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異世界でチート狩り始めます  作者: 灰色猫
第2章 ハーレム王の世界編
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30 逃避の誘惑

 レナがカナメの部屋を訪れた数十分後、二人は家の向かいにあるベンチに座っていた。

 レナはあの酒場から直接来たのか、ドレスのような服装のままだ。

 時刻はてっぺん間近。周囲に人の姿はほとんどなく、家の灯りと街灯の光だけが薄っすらと照らしていた。

 貿易の街というだけあって表通りは夜中でも賑やかだが、少し外れた裏道は流石に静かだ。

 もっともそれは街の構造としてそうなっているらしい、というのをメイドさんに聞いた。

 住宅街と商業地区をある程度エリアで分けているようだ。


 メリアは今いない。

 二人で話したいというレナの願いを叶えた結果だった。


 続く沈黙。

 あんな事があっての再会だ。コミュ障のカナメとしてはどう会話を切り出せばいいか分からない。

 だから待つしかない。

 それに加え、今の彼女は大変露出度が高い服装だ。何とも視線を合わせづらい。


 と、そんな中口を開いたのはやはりというかレナの方だった。

 というより、笑いがこみ上げてきたという感じだ。


「ぷくく、いやー女の子慣れしてないねえ。こういう時は男の子がリードするものじゃない?」


「お、お前なあ。こっちは気を使ってやったってのに」


「いやいや、どうせどう接すれば……とか思ってたんだろう? そんな事じゃあアルメリア様に見捨てられちゃうぞ」


「か、からかうなよ」


 見捨てられる。見限られる。失望させる。

 それはカナメが何より恐れるものだ。そして今のその対象は、まさにメリアだった。

 レナは冗談のつもりだろうが、その言葉はカナメの急所をつくようなものだ。勿論、顔には出さないが。



「ほら、見える? あの部屋の灯り。あそこアルメリア様の部屋だよ。夜這いかけるなら場所覚えときな」


「誰がするか!! いや王族に夜這いとかしたらマジで即打ち首だから。それに部屋の場所なら知ってる」


「え、ストーカー?」


「違うわ!! 連れの部屋くらい普通に把握してるだろ。ましてや俺はアイツの勇者だぞ」


 そう、護衛の意味もあるのだから彼女の場所は把握しなければならないのだ。

 そこに下心はない。…………はずだ。いやワンチャンとか思った事ないよ。本当だよ?

 と自分の心に一応念を押しておく。


「…………勇者、か」


 そう、レナがポツリと呟いた。


「勇者、お前はアイツがそうだと言ってたな。てことは、元はどこかの国の?」


「そう。私が彼と会ったのはこの国に来てからだけど、元々はどっかの国の勇者として召喚されたらしいわ。事実、その頃からの付き合いの娘も何人かいるし」


「そうか……でも、なんでこの国に来た? 勇者ならそのままやってた方が……」


「簡単な話よ。国は彼を持て余した、彼の力を読み違えた。まあ具体的な話は私も知らない。でも結果としてはその国は彼を追放した……それだけさ」


 つまり、あの勇者にもそれなりの絶望と挫折があったという事か。

 今の環境を見ればそれが良い方に働いたとも受け取れるが、過去は重いようだ。


「そうか、でもそんな事は極論どうでもいいんだ。それよりも、そんな彼をどうして倒してほしいなんて思うんだ」


 そもそもの依頼の根底にあるもの。それが知りたかった。

 なぜ幸せそうな環境を壊したいのか。


「言ったでしょ。ある時途端に不自然に気づいたって。それがどうしようもなく気持ち悪かった。だからそれを解消したかった、それだけよ」


「違和感、か」


 カナメにはその感覚はよくわかる。

 きっと、今の彼女はかつてのカナメと同じだ。

 あの王都で、チート勇者の蹂躙を目にして実感してしまった時と同じ感覚なのだろう。

 今まで信じてきたものが全て裏返る絶望。思わず逃げ出してしまう程の嫌悪感。

 それはもはや呪いと言っていいレベルだ。


 もっと俗物的な例えをするなら、友達が実は自分を嫌いだと知ってその後も関係を続けられるか、という話だ。

 それはやっぱり気持ち悪い、というのが一番適切だろう。


「これ、俺はあんま好きな言葉じゃないんだけど……気持ちは分かるよ」


「奇遇ね、私もよ。でも、ここに戻ってきてやっぱり分かっちゃった」


「…………何がだよ?」


「彼には……ケントには絶対勝てない」


 それは絶望的な、けれど分かりきっていた宣告だった。

 あの酒場でも戦力差は天と地程あるのを無理やり理解させられた。

 勝てる、とは正直カナメも思ってはいない。


「ならどうする? 依頼のキャンセル料は請求しないでおいてやるけど、この後はどうするんだよ。お前はここにいるのは辛いんだろ?」


 そんな、カナメの問いに。


「ああ、だからさ…………一緒に逃げてくれ」


 そう、絞り出すように答えた。

 そしてカナメの返事を待たず、レナは────。


「……………………は」


 背に回された両手。

 もたれかかるように密着した身体。

 ダイレクトに伝わる女の子らしい柔らかな感触。

 吐息や心臓の鼓動もハッキリと聞こえる。


 つまり、カナメはレナに抱きつかれていた。


 頭が回らない。

 突然の、かつレナらしくない行動に思考が止まる。


 普段の強気からは想像出来ないくらい潤んだ瞳が、カナメの目に映る。

 その唇も、なんだかプルプルして色っぽい。


「…………に、逃げるって……どういう」


「言葉通りの意味だよ。なあ……私じゃダメかな。アルメリア様は確かに魅力的な方だ。でも、だからこそ私達みたいな世界の異物じゃ釣り合わない」


「そんな、こと…………」


 それもまたカナメのウィークポイントだ。

 自分のダメさを、どうしようもなさを理解しているからこそ比較してしまう。

 まず自分は彼女に嘘さえ付いている。


「私なら、いいよ。確かに身体は子供っぽいかもしれない。でも、アンタの望む事なんでもしてあげる。私を好きにしていい……滅茶苦茶にしていい。だから、一緒に……」


 言葉と共に、より強く身体を押し付けてくるレナ。

 そのささやかなな膨らみさえ、はっきりと感じられた。体温さえも伝わってくる。


 そして、ゆっくりと近づいてくる顔。

 その唇に、自然と視線が吸い寄せられる。


 身体が、動かせない。

 レナを止められない。


「私ならなれる。この世界に違和感を持ってしまった、そんな嫌悪感を理解して傷を舐めあえる理解者に。だから────」


 ────ああ、ダメだ。

 どういうわけか。脳が痺れて何も考えられない。

 それは普段の彼女と今の弱々しさとのギャップか。それとも官能的な雰囲気と、小柄ながら確かに女性な身体の感触のせいか。

 飲み込まれてしまう。

 彼女を、その誘惑を受け入れてしまう────。


 その瞬間。



「それは嘘。私の眼がそう告げている。何より、それはかつて私が語った事よ」



 そんな、空気を切り裂くような冷静な声が木霊した。

 カナメとレナ、二人の視線が真横に向く。

 そこに立っていたのは。



「レナ、そこまでにしておきなさい」


 嘘を見抜く、レナの姉。フランだった。

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