※閑話 私とアリーの幼き片鱗
エレインちゃん視点です
【エレイン視点】
私がアリーと出会ったのは、私もアリーも7歳になるかならないかのころだった。魔法事故で両親をなくし、身寄りも無かったのでそういった子供たちを集める施設に、半強制的に入れられた。私は6歳にして生きるか、死ぬかの究極の選択にケリをつけなければならなくなったのだ。
――今思うけど、かなりすごいことなんじゃない!? 私このとき6歳よ!?
入れられたその施設、名を『魔法法力実験施設研究所』といい、この施設が所有する敷地にはどの国も一切の司法は介入できないと言う一種の居空間と言っても過言ではないところだった。
私はそこに誰に連れてこられるわけでもなく、たった一人で赴いたのだった。
その施設は通称、白の施設という。
決して平和を願って入ったわけではなかった。私の魔法のせいで両親が死んだと言うことは、言われなくても自覚していることだ。かといって騒乱を求めていたわけでもなかったのに、私は着いて早々不審者として、一人の男に捕まったのだった。
「小娘、見かけない顔だな」
「えと、きょうはじめてきました。エレインといいます」
男はそうか、と私を舐めるように見つめた。眺めたと言っても良いだろう。
とにかく私は不信感を覚えて、男に問い返した。
「あの・・・このしせつのかたですか?」
男はねっとりと笑みを浮かべた。
「そうだ」
「なら、わたしをしょちょうさんのところにつれていってくれませんか」
「いい。そうだな、対価を支払ってもらったらな」
「たいか?」
要するに、体を差し出せと言っていることは、今になって漸く理解できた。
後に聞いたのだが、この施設内での行為は禁止されており、鬱憤が溜まっているのが多かったのだとか。
男の手が、幼い私の襟にかかったときだった。
背後から鈴・・・洗練された明るく激しい鈴のような声が響いた。
「駄犬が」
盛っているなら早く出て行け、と、声の持ち主は冷酷そのものの声で言った。
ぴきり、と。 男の顔が恐怖に彩られた。
男はぱっと手を手を離し――私は地面にしりもちを着いた――直立不動となった。
「これはこれは、血花姫ではないでしょうか」
「血花姫だと? 私が?」
私は声の持ち主を振り向いた。
果たしてそこには、絶世の、氷の微笑者が居た。
珍しい長い黒髪に一房の銀の髪。
伏し目がちの目に長く黒い影を落とす睫毛。
抜ける様に透明感のある白雪の肌。
折れそうなほどに細く、長い手足。
上から被るだけのワンピースは白く、彼女を浮世離れさせて見せている。
胸元に垂れ下がっているおそらく大人用だと思われる、長い、毒々しいまでの黄金のネックレスだけが、妙に現実味を持って揺れていた。
それだけの美貌を持っているのにも拘らず、彼女の髪はまったく手入れされずに、ぼさぼさと周囲に奔放に待っている。
少女が浮かべるのはウッソリした微笑、彼女は私と同じ6歳だったはずなのに、私がまだ習得していなかった仮面武装を纏っていた。
「よくそんな生ぬるい名前になったなぁ」
「ご、冗談を」
少女はくくくっと笑いながら、
――次の瞬間、私の目の前にいた。
「大丈夫? 怪我は無いね?」
恐る恐る私が頷くと、満足そうな笑みが視界いっぱいに広がった。年相応の笑みだ。
少女は私に名乗った。
「私、アリアン。アリーと呼んで。これからよろしく」
「う、うん」
「・・・、で、駄犬」
アリーの中で男は駄犬認定されたようだった。
素晴らしい笑顔でアリーは言った。
「さよーならぁ♪」
――施設に入った私はそれ以来その男の顔を見たことが無い。
*****
それから分かったのは施設の中でのアリーの存在はかなり浮いていることだった。
幼いながらも所長に認められるほどのかなりの実力者だということ、大人より冷静であることから、周囲の人たちがどう接すればいいのか分からなかったのが原因だ。
普通に接すればよいものを、大人たちは自分の中の幼稚さを自覚させられるようで嫌だったそうだ。
本人がまったく気にしていない様子で、人見知り、人嫌いの振りで人とかかわるのを避けていたせいでもある。
同室になってしまった可哀想な娘、というのが私の周囲からの認識であり、それだけで同情が山のように買えた。おかげで私は施設の中で浮くことなくすごし、9年がたった。
ある事件が起こった。
*****
私とアリーの関係が執着から、依存へと姿を変える。
その関係は私とアリーの間にずっと存在し続けたが、
「もう綻びかけてるわね」
「なに?」
振り返って首をかしげるアリーのほほを引っ張り、相変わらずもさもさと風に遊ばれている髪を梳いてやって思う。
アリーはもう、人見知りの振りを続けられないだろう。
私たちの、関係も、これ以上繕いきれないだろう。と。
どちらにしろ私はアリーのために全てを尽くすのであって、アリーが幸せならば、それでも良いと。
漠然とそう思った。




