放課後のコアラと柔軟剤
放課後のコアラと柔軟剤
私の手のひらはうっすらと汗ばんでいて、何度もスカートの裾でそれを拭った。オレンジ色の夕日が差し込む静かな教室には、カサカサと鳴るお菓子の袋の音だけが響いている。もう帰らなければいけない時間なのに、私は昨日スーパーの特売で買った少し潰れたイチゴ味のコアラのマーチを、机の上に一列に並べる作業をどうしてもやめられなかった。
「それ、一個ちょうだい」
ハルくんが私の机の端に腰掛けると、グレーのスウェットに深いしわが寄り、そこから洗いたての柔軟剤の匂いがふわっと広がった。彼は長い指先で眉毛のあたりをかくという、いつもの癖を見せながら、机の上のコアラを真剣な目で見つめている。私は自分の毛玉だらけの紺色のカーディガンの袖をそっと引っ張って、手の甲を隠した。
「あ、うん、いいよ。どれでも好きなの選んで」
ハルくんは「どれにしようかな」と小さく呟きながら、長い前髪の隙間から、笑うと少しだけのぞく鋭い八重歯を見せた。彼が人差し指でコアラの袋の端をつまんでカサリと音を立てるたびに、窓から入り込んだぬるい風が、床の端に転がっている誰かのちぎれた消しゴムのくずを静かに揺らしている。私は今朝、慌てて洗濯機を回したせいで干し忘れた靴下の生乾きの匂いのことを急に思い出して、自分の足元を少しだけ後ろに引いた。
「これ、まゆげのあるコアラじゃん。ラッキーだな」
ハルくんは手に入れたコアラを目の高さに掲げてじっくり眺めた後、嬉しそうに口に放り込んでサクサクと小気味よい音を立てて噛み砕いた。私は返事をごまかすように、教室の片隅の棚の上にある、いつから置きっぱなしなのか分からない端の破れた黄ばんだ算数ノートへそっと目を逃がした。それでもうまく気は紛れず、カーディガンの二番目のボタンの緩んだ糸を指先で何度もくるくるといじり回した。
「ミカちゃんって、いつも放課後ここで何してるの?」
ハルくんは机に両手をついて少し身を乗り出し、私と同じ高さに目線を合わせようと首を傾げた。夕暮れ時の誰もいない渡り廊下から、遠くでバケツがガシャンとひっくり返るような音が響き、その後に静かな沈黙がまた私たちを包み込む。私は机に並んだままのコアラたちを見つめ、ハルくんの足元にある泥のついたスニーカーに視線を落とした。
「部活が終わってグラウンドからここを見上げるとさ、いつもカーテンの隙間にミカちゃんの姿が見えてて、なんか気になってたんだよね。……また明日もいたら、声かけてもいい?」
私は驚いて顔を上げ、ハルくんのまっすぐな瞳を見つめたまま、小さくこくりとうなずいた。その瞬間、開いた窓からすっと吹き込んできた夕暮れの風が、彼のグレーのスウェットを揺らし、あの洗いたての爽やかな柔軟剤の匂いをもう一度私のほうへ優しく運んできた。




