おまけ。 夏祭り
お久しぶりです。娘に続きを~と延々と訴えられましたので、取り急ぎ滑り込みで夏祭りです。
私に浴衣が届いたの!
薄紅色っていう、桜の濃い色から赤へのグラデーションがキレイなの!
今度の夏祭りの日に、これを着てみんなで花火を見るの! あ、まだ人混みは怖いから、お家でね。好ちゃんと晴さんも来てくれるから、楽しみ!
「こっちか、ん? これか? ……あー」
「……ふふっ」
桂美さんの必死な姿に、思わず笑ってしまったわ。あ、桂美さんはパパの恋人なの。もうすぐ私のママにもなってくれるの。楽しみ!
「有栖? どうした、苦しい?」
「ううん、大丈夫。嬉しくて笑ったの」
「嬉しい?」
「うん。嬉しいの」
私、ママからこんな風に浴衣を着せてもらったことないなぁ、って思い出したの。もちろん、かわいがってはもらったと思う。でも多分、浴衣は着付けのプロの人だったわ。
全部を思い出したわけじゃないけど、今ならわかるの。ママは、私をお人形さんのように愛でてたんじゃないか、って。
対等に見てくれていたわけじゃないと思うの。ママはパパだけが特別だったから。これ以上は思い出そうとすると頭が痛くなるから、まだ全然前の私と向き合うことができないんだけど、焦りは禁物なの。
最近、プレゼントと一緒にくるお手紙にもそう書いてあったの。誰かはわからないけど、心配してくれる人がいるって嬉しいものね。
「浴衣の着付けが楽しいなんて知らなかったし、こんなに大変なのも知らなかった。でも、一緒にできるのがとても嬉しいの」
「かかしみたいに立ってなきゃいけないのに?」
「うん」
帯の前に、ヒモを何本も使うのも知らなかったわ。着付けって大変。
「桂美、終わった?」
「棗」
「パパ」
「あー、桂美さん? それなに?」
「……やっぱり違う?」
「衿がまず逆……かして」
……パパ。もう少し桂美さんを気遣わないと。全部やり直しだったけど、帯締めまで桂美さんより早いってどうなの。桂美さん、膝から崩れ落ちて項垂れてるけど。
「あー……ごめんね、桂美?」
「次こそ……っ、負けるものか……!」
「ふふっ」
それもまた楽しくて嬉しいわ。
真桜です。
みんなで夏祭りに行くことになったよ。浴衣で。
もってないので、みんなでおそろいで作ることになった。こっそりひとり分追加した。柄おそろいの色違いで。
りっちゃんは赤から濃い赤へのグラデーション。お似合いです姉御ぉ!
ちぃちゃんは緑から深緑へのグラデーション。かわいい!
こうちゃんは濃い紫から紺へのグラデーション。なに着ても似合うってすばらすぃー。
私は水色から青へのグラデーション。しぃちゃん監修だから似合うだろう多分。
誰かさんのは薄紅から赤へのグラデーション。いつぞやの真っピンクより全然似合うはずだ。あれはない、ショッキングピンクなんてどこかの紙な人達で十分だ。
ちなみに、反物から小物から仕立てまでこうちゃんのお父さん段取りである。私達は多分半額も払ってない。「好実にこんなに友達が……!」て嬉し泣きして払わせてくれなかった。
うんうん、よかったですねー。とニコニコしてる晴さんはスルーでよろしいのか? その人こうちゃんの彼氏ですけど。多分大学卒業と同時にかっさらってく気満々だと思うんだけど。
男性陣も浴衣姿である。紺とか地味目の色なのに、色気ムンムンってどうなのさ。見ないようにしよう。うん。
こうちゃんと晴さんは花火前に離脱予定。花火は元女王のとこで見るから。その前に屋台でお土産物色してくそうな。いぇーい、屋台!
「迷子にならないようにね」
総勢8名でぞろぞろ歩くのは目立つ。別の意味でも目立つ。特にしぃちゃんとか松川センパイとか晴さんとかが肉食女子に。りっちゃんとかこうちゃんとかちぃちゃんとかが野郎共にね。
「あ、たこ焼き食べたい」
「遊んでからじゃないと冷めるぞ」
「食べてから遊ぼうか」
ほら、あそこにテーブルあるし、と晴さん。手分けして買ってくることにして、じゃんけんで場所取りを決める。
結果、りっちゃんとこうちゃんと不憫くんが場所取りに、残りはお買い物である。しぃちゃんと手を繋いで物色しといたお店に向かう。
「たこ焼きと唐揚げとポテトとー」
「飲み物は松川先輩が買ってくれるそうだ」
「ちぃちゃんがクレープどうする、って」
「少なくしてシェアしないと食べきれないだろう」
「ですよねー」
値切りたいが忙しそうなので自重して、しぃちゃんの支払いを待ってると、私の反対側からしぃちゃんに声をかける人がいた。
「あのー」
浴衣の女子二人組が、しぃちゃんの浴衣の袖をつんつんと引っぱってた。
しぃちゃんの影から、ひょこりと覗くと髪がモリモリな女子二人はフルメイクのバシバシなまつ毛をしぱしぱさせながらの上目つかいで、うるうるとしぃちゃんを見つめていた。役者ですのぅ。
「お一人ですか? よかったら一緒に花火を見ましょう?」
見ませんか。でもなく、ご一緒してもよろしいですか。でもないあたりに手慣れた雰囲気を感じる。逆ナン慣れしてるとかどんだけー。
「連れいるんで」
これ、悪いけど、とか最初につける人いるけど、つけ入る隙じゃないかと思うんだよね。相手を気遣う素振りを見せたら、諦めないで食いつく肉食さんとかいるじゃん? 人によってとり方も接し方も違うけど、少なくともしぃちゃんは相手に気を持たせるようにはしない。
興味ないからとも言うけどねー。
「おまたせー、行こうか」
私の後ろにはリア充さん達がいるらしい。肉食さん達に見せてやったらいいと思うよ。これが正しい男女交際です、ってさ。
「あれ、怒ってる? 待たせてごめんね、行こう?」
おやおや、ケンカですかい。どうでもいいがよそでやってくれないか。邪魔だわ。
「っ、無視しなくてもいいだろう!?」
「ほぇっ?」
なぜか怒りの主が私の肩を引いた。なぜだ。
「あやまってるのに、なんで無視するんだよ!」
「無視もなにも、初対面の赤の他人じゃないか。私にはしぃちゃんという立派な連れがおるわ」
「はぁ!?」
「うちの妻になにか?」
「へっ!?」
気づいたしぃちゃんが振り返って、私を引き寄せた。赤の他人の手はスパン! と叩き落として。すってきぃー。私の手はたこ焼きとお好み焼きの袋でふさがってるからね!
