第41話 学院長と対談
――王立フェブリア学院
生徒達が登校している中で、1人学院長室に向かう者がいた。足取りは軽くとても緊張している様にも見えない。
普通なら学院のトップでもある人の部屋に、軽々しくは向かえない上に、とても緊張するものである。
しかしながらこの者は、何とも思わずいつも通りの雰囲気で、気軽に向かい訪問するのだった。
(コンコン)
「どうぞ」
ガチャリとドアを開け、中へと入るのはケビンであった。
「お久しぶりです、学院長。今日は伝えたい事があったので来ました」
予想もしない訪問者に少し動揺するのだが、そこは年長者の功か、表には出さず努めて冷静に言葉を返した。
「お久しぶりですね、ケビン君。伝えたい事とは何でしょうか?」
「ここ最近あった事件の黒幕が分かりましたので、お伝えしようと思いまして」
さすがに今度は動揺を隠せなかった。生徒の行方や犯人探しを、学院も独自に動いて探っていたからだ。
「私が思うに、ケビン君は慈善で動くような子じゃないと、思っていたのだけど……」
「その通りですよ。火の粉がかからない限りは、動くことはなかったんですけどね」
「その言い方だと、巻き込まれたのかしら?」
「ええ、どっぷりと。自宅への帰り道の際、つけられていたのは知っていましたが、実力行使に出られて襲われたんですよ。返り討ちにしましたけど。まぁ、外出禁止令の最中に敷地外へ出る子供なんて、自分くらいしかいなかったから、仕方ないと言えばそれまでなんですけど」
学院長の記憶で、ここ最近あった事件で思い当たるのは、路地裏での大量殺人だった。
「もしかして、あえて誘いに乗りませんでしたか? ここ最近あった出来事で、大きなものと言えば路地裏での出来事です」
「それは違いますよ。かなり鬱陶しかったので、こっちから誘ってみたんですよ。馬鹿なくらいに釣れましたけどね。普通に考えて、行方不明事件が起きてるのに、態々路地裏に向かう子供なんていないでしょうに。考え足らずな者たちでしたね」
学院長は驚愕した。年端も行かない子供が大人相手に戦って、全て殺しているのだ。普通なら忌避感を持ち、殺すことまでは出来ないからだ。
「その件は聞かなかった事にしますね。事情聴取なんてつまらないものは受けたくないでしょう? それで、次は黒幕を教えてくれるのですか?」
「それもありますが、少し違いますね。襲われた事が母にバレてしまいまして、関わった者は全員殺すと意気込んでいたものですから、少し待ってもらうように言ったんですよ。対応次第で全員殺す事になりますけど。ちなみに母は王城に行ってますよ」
「なっ!」
更なる事実を知り、今日一番の動揺を見せてしまった。一番怒らせてはいけない相手が動き出したのだ。
これはもう、行き着く所まで行き着いた事になる。知りませんでしたでは済まされない所まで来ていた。現に本人は王城へ行っているのだ。
「最終的には全員死んでもらう事にはなるんですけど、そこには母が殺すか法で処刑されるかの違いしかありませんが、出来れば処刑で済ませたいかなと思いまして。ちなみに誘拐の実行犯は殺す事になっています。母もそこだけは譲れないみたいですね。そいつがいなければ自分が襲われる事もなかったですから」
「処刑で済ませたいという事は、ここに来た本当の理由は何かしら? ただ、犯人を教えてくれるだけではないのでしょう?」
「そうですね。その黒幕の内の1人がここの教師だったんですよ」
「そ、それは本当なのですか!?」
学院長からしたら、予想の斜め上の情報が齎された。栄えある学院の教師に裏切り者がいるとは、微塵も考えていなかったのだ。
「やはり知らなかったようですね。教師の見回りが行われている中で、難なく誘拐されたのだから、その時点で予想はしていたんですけど……学院長はおっちょこちょいですね」
「そんな……我が学院の教師が関わっていたなんて……」
自分がおっちょこちょいと言われた事よりも、身内が関わっていた事の方がショックであったらしい。
「という事で、落ち込んでいるところ申し訳ないのですが、その教師を逃げないように拘束して、国に引き渡して欲しいのです。そのお願いの為に訪問したわけですから。もし取り逃がしたりしたら、こちらで処理しますので、ご了承ください」
「……ちなみにその教師は誰なのですか?」
「タナックス先生ですよ」
(そんな!! 同僚や生徒からも人受けの良い人気の先生なのに。何かの間違いでは!?)
