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御曹司と令嬢のハラハラドキドキ新婚生活  作者: ひだまり
彩花の生誕記念祝賀パーティー
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15/18

15

 屋敷の裏庭。

 華やかなパーティーの喧騒から離れた場所で、直樹と彩花は並んで立っていた。

 直樹は屋敷のほうを振り返り、少し考えるようにしてから口を開いた。


「……彩花。お前の夫、完璧すぎると思わないか?」


「完璧すぎるって…、なにが言いたいの?」


「…挨拶も完璧。話し方も完璧。誰に対しても感じがいい。あそこまで隙がないと、逆に気になる」


「……」


「家でも、あんな感じなのか?」


 彩花は答えなかった。

 直樹は妹の顔をじっと見つめる。


「家で暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりしていないか?」


 その言葉を聞いた瞬間、彩花の脳裏にいくつかの光景が浮かんだ。

 冷たい言葉。

 痛くない鞭でたたかれたこと。

 泣いた夜。

 けれど彩花は、それらを胸の奥へ押し込めるように首を横に振った。


「響さんが、そんなことするはずないでしょ」


「……そうか」


 直樹は納得した様子ではなかった。

 そして、少し間を置いて尋ねた。


「浮気は?」


「…………」


 彩花の表情が一瞬だけ固まった。

 ジェニファー。

 ローラ。

 海外での出来事が、次々と頭に浮かぶ。

 それでも彩花は首を横に振った。


「響さんは一途な人よ。浮気なんてするはずないわ」


「…………」


 直樹は黙った。

 その目には、明らかな疑いが浮かんでいた。

 彩花はそんな兄の視線から逃げるように、庭に咲く花へ目を向けた。


「本当に、大丈夫だから」


 そう言った声は、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

 直樹は何も言わなかった。

 ただ、妹の横顔をじっと見つめていた。


 ♢


 直樹と彩花が庭を歩いていると、屋敷のテラスに人影があることに気づいた。

 直樹が足を止める。


「……なに!?」


 彩花もそちらを見る。

 そこにいたのは、響と架純だった。

 二人きりだった。


「なんだか……嫌な予感がするわ」


 彩花が小声で呟く。


「ちょっと待て。見つからないようにしよう」

 そう言って直樹は彩花の腕を引き、テラス近くの柱の陰へ身を隠した。


 彩花もその隣にしゃがみ込む。


「兄さん、何してるの?」


「何って……」


 直樹はテラスを見つめた。


「お前の夫の本性がわかるかもしれない…」


 彩花は呆れたように息を吐いた。

 やがて、テラスから響の声が聞こえてきた。


「架純さん」


「はい」


 響は微笑みながら架純を見る。


「あなたのような美しい女性を妻に持つ直樹さんは、幸せ者ですね…」


 直樹の表情が固まった。


「……」


 彩花は黙って響を見ている。

 響が女性を褒めることには、もう慣れていた。

 架純は少し驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。


「そう言っていただけて、嬉しいです」


 そして、響をまっすぐ見つめる。


 響が架純に微笑みかけ

「架純さんの声、好きなので…、良ければもっと近く…耳元で話してくれませんか?」

 と、架純と距離をつめる。


「あの…、それはちょっと…」


 架純が思わず顔を赤らめた。


「…………」


 直樹は言葉を失った。

 隣で彩花は、妙に冷静だった。


 直樹はテラスの二人を見つめた。

 響と架純は穏やかな表情で会話を続けている。

 その距離感。

 その空気。

 まるで、長年付き合っている恋人同士のようにも見えた。

 直樹は困惑した顔で彩花を見る。


「お前……夫婦関係は、本当に大丈夫なのか?」


 彩花は小さくため息をついた。


「大丈夫よ」


「本当に?」


「うん」


 彩花はテラスの響を見ながら、静かに答えた。


「もう、ああいうのには慣れたから」


「慣れたって?」

 直樹が低い声で尋ねた。


 彩花はテラスにいる響を見つめたまま答えた。


「響さんは、女性に優しすぎるところがあるの(ただの女好きとは言えない)」


「……」


 直樹は複雑な表情を浮かべた。

 妹の夫が自分の妻と親しげに接している姿を、素直に見ていられるはずがなかった。

 そのとき、響がふと架純の手元に目を向けた。


「……この傷は?」


「え?」


 響が架純の右手を取った。


「この指。怪我してます…」


「っ…!!」


 直樹が思わず立ち上がりそうになる。


「兄さん、落ち着いて…」


 彩花が直樹の腕をつかんだ。


「落ち着いていられるわけがない……」


「大丈夫だから…」


 テラスでは、架純が顔を赤らめ、少し困ったように笑っていた。


「料理をしていたときに、少し手を切ってしまったんです」


「……」


 響は架純の右手を両手で包み込んだ。


「怪我までして手料理を作るなんて…、あなたはどこまで素敵な女性なんだ」


「……」


 直樹は完全に言葉を失った。


「…はぁ」


 彩花の胸の奥に、じわじわと苛立ちが広がっていく。

 自分が料理で指を切った際、それを見ていた響は不器用すぎると鼻で笑っていた。

 彩花は腕を組んだ。


「……もう」

 小さく呟く。


 テラスでは、響が架純の手を離さないまま尋ねていた。


「架純さんの手料理……食べてみたいと言ったら、迷惑ですか?」


「いえ…」


 架純は微笑んだ。


「響さんの好きな料理を作りますので、また今度、うちにいらしてください」


「本当に?」


「はい」


 二人は自然に見つめ合った。

 その光景を見ていた直樹は、呆然としていた。


「…………」


 自分の妻に対する響の態度と、彩花に対する態度。

 そして、今まで自分が知っていた響とはまるで違う男が、そこにいるようだった。

 一方、彩花は冷静な顔をしていた。

 けれど、その内側では明らかに腹を立てていた。


「……私のときとは、ずいぶん違うじゃない」


 小さく漏れた言葉は、直樹には聞こえなかった。

 彩花はテラスの二人から目を離さなかった。

 慣れている。

 そう言ったばかりだった。

 けれど、慣れているからといって、何も感じなくなったわけではなかった。




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