフール姉妹も喜色満面で応える。

「はわわ~、お久し振りです~」

 セララはそんな二人の可愛さと懐かしさに感極まってハグをする。

「セラ姉も元気で何より」

「班長ともっと仲良くなれた~?」

「が、頑張ってます~!」

 シロエが横を見ると班長が小さく咳払いするのが見えた。

 あれからセララは前に比べると積極的にアプローチを繰り返し、班長がのらりくらりと躱している。なまじ憎からず思っているから、どう扱うか困っているようだ。やれやれ。

「でよ、シロ。本当にこいつらに任せて大丈夫かあ?」

「自分の元部下なんだから信じようよ、カズ彦」

「けっ、御見通しかよ」

「ロデリックさんから聞いてるけど、機材の準備もばっちりなんだよね?」

「勿論!」

「任せてくれたまえ」

 五十鈴とルンデルハウスも得意げだ。

「一体何するつもりなのよ?」

 訊ねる濡羽。

「ちょっとこの街の空気を変えたくてね。ついでにアキバも」

 そう言ってシロエは3枚の羊皮紙を取り出す。

「さあ、てとら、レリア、リトカ。契約書にサインして」

「ひゃっほー! これで銀河レディオアイドルてとらちゃん爆誕だねっ!!」

「任せて」

「いっぱい練習してきた」

「じゃあ行くよ」

 シロエが契約の文言を唱え始める。

 青白い燐光が4人の周囲を淡く舞った。

 

 ―第27話に続く―



●おまけ


◎スターク=ラウンド伯爵

 〈ノウアスフィアの開墾〉ヤマト編本来のゲーム中主人公。ヤマト皇王になる予定だった。

 メタい事を言えばヒロインであるレイネシアに共感する平凡を好み愛する人柄であり、また冒険者のやりたい事を自由に許す度量を持ちつつも、NPC同士の政争に於いてはチートとも言える無敵の強さを発揮する上に公正無私な人。と言うヤマト統一のゲーム進行に必要とされるスペックを満たすべく設定された。

 そんなゲームとして都合がいい人が実際に自我を持つとこんなんになりました(笑)。

 公正無私なのは今時の多くの若者と同じく出世を望まない人柄で、私欲が少ないからである。ほどほどの平凡な庶民の幸せで充分、自分の本当の幸せを知っている人なのだ。

 だがと言うかだからというか、覇気に欠けいつもケネスに尻を叩かれる。

 チート能力は必然と言うべきか、クラスティと同じ〈悟りの妖怪〉。これは本来はNPC同士に於いて発揮される物だったのだ。彼がすべての人物の裏設定に都合よく気付くのはそれがゲームの設定だからだ。開発者しか知らない事にでも、彼はゲームの御都合主義で分かってしまう。それだけの設定だったのだが、ゲームが現実になってしまったあおりを受け、それは彼本来の個人としての能力となり、冒険者に対しても発揮されている。

 お蔭でクオンにも予知不可能の事態となってしまったwwww

 お見合いの席で警備隊長を務める彼とレイネシアは出会い、クラスティとの凸凹カップルとは対照的な、似た者同士の親友のようなカップルになるはずだったのは、実現しなかった裏話。

 尚彼もヤマト皇王朝家の血を傍系ながら引いている。

 ラウンド伯爵家は斎宮家の分家なのである。


◎“影姫”ジェラルド(狐尾族、妖術師、娼姫)

 十席会議に参加を許される身分ではあるが、公式には彼女の席次は無い。理由は表に知られてはいけない濡羽の影武者だからである。必要あって非公式に十席会議に出席する時は仮面をかぶって濡羽の後ろに立つが、基本的に濡羽かインティクスの意見に同調するのみで自己主張をしない。

 彼女にとっては男性をたぶらかして掌で転がす事だけが興味の対象であり、他はどうでもいいからである。だからと言って単純に悪人とも言い難く、自分のスキルや性癖が他人の役に立つ事も素直に喜んでいる節がある。

