第32話 闘技大会 ~代表戦~ ②
マイクと相手選手が、リング上から運び出されたあと、審判が次の試合の選手へ招集をかける。
「3人目の選手はリングへ」
次のFクラス代表はマルシアだった。リングへ上がると相手選手は男性だったので、分が悪いかもしれない。
「第3回戦……始め!」
開始早々からマルシアは仕掛けて行った。
「清廉なる水よ 球体となりて 我が敵を撃て《ウォーターボール》」
「甘いよ」
その選手は難なく避けると、お返しと言わんばりに同じ魔法を唱えた。
「清廉なる水よ 球体となりて 我が敵を撃て《ウォーターボール》」
今度はマルシアが回避する番だが、水球が軌道を変えて追尾し、マルシアは被弾してしまう。
「くっ!」
「試合中に敵から目を離しちゃダメだよ」
そこからは一方的に試合が進んだ。マルシアが唱える魔法を相手が同じ様に唱え、マルシアの魔法は当たらず相手の魔法だけが当たっていく。
マルシアは魔法特化タイプで近接戦は苦手とし、打開策が全くと言っていいほど見つからなかった。
変わって相手選手はオールラウンダータイプで、近接も魔法もそこそこ出来るので、無駄なくマルシアを追い詰めていく。
しばらくマルシアも奮闘したが、実力差をありありと感じてしまい最終的には降参してしまった。
「参りました。私の負けです」
「良かった。女性とはやりにくいから、降参してくれて助かったよ」
「勝者、アーノルド!」
マルシアが気落ちしてリングから降りてくると、サイモンとマイクがフォローに入った。
「お疲れ様。今回は相性の問題でマルシアが弱いわけじゃないよ」
「そうだぞ。気にするな」
「二人ともありがとう」
「それに、次はカトレアさんだから挽回してくれるよ」
「4人目の選手はリングへ」
「ケビン君、行ってくるよ。……って、寝てるし!」
カトレアがケビンに声を掛けると、ケビンはスヤスヤと寝息を立ててた。
「これから人が戦うってのに、何かムカつく」
独り言ちりながら、カトレアはリングへと上がって行った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
時は遡り、中等部の教室では……
「今日はケビン君の代表戦なのでしょ? 早く観に行きますわよ。もう1回戦は始まってましてよ」
「心の準備が……」
「朝からそれしか言ってないじゃありませんの! 弟の勇姿を見逃しますわよ」
「モニター越しに観てるから。それなら平気だから」
「せっかく総員戦と違って観戦出来るのですから、生で見た方がいいに決まってますわ!」
「それでも……」
「いつもの貴女は何処へ行きましたの。ヘタレ過ぎですわよ」
「久し振りに会うから、どういう顔したらいいかわからなくて」
「会うって……観戦席から観るだけでしょうに。とにかく行きますわよ」
女子生徒はそう言って、シーラの腕を掴み教室を後にする。
「やっぱりモニターで観戦しようよぉ」
「今日の貴女はいつもと違って面白いのですけれど、それなら私1人で生のケビン君を堪能してきますわよ」
「それはダメ!」
「それならさっさと闘技場へ行きますわよ。今から行けばまだ間に合いますわ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
時は戻り……闘技場では、今まさにカトレアと相手選手の試合が始まろうとしていた。
「第4回戦……始め!」
カトレアと対峙しているのは女子生徒であった。が、中々試合は進まなかった。
「総員戦ぶりですね」
「何処かでお会いしましたか?」
「なっ! 貴女の陣地で戦ったでしょ!」
「んー? ……あっ、斬り捨てた人!」
「もっと違う覚え方はないんですか!?」
「それはそうと、ちょっと聞いてよ。あの時も言ったと思うけど、ケビン君ったらまた寝てるんだよ。ほら?」
そう指さす先には、スヤスヤと眠る少年の姿があった。
「寝てますね」
「酷いでしょ? また私に戦わせて自分は寝てるんだよ。今日も今日とて、俺は戦わないからお前までで3勝してくれ、みたいなこと言うんだよ。ありえないよねー」
