32 VSハーレムの少女達①
立ち上がるは勇者カナメ。
立ちふさがるは勇者ケントの仲間が五人。
カナメに武器はなく、彼女らの実力は相当なものだ。
状況は最悪。いつもながらの絶体絶命。だが、それでも立ち向かわなければならない。
そう、これは自分のための戦いだ。
奴のラブコメ作戦が成功しても、おそらくメリアは幸せになれる。召喚された勇者とは、主人公とはそういうものだから。
けど、それは嫌だった。メリアのために何も出来なくなる事が嫌だった。
だからこれは自己満足。
そしてカナメは根っからのぼっち気質だ。自分のためなら命もかけられる。
しかし、しかしだ。
どういうわけか今回は一人じゃないようだった。
カナメの傍に立つのは小柄で冷静な表情の少女。
レナの姉フランだ。
彼女の身も危ないというのに、彼女は自分の仲間に対峙していた。今日会ったばかりのカナメを助けるために。
「…………お姉ちゃん、本当にそっちにつくの? 正気とは思えないけど」
もはやレナ達が困惑していた。
それはそうだろう。フランの行動を説明できる者など本人以外にはいまい。
「どうして……そんな疑問が出てくるという事は、やはり貴女は私の話を理解してはいなかったという事ですね」
「…………なんだって?」
「真に理解していたのなら、この違和感に耐えられるはずはない。今まで信じていたものに裏切られたような感覚で辛すぎるのです」
「わかるわけ、ない。だって私はお姉ちゃんじゃない。そんな事が彼を裏切る理由になってたまるか!!」
相手がフランだからか、レナはいつになく感情的だ。
それを諌めるように、仲間の女の子がレナの肩をたたく。
「まーまー。多少痛い目見て貰えばフランも分かるでしょ。もちろん、アンタに肉親と戦う意思があればだけど」
「…………ある、に決まってる。姉妹だって事は私にとって何の足枷にもなりはしない。……全ては、ケントのために」
痛いくらいに互いの殺気が高まっていく。
何がトリガーになって戦闘が始まってもおかしくはない。そんな一触即発の空気。
だが、カナメには確認しておくべき事がある。
「フランさん、今回は味方だと思っていいんだな?」
「ええ、この状況を見てそれを理解できないのなら、貴方は勇者を辞めたほうがいい」
「ふっ、相変わらず手厳しいな。でも助かるよ。それで、戦況把握だけしたいから教えてくれ、アンタは何が出来る?」
「……戦力という意味で期待しているのならやめておいた方がいい。私に実戦闘力はありません」
「…………おい。そんなんでよくアイツら相手に立ちふさがったな!! 自殺行為じゃないか……というか何で俺に味方してくれる奴は皆支援系なんだよ。支援縛りとかやってる場合じゃないんだぞ!!」
相変わらずバランスの悪過ぎるパーティーだ。
しかし、それでもやるしかない。良く考えればいつも通りという事でもある。
いつだってそうだ。
カナメが有利な立場になった事など、一度もない。いつだって逆境だ。
「ピンチをどうにかするのが貴方の役目でしょう、勇者さん?」
「分かってる。どうにかするさ」
敵は五人。
うち一人はレナであり、その能力は透明化だ。厄介ではあるが対応できないわけじゃない。
もちろんそれは相手が一人なら、だ。チームで襲ってくれば面倒でしかない。
そして他の四人に関してはどんな魔法や能力があるかさえ不明だ。
まずはそこを引き出さなければ、勝ち目はない。
ここを凌ぐためには、敵の全能力を引き出し、観察スキルで分析し対応策を練るしかない。
そのためには、敵の力を見る必要がある。
(そして、その具体的な方法は────)
「フラン、耳貸せ」
「何ですか、こんな時にセクハラですか」
「ちげーよ。いちいち人をそういう人間にしないと気が済まないのか君たち姉妹は!!」
「冗談です。それでなんでしょう」
フランが顔を寄せてくる。
カナメはこの後の行動を小声で指示した。
それはこの後の戦況を左右する作戦だ。いや、作戦というレベルですらない奇策だ。
だが問題ない。カナメにとって一番大事なのはこの場を突破する事だ。
「なるほど分かりました。なので私の事も守って下さいね。私がいなければあの魔力認証を突破出来ないでしょう?」
