第29話 闘技大会 ~総員戦~ ③
森の中からまた生徒が現れる。予想通りEクラスの生徒たちだった。
「あれ、あいつらまだ来てないな。さては、甚振って遊んでるな。可哀想なことをするもんだ。格下相手に何を時間掛けてんだか」
「まぁ、あっちはあっちでいいじゃない。向こうが楽しんでる間にこっちはこっちで楽しみましょ。旗を壊せばいいとこ取りじゃない」
「それもそうだな。遅れてるあいつらが悪いんだし、旗壊していいとこ取りしてしまおう。それじゃあ、みんなサクッと倒して旗を壊すぞ! 突撃だ!」
号令と共にEクラスの生徒達は駆け出す。魔法の援護射撃が先程より少ないので近接メインのグループなのだろう。
「ねぇ、今回はどうするの? 敵がいきなり走ってきてるよ?」
「そうだな……今回は無駄な撃ち合いはないみたいだから、一方的に撃ってやれ。向こうは魔法使いが少ないようだから数打ちゃ当たるぞ。接近される前に数を減らせるまたとない機会だ。近接戦が得意そうだから、痛い思いしたくなければ魔法でどんどん数を減らせ。数を減らせばさっきみたいに2対1や、もしかしたら3対1に持っていけるかもしれない。楽したきゃ敵を今の内に倒しておくんだ。さっさと終わらせれば、またのんびりできるぞ。やっちまえ!」
「「「「「おおおおおー!」」」」」
先程より明確に士気が上がっており、みんなやる気が充分だった。各自思い思いに魔法を撃ち始めた。
「やっぱり指揮官に向いてるよね。さっきより士気が上がってるじゃん」
「それは簡単だ。さっきEクラスのグループを倒したから、全員自信が持てたんだよ。前線で戦うのが嫌で、守備隊に引きこもってた自分たちでも、やれば出来るってな。何せ、うちの混成隊か攻撃隊を突破してきた奴等を、守備隊が倒したんだからな。自信は嫌でも付くってもんだ」
「策士ここに極まれりって感じだね」
「お前もボチボチ手助けに行けよ。幾ら士気があったところで疲労は溜まってるからな。撃ち漏らしがチラホラ目立ち始めた」
「えぇ……ここでのんびり見学していたいんだけど」
「今回の戦いはお前が鍵なんだ。手助けしないと負けるぞ」
「うーん……交換条件を飲むならいいよ」
「一応聞いといてやる。何だ?」
「私の事は、今後“カトレア”って呼ぶこと。いつも“お前”って呼び方だし。全然嬉しくないし」
「わかった。以後は名前で呼ぶように心掛ける。それでいいか?」
「それでいいよ。試しに名前で呼んで指示出して」
「カトレア、味方の攻撃で空いた穴のカバーを頼む。張り切って行ってこい!」
「うん! わかったよ。行ってくる!」
そう言って満面の笑みを向けて、颯爽と戦場へ駆けて行く。
「呼び方ひとつでこうも変わるもんかね……」
ケビンは戦況を見守りながら、独り言ちるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
~ Eクラスside ~
「おい、本当にこいつらFクラスかよ! さっきのグループは囮だったのか!? こっちの奴らが本命か?」
「知らないわよ。だけどさっきの奴らよりかは、強いってのは確かね」
「もう半分もやられてるぞ。しかもウザイ事に魔法の精度が高い。確実に狙って撃ってやがる」
「そうね。せっかく接近戦に持ち込んだのに、味方がいようが容赦なく撃ってくるんだもの。しかも、味方への誤射はないし。嫌になってくるわ」
「ちっ! 愚痴っても仕方ねぇ。少しでも数減らして旗壊すぞ」
「それが賢明ね。いちいち相手してられないわ。旗をメインにしましょう」
「残念ですが、そうは行きませんよ?」
「誰っ!?」
背後からいきなり声を掛けられて驚く女子生徒。そこに居たのは、先程ケビンの傍らから颯爽と飛び出したカトレアだった。
「では、出会い頭に一人」
そう言って周りに居た、Eクラスの生徒を斬り伏せ倒した。
「なっ!?」
「驚いてくれている間にもう一人」
さらにもう一人斬り伏せられる。
「み、みんな散開して! 固まっててはダメよ!」
「なんだよコイツは!?」
「酷いですね、女の子に向かって“コイツ”はないでしょう。みなさん、敵が馬鹿なことに散開してくれましたよ。さぁ、袋叩きの時間です。見下された鬱憤を晴らしましょう!」
その掛け声と同時に、守備隊は各自集中攻撃するのだった。
「おっと、この女子生徒には手出し無用ですよ。女の子に手を出しては後味悪いですからね。私が相手をしますから、残りの2人は好きに袋叩きをして下さい。さっさと終わらせて、またのんびりしましょう。いい天気ですしね」
いつになく饒舌なカトレアからの指示が、他の生徒たちに届き、それに応えてEクラスの生徒たちを追い詰めていく。
