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このコーヒーを飲み終えたら  作者: 亨利(ヘンリー)


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第5章 月曜日の午後

「アンテナ工事の予定がこんなに押してるんじゃ、来年春からのサービスには間に合わないでしょう」

 その日の昼食後、達也は顧客である電信会社の会議室で、仕事の打合せをしていた。

「関連業者の高所作業中に人身事故があってな。日本中の現場で事故対策を実施しないと、本部から工事再開を認めてもらえないんだよ」

 それを聞いた達也は、言葉控えめに、

「高所に上らない準備作業だけでも、どうにかならないもんでしょうか」

 すると担当者は、

「全部、本部次第」

「本部はどこなんですか?」

「東京に決まってるでしょ」

「東京ですか。そこに進言するにはどうすれば・・・」

「高ノ宮支部からお伺いを立ててもらうしかねぇ」

(高ノ宮支部?・・・そこって松井さんが勤めてるって言ってた・・・)達也は少し考えた。

「高ノ宮の電話局のことですか?」

 すると、電信会社の関係者は皆、キョトンとした顔をした。

「下村さん、今時『電話局』って言いませんよ」

「電話局じゃないんですか?」

「下村さんて、意外に歳食ってんじゃないでしょうね。僕ら公務員じゃなく、通信会社の社員ですよ。昭和じゃあるまいし。はははは・・・」

(昭和・・・松井さんて何歳なんだろう?)


 達也は当分作業ができそうにないので、仕方なく自社に引き上げた。事務所に着くと、係長が両手にコーヒーの入った紙コップを持ってやってきた。

「下村君、しばらくアンテナの作業ができないなら、鉄道架線のチームを手伝ってくれないか」

 そう言うと片方の紙コップを差し出した。

「ああ、はい。ありがとうございます。ヒマしてるより、そのほうがいいですよ」

 達也はそのコーヒーを受け取ると軽く頭を下げた。

「作業は深夜になるから、明後日の水曜の晩からお願いしてもいいかな」

「夜間作業ですか」(木曜の晩は、カウンセリングが・・・)

 達也は一口飲みながら一瞬迷った。

「何か予定あった?」

「いえ、大したことじゃないんで大丈夫です」

(別に予約したわけじゃないし、まあいいか)

「じゃあ、水曜の晩は、まず安全教育を受講してから、現場に入ってくれ・・・あ、昼夜反転してしまうから、火曜日は休んで、リズムを整えておいてくれよ」


 その晩、帰宅した達也は、息子・隆志に

「ニット帽どうした?」

「うん。部屋」

「彼女なのか」

「ううん」

「そうか・・・」

「・・・お母さん本城さんのこと知ってるのか?」

「・・・うん」

(またカラ返事か)「よく思ってないのか?」

「さあ」

「どうして?」

「いろいろ」

「詳しく知りたいな」

「大丈夫だし」

(大丈夫ってどんな意味で使ってるんだ?)「そう言うな」

「知らない」

「そうか・・・」(思春期の男の子はこんなもんか)

 達也は詮索を諦めた。

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