第31話 闘技大会 ~代表戦~ ①
初日の初勝利からというもの、学院中はFクラスの話題で持ち切りだった。他のクラスの試合も見所があったんだろうが、どの学年でも万年ビリのFクラスが初白星を上げたことに比べれば、大した話題性もなかったのだろう。
何故Fクラスが万年ビリになるのかと言うと、この学院のシステムに問題があった。クラス昇格は闘技大会の他にも、筆記試験で成績がよければ実技の評価と併せて吟味され、個人単位でクラスを昇格出来るからだ。
そして昇格した生徒分、余剰が出るから下位成績者はクラスを降格する羽目になる。それによって、成績不良者がFに集まる仕組みとなっている。
筆記試験が悪いだけで実技はいい成績を残す奴がいるから、一概に弱者の集まりとは言えないのだが、そういう者達が挙って闘技大会で奮闘するのだろう。
初勝利の後は、先に脱落した生徒たちから、なぜ勝てたのか守備隊の奴等が質問攻めにあって、その矛先がこちらに向くと、Fクラスの司令塔になるよう言われたが丁重にお断りした。
当然次はDクラスとの対戦になるが、Eクラスに勝てたのだから無理して勝ちに行く必要もない。クラスが一気に昇格したところで実力がないのだから、現状が分相応と言うものだ。
その後の結果は、残りの対戦クラスに見事に負けて終わった。結局FクラスはEクラスに勝っただけとなる。ちなみにEクラスはうちに負けているので全敗となった。
総員戦の残り試合が消化されたことにより、次は代表戦の試合が待ち構えている。ここでも俺以外の生徒に頑張ってもらわないと、ダラダラ過ごせなくなってしまう。
先に3勝した方の勝ちだから、最悪4番手で3勝になれば5番手希望の俺が試合に出ることはなくなり、ゆっくりと観戦でもして過ごせるというわけだ。
『サナ、今の所FがEに勝てる確率はどの位だ?』
『マスターを抜きにして考えると、対戦相手にもよりますが五分五分と言ったところです。』
『勝率5割か……カトレアの1勝は揺るがないとして、問題はそれまでに2勝できるか否かという事になるな』
『そうですね』
そこでいつもの様に、ジュディさんが教室へとやってくる。
「はーい、みんな席についてー」
その恒例ともなった掛け声と同時に、生徒たちも席へと移動する。
「とうとう代表戦が始まりますが、代表の生徒たちは準備万端かな? それ以外の生徒たちは、しっかり応援してあげるようにね」
代表戦のメンバーは俺とカトレア以外、緊張からか表情が硬い。このままで本当に大丈夫なのだろうか?
「代表戦の順番は、サイモン君、マイク君、マルシアさん、カトレアさん、ケビン君の順番で戦ってもらいます。相手はEクラスだけど、いつもの訓練通り気負わずに行けば、勝てない相手ではないから頑張ってね」
「ケビン君が大将だね。目立ちそう」
「俺は戦わない方針で行くから、残りのメンバーで3勝してくれ」
「そうならないように努力するよ」
「いや、そこはそうなるように努力してくれよ」
「1人だけ楽するとかズルいじゃん」
「何もズルくないぞ。最初から戦わないって言ってただろ?」
「もし、私の前で2勝してたら負けるからね?」
「お前が負けたら手を抜いたって思われるだろ。総員戦であれだけ無双してたんだから」
「たまたま体調が良くなかったって言えば問題ないよ」
くっ! こいつ何としてでも俺を戦わせる気だな……最近、性格の悪さが表に出てきてるぞ。最初の頃の初々しさはどこへ行った?
