24 ラブコメの重力③
カナメの推理はずばり当たっていた。
街に来てから出会った人。今周囲にいる人々。それらはほとんどが男だ。
もちろん女性がいないわけではない。よく見れば割合は少ないがその姿が確認できる。
だが、そこにも偏りがある。
すなわち、若い女の子が極端に少ない。いるのは年端もいかない少女や高齢の女性ばかりだった。
それは歪だ。
何よりも、そんな状況を自然としているこの街が歪んでいた。
珍しいはずの若い女の子であるメリアやレナに特別興味も示さないのがその証拠だ。
「どういう事なんだ? この女性比率は……いや、若い子はなぜいない?」
たどり着いた答え、その疑問にレナは。
「それの答えは、実際に見てもらいたいんだよ。実際に私もいた……あの場所を」
「あの場所?」
「付いて来て」
何か覚悟を決めたかのような顔で歩き出すレナ。
それ以上は追求できず、カナメとメリアはその背中を追いかけた。
レナは街の中心部に向かって歩いていく。
その最中もさんざん出店の誘いがあったが、慣れているレナが全てやんわり即座に断ってくれたおかげで時間を取られる事はなかった。
だが、やはりその時も相手はほとんど男だった。
そして大通りを抜け、賑やかさがやや薄れて来た時レナは足を止めた。
その視線にあるのは一つの大きな建物。
ドラゴンの紋様を掲げ、冒険者を中心とした行政機関とは違う街の中心の一つ。この世界における重要組織。
すなわち────ギルドだ。
民間人からの依頼などを冒険者に斡旋する、異世界転生者達にとっての生命線たる組織だ。
凶暴な巨大生物たるモンスターや魔族が存在するこの世界においては、それの対応を行えるギルドは政府も無視出来ないほどの力を持っている。
今では行政の窓口としての機能も持っている事からその影響力は伺えるだろう。
事実、カナメの収入源もギルドの依頼だった。
「よりによってギルドかよ。あんまりここで揉め事起こしたくないんだけど?」
「揉め事は起こさないよ。もっともそれはアンタ達の出方と、向こうの対応次第だけどね」
「ははは、俺は常に謙虚低姿勢がモットーですから。相手がよっぽど喧嘩ごしじゃなきゃ穏便に済ましますよ」
「まあ、相手が喧嘩ごしだった場合ヤバいのは基本カナメさんですが」
「メリア、当たり前の事を改めて言うんじゃない。傷つくでしょ」
「特定までしたのは自分とはいえ、ここに来るとやっぱ心配ね……。正直、あの人をどうにか出来るとは思えない」
良い意味か悪い意味か。レナはその人物の力を信頼しているらしい。
だが、そういう意味ではメリアはカナメを信頼していた。それはエレノアでの結果が証明している。
助けられた側はその力をある程度信じてしまう。例え本来の実力を知っていたとしても、事実は確かに主観を歪める。
ある意味で一番中立にいるのはカナメだった。彼は良くも悪くも事実だけを受け入れる。例えそれが絶望的な戦力差であっても。
と、それはともかくレナはここで顔を背けた。
「私はここまでね。ギルドに入れば嫌でも状況は理解出来るだろうから。……ごめん、こんなことになって尚、私は彼に嫌われる事を望んでいない。全くもう、ほんと……どうしようもない」
表情を見て分かった。レナはこれ以上進めない。
いや、自分達に依頼しに来れた事こそ相当な奇跡に相当するのだと。彼女の決意に値するのだと。
自分が信頼する人間を裏切る事の辛さは、計り知れない。
「おーけー分かった。ここからは俺とメリアで行く。それで状況が分かるならそれでいいさ」
「もちろん、私はそれで構いません」
「…………ありがとう。お願いするわ」
絞り出すような声。
もっとも、その思いまで二人は理解出来ないが。逆にそこは踏み込む所ではないと判断した。
レナを置いてギルドへと向かう。
そして。
そして────。
◇◇
ギルドの内部は大きく二つに分けられる。
依頼などを掲示し、その受付を行うエリア。そしてもう一つは酒や食事を提供する交流エリアだ。
交流エリアは本来、パーティメンバーの合流待ちやそもそも募集待ち等にも使われる。食事や酒を共にする事によって団結を固めるのだ。
利害関係だろうが真なる友情だろうが、ここでは関係ない。個々の命を懸けるのだから。
つまりいつギルドに行っても多くはない人数がワイワイしているイメージだった。
だが。
しかし。
今回は事情が違った。
ギルドの扉を開けた瞬間、その異常性にカナメですら気づいた。
「なんだ…………これは」
席などない。
テーブルの隙間などない。
女。
女性。
女の子。
そんなヒトに埋め尽くされていた。街中には姿の見えなかった年代の少女達。
それがナニカを中心に蠢いている。代わる代わる、その身体を寄せている。
肉体を、声を、心を、愛を、一点に。
ギルドを埋めつくさんとする女の波。街中で見なかった分の揺り戻しとでもいうかのように、それは肉の群れだった。
ただ、快楽を貪るかのような激しい愛撫だ。
その中央に君臨する王。
有り余る愛を享受する、愛欲の帝王。
それこそが、この閉ざされた国の歪みだった。チート────異世界転生者の成れの果て。
それを当たり前とした、ハーレムの中心。
全ての女が、彼に隷属していた。
街の女の子は、消えたのではない。この男のいる所に吸い寄せられ、集まっていただけだ。
「ああ、これは確かに異常だ。洗脳とかそういう類じゃないのが余計にタチが悪い。メリア、お前も気をつけろよ」
「私は大丈夫です。概念防御もありますし、ですがこの状況は……」
「まあ、考えた事がなかったわけじゃない。にしてもいざ見せられると……羨ましさも湧いてこない」
「む、カナメさんはハーレムに興味があるのですか。へーほーふーん」
「なぜそこで膨れる……いやほら、モテ期とか来たことないから多少はね。男の子だからね。…………異世界に夢見たっていいじゃない」
「もっと現実を見てほしい所ではありますが。それで、どうします?」
「そうだな……まあ、とりあえずは会ってみない事には始まらないだろ。チートハーレム野郎に」
「言い方に個人的な憎しみを感じますが……そうですね。方針に異論はありません」
カナメが見据えたのは事の中心人物。
まずは彼とコンタクトを取ろう。