「吃驚されているようですね。パッと見、悪い人には見えませんでしたからね」
「彼の担当する学年は違うのに、知っているのですか?」
「登校がてらチョロっと顔を拝みに行きましたから。逃げられてもすぐに探しだせるようにね」
「そうですか……さすがに表立って動いては、学院に混乱を招きますので、秘密裏に拘束する形にしますよ?」
「手段はそちらに任せますよ。後で国から使者が来ると思うので、そこで引き渡せば良いと思いますし」
「子供たちの誘拐事件とはいえ、国が動くほどですか……」
「黒幕の1人が貴族だからですね、仕方ないですよ。だから、母が王城へ行ったんですよ」
(!!)
「次から次へとよくもまぁ、驚かせてくれるものです。ところで、攫われた生徒達はどうなったか知りませんか? あの子たちが心配なのですが……中にはちょっとした面識のある子もいますし」
「へぇ、知り合いの子でも攫われたのですか?」
「入学試験の時に知り合いましてね。意欲のある子供だったから覚えていたんですよ」
その時を思い出したのか、学院長の顔が先程よりも少し柔らかくなった。
「これはあくまで予想でしかないのですが、まだ売り飛ばされたりはしていないと思いますよ。この王都の何処かにはいるでしょうね」
「ケビン君が言うのでしたら、安心ですね」
「それは何故です?」
「“まだ売り飛ばされてはいない”という事は、ある程度事情を知っていそうですし。“王都の何処かにはいる”って事は、もう予想はついているのでしょう?」
「いつもそのくらい賢明であれば、内部の裏切り者にも気付けたかも知れませんね。」
「ふふっ、一本取ったつもりが取られてしまいましたね」
「ぶっちゃけて言うと、誘拐の実行犯が賞金首なんですよ。そんな奴が街中にいるってことは、人目につかない場所に隠れ住むしかありません。本人からしたら、衛兵に対して灯台もと暗しでざまぁなんでしょうけど、もうバレている以上、こっちからしたら居場所を特定しやすくて、ざまぁなんですけどね。そこに生徒たちもいると思いますよ」
「出来れば生徒たちを助けに行きたいのですが、ケビン君からしたら足手纏いになりそうですから、行かない方が無難ですね。だから、生徒たちの事を任せてもよろしいですか? 私の顔に免じて助け出して欲しいのです」
「わかりました。1つ貸しにしときますよ」
「高くつきそうですね」
「その時の気分によりますね。では、教師の方はお願いしますね」
「わかりました。すぐに取り掛からせるわね」
「では、失礼しました」
学院長室からケビンが出て行くと、すぐに手元にある通信機である教師を呼び出すのだった。
「ジュディ先生、至急学院長室まで来て下さい。最優先事項です」
ここから上、前ページ後半丸々同じです。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから伯爵と教師は直ぐに拘束され牢獄へ入り、残りは賞金首の男とローブの男のみとなった。
事情聴取は騎士たちが行い、残りの犯人を逃さない為にも情報統制が敷かれ、外部に漏れないよう細心の注意が払われた。
そんな中、俺は賞金首の男を懲らしめるために、アジトへと向かった。
アジトの場所は、スラム街を探索していたら難なく見つかり、見た目は普通の倉庫であった。
「ケビン君の探知能力は凄いですわね。あっという間にアジトが見つかりましたわ」
「さすが私のケビンね。お姉ちゃんの自慢の弟よ!」
「……」
皆さんお気づきだろうか? ここに居るはずのない人が、何故か参加しているのだ。母さんと2人で隠密行動のはずが、妙にテンションの高い人とそのストッパー役の人が紛れているのだ。
何故こうなった!!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――時は遡り
学院長との話が終わり、ブラブラしながら教室に戻る途中、正門の方から、ガヤガヤと騒ぐ声が聞こえた。