「もし、そうなったら俺も負けてやる! たまたまやる気が出ませんでしたって言ってな」
「そろそろケビン君の本気が見たいんだけどなぁ。絶対、実力隠してるでしょ?」
「隠してなどいない。俺は落ちこぼれなんだよ」
「落ちこぼれの生徒が、あんな的確に戦場指揮なんか取れないよ。あれで頭がいい事は確実にわかったし」
「あんなものは誰にでも出来るだろ」
「出来ないから混成隊と攻撃隊が、呆気なくやられちゃったんだよ」
「相手はEクラスなんだから仕方ないだろう」
「そのEクラス相手に、全滅戦してのけたのはケビン君でしょ?」
「たまたまだ。それに俺は攻撃に参加してない。やったのは守備隊の連中だ」
「指揮が良かったからだよ。いい加減認めなよ。本当はやれば出来るんでしょ?」
「やっても出来ないのが俺だ」
「頑固だねー」
「お前もな」
そんなやり取りを続けていると、ジュディさんの話は既に終わっていたらしい。
「じゃあ、代表戦の選手は闘技場に行ってね。それ以外の生徒は応援席に向かうように」
ぞろぞろと教室から出ていく生徒たちを他所に、ケビンも移動するのであった。
「これで勝ったらEクラスへ昇格かな?」
「勝てたらな。負けたら現状維持だろ」
「消極的だねぇ、勝ちに行こうよ」
「なら先に3勝しろ。そしたら晴れてEクラスだ」
「んー……Eクラスに勝ちたい気持ちと、ケビン君の実力を見たい気持ちのジレンマだね」
「お前がわざと負けるなら、俺はすぐに降参して負けてやる」
「もうそう言ってる時点で、真面目にやれば勝てるって言ってるようなもんだよ」
「何故そうなる?」
「勝つつもりがないって事は、逆に言えば勝とうと思えば勝てるって事でしょ? 普通なら勝てるかどうかわからなくて不安になるんだし」
「実力がなくて、端から勝てる気がしないと諦める事もあるだろ」
「ケビン君からはそんな感じがしないんだよ。初志貫徹でダラダラするのが最大の目的で、実力がなくて諦めてるって感じがないんだよ」
中々に鋭い奴だな。なんでFクラスにいるんだ? こいつもわざと実力を隠してないか? 総員戦でもFクラスとは思えない立ち回りをしていたしな。
そんな事を考えていたら、闘技場についてしまった。闘技場は以前とは違い中央にリングが設置されていた。
あの上で戦えってことなのだろう。だいたい直径100m程か。わざと場外負けを狙うならリング端に行かなきゃいけないな。
「結構広いリングだねー場外に落とすのに苦労しそうだよ」
「お前なら斬り伏せて終わりだろうに」
「そっちの方が早いしね。疲れたくないからそうするよ」
観客も多いようで、2クラス分の人数とは言いきれない程に、観客席は埋め尽くされていた。
「何でこんなにギャラリーが居るんだ? Fクラスの試合だぞ?」
「総員戦で勝っちゃったからだよ。学院中で噂になってたから知ってるでしょ? 今年のFクラスは一味違うって」
「暇な奴等だな。視線が鬱陶し過ぎる」
そんな会話をしていると、先にいた審判も準備が出来たようでルール説明が行われた。
「代表戦のルールを説明する。相手選手を戦闘不能か降参させるかしたら勝ちになる。あと、場外へ落ちても負けだから注意してくれ。リング上は結界が張られていて、実際に怪我をすることはないし、魔法が外部に出ることもない。心置きなく戦ってくれたまえ。代表戦の選手が先に3勝した方のクラスが勝利となる。もし、最終成績で引き分けたなら、サドンデスで代表1人を決めて延長戦を行う。以上だ」
サドンデスがあるのか。平和的にジャンケンで決めるって事はないんだな。そもそもこの世界にジャンケンがあるか知らないが。運任せになるから採用してないのかもしれないな。
「最初の選手はリングへ上がってくれ」
そう言われてサイモンがリングへと上がる。相手のEクラスの代表も上がってきたようだ。
「よう、総員戦ぶりだな。体調は万全か? サイモン」
「オリバーか。体調は万全だ、今日はとことんやり合うぞ」
「望むところだ」
なんだ? あいつら知り合いか? なんか熱血っぷりが似ているな。
「それでは、第一回戦……始め!」
審判の掛け声と同時に、両者が前へ駆け出した。
リングの上では交差する剣戟が響き渡る。何合か打ち合うと互いに距離を取り、仕切り直しという形になったところで、オリバーがサイモンに声をかける。
「中々やるじゃないか。Fクラスにしとくのが勿体ないな。何でFなんかに居るんだ?」
「生憎、頭の方が良くなくてな。クラスごと上がれる闘技大会に賭けないと、自力じゃ上がれそうにもないんでな。そんなわけで代表戦も勝たせてもらうぞ」
「そりゃ、無理ってもんだ。お前はやれる方かもしれないが、他のメンツは大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。でなきゃ、選手に選ばれるわけないからな」
「見たところ後ろの2人は魔法系だろ? お前と同様に近接戦が出来るとは思えない。タイマン勝負でそれは致命的だ。こっちの選手は近接戦が得意だからな。詠唱している間に斬られて終わりだ」
「それは、やってみないとわからない……だろっ!」
そう言って再びサイモンが距離を詰めると、袈裟斬りに剣を振るう。それを危なげなく合わせる、オリバーとの剣戟が再び始まった。
「ねえ、サイモン君って勝てると思う?」
「まぁ、頭を使えば勝てるんじゃないか?」
「そうなの? 実力的には一歩劣ると思うんだけど」
