第6話 七つの秘毒を狙う者
同盟を組んで三日目の朝、小梅は白澤に呼び出された。開口一番、彼はこう言った。
「昨夜、貴妃の一人が倒れた。今度は毒見役を通さない、直接の毒殺だ」
(は? 直接?)
「毒見役の目を盗んで、寝所に忍び込んだ形跡がある。手口が――」
「『牡丹の涙』ですか」
白澤は頷いた。
〈馬鹿な。あれは妾の――いや〉
朱華が、言いかけて言葉を飲み込んだ。
(あれは、あんたしか作れないはずだったんじゃないのか)
〈……そのはずだった。だが、五年もあれば、レシピを盗み見た者がいてもおかしくはない〉
「盗み見た、というより」
白澤が、静かに紙片を机に置いた。桂の遺品から見つかったものとは別の、もう一枚。
「桂の私物の中に、これも紛れていた。読んでみろ」
そこには、達筆で、こう記されていた。
「秘毒の書、確かに預かった。あとは合図を待つのみ」
(この字――)
〈これは……妾付きの女官、蓮児の字だ〉
朱華の声が、初めて明確な驚愕に染まった。
〈蓮児は、妾が最も信頼していた女官だ。妾の秘毒の作り方を知る、唯一の人間だった〉
「つまり」
小梅は、乾いた喉を意識しながら続けた。
「あんたを陥れたのは、あんたが一番信じてた奴だった、ってことか」
沈黙。朱華は答えなかった。答えられなかった、というのが正しいのかもしれない。
◆
「蓮児という女官を探そう。まだ後宮内にいるかもしれない」
白澤の提案に、小梅は頷きかけて、ふと動きを止めた。
〈待て〉
朱華の声が、鋭くなった。
〈もし蓮児が、五年前に秘毒の書を奪ったのなら――今、この後宮で唯一「七つの秘毒」の知識を丸ごと持っているのは〉
(――俺、じゃないか)
背筋が冷えた。自分が今、朱華の記憶ごと、後宮で一番の「危険物」になっているという事実に、今更ながら気づく。
〈察しがいいな。褒めてやろう。だが同時に、貴様は今この瞬間から、消される理由を持つ人間になったということでもある〉
(褒めるとこかよ、それ!)
白澤の表情が、初めて強張った。
「――お前を、一人にはさせない」
「は?」
「太医院の中でなら、俺の目が届く。今後、単独行動は禁止だ」
(過保護か。いや、これは――)
〈ほう。若造、なかなか良い顔で言うではないか〉
(茶化すな、朱華)
外では、次の毒殺事件の報せを聞きつけたのか、後宮中がにわかに騒がしくなっていた。静かだった三人の同盟に、初めて明確な「敵」の輪郭が見え始めていた。
第二章が動き出しました。次はいよいよ黒幕に繋がる女官・蓮児の行方を追います。気になった方は、評価や感想で応援していただけると励みになります!