「あなた誰なの? Fクラスのリーダー?」
「いえいえ、友達から言わせてみれば、私はただの拗らせですよ?」
「意味がわからないわ。先程の手際といい、あなたがリーダーなのでしょう?」
「違いますよ。リーダーなら森の中に入っていきましたから。会ってませんか? 近接戦が得意だったのですが」
「漢気のある人なら会ったわ。うちのクラスメイトが倒したけれども」
「多分、その人で合ってますよ。頭を使うのが苦手で体を使う方が得意な人でしたから。クラス投票でいっぱい票を獲得してましたから、暗黙の了解でリーダーみたいになっちゃった人です」
「そんなに強いのにリーダーじゃないなんておかしいわ。ここだってあなたがいるから、比較的強い人たちで固めているのでしょ?」
「ここにいる人たちは、ダラダラ過ごしたい人を筆頭に、前線で戦いたくない臆病者が集まった守備隊なんですよ」
「何そのふざけた集まりは。馬鹿にしているの?」
「馬鹿になんてしませんよ。ただそれが事実なんですから。気づいてないのですか? 旗の所に1人だけ残ってるでしょ?」
その言葉を聞き、Eクラスの女子生徒は旗へ視線を向けると、そこには旗に凭れてボーッとしている生徒が居た。
「彼がダラダラ過ごしたい人なんですよ。酷いですよね。みんな戦ってるのに、1人だけあそこでのんびりしているんですよ?この試合が始まって、あそこに凭れて座ってからは、1度も立ってないんですよ。しかも、敵がいないと暇だからと言って寝るし」
「ありえない……」
「ありえないですよねぇ、私にも戦ってこいって言うんですよ。か弱い女の子なのに」
「あなたのその強さもありえないわ。ふざけてる」
「酷いですねぇ、これでも真面目で通っているんですよ? ボチボチ倒していいですかね? 私もサッサとのんびりしたいんですよ。味方はもう旗に戻り始めているし」
周りを見渡すといつの間にかクラスメイトは倒されていた。残っているのは自分一人。
自陣の旗にはまだ戦力は残っているが、この集団相手に勝てるかはわからない。
旗を守るために本命を残す作戦はよく使われたりするが、それにしても、本命とそうじゃない部隊の戦力差がありすぎた。
わざとそうしたのか? こちらが侮って隙を晒すために。
わからない……
わかっているのは、自分たちは負けるという事実だけ。色々な考えが頭を過ぎるが考えが纏まらない。
ふと目の前の少女に目を向けると、私の記憶はそこで途切れたのだった。
守備隊の連中がゾロゾロと戻ってくる中、最後の一人を倒したカトレアがこちらへ戻ってくる。
「ケビン君、終わったよ」
「楽勝だったろ?」
「そうだね。思ってたより強くなかったよ」
「それにしても、随分とフレンドリーに喋ってたな。人見知りは何処へいった?」
「何処にも行かないよ? あれは、アドレナリンが出てたんだよ」
「そういう事にしといてやろう」
そう答えて次の行動を考えだした。ここに来ていたグループは併せて20名いた。つまり旗を守っているのは残りの10名という事になる。こちらに来るのを待つか、それとも攻めに行くか。
「なぁ、みんなに聞きたいんだが、ここまできてしまったら旗を壊して勝つのと、生徒を全滅させて勝つのはどっちがいいと思う? 敢えて自分達で自陣の旗を壊して負けるという手もあるが。」
「そうだねぇ……ここまできたからには負けるのはナシで」
カトレアが答えると、他の生徒たちから次々と意見が出る。
「僕は全滅させてみたいかな。全滅で勝つなんてあまりないんじゃないかな」
「私はどっちでもいいかな。負けるのは嫌」
「俺は旗をサクッと壊してみたいかな」
「私は全滅させて、旗には手をつけずに勝ってみたい」
「私はここからあえて移動せずに、自陣のエリアで全滅を狙ってみたい。攻めてないのに勝っちゃったって感じで」
「僕もここにいて守ってただけなのに、相手が勝手に全滅して勝っちゃいましたって感じを演出してみたい」
「じゃあ、とりあえずは全滅の方向性でいくとして、問題は攻めて勝つか守ったまま勝つかの2択だな。そろそろ相手さんもおかしいのに気づくはずだから、何人かは此方に来るかもしれない。全員で来てくれるのが1番手っ取り早くて済むんだが」
「素直に攻めてきてくれるかな? 数人で来られたら人数差で攻めてこないかもよ?」
「それならそれで構わない。引き返して仲間を連れてくるだろうからな。全員で来た所で一網打尽だ。今のところ此方を見下している様だから攻めてこないって線はないだろうな」
「じゃあ、迎え撃って全滅作戦が妥当じゃない?」
「そうね。それしかないわね」