「……そういやそうか。すっかり忘れてた。なら、一緒に来てもらうしかないな」
本当にフランがこちらについてくれて良かった。
カナメは無力だから、魔力認証なんてシステム一つで詰んでしまう。だから、偶然でも手に入れたピースは守ってみせる。
「作戦会議は、もう済んだかい?」
敵の一人が余裕を持った表情で問いかける。
それは絶対的な自信だ。自分達が負けるとは考えてない、自信に裏付けられた顔だ。
もしくは、信頼しているのは自分達ではないのかもしれないが。
「それじゃあ、私達の未来のために死んでくれよな。あばよ!!」
敵が動く。
五人のうち一人。ボーイッシュな娘が飛び出すと、その手のひらに赤い魔力光が収束していく。
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに向かってくる。
あの軌道は炎の属性を帯びた拳を直接撃ち込んでくるつもりだろう。かなりの武闘家だ。
だが、近接戦闘が得意な者がいるのは推測済みだ。
直接蹴られたのだから間違いない。
そしてそれは、カナメが考えていた中で最善とでも言える展開だった。
変に策を講じられるよりはよっぽどいい。
そして、これは勇者が相手だろうと有効な手段だ。ようは有利な状況にいる相手を狼狽えさせる方法。それは奇襲だ。
相手の思考の外から何かを仕掛ける事だ。
「ぐっ……もってくれよ、俺の身体……!!」
力を振り絞り、魔力を生成する。
才能がないのは分かっているが、自分に出来る範囲を精一杯行う。かろうじて適正のある支援魔法を行使する。
「クローラ!!」
その魔法名を叫ぶと同時に、黒い煙が拡散した。
策さえ練ればあの勇者ユーゴを打倒に導いた魔法。奇襲にはピッタリの魔法だ。
範囲内の光を遮断して、視界を奪う。
その範囲はギリギリ敵全員をカバーしていた。突っ込んできた一人はモロに効果を受け、他四人も視界がブレる程度には魔法を受けていた。
だが、ユーゴの時とは違い夜である事が不利に働いた。
そもそも陽の光がないよるでは、効果は減少する。とはいっても数分は視界を奪う。
その隙に。
「こっちだ、早く!!」
フランの手を取り、その場を走り出す。姿を隠すために。
「クソ、小細工しやがって。確かに見えないが……数分で効果は切れるか。それじゃあ大した距離逃げられないだろ。追い込まれてる事に変わりはないぞ?」
それは事実だ。
カナメとフランは近くに茂みに飛び込んだだけ。
逃げる事も避けて屋敷に飛び込む事も出来ない距離だ。
追い込まれている事に変わりはない。
(けど、正面に立ってるよりはマシだ。包囲攻撃をくらうくらいなら、こっちが行動の主導権握れた方がやりやすい)
必死に声を潜める。
ここでバレたらこの後の作戦も機能しなくなる。
懐に忍ばせたソレを、カナメは操作する。気づかれないように、ゆっくりと。
だが。
「ええい、喧しいわ。こんなもん、吹き飛ばして終わりや!!」
轟ッ!! と空気を切り裂く音と共に剛風が黒い煙を吹き飛ばした。
風圧が周囲を揺らす。街灯さえも軋んでいた。
クローラの魔法は視界阻害魔法。黒煙で視界を潰しているのではなく、黒煙が光を遮断している。
だが、その煙自体を吹き飛ばされれば効果は切れる。
強引にクローラの効果を潰された。
(クソッ、あの脳筋女……やってくれたぜ。作戦を早められるか……?)
額で汗が流れた。手汗も酷い。
そもそもが一か八かの作戦だ。その成功率が下がったのだから、笑ってはいられない。
それでも、やるしかないのだ。
(ああクソ、こんな事ならもっとレナに話を聞いておくべきだった。頼むから……俺を脅威に感じてくれてろよ)
情報はまだ足りない。
敵の能力は、透明化のレナ、肉弾戦に長けたボーイッシュな女。風属性魔法を使える関西弁に似た口調の女。
これだけでは突破口にはなり得ない。
となれば、やる事は一つ。
────常に先手を打ち続ける。
こちらから仕掛け続け、敵を後手に回らせる。その上で敵の戦力を分析し、対応策を練り、実行に移す。
言葉で言うのは簡単だが難易度はベリーハードだ。
だが、やるしかない。無理でも何でも押し通すしかないのだ。
息を止めながら、カナメはポケットに手を突っ込んだ。