「実力じゃ劣るが、相手がまだ下に見ている分、そこに付け入る隙はある」
「でも、サイモン君は頭使うの苦手だよ。自己申告してるし」
「……おやすみ」
「1回戦目から先行き不安になったね」
リング上では未だに剣戟を繰り広げている2人の姿があった。少しずつだがサイモンが押されているようでもあり、焦りの表情が窺える。
(くそっ、伊達にEクラス代表じゃないな。単調に斬り結んでも対処されてしまう。何とかフェイントを使って翻弄しなくては)
「どうしたんだ? 最初の勢いがなくなってきているぞ。バテてきたのか?」
「まだまだっ!」
「おっ、盛り返してきたな。終わるには早いからまだまだ楽しもうぜ」
「望むところだ!」
その頃、Eクラスの選手たちは長くなりそうな試合に飽き始めていた。
「オリバーのやつ、悪い癖が出始めたぞ」
「本当ね。さっさと終わらせればいいのに。どうして、熱い男を見るとあーなるのかしら?」
「知らねーよ」
「油断して足元掬われなきゃいいけどな」
そんな時、リング上で動きがあった。オリバーの右薙をくらい、サイモンが吹き飛ばされ倒れていた。
「くっ……」
「嬲る趣味はないから終わらせてやるよ。お前とやれて楽しかったが、今回も俺の勝ちだな」
ゆっくりと近づきサイモンの目の前まで来ると、下げていた剣を上げ、上段に構えたところから一気に剣を振り下ろした瞬間……
「がはっ……」
僅かな差でサイモンの刺突が、先にオリバーの鳩尾へと入った。
「勝負は最後まで諦めない。終わってもないのに、勝ったと慢心したお前の油断に救われたな」
「……や……るな……」
そう言い残しオリバーは気絶して、リングへ顔面ダイブするかと思われたが、立ち上がったサイモンが支えて、そのまま倒れるのは免れた。
「勝者、サイモン!」
審判が判定を下すとサイモンが右手を頭上に高々と上げ、場内は割れんばかりの歓声に包まれた。
『我が生涯に一片の悔い無し!』
『いや、確かにそんなポーズ取ってるけど、感動シーンがぶち壊しだな』
『いやぁ、先ずは1勝ってところですね。カトレアさんの1勝は揺るがないとして、残りの1勝は確実にマスターの出番になるでしょうね』
『ならないだろ。マルシアは勝てそうにないが、マイクなら何とかやれるんじゃないか?』
『微妙なところですね。何処まで詠唱を上手くやれるか、わからないですしね』
『あいつなら近接もそこそこやれた筈だぞ。斬り結びながら詠唱すればいいだろ』
『そんな事が出来るメンバーは、マスターぐらいでしょ』
『兎にも角にも、頑張ってもらわないと俺が困る』
「次の選手はリングへ」
Fクラスからはマイクがリングへ上がる。Eクラスからはニヤニヤした顔つきの選手が上がってきたようだ。
「第2回戦……始め!」
その瞬間、あっという間に距離を詰めた相手選手がマイクを斬りつける。受けることも避けることも出来なかったマイクは、そのまま吹き飛ばされリング上を転がっていた。
「おいおい、もう終わりか? 雑魚過ぎんだろ」
「……よ……て」
「何言ってんだ? 小さすぎて聞こえねーぞ」
「……燃やせ 《ファイアボール》」
マイクの詠唱終了と共に、火球が飛んでいき相手選手が被弾する。
「くそっ、舐めやがって!」
「清廉なる水よ 球体となりて」
「やらせるわけがねーだろ!」
マイクがそのまま2度目の詠唱に入ると、それを阻止すべく相手選手が斬り掛かった。
「くらえっ!」
今度はマイクも先程のようにやられることはなく、相手の攻撃に合わせることができ、鍔迫り合いとなる。
「我が敵を撃て」
「くそっ!」
相手選手が後ろへと、バックステップで距離を取ろうとしたが、これが悪手となり、マイクからしたら狙いやすくなったのである。
「《ウォーターボール》」
またも被弾し、相手選手の怒りが頂点に達した。
「ふざけやがってぇ! ぜってぇ許さねーぞ!」
「あなたに許してもらう必要性を感じませんが?」
予想に反して善戦しているマイクの戦いを見ながら、Eクラスの選手から檄が飛ぶ。
「冷静になりなさい。怒れば相手の思うツボよ」
「分かってんだよ! 外野は黙ってろ!」
(余計なアドバイスをしてくれるもんですね。冷静になられたら負けるじゃないですか)
「ふぅー……俺とした事がちょっと熱くなりすぎたようだ。もう、お前に勝ち目はねぇ。終わらせてやんよ」
(不味いですね……落ち着きを取り戻しましたか。また煽っていくしかなさそうですね)
「女性からの助言で立ち直りですか? 軟弱な上にダサいですね」
「んだとこらぁ!」
「原初の炎よ 球体となりて 我が敵を燃やせ《ファイアボール》」
「食らうかよ!」
今度は被弾することもなく躱して距離を詰めると、相手選手はその勢いのまま膝蹴りを当てて、マイクを吹き飛ばす。
「ゴホッゴホッ……」
「さっさとやられろ」
そこからは一方的に攻撃を受け、吹き飛ばされていくマイクの体力は、どんどん削られていった。
「まだ倒れねーのかよ。しぶとい野郎だぜ。だが、嬲るのも飽きたし次で決める」
剣を構え一気に駆け出すと、マイクへ向かい斬り掛かる。
「終わりだっ!」
袈裟斬りに斬られてマイクが倒れ始めると、ボソッと呟く声が相手選手に聞こえた。
「あなたもね。《ファイアウォール》」
その瞬間、相手選手の足元から火柱が上がり、業火に包まれる。
「ぎゃぁぁっ!」
火柱が消えると、そこには倒れた相手選手の姿があった。
「両者、ダウンにより引き分け!」
これで、Fクラスの戦績は1勝1分となるのであった。