「戦う順番を変えたら良かったんじゃない?」
「そんな事したら絶対にわざと負けるよ。私までに2勝してたら負けてやるって言って、出場させようとしたら俺も降参してやるって言ってたんだし」
「そんなに彼が戦ってる所が見たいの?」
「絶対に実力を隠してると思わない? 余裕持ち過ぎなんだよ」
「まぁ、試合中に寝る人なんて初めて見ましたから。そうかもしれないけど、ただ単にやる気がないだけでは?」
「やる気がないのは当たり前なんだよ。自己紹介の時、ダラダラ過ごすのが学院生活での意気込みって言ってたし」
「自己紹介でそれを言うのも凄いですね」
そんな和気藹々と会話をしていた時、審判から試合の催促をされる。
「ゴホン! 君たち、戦う気はあるのかね?」
「す、すみません」
「ん? 戦う気はあるけど、戦ったらすぐ終わっちゃうし、そしたら私のイライラ解消の捌け口が、なくなっちゃうじゃないですか」
「試合後に話せばいいだろう。それに、自信があるのはいい事だが傲慢になってはダメだよ」
「いやいや、すぐ終わるのは事実ですし」
「ふぅ……君みたいな子は毎年いるんだが、大体は実力が伴っていないんだよ。分を弁えて精進したまえ」
「何かこの人と話しててもイライラしてムカつくし、さっさと終わらせようか? こういうこと言う人って経験上大した実力もないんだよね」
「なっ!?」
「貴女、ちょっと言い過ぎよ。相手は審判なんだから我慢しないと」
「いいよ、あの人は無視して始めよう」
「しょうがないわね。あの時のリベンジよ」
「行くよー準備はいい?」
「いつでもどうぞ」
相手選手が発したその言葉の瞬間に、リング上からカトレアの姿が消えた。
「ドサッ……」
辺りに響いたその音とともに、リング上には倒れた相手選手がいた。
「ね、すぐ終わったでしょ? 呆けてないで勝利宣言してよ」
カトレアの言葉に我に返り、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、審判は勝利宣言をする。
「し、勝者、カトレア!」
闘技場内は何が起こったのかわからずに、静まり返ったのだった。
カトレアがリングから降りると、サイモン達が駆け寄ってきた。
「カトレアさん、さっきのはどうやったの? 気づいたら相手選手が倒れていたんだけど」
「普通に斬っただけですよ」
カトレアはそう答えてケビンの傍らへ座り込む。ケビンは相変わらず寝ているようだった。
「最後の選手はリングへ」
審判から指示が出ても、ケビンは一向に起きる気配すらなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
時は少し遡り……
「さぁ、シーラ。闘技場につきましてよ」
「うぅ……緊張する……」
「本当に今日の貴女は面白いですわね」
そんなやり取りをしながら闘技場内に入ると、ちょうど4回戦が始まったところだった。
「何とか間に合いましたわね。さぁ、最前列に行きますわよ」
たまたま空いていた席へと、2人は腰を下ろす。
「それにしても、あの子はケビン君の傍らにいた子ですわね。何やら和気藹々と喋っているようですけど」
「あんな子なんてどうでもいいわ」
「観ておく価値はございましてよ。Fに不釣り合いな実力の持ち主なんですから」
その瞬間、対戦相手が倒れた光景を、2人は目の当たりにするのだった。
「……今の見えてまして?」
「見えたわ。中々やるわね」
「あの審判は見えてなさそうですわね。固まってますわ」
その後、勝者が告げられ試合は最終戦となる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「最後の選手はリングへ」
相手選手がリングへ上がるが、Fクラスの選手が上がってこないことに、闘技場内は少しザワつくのだった。
「Fクラス、選手はリングへ上がりたまえ! 上がらないのなら不戦敗とする」
審判からのその言葉に、Fクラスの生徒たちや代表選手は慌て出すのだった。
「おい、カトレアさん! ケビン君は起きないのか?」
