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3

「……だめだな」


 響がそう言って、彩花から離れた。

 突然だった。

 彩花は戸惑ったように響を見る。


「なにがです?」


 響は答えず、少し考えるように彩花を眺めた。


「君は女性としての魅力がない」


「…………」


 彩花の表情が固まった。

 響はまるで、何かの性能を確かめるような目で彼女を見ていた。


「君を見ていても全く感情が高ぶらない…、何故だ?」


「…………」


 何も言えなかった。

 胸の奥に、冷たいものが落ちていく。

 響は首を傾げた。


「全く何も感じない。まるでプラスチックの人形だ」


「…………」


「百年後の未来の女性型アンドロイドみたいで、気味が悪いぞ」


 彩花は俯いた。

 指先が小さく震えていた。


「身体が綺麗すぎるからか?」


 その言葉を聞いた瞬間、彩花は顔を上げた。


「……最低」


「なんだと?」


 響が眉を動かした。

 次の瞬間だった。

 ぱん、と乾いた音が寝室に響いた。

 彩花が響の頬をひっぱたいていた。

 響は何も言わなかった。

 叩かれた頬に手を当てたまま、彩花を見つめていた。

 彩花の目には涙が浮かんでいた。


「……そんなひどいこと、言わないでください!」


 声は震えていた。


「私は人形ではなく人間です。私の外見ではなく内面を見てください」


 静かな部屋だった。

 さっきまでそこにあったはずの温度が、いつの間にか消えていた。


「悪いが俺は、君に興味を持てない」


 響は淡々と言った。


「……」


 彩花は何も答えなかった。

 響の言葉が、胸の奥に冷たく沈んでいく。


「いまの君には何の魅力もない…」


 それだけ言うと、響は何事もなかったかのようにベッドへ戻った。

 布団を引き上げ、背を向ける。

 やがて、規則正しい寝息が聞こえ始めた。

 彩花はその場に立ったまま、響の背中を見つめていた。


「…………」


 彩花は怒りで身体が震えていた。

 鞭を振られたときよりも、今の言葉のほうがずっと胸に残っていた。

 自分はこの人の妻になった。

 それは彩花にとって、ずっと望んでいたことだった。

 けれど今、そのことがひどく遠いものに感じられた。


 彩花は拳を握った。

 眠っている響を見つめる。

 そして小さな声で呟いた。


「……絶対に、見返してやる」


 その声は響には届かなかった。

 屋敷の夜は、何も知らない顔をして静まり返っていた。



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