↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/18

6

「これだ……」

 響が呟いた。


「え?」

 彩花は戸惑ったように響を見上げた。


 響の目が、今まで見たことがないほど輝いていた。


「これだよ」


 響は彩花の顔をじっと見つめた。


「手入れされていない髪。化粧をしていない素肌。香水じゃない……君自身の匂いがする」


 彩花は何も言えなかった。

 響はまるで、ずっと探していたものをようやく見つけたような顔をしていた。


「いまの君は魅力にあふれてる」


 そう言って、響は彩花を抱きしめた。

 彩花の身体が小さくこわばる。

 響はそのまま彼女の肩に顔を寄せた。


「……響さん?」


 返事はなかった。

 ただ、先ほどまで冷たかった男が、今は不思議なくらい穏やかだった。

 彩花は戸惑いながらも、響の背中にそっと手を添えた。


 一週間、何をしても響の心には届かなかった。

 けれど今、彼が見つめているのは、化粧も整えられた髪も、財閥家の令嬢という肩書きもない、自分自身だった。

 それが彩花には、少しだけ不思議だった。


「口に合わない手料理でもかまわない」

 響は静かに言った。


「ずっと、俺の側にいてくれ…」


「……」


 彩花は何も言えなかった。

 さっきまで自分を冷たく突き放していた男が、今度はまるで別人のような言葉を口にしている。

 響は彩花から離れると、そのままベッドに入った。


「一緒に寝よう」


「……別居の話は?」


 彩花が尋ねた。

 響は不思議そうな顔をした。


「冗談に決まってるだろ」


「…………」


 彩花は言葉を失った。

 響は何も気にする様子もなく、布団の中で目を閉じた。

 彩花はその隣で、しばらく天井を見上げていた。


 一週間前、自分が結婚した相手は、冷静で知的で、隙のない男だと思っていた。

 財閥家の長男として、いつも完璧に振る舞う人。

 ところが実際には、その外見からは想像もつかないほど気まぐれで、感情の振れ幅が大きく、そして何を考えているのか分からない。

 そのことに、彩花はただ圧倒されていた。


 自分が恋をした男は、いったいどんな人間なのだろう。

 答えはまだ見つからない。

 ただ一つ分かることがあるとすれば、昨日までよりもずっと、この男のことが分からなくなったということだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。