おまけ。 終わりと始まりと未来
正真正銘ラストです!
その人に会ったのは、満開の桜の下だったの。
肩より長いくらいの黒髪に、風で踊る花びらの薄紅が映えてキレイだったわ。
隣に立つ男の人と美男美女で風景に自然に溶け込んでいたの。
私はパパと桂美ママとナイト(ラブラドールなの)とお花見をしていたんだけど、なぜかそのふたりから目が離せなかった。
夫婦だと思う、小さな子供達がそばにいたから。優しさと温かさが私にも伝わってくるような家族だったわ。
女性の方と目が合ったので、会釈をして通り過ぎようとして、なんだか違和感で心がぐるぐるしてきたの。
「あの、あの。ごめんなさい」
気づいたらそう言っていたの。驚かせちゃったわよね? だけど、なんだか言わなきゃいけない気がしてどうしようもなかったの。
「……思い出したの?」
その人は、静かに私を見たの。やっぱり、昔の私が傷つけた人なんだわ。
「無理に思い出そうとすると、頭がいたくなってしまうから。でも、私がしたことは許されることじゃないって思って……ごめんなさい、謝られても許せる問題じゃないのに」
首を振りながら言うと、ちょっと驚いたみたい。そうよね、昔の私は謝罪なんてできなかったってパパに聞いてるし、私もそんな記憶があるもの。なんで私が悪いの? って。
私が昔の私と向き合えたのは、パパと桂美ママとナイトのおかげなの。このちゃんと晴さんと会ってからは、ふたりにも色々教わってるわ。だけど、変われたのかどうかは自信がないの。
「大丈夫じゃない? 随分変わったみたいだし」
「え?」
「それが怖いことだと思える限り、もう昔に戻ることは無いでしょ。あとは未来へ進むだけだよ」
「未来、へ……」
進んでも、いいのかしら。未来なんて私が見てもいいのかな。
「いいんじゃないの? そんな堅苦しく考えなくても」
「でも」
「過去は変えられない。今の貴女を見ても、昔を思い出して嫌悪する人はいるかもしれない。たらればを考えてたら先になんて進めない。貴女はあの時からやり直しをすることができた。しかもいい方に。なら、それでいんじゃん。自戒は必要かもだけどさ」
自戒は必要。それは、そうかもしれない。私は過去の記憶がほぼないけど、きっと色々な人達に迷惑をかけてきたのだろうし。
記憶は戻らないだろうと言われているわ。でもそれって、私にだけ都合がいいんじゃないかって、ずっと考えてもいたの。だって、された方は覚えてるんでしょう? 私が傷つけた人がいるかもしれないのに、私だけ逃げてるみたい。
「された方だってそんなに根にもってる人もいないよ。やらかしたバカは元々素質があったのさー。だから、これで終わりにしない?」
「終わり?」
「そ、終わり。貴女はもう過去を気にしない。私は貴女を気にするのをやめる。過去は消えないし忘れることはできないけど、未来にそんなもの持って行くことはない。だから、ここに置いてくの」
桜の花びらと一緒に。微笑んだ彼女はとてもキレイで大人に見えた。
「さよなら、過去の貴女」
「……さよなら、過去の私」
差し出された手をそっと握って、離すと彼女は家族の方に去っていったわ。こっちを振り向きもしなかった。こるが決別って物なのかしら。
見送った私の後ろに、そっとパパが立った。
「ありがとう、パパ」
「前を向けそうかい?」
「……ええ、きっと」
パパは私が悩んでるの分かってたのね。だから彼女に会わせてくれたんでしょ?
いつまでも過去を悔やんでいても始まらない、前に進まなきゃいけない。今ならきっと、私にもできるわ。
見上げれば、満開の桜。ひらひらと落ちる花びらに過去をのせて。
私は未来へと進むわ。
私の全てを許してくれて、それでも一緒にと望んでくれる大切な男性が現れるのは、その未来の出来事。
お付き合いありがとうございました!