AI小説家 かおるこ
AI小説家 かおるこ
ある雨上がりの朝、かおるこは湯気の立つインスタントコーヒーを机の端へ置き、少し毛玉のできた灰色のパーカーの袖をまくってノートパソコンを開いた。窓際には昨日干した洗濯物がまだ乾ききらずに揺れ、散らかった机には締切を書いた付箋と読み終えた小説が積み重なっている。毎月の支払いを書き込んだ家計簿を開くと、赤いボールペンで「ChatGPT 3000円」「Google AI 2900円」と並んでいて、合計五千九百円という数字を指先でなぞりながら、今日も新作を書き始める準備をした。
「今月も、この五千九百円を小説で回収できるかな」
そうつぶやいてから、かおるこは深呼吸をして投稿サイトの管理画面を開いた。昨日投稿した作品にはお気に入りが一つ増えていたが、収益画面にはほとんど数字が動いていない。それでも画面を閉じずに眺めているうちに、毎日少しずつ積み重ねるしかないのだと考え直し、冷めかけたコーヒーを一口飲んでからキーボードを打ち始めた。
昼になると、食卓には卵焼きと味噌汁、それに昨夜の残りのきんぴらごぼうが並んだ。テレビでは人気作家のインタビューが流れ、「継続が一番大切です」という言葉が聞こえてくると、かおるこは箸を止めて少しだけ笑った。誰も見ていない部屋で頭をかきながら、自分も毎日投稿だけは続けてきたことを思い出し、食器を流しに運んでから再び机へ戻る。
「簡単に稼げるなら、みんな作家になっているよね」
午後も原稿を書き続けたが、思うように文字は進まなかった。それでもタイトルを何度も直し、冒頭を書き換え、読者が一話目で続きを読みたくなるかを何度も確かめる。窓から夕方の風が入り、カーテンがゆっくり揺れる中、机の横には読み返したメモ用紙が増え、消しゴムのかすが白く散らばっていた。
夜になると、投稿ボタンを押したあとで画面を何度も更新する癖が始まった。お気に入りはすぐには増えず、ランキングもほとんど動かないが、かおるこは肩の力を抜いてパソコンのふたを閉じる。歯を磨きながら明日のネタを考え、寝る前に枕元のノートへ「明日はもっと面白い一話を書く」とだけ書き残し、部屋の明かりを消した。
「五千九百円を稼ぐのは簡単じゃない。でも、書かなければ一円も始まらない」
暗くなった部屋には、充電中のノートパソコンの小さなランプだけが静かに光っていた。かおるこは布団を首まで引き上げ、明日の朝も同じ机に向かう自分の姿を思い浮かべながら、ゆっくり目を閉じた。




