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「……だめだな」
響がそう言って、彩花から離れた。
突然だった。
彩花は戸惑ったように響を見る。
「なにがです?」
響は答えず、少し考えるように彩花を眺めた。
「君は女性としての魅力がない」
「…………」
彩花の表情が固まった。
響はまるで、何かの性能を確かめるような目で彼女を見ていた。
「君を見ていても全く感情が高ぶらない…、何故だ?」
「…………」
何も言えなかった。
胸の奥に、冷たいものが落ちていく。
響は首を傾げた。
「全く何も感じない。まるでプラスチックの人形だ」
「…………」
「百年後の未来の女性型アンドロイドみたいで、気味が悪いぞ」
彩花は俯いた。
指先が小さく震えていた。
「身体が綺麗すぎるからか?」
その言葉を聞いた瞬間、彩花は顔を上げた。
「……最低」
「なんだと?」
響が眉を動かした。
次の瞬間だった。
ぱん、と乾いた音が寝室に響いた。
彩花が響の頬をひっぱたいていた。
響は何も言わなかった。
叩かれた頬に手を当てたまま、彩花を見つめていた。
彩花の目には涙が浮かんでいた。
「……そんなひどいこと、言わないでください!」
声は震えていた。
「私は人形ではなく人間です。私の外見ではなく内面を見てください」
静かな部屋だった。
さっきまでそこにあったはずの温度が、いつの間にか消えていた。
「悪いが俺は、君に興味を持てない」
響は淡々と言った。
「……」
彩花は何も答えなかった。
響の言葉が、胸の奥に冷たく沈んでいく。
「いまの君には何の魅力もない…」
それだけ言うと、響は何事もなかったかのようにベッドへ戻った。
布団を引き上げ、背を向ける。
やがて、規則正しい寝息が聞こえ始めた。
彩花はその場に立ったまま、響の背中を見つめていた。
「…………」
彩花は怒りで身体が震えていた。
鞭を振られたときよりも、今の言葉のほうがずっと胸に残っていた。
自分はこの人の妻になった。
それは彩花にとって、ずっと望んでいたことだった。
けれど今、そのことがひどく遠いものに感じられた。
彩花は拳を握った。
眠っている響を見つめる。
そして小さな声で呟いた。
「……絶対に、見返してやる」
その声は響には届かなかった。
屋敷の夜は、何も知らない顔をして静まり返っていた。




