入学直後 その二
今回も読んでいただき、有難う御座います!
・・・戦闘シーンは先延ばしになりそうです…
「ぎりっぎりセーフィ」
エレインとアリーが教室に駆け込んだとき、ちょうど始業のベルが鳴り終わったところであった。どこか高級そうな品の良い調度品が所々に、これまた品よく配置されている質の良い教室だ。
教師らしき服装の若い男が二人に向かって微笑んだ。
「残念ながらぎりぎりアウトだよ、小娘さんたち。クラス分けの前でよかったね? もしこれがクラスを分けた後だったらお二人には魔力奉仕の刑だっただろうから。生徒手帳を見れば分かることだけど、着席は始業のベルが鳴る前だ。覚えておくといい。
それとも何かい? 遅刻魔に成りたいと言うならば別だけどね」
エレインは必死に首を振った。
「成りたくないですぅ」
目にはちょっと涙が浮かんでいる。
アリーはエレインの後ろにそっと隠れて様子を見守っていた。
そもそもアリーは、受付士のときのようにほぼ初対面の人に対して口答えをすることは非常に稀なことなのだ。普段は活発で明るいエレインの後ろに、影のように付き従っている。本当に心を開くまで究極の人見知りを十分に発揮する。この場合は十二分というべきか。
今回も事の対処はエレインに任せきりだ。
「今度からもっと早くに来るようにします! すみませんでした!」
深く頭を下げるエレインに苦笑したように教師は言った。
「だから今日はいいって。な? そこへ座りなさい」
「はい」
「……はい」
もう一度エレインが深く頭を下げたのを横目で見て、アリーも頭を下げる。二人は近くのいすに身を落ち着けた。
トントン、と教師は大きな教卓を何度か叩いて注目を集めると言った。
「僕の名前はセイリヴァン・クレネス。入学式でかったるい説明を何度も聞いて分かってると思うけど」
(そんなこと先生が言っていいのかよ!?)
全員の声が一致した。
教師は続ける。
「今回の入学で君たちには、320人の仲間ができた。ああ、いや319人かな。どっちでもいいけど、クラスはAからHまでの8組ってことは知っているね? その組み分けを行うんだ。この学園では、貴族も王族も、庶民も関係は同じだ。全員対等なところからの出発となる。んが、」
教師はにやっと笑って、こっからが楽しいとこ、と前置きした。
「分かってると思うけどこの学園は実力至上主義だ。Aクラスが最高。Hクラスが最低クラスだ。ま、分かっていると思うけどね」
一人の生徒が手を上げた。
「発言をお許し願います」
チラッと時計を見て時間を確認すると、教師は頷いた。
「いいよ、許そうか。名前は?」
「ツェールリッツォ・フィング・ファスタンウェルと申します」
ザワッと教室がざわめいた。声にならない悲鳴も聞こえる。
彼女の名前を知らぬものはいない。国王を父に持つ娘。
―――王女
アリーは目を細めて彼女をじっと見つめた。
王女ツェールリッツォは長い間公式の場に姿を見せなかったことが有名だ。病弱、ということだったが、今の彼女からそんな”気”はまったく感じられなかった。むしろ活気ある人間として認識できる。少し鬱血したような詰まった感じはするが、しばらく太陽にあたったり、運動したりすればあっという間に健康体だろう。アリーはそっとため息をついた。
(なんてきれいな人なんだろう。制服が制服じゃないみたい…。
浮世離れしている美しさってところかな…?)
女子の制服は脛の半ばまである長いワンピースだ。腰より少し上のところで赤い紐で絞ってあって、そこから下は呆れるほど運動許容範囲が広いプリーツとなっている。足が長く見えるのでアリーはこの制服をひそかに気に入っていたのだが、着る人でここまで違うと、劣等感を通り越して羨望しか浮かんでこない。
エレインはアリーに顔を寄せて囁いた。
「あの王女様、正妃様から生まれたって事になっているけれど、」
「けれど?」
「本当は厩番の娘の子供らしいわよ」
「……なるほどね」
(それは世間様の目から隠すわな)
ひそかに交わす二人の話は教師たちに聞こえていないので、話は再会されるようだ。
目が笑っていない教師が微笑んで王女の話の先を促すと、まだざわつく教室をものともせず質問をした。
「もしよければ、試験の内容を教えていただきたく存じますが」
「おや、教師である僕に試験内容を話せと?」
「ええ」
王女はそれっきり黙って席に着いた。
彼女は探るような目つきで教師を見ている。
試しているんだ、と、直感的にアリーは思った。あの教師が信用に足るのかどうかを。
クラスの大半は、男女問わず彼女の美貌に骨抜きになっているので、彼女の考えはアリーにしか悟られていないようだ。
エレインのほうをチラッと見たアリーは思わず顔を手で覆いたくなった。
「エレイン、野次馬的根性は尊敬するけれど。いまはちょっと控えてよ」
「何を言っているのよ! はあ~、あんなきれいな人見たこと無いわぁ~」
「目をハートにして言わないの!」
「孤高の姫って感じ。素敵」
「こら、映水晶を出さないの! 勝手に撮るのは非常識だよ!」
映水晶とは、映像を記録する、記録媒体として魔法法力師によく使用される魔石の一種である。
「生きる非常識のアリーに言われたくないわよ」
そういわれると黙るしかないアリーだ。
アリーは小さくエレインを小突いて前を――正確には教師のほうを――向いた。
教師は表面上困った顔をしているが、その目は意思が光っていた。
「うーん、ごめん。この学園は実力始業主義って言ったでしょ。まだどんな力を持っているかどうかも分からないような小娘に情報を売り渡す訳が無いよね」
目を見開いた王女の顔は羞恥と怒りで真っ赤になっていた。
そんな姿も美しい。
(美人って本当にお得だな…)
アリーも並々ならぬ美貌の持ち主である。エレイン以上だ。
王女は半ば立ち上がりかけていた。
「私を何だと……」
「ウン知ってる。王女様だね。でも今の僕には貴女以上の権力がある。今すぐ貴女を退学にだってできるんだよ?」
「くっっ…」
どうやらとんでもないお嬢様のようだな、とアリーは人事で思った。
アリーは基本自分に害が無ければ放置します。
外でわめいていた先輩方は始業に間に合ったのでしょうか?




