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 響は彩花の肩に手を置いた。


「安心しろ。ローラはジェニファーより親密度ランクは低い」


「…………」


「まあ、これから上がる可能性はゼロじゃないが……上がったとしても、恋人以上にはならない」


 彩花は何も答えなかった。

 響の言葉は、彼なりに彩花を安心させようとしているのだろう。

 けれど、今の彩花には、その言葉がかえって胸に刺さった。


「……」


「どうした?」


 しばらくして、彩花が小さな声で答えた。


「……もういいです」


 彩花は響の手をそっと肩から外した。

 そして、そのままベッドへ入る。

 布団を肩まで引き上げ、響に背を向けた。


「おやすみなさい」


「……」


 響は立ったまま、彩花の背中を見つめていた。


「……ローラとの関係を終わらせればいいのか?」


「そういうことを言っているんじゃありません」


「じゃあ、どうしろと言うんだ?」


「……」


「恋人の枠を空白にしろということか?」


「そうです。そもそも、妻がいるのに恋人を作る必要なんてないでしょう?」


「俺は女性の友人すら作れないのか?」


「女性の友人を作るななんて、言っていません!」


 彩花の声が少し大きくなった。


「問題は、彼女と友達以上恋人未満なんて関係を築いていることです!」


「…………」


「そんなこと、妻がいる男性がすることじゃありません!」


 響は黙って天井を見上げた。

 しばらく考えたあと、静かに口を開いた。


「……わかった」


「え?」


「これからローラとは、ただの友人として接することにする」


「本当に……?」


「ああ、約束する…」


 そう言って響はベッドにいる彩花の隣へ入った。

 彩花もゆっくりと横になる。

 二人は向かい合ったまま、しばらく黙って見つめ合っていた。


「響さん……」


「彩花……」


 響が彩花の頬に手を伸ばした。

 指先が頬に触れ、親指がゆっくりと唇に触れる。

 彩花は目を閉じた。

 響の顔が少しずつ近づいてくる。

 その瞬間だった。


「たこ焼きでも食べたのか?」


「はい?」


 彩花が目を開ける。


「唇にソースがついてるぞ」


「そ、ソースじゃありません!」


 彩花は慌てて唇を拭った。


「はちみつ入りのリップです!」


「……紛(まぎ)らわしいな」

 響はそう言うと、彩花に背を向けた。


「え……?」

 彩花は呆然とした。


「おやすみ」


「…………」


 それからしばらくして、響は静かな寝息を立て始めた。

 彩花はその背中を見つめながら、小さくため息をつき、しばらく彼の背中を見つめていた。

 やがて、そっと腕を伸ばす。

 彩花が響の背中に抱きつき、その体温を感じながら目を閉じた。


(はぁ……、幸せ……)


 声には出さず、彩花は心の中でそう呟いた。

 響の背中は温かかった。

 昼間は何度も振り回され、腹を立てた。それでも、こうして隣で眠れることが、彩花には嬉しかった。


 しばらくすると、響がゆっくりと寝返りを打った。

 彩花のほうを向く。


「……彩花……」


「……?」


 眠っているはずの響が、かすかな声を漏らした。


「好きだ……」


 彩花は目を見開いた。

 響は目を閉じたまま、さらに小さく呟く。


「……愛してる」


 彩花の胸が、ゆっくりと温かくなる。

 それは、起きている響なら決して素直には言わないような言葉だった。


 彩花は微笑んだ。

 そして、眠っている響の胸元にそっと顔を寄せる。


「……私もあなたを愛してます」


 返事が聞こえたのか、響はほんの少しだけ口元を緩めた。

 二人はそのまま、静かな夜の中で眠りについた。




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