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異世界でチート狩り始めます  作者: 灰色猫
第2章 ハーレム王の世界編
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29 反転の兆し

 嘘は言っていない、彼らは無実。

 フランが言った事は、カナメにとってもケントにとっても予想外のものだった。

 けれど、それで救われたのはカナメの方だ。

 ケントの策は、適当な問答を通してフランの能力で嘘だという事を突きつけ、正当に処断するというものだったはずだ。

 だが、実際にはフランはカナメの嘘を庇った。

 そこにどういう意図があるかは分からないが、カナメ達は命拾いをしたというのは事実だ。

 フランが真実を告げていた場合、カナメには抵抗する手段はなかった。ただ殺されるのを待つだけだった。


 場を支配する緊迫した空気。

 お姉ちゃん……どうして。というレナの小さな声が、カナメの耳に届いた。


「フラン…………それは本当か?」


 ケントが確認を取る。

 彼からすれば本当に予想出来ない展開だったのだろう。何かの冗談と思っても不思議ではない。

 だが。


「本当です、ケント様。彼らは嘘をついていない。本当に観光で来ただけなのでしょう」


 フランは意見を曲げなかった。

 どういうわけか。彼女は自分の仲間である勇者に嘘をついている。それを知っているのは、フランとレナにカナメ、そしてメリアだけだ。

 まさか自分に都合のいい展開で困惑する事になるとは思わなんだ。

 だが有利を放り投げる必要もあるまい。顔に焦りが出る事を意思の力で必死に抑える。


「う、嘘を見破れる奴がそう言ってるんだ。信じてくれよ」


「……………………」


 ケントの対応は沈黙。それに合わせて周りの女の子にも動きはない。


「答えは沈黙ってか。でもまあ、疑いは晴れてるだろ? もう眠いし、俺達は帰らせてもらうな」


 傍らで同じく沈黙を貫いているメリアの手を取る。

 そのままあえて他の視線を無視して出口へと歩いていく。

 そんなカナメの背中にケントが声をかけた。


「君は、俺と同じか?」


 同じ。

 それが何を指しての事なのかまでは分からない。

 同じ召喚者なのかという問いならイエスだし、ハーレム希望かという問いならノーだ。

 だが、いずれにせよ。


「…………何の事だ? 質問の意味がわからないな」


 店の扉に手をかけながら、ただ振り向く事はせずそう答えた。

 召喚者である事は隠しているし、何より敵に情報を与える事はない。

 ケントがそれに何を思ったかは知らないが、返答はなかった。

 二人は、レナを置いて店を出た。









「はあーーーーー危ねえ死ぬかと思った」


 店から離れて数十分後、周囲の安全を確認したカナメから出てきたのは、そんな安堵の言葉だった。

 今度ばかりは本当に詰んだと思った程だった。そこから生還できたのだから当然か。

 例えそれが意図しないものでも、だ。


 そしてそれはメリアも同じだった。

 彼女も無力な少女ではない。王族としての魔法力も持つそれなりの使い手だ。

 だが相手は勇者にその仲間が多数。流石に対応しきれない。いや、あの場を突破出来る者など、それこそチート能力を持つ召喚者くらいだろう。


 心底ホッとした、というのが二人共通の心情だった。

 そして、落ち着いたからこそ思い出す事もある。

 カナメとメリア、二人の視線は同時に力強く握られた手で交差した。

 途端に、顔が熱くなる。


「ご、ごごごごめん!!」


 バッと手を離す。


「い、いえ。私のためにやってくれた事でしょう? き、気にしませんよ」


「そ、そうか。ならいいんだけど……今後は気をつけるよ」


 そうは言いながらも、緊張感で手の感触が残ってない事に残念さを感じてしまう男の子なカナメだった。

 まったく感情の動きが忙しすぎる。

 だが、何だろうか。言葉には出来ない……形容しがたい違和感を感じる。

 それはこの街に降り立った時に感じた肌寒さに近いような……。

 けれど、いくら考えても答えは出なさそうだったので、そんな疑問は頭の裏に追いやる事にした。メリアと一緒にいるのに、考え事も失礼だろう。


 妙な空気を変えるために、真面目な話題を振る事にしたカナメ。


「助かったのはいいけど、予想外の展開だったな」


「はい。レナさんにお姉さんがいたのにも驚きましたが、そのお姉さん……フランさんが私たちを庇ってくれるとは思いませんでした。あれの意図はいったい……」


「あの状況で俺達を庇う理由なんて正直心当たりがない。フランさんとはさっきが初見だし、あの勇者を裏切る必要性だって感じない。気にはなるけど、考えるだけ無駄だろう」


「そう、かもしれません……そういえば、レナさんは大丈夫でしょうか」


「あのやり取りを見る限りは大丈夫だろうが。今後のことも含めて一度話す必要はあるな。まあ明日にでも話し合いの場を設けよう」


「そうしましょうか。でも、なんだかよく分からない事になってきましたね……」


「だな、色々はっきりさせないと」


 そういえばレナ本人はいないけど、家に入れてもらえるんだろうか。と不安を抱きながら帰路につくのだった。






 ♢♢






 結論から言うと、レナ宅には普通に入れてもらえた。

 驚く事に、メイドさんが一人家の門の前で待っていたのだ。

 レナも二人も帰りが遅かったから心配してくれていたらしい。その優しさに涙も出そうだった。

 その後の行動は特別な事はない。

 食事とお風呂をいただき、おやすみと挨拶をして互いの部屋に戻る。

 そして今に至った。


 一人にしては広すぎる部屋だが、ようやく訪れたプライベートタイムだ。

 ゲームもネットもないが、それでも一人は落ち着く。どうやら自分は根からのぼっち気質らしい、と自嘲的な笑みを浮かべる。

 ベッドに寝転び、目を閉じる。

 視界という情報が消えたおかげで、自分が割くべきリソースは思考一本にまとまる。

 思い起こすのは今日の出来事。

 これからのためにも情報整理と推測を行う必要がある。


 しかし、考えた先の答えはどん詰まりだった。


「どうなってんだよマジで。もう誰が敵で誰が味方なんだか分からねえ……」


 そう、カナメとしてはメリア以外の全てが怪しい。

 依頼主のレナだって、二人には黙ってあの勇者と会おうとしていた。

 勇者の男も異質過ぎるハーレムを形成しているような奴だ。どんな思考をしているか分かったものではない。

 そして極め付けにフランだ。彼女はなぜカナメ達を庇ったのか。

 もはや理由も意味も分からない事が多すぎる。


(そもそも、本当に俺たちが何かをしなきゃいけないのか…………?)


 そんな疑問すら浮かぶ。

 レナに会って以降、自分達は翻弄されているだけだ。


「ハーレム、ねえ。カナメさんは女の子と付き合った事もありませんよーだ」


 そんな風にボヤいた、その時だった。

 コンコン、と部屋の扉をノックする音。

 ガバッと起き上がるカナメ。


「お、起きてる起きてるよ入ってどうぞ!!」


 このタイミングという事はメリアだろうか。

 手ぐしでパパッと髪を整えるカナメ。

 だが、来訪者は予想外の人物だった。



「…………こんばんは。少し話したいんだけど、いいかな?」


「…………戻ってたのか、レナ」


 夜は、まだ明けなそうだった。

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