33 VSハーレムの少女達②
茂みの中に隠れて息を潜める。
極限まで、かつギリギリまで気配を消す事で奇襲はより効果的になる。
クローラがここまで早く無効化されるのは予想外だったが、まだ修正は可能な範囲だ。
傍らで屈んでいるフランにアイコンタクトで作戦続行を伝える。
後は、自分が動くだけだ。
視線は一瞬レナ宅に向く。
だが、それは必死に意思の力で振り払った。今は気にしている場合じゃない。
この場をいかに早く切り抜けるか。それが結果的にメリアを助ける事に繋がるはずだ。
カナメは、覚悟を決めてゆっくりと動き出した。
クローラが切れると敵の男────カナメは消えていた。
まさに奇襲とでもいうべき動きだったが、その程度に対応できないレナ達ではない。
だがそれは姿を晦ますための作戦だったようだ。フラン共々どこかに隠れている。
レナもカナメの力全てを把握しているわけではない。
なんならその実力自体はほとんど知らなかった。
レナが見たのは彼らのやり取りの一部だけだ。
最初に目撃したのは、エレノアの街での勇者迎撃戦だ。あらゆる策を弄してあの勇者すら撃破してみせた。正直震えた。
それで興味をもってみれば、第五王女様と関わりがあってその勇者になるというではないか。
驚きを隠せなかったが、同時にこれは使えると思った。彼の──ケントのために使えると考えた。
カナメを納得させるために、姉であるフランから以前相談を受けた内容を使った。
正直なところ、疎遠だった姉からの相談にはまともに応じていなかったのだが、勇者を説得させるには都合のいい話だったからだ。
……少しばかり予想外の事態はあったが大した問題ではない。
誰だって陥れてやる。
それがケントのためになるのなら。相手が勇者だろうが、王女だろうが関係ない。
例えそれが、自分に不利になるとしても。
「レナ、本当に覚悟はいいんだな? フランをぶん殴っていいんだな?」
「ああ、もちろんだ。カナメについた以上お姉ちゃん……アイツもケントの敵だ。それを倒す事に躊躇はないよ」
「…………ま、それが本心とは思わないけど。それでも殴る事は変わりない。頼むぞ、アマンダ」
「…………はいはい」
そんな呆れ声を出したアマンダと呼ばれた少女。
魔力を練ると、それを無色のまま波状に展開した。
それは魔力に何の属性も持たせていないがゆえに、現象としては作用しない。だからこそあらゆる障害物を通り抜け、周囲に浸透した。
そして、その魔力への跳ね返りが彼女に全てを知覚させる。
ようは、探知術式だ。
「ケティ、左の茂み」
「オッケー了解!!」
ケティ、というのがボーイッシュな女の名前らしい。
再び拳に魔力を溜めながら、弾丸のような速度で突進する。
「ふっざけんな!!」
身体を無理矢理ひねり、ケティの放った拳を間一髪で躱す。
だが、その恐ろしいほどの拳圧は着弾点で炸裂し、衝撃波をまき散らした。
激しい風圧が身体を叩き数メートルも吹き飛ばされる。
地面をゴロゴロと転がり、街灯に打ち付けられてようやく動きを止めた。
「休んでる暇なんてないよ。出てきたが最後や」
訛った口調の女が手を掲げる。
すると魔力光と共に風が巻き起こり、手の上に収束していく。
渦巻き、うねり、凝縮されていく。ギチギチと破裂の時を待つように。
そして、ニヤリと笑うとそれを解放した。
しかもカナメの方へ指向性を持たせた上で、だ。
ゴオオオオオオオオオオオ!!
風の音とは思えない轟音と共に破壊が撒き散らされる。
収束点から砲弾の如き突風が次々に打ち出され、雨のように降り注いだのだ。
直撃を受ければ身体がどうなるかは……考えたくもない。
(クソッ、観察スキル最大展開……!! 魔力の揺らぎ、相手の視線、風の収束時の流れと破裂時の状態から軌道を計算────完了。完全回避は不可能。肉体の損傷を最低限に抑えるポイントを検索……終了)
「ギ、リギリ…………!!」
もはや視覚情報には頼らない。それでは間に合わない。
自分のスキルの計算だけを信じて身体を衝撃の嵐の中にねじ込む。
だが計算通り衝撃は完全に避けられず、激しい痛みが全身を巡る。
思考が……固まりかける。
だが。
「立ってる、か。流石は勇者を倒した勇者。それなりにやってるもんや。とはいえ満身創痍、これまでちゃうか?」
「ティナ、油断はしないように。次に攻撃は私も参加します。トドメをさしましょう」
「んじゃ、こっちは離れてるわ。巻き込まれちゃたまらねえ」
そんな声もカナメには掠れてしか聞こえない。
身体はボロボロ、ろくに動ける状態ではない。足は震えて立ってるのがやっとだ。ティナが言ったように満身創痍、絶対絶命だった。
けど。
それでも。
目は閉じない。敵を見据え続ける。
諦める事だけはしない。
諦めて、全てを放り出して、逃げ続ける。
あの頃にだけは戻りたくない。そんなもの、この世界に来た意味がない。
だから。
痛みも絶望み耐えて、何事もないように不敵に笑う。
そして、懐からスマホを取り出した。
それを見て、少女達の動きが止まる。
それはそうだ。スマホはこの世界に存在しない物体。警戒もするだろう。
