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御曹司と令嬢のハラハラドキドキ新婚生活  作者: ひだまり
彩花の生誕記念祝賀パーティー
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16/18

16

 直樹はもう黙って見ていることができなかった。

 テラスへ向かって歩き、響と架純の間に割って入る。


「直樹さん!?」

 架純が驚いた声を上げる。


 直樹は響を見つめた。


「妻と親しくするのは構わない」


 一度言葉を切る。


「だが、少し距離が近すぎやしないか?」


 響は直樹を見つめた。


「……さきほどのやり取りを見ていたんですか?」


「ああ……」


 直樹はそう答えると、架純の肩に手を置き、響から少し離れさせた。


「直樹さん……」

 架純は困惑した表情を浮かべる。


 その様子を、少し離れた場所から彩花が見守っていた。

 直樹は真剣な顔をしている。

 響はしばらく何も言わなかった。

 やがて、深く息を吐く。


「……」


 響は眼鏡の位置を指で直した。

 そして、直樹をまっすぐ見た。


「直樹さん。少し、二人きりで話がしたいです」


「……分かった」


 二人はそのまま屋敷の中へ入っていった。

 残された架純は、不安そうに二人の後ろ姿を見つめていた。

 彩花が架純に近づき、そっと彼女の手を取る。


「架純さん」


「はい」


「二人の後を追いましょう」


「え?」


 彩花が架純の手を引き、響と直樹の後を追って屋敷の中へ入っていった。


 ♢


 響と直樹は、屋敷の二階にある談話室へ入った。

 普段は客をもてなすために使われている部屋だったが、今は誰もいない。大きな窓から差し込む午後の光が、静かな室内を照らしている。

 扉が閉まる。

 その直後、廊下にいた彩花と架純が顔を見合わせた。


「……どうしましょう」

 架純が小声で言う。


 彩花は少し考えたあと、そっと扉に近づいた。


「何を話しているのか…聞いてみましょう」


 二人は扉に耳を近づけた。

 中から、直樹の声が聞こえてくる。


「まさかとは思うが……うちの妻と浮気してるんじゃないだろうな?」


「まさか……ありもしない憶測はやめていただきたい」


「だが、さっきの君の態度は__」


「直樹さん」

 響の声が少し低くなった。


 直樹が言葉を止める。

 次の瞬間、響が一歩近づいた。


「……なっ…なんだ?」


 直樹の背中が壁に触れる。

 響は直樹を壁際まで追い込み、その横に手をついた。


「っ……なんなんだ一体…」


 廊下で聞いていた彩花と架純が息を呑む。

 部屋の中では、響が直樹と目を合わせていた。


「どうして、僕と架純さんの会話を盗み聞きしていたんですか?」


「……君は完璧すぎる男だから、本性が知りたいと思った…、そしたら案の定、自分の妻を口説いていたというわけだ」


「口説いていません、あれは_」


「言い訳は聞きたくない」


「……」


「……」


 響はしばらく直樹を見つめた。

 扉の向こうでは、彩花と架純が固唾を呑んでいる。


「どうなるんでしょう……」

 架純が震える声で囁いた。


「……わかりません」

 彩花も小さく答えた。


 部屋の中では、二人の男が一歩も引かずに向かい合っていた。

 響は壁際に立つ直樹を見つめていた。

 しばらく沈黙したあと、響が静かに口を開いた。


「僕は、あなたのことを尊敬しています」


 直樹が目を見開く。


「……俺を尊敬しているだと?」


「はい」


 響は眼鏡の位置を直した。


「財閥家の長男としての直樹さんは、僕にとってお手本…」


「…………」


「自分が目指すべき姿だと思っています」


 直樹の表情が少しずつ変わっていき、先ほどまでの警戒心が、ゆっくりとほどけていく。


「だからこそ、あなたのことをもっと知りたいと思いました」


 響は続ける。


「それで、架純さんと親しくなって、直樹さんのことをいろいろ聞こうとしていたんです」


「…………」


 直樹はしばらく言葉を失っていた。

 やがて、深く息を吐く。


「そういうことか……」


 その声には、先ほどまでの険しさはなかった。


「話が聞きたいなら、直接、俺に聞けばいいだろう……」


 直樹は苦笑した。


「勘違いしてしまって、すまなかった」


「いえ…こちらこそ、勘違いさせてしまい、すみませんでした…」


 長い沈黙の後、響が話し始める。


「直樹さん」


「なんだ?」


「個人的な話をしていいですか?」


「ああ、かまわない」


 響が俯きながら声を震わせる。


「…僕はずっと、長男として…誰にも弱みを見せずに生きてきました…。

 だから、直樹さんのように信頼できる、頼れる兄がほしかったんです…」


「……」


「…すみません」

 眼鏡を外し、目頭を押さえる響。

 そのまま直樹に背を向け、笑いをこらえる。


「響くん…、俺は君の義兄として、君の力になりたい…。悩んだときは、俺を頼ってくれ」


「ありがとうございます、直樹さん…」


 響が振り向き、直樹に微笑みかける。


「直樹さんじゃなく、義兄(にい)さんでいい」


「では……義兄さん」


 直樹が響の肩に手を乗せ

「それでいい」

 と頷いた。


 二人が笑った、そのときだった。

 ……ガタン。

 扉の向こうから、小さな物音がした。

 二人が同時に扉を見る。


「誰かいるのか?」

 と、直樹が扉へ歩いていき、勢いよく開けた。

 そこには、彩花と架純が立っていた。


「…………」


「…………」


 二人とも驚いた顔をして固まっている。

 直樹は腕を組んだ。


「人のことは言えないが、盗み聞きは良くないぞ」


 彩花と架純は顔を見合わせた。


 そして、観念したように小さく頭を下げ

「ごめんなさい」

 と同時に謝った。




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