ふと気になり野次馬根性で向かったら、正門周辺には人集りが出来ていて、ある一点を遠巻きに窺いながら見ていたのだった。
近くの生徒にとりあえず聞いてみると、何やら有名人的な人がいるらしい……
「なぁ、有名な人って誰が来ているんだ?」
「元Aランク冒険者だとよ。俺も詳しくは知らないが、伝説的な人らしい。武系の連中が騒いでるだけだよ。文系の俺としては、余り興味はないかな」
「ふーん。そうなのか」
今日は何かのイベントでもあるのだろうか? 元Aランク冒険者を招くなんて、学院も粋な計らいをするもんだ。
そんな中、野次馬連中の別の所から声が上がった。
「おい、あれ《氷帝》じゃないか? 何で一緒にいるんだ? 模擬戦でもするのか?」
(キュピーン)
『何だこのプレッシャーは!』
『パターン青、姉です!』
『ここは、逃げの一手で。隠蔽フィールド 全開!!』
『逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ』
「ケビーン! いるのはわかってるわよー!」
____
『┃第壱話 ┃
┃長 ┃
┃女、襲来┃』
 ̄ ̄ ̄ ̄
『サナ、意外と器用だな。感心したぞ』
『実は、私のステータスはネタに極振りしてますからね。ドンと来いです!』
『システムにステータスなんてあるのかよ? とりあえずこの場を離れる。目視されていない今ならまだ間に合うはずだ』
サナとのやり取りをしながら、距離を取りつつも振り返りざまに走り出そうとした瞬間、人とぶつかってしまった。何とも幸先の悪いスタートだった。
「あ、すみませ……ん?」
目の前には見慣れたあの人の姿があった。
「ケビン、お姉ちゃんが呼んでるわよ? 隠れるなんて相変わらず苦手なのね」
「母さん、何故ここに……?」
「王城での一仕事を終えたから、迎えに来たのよ」
もしや、正門で騒がれてた元Aランク冒険者って、母さんの事だったのか? 正門までかなり距離があるのに、一瞬でここまで来るとは……本気出した?
「隠蔽スキル全開で使っているのに、ここにいる事がよくわかったね」
「それは愛しの我が子を見つけるくらい、母さんにとっては朝飯前よ」
もしかして、姉さんの第六感的な探知能力も、母さん譲りだったりするのか? 姉さんはまだ俺を見つけきれていないから、母さん程の探知能力はないけれど、いずれは母さん並になるって事か? 勘弁して欲しい……
いきなり現れた元Aランク冒険者に、周りの人間は円を描くように離れていく。
(おい……今、“母さん”って言ってたぞ。あいつ、もしかして息子なのか?)
(それに“お姉ちゃんが呼んでる”って言ってたから、《氷帝》の弟でもあるって事だろ?)
(とんでもない家族じゃないか!)
ヤバい……周りが騒ぎ出した。母さんと話している時点で、周りに認識され隠蔽は解けたし、俺の平穏な学院生活が終わってしまう……
「ケビーン! 何処にいるのよー! 母様もいなくなってしまうし……絶対一緒にいるでしょー!」
あぁ、終わった……あんだけ騒がれれば隠すのが無理になってしまう。
「シーラったらあんなに騒いで、淑女である自覚がなさすぎるわね」
「ターニャさんがいれば、落ち着くとは思うんだけど。近くにいないのかな?」
「誰なのかしら? その子は」
「姉さんの親友みたいだよ。いつも一緒にいるから」
「ああ、同じ様な年頃の子ならいたわよ。お願いされたから握手したわね」
握手したのか……ターニャさんって、意外とミーハーなのかな? それよりも、いるなら姉の暴走を止めて欲しい……
「ところでケビン、今からならず者を捜しに行くわよ」
「今から?」
「そうよ。善は急げって言うでしょ?」
何故日本のことわざが、普通に知られているんだ? 不思議でならない……
「それに、早くしないとお姉ちゃんに見つかるわよ? 静かになったからターニャちゃんが頑張ったのね」
姉さんに見つかったら、絶対についてくると言い出しそうだ。何としてでも見つかる前に、ここから離れなければ!