「警戒するか、それは正しい判断だな。なにせ、コイツはアーティファクト。俺があの勇者を倒せたのもコイツのおかげだったりする」
「……………」
「常識を超えた性能だって発揮出来る。例えば──」
カシャ。
カメラを起動しティナを撮影した。
当然、向こうの反応は。
「なんや、何をやった!?」
「安心しろ、まだ害はないさ。ほら、見てみろよ」
そうして撮れた写真をみせる。
カナメからすればそれは当たり前の写真というデータだ。だが、この世界にはその概念がない。だから話を盛ることも出来る。
「ここにいるのは、他でもないアンタだ。そう、コイツは時間と空間を切り取って保存できるのさ。そしてその後の使い方は……言わなくても分かるよな?」
「アンタ…………」
余裕を持って、あくまで上から、ふてぶてしく笑ってやった。
それに対する少女の対応は分かりやすく予定通りのものだった。
「ふざけんな!! 今すぐティナへの呪いを解除しろ!! さもねえとぶっ殺す!!」
頭に血の上りやすいケティが吠えた。
そのまま突撃の構えを取り、拳に魔力が集中していく。
それは恐ろしい脅威だ。
カナメにはどうしようもない力だ。
だが、それは同時にカナメのハッタリを信じたという証拠でもあった。
ならば、ようやく切れる手札がある。
カナメはスマホを持ったまま腕を思いっきり振りかぶる。
「さあ、これでどうする────!!」
そのまま、空へ向かって渾身の力でスマホを投げつけた。
夜空へと飛んでいくスマホ。
それが何かを知っていれば、何馬鹿な事をしているんだと呆れるだけだっただろう。
だが、今は違う。
少女達にとってスマホは未知のアーティファクトであり、ティナの姿が切り取られたモノであり。
そして勇者を倒せるほどの力を持つモノである。
ようは、カナメ本人よりも注意を払う必要がある。存在感のあるものなのだ。
当然、視線はスマホに移る。
つまり、カナメから視線と注意が外れる。
直前の仕込みとカナメの肩書きが肝の、一瞬の視線誘導。
それが、決定的な隙になる。
魔力を練り、数少ない使える魔法を解放する。
その名を叫ぶ────。
「────リンク!!」
リンク。
それは、感覚共有魔法だ。
探知系の魔法を使う者が、それを即座に共有するために視覚や聴覚……つまりは五感の情報を同調させる魔法だ。
本来なら多少の情報共有のための魔法であり、ポートを開いた仲間にしか使えない代物だ。
だが、カナメはそれをフランに対して使用した。
一時共闘の相手として、フランはそれを受け入れてくれた。
さらに、フランを経由して他の少女へとリンクが繋がる。
瞬間、少女達に動揺が走り、それをカナメも感知する。
だが時すでに遅し。五人の少女とフランはリンクのネットワークに繋がっている。
再びその意識がカナメに移り、攻撃が行われる。
その直前。
この状況を作戦として用意したカナメが、一歩先を行く。
「フラン、今だリンクを解け!! 観察スキル全五感最大展開最大表示!!」
己に備わったチートスキルを、完全に解放する。
観察スキルは目に映る情報全てを分析し、その詳細を明確にする。
その最大展開は大気の大魔力の流れから植物や大地の状態、人間の筋肉の動きから物質を構成する組織まで全てだ。
そして、それを最大表示にした。
つまりカナメを含む六人の五感には、膨大な量の情報が流れ込む事になる。
視界を覆い尽くす程のウィンドウのような表示。
頭の中に強制的に入ってくる数多の知識。
本来人間には不可能な程に切り分けられる聴覚や嗅覚。
それは処理限界を超えて襲いかかる。
もはやそれは神の視点だ。人間に耐えられるものではない。
膨大な情報によってパンクした脳は、痛みを肉体に波及させる。
少女達の絶叫が、周囲に木霊した。
「いやああああああああああああああああああああああ!!」
「なに、なにこれ気持ち悪い、やめて、もうやめてえええええええええええええ!!」
全員が倒れこみ、声を上げて苦しんでいる。
唯一、カナメを除いては。
「あーくそ、頭ガンガンする……けど、作戦通り、だな」
カナメはこの世界に来てから観察スキルと共にあった。
だから耐性が出来ていた。というより、情報を処理する方法を学んでいた。
おかげで頭痛程度で済んでいたのだ。それまでのダメージの蓄積があるので、ボロボロな事に変わりはないが。
けど、歩ける。
メリアの元へ向かえる。その事実だけで十分だ。
「……全く、無茶をしますね」
「無茶でも何でもしてやるさ。彼女のためならな。……それよりも、ありがとう。フランさんの協力がなかったら成功してなかった」
「いえ……ですがこれで彼女達も私へのポートは閉じるでしょう。この手は二度と使えませんよ」
「大丈夫だ、俺も二度と使いたくない。それより急ごう、彼女達もいつまでも倒れてはいないだろうし」
そう、時間はない。
今こうしている間にもメリアはあの勇者と接触しているかもしれないのだから。
急げ。
急げ。
震える足でも、確実に歩を進めろ。
カナメの眼はまだ死んでいない。さあ、ここからが本番だ。