「さぁ? グースカ寝てるから恥でもかけばいいんだよ」
カトレアは、自分の試合を見ていなかったケビンに対して少しむくれていた。
「シーラ、ケビン君寝てますわよ。相変わらずですけど凄いですわね」
「あぁ、気持ちよさそうに寝ているわ。可愛いわね」
「それはともかく、不戦敗になりますわよ。クラスメイトじゃ起こしきれないのではなくて?」
「不戦敗は許せないわ。でも、ケビンが気持ちよさそうに寝ているのに、邪魔をしたくないわ」
そんな中、審判から判定を伝える言葉が会場内に響きわたる。
「Fクラスの選手が上がってこないため、第5回戦はEクラスの不戦勝とする。結果、2対2、1分けにより、サドンデス戦を行う。サドンデス戦の代表選手はリングへ」
「Eクラスの代表は、俺のままでお願いします」
「Fクラスは代表を決め、リングへ上がりたまえ」
まさかの不戦敗となり、Fクラスはてんやわんやとなっていた。
「サドンデス戦の代表選手は誰にする? 実力から見て、カトレアさんしかいないと思うんだが」
「そうだな。俺もマイクも消耗しているしな。カトレアさん頼めるか? これで勝てば、俺達の勝ちになる」
そこで初めてカトレアは、ケビンが起きない理由に気づいたのだった。先程起きていれば、ケビンが試合に出なければいけず、なおかつ2勝していたため、周りからの勝利への期待も大きくなる。
だが、ケビンが不戦敗となりサドンデス戦に縺れ込むと、代表選手を決めなおすために、確実に寝ているケビンより、圧勝した自分に白羽の矢が立つのだ。
「これはしてやられたかな。ここまでのことは、さすがに私でも読み切れなかったよ」
「カトレアさん、出てくれないかな?」
「嫌よ。疲れるのは嫌いなの。ケビン君を起こして出場させればいいのよ」
「でも、当の本人が寝たままだからね」
そこで審判から、再び声が掛かる。
「Fクラス、まだかね? また不戦敗になりたいのかね?」
さすがにここまで来て不戦敗で負けるのは嫌なので、サイモンが意を決して出場しようかと悩んでいるとき、観客席でシーラに声をかける女子生徒の姿があった。
「シーラ、Fクラス負けるみたいですわよ」
「仕方ないわ。寝ているのに可愛そうだけど、ケビンを起こすわ」
「あら? 起こせるんですの?」
二人が話し合っている中、待つだけ待っていた審判から判定が下される。
「Fクラスは、選手不在のため不戦ぱ――」
「待ちなさい!」
声の方へ皆が視線を向けると、フワリと観戦席から舞台へ降りる女子生徒が、ケビンの方へ向かって歩き出していた。
いきなりの乱入者に辺りは静まり返る。が、その者を知っている者がいるらしくヒソヒソと話し声が聞こえる。
「おい、あれって中等部の《氷帝》じゃないか?」
「何でエリートがこんな所に居るんだ?」
「知らねーよ。暇つぶしじゃないか?」
「Fクラスの方に向かってるよな? 知り合いでもいるのか?」
観客達が疑問に思い見守る中、シーラはケビンの元に辿り着き、代表選手に声を掛ける。
「うちの弟が寝てしまって、迷惑かけているようでごめんなさいね」
その言葉に、観客たちが騒然とする。まさか、《氷帝》の身内がFクラスにいたとは誰も予想だにしなかった。
《氷帝》と言えば未だ負け知らずのエリートで、その身内は兄が2人いて、共にSクラスから落ちたことのない、同じくエリートなのだ。
そんなエリート三兄妹に弟がいた事にも驚きだが、さらにSクラスではなくFクラスに在籍しているなんて、とても信じ難い事実であった。
「あ、あのケビン君は、起きるのですか?呼びかけても反応しないのですが……」
サイモンが恐る恐る姉と名乗る少女に聞いてみる。
「大丈夫よ、起こすわ。貴女、そこを退いてくれる? 邪魔よ!」
そう言い終えると、カトレアを威圧して退かすのであった。そして、ケビンの傍らに膝をつき耳元で囁く。
「私の可愛いケビン。起きてちょうだい。お姉ちゃんからのお願いよ。起きないと抱きしめちゃうんだから」
その瞬間、ケビンが覚醒し物凄い速度で、寝ていた場所から距離を取り、一連の光景を見ていた人たちは目を疑ったのだった。




