26 事態急変
「な、なんだこの部屋は……」
レナの使用人に通された部屋は、カナメの予想を大きく超えた部屋だった。
部屋は空きすぎているくらいだから、という事で一人一部屋借りれたのだが、それは一人で使うには豪華過ぎた。
行った事はなかったが、高級ホテルのスイートルームはこんな感じなのではなかろうか。
部屋──に限らずだが屋敷内の装飾は荘厳の一言であり、絵画やら宝石やらが至る所に飾られている。
使用人も有能なのか、どこを見ても汚れ一つない。
とりあえず腰を落つけようと座ったソファーもふかふかだし、テーブルには果物が盛り付けられている。
(うーん、逆に落ち着かん)
庶民感マックスのカナメ、別世界過ぎてソワソワしてしまう。
そういえば使用人もメイド服を着ていた。コスプレじゃない本職のメイドなど初めて見たので、こう……思わず男心的に良いと思ってしまった。
つい頬が緩んでしまうが、お世話をされるという事には慣れていないので恐らく数日は緊張してしまうだろう。
窓の外を見れば、もう日が暮れかけている。
世界がオレンジ色に染まるこの景色。これだけは元の世界と何ら変わらない。
なんだか感傷的になってしまう、この光景だけは────。
「っと、この感情はマズイな。まずは目の前の事を片付けねえと。とりあえずメイドさん達に挨拶してくるか。多分数日はお世話になるしな……いや、下心はないよ嘘じゃないよ」
「何が嘘じゃないんですか?」
「のわあああああああああああああああああ!?」
いつのまにかメリアが隣にいて顔を覗き込んでいた。
咄嗟に顔を逸らす。
「ひ、人の部屋に入る時はノックくらいしなさい!! 何にもなかったからいいけど場合によっては大変な事になるんだからね!!」
「な、何が大変な事になるのか分かりませんが、すいませんでした。でもノックはしましたよ?」
「…………すまん」
「いえ……それで、この後何かするので?」
「いや、使用人の方々に挨拶でもして回ろうかと」
「なるほど、それは名案です。これからお世話になるのですから挨拶はしておくべきでしょう。でも、気づきましたかカナメさん。使用人の人たちは若めの方ばかりです」
「…………!! 言われてみればそうだった。もしかして、こに屋敷の中も敵だらけなのか」
「そこまでは分かりませんが、調査するにこした事はないかと。もしかしたら、そこから情報を得られるかも」
「そうだな。こっちから敵対していない以上危害を加えられるとは思わないけど、警戒するの越したことはないか。というか、使用人の危険性にレナの奴は気づいてるのか?」
「どうでしょう。リスクとして気づいてはいても、日々を一緒に過ごしてきた相手です。そういう目で見たくはないのかもしれません」
「かもな。それでそのレナの話だけど、お前はどう思う?」
「正直、分かりません。勇者の影響力は別格です。そこから抜け出せる者がこの世界の人間でいるとは思えない。けど、事実彼女はその輪から抜け出ている……それが何を意味するのか。少なくともこれまでとはレベルの違う事態が起きているのは間違いありません」
メリアをもってして分からないのであれば、知識面で圧倒的に劣っているカナメには分かるはずもない。
地道な情報収集、そしてハーレム王とコンタクトを取る方法を考える必要がある。
もっとも、最終的には────。
「複雑そうな表情ですが、いずれ戦うとはいえ相手を理解する事に意味はあるのではないでしょうか。まあ、理解出来るとは限りませんが。それでも価値はある」
そうだ。彼女達の目的のためにもカナメ自身のためにも、容赦をする事は出来ない。
だが、きっとその過程に意味はある。
「だな!! そうと決まればメイドさん達に挨拶しに行こうぜ」
「分かりました。ですが気をつけて下さいね。…………あと、あんまりデレデレしないように」
「何お前、俺がメイドさん好きだと思ってんの?」
「違うのですか?」
その問いにはあえて答えず、カナメ達は部屋を出た。
「はい、よろしくお願い致します」
屋敷内を回って働いているメイドさん達に挨拶をした結果、ここで働いている使用人の数は五人だという事が分かった。
今日働いているのはその中の三人。
少なくも感じたが、住んでいるのはレナ一人なのだからそれだけいれば十分なのだろう。
歳が近い女の子で統一しているのも、レナの過ごしやすい環境を作る一環なのかもしれない。
そして分かった事がもう一つ。
話す中で適当に探りを入れてみたのだが、やはり彼女達もチート転生者の影響下にある。
つまり、いざとなれば彼女達はカナメの敵に回るというわけだ。
ちなみに、探りの方法というのは雑談の中に恋愛系の質問を混ぜるというものだ。
初対面という事もあって具体的な話は引き出せなかったが、全員が似たような特徴を言っていたので間違いないだろう。
「しかしこの屋敷は広すぎる。メイドさん三人探し出すだけでこんな時間だ」
「ですね……しかし、三人で屋敷内のお手入れを完璧にこなしているとは、個々のスペックの高さが伺えますね」
「そうだな……一人くらい欲しいレベルだ」
「…………………………………………」
「冗談だから無言で睨まないで。……あれ、そういえばレナはどこだ? こんだけ歩き回ったのに見当たらなくないか?」
「そういえばそうですね。レナさん自身のお部屋もあるはずですし、場所を聞いてみましょうか」
自室で休んでいるのかもしれないが、明日以降の方針くらいは決めておかなくてはならない。
タイミングよく使用人の一人、エマさんが通りかかったので、声をかける。
「エマさん、少しいいですか!!」
「おや、カナメさんメリアさん。どうしました? お部屋は合わなかったでしょうか」
「いえ、部屋はもう居心地良すぎてずっといたいほどで……って、そうじゃなくてですね。レナの姿が見えないんですが自室でしょうか? なら場所を教えてほしいんですが」
「レナ様ですか?」
レナの部屋を教えてくれる、そう思っていた二人にとってエマの口から出た言葉は予想外という他なかった。
すなわち。
「レナ様ならあの人と会うとかで出て行かれましたよ?」
「────なんだって!?」
急転直下。
事態は突然動き出す。
これもまた彼の影響力のなせる技か。
窓の外は、とっくに闇に落ちていた。