タンクトップとハーフパンツの赤の他人は、長い茶髪をぐちゃぐちゃにしていた。
「「つ、妻!?」」
声がハモったのは、赤の他人と肉食さん達が同時発言したからだ。
「妻ですがなにか? てか初対面の赤の他人様方になぜに疑われなきゃならんのさ。こんなにわかりやすいカッコしてるのに」
私としぃちゃんの浴衣はおそろいである。色が同じでデザインがペア仕様。どこから見ても誰が見てもカップルである。ちなみに、みんなの浴衣もペア仕様。元女王だけソロ仕様さ。
なに着てもしぃちゃんは似合うから、色もデザインも私基準だ。文句は聞かない聞こえなーい。
「そんなわけだから、しぃちゃんはあげない。よそ行って」
言った途端に肉食さん達は逃げてった。タンクトップ軽男はじぃっとしぃちゃんを睨んでる。勝ち目はないぞ?
「つ、妻だろうと、俺とは運命だから! お前がどっか行け!」
「「……バカ?」」
阿呆な言い分に、しぃちゃんとハモった。誰が運命だたわけ者。私の運命はしぃちゃんだ阿呆。
「にぃちゃん、お前さんに勝ち目はないぞ? 今のうちに謝って逃げとけ?」
たこ焼き屋台のお兄さんが助け船を出してくれたというのに、軽男は地団駄を踏んで暴れだした。子供か。
「いやだぁ!! やっと見つけたんだ!! 俺達は運命なんだからあいつがいなくなるんだぁ!!」
「頭おかしいのかね?」
「誰が運命だ。真桜は俺のだ」
「旦那さんカッコいいけど、今それガソリン注いでるからな?」
「真桜は俺の妻で恋人で彼女です」
「うん……わかったよ」
屋台のお兄さん、しぃちゃんは通常運転だよ! しょぼんとさせてごめんね。
「私はしぃちゃんが好きだ」
「なんで!! 俺達はっ」
「しぃちゃんが好きで大好きで愛してる」
「なっ、な!」
「私が斜め上に突っ走っても、ちゃんと受け止めてくれるしぃちゃんが大好きだ。だから他の人と運命なんてありえない。そんなことになったら死ぬね」
「…………」
軽男が黙ったから、そこからいかにしぃちゃんがいい男か力説してやった。後悔はしない、面倒だから。
「その辺にしとけ、真桜。折れてるから」
「ん?」
軽男は四つん這いで泣いてた。いじめてもりはないぞ? のろけた覚えはあるけど。
軽男を屋台のお兄さんに任せて、テーブルがある広場に戻って、みんなに説明しとく。
「あんたが変なの引っかけるなんてめずらしいわね」
「引っかけたつもりはないよ、りっちゃん」
「そうねー、いつもは真中くんの方だもんねー」
「それはしぃちゃんがいい男だからだね、ちぃちゃん」
「その変なののあしらい方が真桜さんらしいというか」
「しぃちゃんは渡せないからね、こうちゃん」
力こぶしで宣言したら、三人に頭を撫でられた。解せぬ。
「うん。まぁ、帰ったら覚えとけ」
「なぜ!?」
やっぱし解せぬ。
花火が始まるまでに、庭にテーブルと飲み物と簡単な食べ物を用意してたら、このちゃんがたこ焼きとちょこバナナをお土産に持ってきてくれたの! 嬉しい!
みんなで食べながら見た花火はとってもキレイだったわ。キレイに咲いて潔く散る花のように、一瞬のためのその輝きを忘れたくないと思ったの。
私が大人にならなきゃいけない時のために。
でも今は、まだこのまま。みんなの笑顔に助けられていたい。今だけは、まだーー。
ありがとうございました。
有栖さんの決断の時が近いみたいですねー。初耳です(笑)勝手に大人になってきてるみたいです。