 つまり手段の為には目的を選ばない享楽的な人なのだ(笑)。ってゆーか十席って他の人もそんなんばっかりな気がするwwww

 オーバースキル(口伝)は性別以外自由に容姿を変えられる〈変わり身の七尾〉。


筆者(以下:筆):「今月のテーマはSFと宗教~」

アカツキ(仮名、以下:あ):「また怪しげなテーマだな」

クリス(仮名、以下:く):「まあでもネタにしてる奴沢山いるよ。俺なんも考えてないけど」

筆:「流石考えなくても頭にパッパとイメージ浮かぶ天才しゃまは違いますね」

く:「ぐはあっ!」

あ;「苦しんでいるのか喜んでいるのかどっちなのだ?」

筆:「それはそうと、もし今ブッダがいたら宗教家で無くSF作家になってたかもしれませんね」

く:「それあるかも(苦笑)」

あ:「仏陀の書くSF。すごい、何か面白そうだwww」

筆:「宗教の教えを神の御意志でなく、演繹的手法と取ると、利己も利他も突き詰めると究極的には同一的な手法を取る事になるからこうしましょう、と説いている事になります」

く:「それは言える。ブッダもキリストもムハンマドも相当に頭の良い人物だったのは確かだと思うよ」

あ:「利己的に生きたければ周囲と良好な関係を築くべきだし、利他的に生きたければそれを行うための自分や心や健康や仕事や財産を大事にしようという事だな。何の事は無い、今で言えばバランスの取れた社会人が一番賢いと言う事だ」

筆:「それを効率的に教える手段として神話やお伽話が有り、その登場人物である神を祀る宗教が有ると言えます。現代で言うバランスの取れた社会人の具体例、平凡だけどちょっと格好いい主人公が賢さの体現者である神と言う事になります。なので現代にブッダがいれば、漫画やアニメやトレンディドラマでそれを表現したかもしれません。おやそう言えば、どこぞの天才デザイナー様もお伽話作家でしたね」

く:「げほげほげほ」

あ:「苦しんでいるのか(以下略)」

筆:「何故SF作家が一番有り得るかと言うと、ブッダの思索は高等哲学はもとより数物理学の領域にまで及んでいた節が有るからですね」

く:「世界を三次元で無く数物理学的見地から十数次元の存在として見ていたらしいのは凄い」

あ;「そこまで頭が良いと、周りとのギャップが凄過ぎて自分の考えを神仏の教えダヨーとでも言うしか他人に受け入れてもらえなかったのだろうな。苦労が偲ばれる(苦笑)」

筆:「古代の賢人知識人は多かれ少なかれそうだったんじゃないかな、では続きは来月~」

一同:「「「まったね~(^^)/」」」


 またもあとがきのオマケ。

 とまあ先月のオマケでちょっと言いましたが、既に以前から筆者の別の講義の内容を某作品や某作品で、言い方を変えて引用してもらった事もあり、それ故劇中のシロエの台詞が以前どっかで聞いた事ある内容じゃん、てな事も有ったりするのですが、まあそれは御愛嬌と言う事で。

 皆様には逆に、じゃあこの作品も全力戦闘管制に参加してたの? とかワクワクして頂けると幸いです。まあそれらを俺が上手く締めれるかどうかちょびっとプレッシャーですが(ヘタレ)。

 それはそれとして筆写の別作品の登場人物が某作品の登場人物に似ているとかについては今の処黙秘しますが、◎×と△※とかをモデルにする時はちゃんとほうれん草しよう。色々トラブルも起きたから。具体的に言うと(以下略)とか洒落にならない事も有ったから、まぢで。頼みます。

 みんな胸に手を当ててみよう。

 それはそれとして有形無形の御声援、ご協力、深く感謝いたしますm〈--〉m。

 これからも何卒宜しくお願いします。

 知り合いの方々も、読者の皆様も。

 

 さらにおまけ。

 ハーメルンで機動戦士ガンダムSS番外編UPしました。

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