25 失敗
チートで無双する主人公。活躍によって好意を寄せてくれるヒロイン。
誰だって憧れる。カナメだってそうだった。
けど今は違う。それが起こる事の影響を知ってしまった。それがどんな絶望を撒き散らすのか知ってしまった。
つまりは、こういう事。
────もし、逆だったら?
異能。チート。それらは良くも悪くも周囲の環境を変化させる。
では。
主人公でもヒロインでもない。周りの人間にとってはどうだ。
それまであった積み重ねや交流を無視して結果や好意を掻っ攫う。突然レールが切り替わったかのように意識がそちらに向いてしまう。
まるで……まるで人が変わってしまったかのように。
そしてそれは、誰にとっても自然な事になってしまう。だから何も感じない。
けど。
けど。
外側からそれを観測出来る者がいたとしたら、あまりにも理不尽に映るのではないか。
その役目は、きっとカナメに回ってきたものだ。
◇◇
結論から言うと、カナメ達は失敗した。
あまりの人の量と動きに近寄ることさえ出来なかったのだ。
遠くから声をかけようにも、そもそも冒険者連中のバカ騒ぎでうるさいのがギルドだ。すぐにかき消されてしまった。
というわけで、二人は外で待っていたレナの元へ戻ってきたのだった。
「顔を見れば分かるけど、やっぱ失敗したようだね」
「分かってて行かせたんかい。いやまあ、おかげさまで状況は理解したけどさ」
「凄まじい圧力でした……」
特に何もしてないのに二人はぐったりだ。
「ちなみに聞くけどこの世界──国って一夫多妻制あるの?」
「いっぷたさい?」
「いや複数人との結婚というか……関係もつというか……」
「はあ、それの何が問題で?」
「うん、もういいや理解した。文化の違いって恐ろしい」
つまりあの状態は本当に自然なものというわけだ。
だが、やはり疑問点はいくつか存在する。
「なあレナ、その……言いにくいがお前もあのハーレムの一員だったんだろ? そこからどうやって抜け出したんだ?」
「それは…………」
異常な規模のハーレム。街を飲み込む程の歪み。
それを当事者本人が自覚出来る、というのは本来あり得ない。言うなれば漫画のキャラクターがここは漫画の中だと気づくようなものだ。
そこには必ず何か理由がある。
「実際のところ、本当に自分でも分からない。ある日、なんの前触れもなくそれを自覚した。それで、怖くなって、逃げ出して……それで……」
レナは言葉に詰まり出し、よく見れば身体も震えていた。
そんな彼女の手を、メリアがそっと握る。
「すいません。無理に思い出さなくて大丈夫ですから」
「ごめん……取り乱した。ありがと」
レナを支えながらメリアはカナメに視線を戻す。
「どうします?」
「ひとまず今日はここまでだな。落ち着ける所を探そう。レナ、落ち着いたら宿の場所を教えてくれ」
「泊まる所? それなら────」
レナに案内され辿り着いた宿。
街の外れに佇むそこは、超がつく程の豪邸だった。屋敷という言葉が正しいか、ともかく一般人が泊まるような所には見えない。
もしかしてまた文化の違いが出ちゃった? 俺の宿泊感覚が間違ってる?
と脳内が疑問符で埋め尽くされるカナメに対し、レナは。
「どうぞお入りください。ここは我が家です」
「…………………………………………え、マジ?」
「私の家は魔導士としては大成していてね。まあそれなりの地位はある。アルメリア様に比べれば大した事はないけど……まあ、それすら私には受け継がれなかったわけだけど」
そう、二人の反応にややバツの悪そうな顔をするレナ。
「それに地位という事なら私というより亡くなった父がね。私はあくまでその資産を受け継いだだけ。屋敷には使用人なども含めて数人しか住んでいないし、空いている部屋も山のようにある。だから、使っていいんだ」
「そ、そうだったのか。でも助かるよ。正直、貯蓄も多いとは言えないし」
「そうですね。ここはレナさんに甘えさせてもらいましょう。それに、拠点が出来るのはいい事です」
「まあ、これに関してはそこまで気にしなくてもいいわよ。私としてもこのまま一人に戻るのは寂しいから」
それでは、とレナは身を翻す。
屋敷の周囲は壁に囲まれ、出入りが可能なのは巨大な鉄格子の門だけのようだ。
街そのものと同じ構造。街の中に街があるみたいだ、などと素っ頓狂な思考が巡る。
門は使用人が開けてくれるのだろうか。そんな風に考えていたカナメだが、一方のレナは門に手をかざした。
すると、レナの手から波状に光が広がり、門全体に行き渡った。
そして────。
ギイイイイイイイイ、という音と共に門が開く。
そんな状況をただ呆然と眺めるカナメ。
「ただの魔力認証よ。特別な事をしたわけじゃない。登録すれば誰だって開けられるから」
「マジか……。久しぶりに異世界カルチャーショックだわ。俺が知ってるのとか指紋認証と顔認証くらいだよ」
「逆にそっちの方が気になるんですが……。まあ、とりあえず中に入りましょう。お部屋の準備等は使用人にさせるので少しお待ちを」
「お、おう。サンキュー」
能力はともかく、この世界の知識も増やしていかないと……そんな事も決意するカナメ。
何はともあれ無事レガリアでの寝床を確保したのだ。
順調、とは言えないが最低限はクリアしたはず。
うん、明日から頑張ろう。とダメ人間的思考をするのだった。




