最底辺クラスの一員になりました
「おやおや」
アリーは思わずと言ったようにつぶやいた。
ここは学園付属の寮である。もちろん男女別だ。部屋は一人一部屋与えられる。アリーの部屋番号は228である。
アリーの手には大きな茶色い封筒がある。唯一つ、あなたのクラスはHです、と書いてあった。
(おかしいな、竜を倒したはずなんだけど)
と、そのとき、アリーは気づいてしまった。小さな手のひらサイズの封筒だ。茶色の封筒の中、隅のほうで申し訳なさ気にちょこんと入っている。
苦笑して引っ張り出した。
『前略、中略、以下省略』
「ふざけてるなあ」
もっともである。無骨な男の人の文字で書かれたそれは、人をおちょくっているとしか思えなかった。
アリーはもう一枚の紙を引っ張り出した。
こちらはまともだったが、小さな紙にびっしりと謝罪の言葉が書かれている。
『ごめーん、君の力を測れなかったから、最底辺クラスになっちゃった♪
まあ竜を倒したってことは内密になってるし、普通の生活を遅れると思うよー☆
ま、悔しかったら対抗戦でガンバレ♪(意訳』
アリーは笑顔で手紙を引きちぎった。
そこはかとなく殺気が立ち上っている。が、アリー突然はふっと脱力した。
「ま、当たり前だよね~」
そう、竜を一人で討伐することは、英雄行為に等しい。・・・だからこそ黙秘しなければならなかったのであろう。ライディン家のお坊ちゃんにも思い緘口令が敷かれているに違いない。
アリーは自らの手を見下ろしてため息をついた。それから立ち上がると、部屋を出る。目指すはHクラスの教室だ。どちらにしろ撤回できないことをうじうじ悩んだって仕方の無いことなのだ。
廊下を歩き出したアリーの記憶は、竜を討伐した後のものになっていた。
*****
「お、おい、大丈夫か!?」
駆け寄ってきたのはお坊ちゃんことジェイラルドである。
ハンカチで甲斐甲斐しくアリーが浴びた竜の返り血を拭っている。
替わらない心配性のその姿に、アリーはそこはかとない安堵・・・というか突き抜けた感じを覚えていた。
「どうしたの?」
竜を殺しておいてどうしたもこうしたも無いが、アリーは一時、人嫌いを忘れてけろっとジェイラルドに問いかけた。
が、ジェイラルドは聞いていない。
「どうして魔界に竜が・・・天界にしか居ないんじゃなかったのか・・・」
確かに竜は天神に属しているモノだ。アリーも最初はそう思ったが、
「堕ちたんだよ」
「堕ち?」
手を止めて不思議そうに、ジェイラルド。
アリーは苦笑した。
「これから授業で習うよ・・・多分」
そんな二人の目の前で、堕ちた竜が輝く四片となって砕け散った。
ピーン、とチューニングの音が響き、アリーとジェイラルドは、空を見上げた。
『・・・っな、竜だと!? 「キリーヴ先生、繋がってます!」 えっ・・・えー、ゴホン、試験終了とみなす』
大変だなあ、と、アリーは人事で思った。
*****
その後談。
『俺たちにできることなら、お前の、願いを、聞いてやろう』
キリーヴはため息をつい手引き出しを探り、中から青い瓶を出した。
『そんなことか・・・ほい』
『・・・これは?』
見るからに怪しいだろうが。
『まあ飲め。お前が思っているほど怪しいものじゃないからな』
いつものアリーなら、警戒するところだが、今は違った。ごくごくっと飲み干す。
と、体から、力が抜けていった。
『な・・・』
倒れるアリーを、身を乗り出して支えた教師。
『お前も大変だなあ』
(なんだと)
アリーとしては平凡なほうがいいのであるが。
*****
AクラスからHクラスまで、8クラス。それが3年あるので、この学園はかなりの大きさを誇っている。
その中での最高権利者は、教師でも学長でも、統括理事でもない。統括、と名は入っているが、それこそ名前だけの役職であった。
生徒会付属執行委員会。 ――それがこの学園での最高権利職の名前である。
各学年3人ずつ輩出され、執行の人数は全員で9人。そこに会長、副会長2名を含めて執行委員会全員では12名に上る。
その中でも一番の実力を誇るものが執行委員会、果ては学園全域に力を及ぼすのであった。
とはいえ。
「それ、私には関係ないでしょうが」
「う~ん? どうだろうね?」
「はいそこ、意味深に笑わない」
アリー、貴女変わった?、とエレインは面食らった表情を覗かせた。
「なんかちょっといつもと違うわね。何がって言われても答えられないけど」
アリーは頷いた。
「なんか体が軽いの。なんでだろ」
「何でだろうねぇ」
二人で頷きあったものだ。突っ込み属性がいないせいでこの二人は留まることを知らない。
(ま、ほんの少しの間でもアリーが元気ならいいわ)
エレインはそう己を納得させた。
Hクラスの中には続々と人が集まってきていた。
これから、これから。