「それは困るかな。荒事に姉さんを巻き込むわけにもいかないし」
「苦手なのに優しいのね。だからシーラもあれだけ懐くんでしょうね」
「早く弟離れして欲しいんだけどね……」
「それは絶対にしないわ!」
いきなりの乱入者に目を向けると、姉さんが仁王立ちしていた。後ろには申し訳なさそうにターニャさんもいる。
「ほら、早くしなかったから見つかったわ。ふふっ」
さっきのはフラグだったのか……へし折っておけばよかった……
「ケビン、ずっと呼んでたんだから、返事ぐらいしてよ。お姉ちゃん悲しくなる」
そんな捨てられた子犬のような目で見ないでくれ。見つかりたくないから、返事をしなかったんだ。
「やあ、姉さん。淑女なんだから、人前であんなに大声を出したらダメだよ?」
「ケビンが言うなら、次からは気をつけるわ」
それでも気をつける程度なのか。止めるとは言わないんだな。
(おいおい、豪華メンバーが1箇所に揃い踏みだぞ!)
(伝説の元Aランク冒険者にその娘である氷帝、氷帝の右腕と呼ばれている人まで……何だこの空間は!)
(更には氷帝の弟までいるんだぞ! 弟がいるなんて知らなかったぞ!)
(そりゃそうだ。Fクラスで入学してきたからな。代表戦で圧倒的な実力差を見せつけ、相手を倒したのは一部じゃ有名な話だ)
(何でそんな奴がFクラスにいるんだよ! 普通はSだろ!)
(ダラダラと学院生活を送るのに、しがらみの少ないFを希望したそうだ。本当は次席と圧倒的な差でかけ離れた、首席入学だったみたいだぞ。前代未聞の成績で、学院長からSクラス入学の推薦をされたみたいだが、本人が断ったらしい)
(学院長からの!? それよりも、その逸話的な内容も内容だが、何でそんなに詳しいんだ?)
(新聞部だからだ)
(新聞部パネェ)
外野がかなり騒がしくなってきた。一部プライバシー侵害的な詳細な情報が出てきたが、新聞部なら仕方ない。こんなでかい学院なんだし情報網が半端ないんだろう。
これ以上、晒されるわけにもいかないし、退散した方がいいな。とりあえずは早退になるし、馬車へ向かうとしよう。
「母さん、周りが騒がしくなってきたから、馬車へ向かおう」
「そうねぇ、そうしましょうか」
2人で歩き出すと、モーゼの様に人混みが割れた。何か凄い演出みたいになっているな。視線はバンバン感じるし、物凄く歩きづらい……
「母さん、ちょっと我慢できそうにないから、先に馬車に向かってもいい?」
「いいわよ。私は昔から慣れてるけど、ケビンは注目されるのは嫌いですしね。馬車で待ってなさい」
「では、お先に」
(おい、弟が消えたぞ! 何処に行ったんだ!)
(これが代表戦で騒がれた実力って事か)
(新聞部の名にかけて、見つけてみせる!)
「ねえ、母様。ケビンとこれから何処かに行くの?」
後ろからシレッとついてきていたシーラが、疑問を口にする。
「ちょっとしたストレス発散よ」
「私もついて行っていい? 寧ろついて行く!」
「そうねぇ、ケビン次第にはなるかもしれないわよ?」
「ケビンならいいって言うわ!」
「貴女は昔から、ケビンの事になると強引ね」
「だって可愛い弟だもの!」
「仕方ないわね。ケビンに迷惑かけちゃダメよ?」
「大丈夫よ、心配ないわ!」
「ターニャちゃんはどうする? 一緒に来る?」
「私が一緒に行ってもよろしいのでしょうか?」
「ケビンが気に入っているみたいだから大丈夫よ」
「なっ! 聞き捨てならないわ! ターニャ、貴女やっぱりケビンに何かしたのね? お姉ちゃんの座は渡さないわよ!」
「別にいりませんわよ、その座は。貴女がずっと君臨していればいいですわ。」
「そう? それなら安心ね。」
「ふふっ、ターニャちゃんの方が一枚上手ね」
「?」
Sクラスの才媛であるシーラも、ケビンが絡むとなるとどこか抜けた、唯の人となるようだった。俗に言う残念系である……
そんなやり取りをしながらも馬車へと辿りついて、サラたちがその中に入ると、ケビンが既に寛いでいた。
「あれっ? 何でいるの?」
不思議に思ったケビンが聞いてみるのだが、予想の斜め上を行く残念な回答が戻ってきた。
「ケビン、会いに来たわよ!」
「えっ……」




