夕暮れのコロッケと長い影
夕暮れのコロッケと長い影
私の心臓は喉元までせり上がってきているみたいにうるさくて、自転車のハンドルを握る両手が必要以上に冷たくなっていた。アスファルトの上には、私たちの二つの影がどこまでも細長く伸びていて、時折その境界線が重なりそうになるたびに、私はペダルを踏む足を少しだけ緩めた。目の前の国道沿いには、先週の台風で看板の隅が割れたままのコインランドリーが佇んでいて、夕方の湿った風がそこから乾燥機の温かい洗剤の匂いを運んでくる。
「あのさ、ちょっとお腹空かない?」
不意に隣を並んで歩くハルくんが私の顔を覗き込んできたので、私は慌てて自転車のブレーキレバーをきゅっと握りしめて立ち止まった。彼は白地に青いラインが入ったよれよれの体操着のまま、片手でスポーツバッグを肩にかけ、もう片方の手で少し伸びてきたもみあげを触るいつもの癖を繰り返している。私は自分が今朝、鏡の前で三回も着替えたお気に入りの、胸元に小さな花の刺繍がある白いブラウスに、泥はねのような小さな茶色いシミがついているのを思い出して急にいたたまれなくなった。
「うん、実は私、お昼にお弁当の玉子焼きを床に落としちゃって、あんまり食べてないんだよね」
ハルくんは「なんだそれ」と嬉しそうに白い歯を見せて笑うと、私の自転車の荷台をひょいと掴んで、商店街の角にある古ぼけた肉屋へと歩き出した。肉屋の店先では、年季の入ったフライヤーからジュワジュワと油が爆ぜるいい音が響いていて、壁に掛けられた手書きのカレンダーには「火曜特売」という赤い文字の横に誰かのマジックの走り書きが残されている。私は夕飯のおかずとして母から頼まれていたアジの開きの買い出しのことなんてすっかり忘れてしまい、ハルくんの歩幅に遅れないように、必死で自転車を押して彼の背中を追いかけた。
「はい、これ半分な。揚げたてだから熱いぞ」
油の染みた薄い茶紙に包まれたコロッケを差し出され、私はそれを指先でそっと受け取ったけれど、熱さのせいではなく指の震えが止まらなかった。ハルくんは自分の分のコロッケを容赦なく半分に割り、立ち上る湯気も気にせずに大きな口でハフハフと音を立てながら頬張っている。私は昨日の夜、テレビで見た星占いで「明日は予期せぬ幸運があるでしょう」と言っていたのを不意に思い出し、あの時はどうせ当たらないと鼻で笑っていた自分を、今すぐどこか遠くへ消し去ってしまいたいくらい恥ずかしく思っていた。
「これ、ジャガイモがすごく甘くて美味しいね。……ハルくん、また明日も、一緒に帰ってくれる?」