「僕もそれで賛成かな。旗を壊すのは次の機会にでもしようよ。もっと実力を付けてからとか」
「そうだな。今回で最後って訳でもないし、次回に期待だな」
みんなの意見が纏まりだしたところで、作戦を伝える。
「次の作戦は騙し討ちだ。俺たちが全員ピンピンした状態でここにいたら、いくら相手でも訝しむ。だから、次はそこら辺に転がっている敵を使う。敵の傍らに倒れてれば、既にやられた奴だと勘違いするだろう。そしてここに残って旗を守ってる人数を減らしておく。そうする事で攻めてきた奴らに自分たちだけで勝てるとわざと思わせるんだ」
「それで罠にかかった敵を挟撃するのね」
「そうだ。目の前の敵に集中してるから、背後からの攻撃には弱い。『今だっ!』なんてわかり切った合図は出さないから、だいたい敵が森と旗の半分位に行きついた時点で、各自の判断で背後からの攻撃開始だ。距離があるから魔法の得意な奴が奇襲してくれ。くれぐれも詠唱以外で喋るなよ、気づかれたら奇襲の意味がなくなってしまう」
「旗に残す人数はどうするの?」
「5人だな。恐らく敵はここに残っている生徒は、比較的強い奴だと思うだろう。旗を守ってる事もあるしな。偵察隊が多分5人だ。半分は奇襲の線を考えて旗に残すだろう。だが、此方が残り5人だと思わせることで、旗の奴等を呼びに行かせ全員で攻め込む機会を与えるのさ」
「呼びに行かずそのまま攻めてきたら?」
「倒せばいい。どういう結果になっても、残ってる奴等には攻める以外の手が取れないんだ」
「どうして?」
「格下相手にビビってるなんて、あいつらのプライドが許さないだろ。だから、異常事態でも攻めるしかない」
「なるほどぉ、相手の心理を逆手に取った作戦ってわけね」
「ボチボチ作戦行動に移ってくれ。そろそろ相手さんが偵察に来るぞ。奇襲組はなるべく森に近い方に陣取ってくれよ。あと、念の為に寝転がる前に、転がってる敵にトドメを刺しておいてくれ。ギリギリ意識を失わず起きてたら面倒だからな」
「動けない敵にトドメを刺すなんて鬼畜ね」
「体力がないだけで意識が残ってたら面倒だろ。『罠だー!』なんて、叫ばれてみろ、作戦が無意味になってしまう。それとも、ここまできて負けたいのか?」
「それもそうね。ここで負けたら後悔しか残らないわね」
「じゃあ、作戦に移ってくれ。時間はもうないぞ」
その言葉を皮切りに、半数の生徒達はトドメを刺しに向かって行った。ある程度、森に近い所で寝転がってくれているようだ。
「ケビン君はどうするの? 流石にこの人数だと、動かなきゃいけないんじゃないかな?」
「俺は精根尽き果てた生徒を演出して、ここでゆっくりしているよ」
「何がなんでも動かないつもりなんだね?」
「そこは、カトレアがちゃんと守ってくれるのだろう? 自分で言ってたじゃないか。守るためにここにいるって」
「ズルいよね。こんな時ばかり名前で呼んで」
「ほら、敵さんが来たぞ。雑談は終わりだ」
視線を向けると、森からEクラスの生徒たちが出てきていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
森から出てきたEクラス側では……
「な? 俺の言った通り5人しか残っていないだろ? しかも、その内の1人は座り込んでるから、ほとんど役に立たないんじゃないか? 実質、4人倒せば終わりだ。初の総員戦で全滅させて勝利なんて中々ないと思うぜ。ついでに倒した後に旗も壊そーぜ、俺たちが歴史に名を残すんだ」
「そうだな。10対4なんて相手にしてみれば、地獄でしかないだろう。甚振る気はサラサラないから、さっさと終わらせてやろう」
「旗の守りとか、つまらない役割にされた時には嘆いたもんだが、こんな最高なステージが用意されているとはな。俺の運も中々捨てたもんじゃないな」
「それにしても、Fにしては頑張ったほうじゃないか?俺たちをここまで追い詰めたんだからな。個人的には表彰してやりたいよ」
「表彰するとして何の賞にするんだ?」
「そりゃ、努力賞だろ。格下の癖によく頑張りましたって」
ケビンの予想通り敵は残り全員で攻めてきた。余裕の現れかゆっくりと歩みを進めてきている。
「ほれ見ろよ。奴等揃いも揃って動きもしねぇ。敵が目の前にいるってのにな」
「こんだけの人数相手にビビってるんだろ? むしろ逃げ出さないだけマシじゃないか?」
会話しながらもどんどんと距離を詰めていき、ちょうど半分に差しかかろうかとした時だった。目の前のFクラスから魔法が飛んできた。
「ちっ! 最後の悪足掻きかよ」
次から次に飛びかかる魔法を、軽く避けて距離を詰めていく。
「ったりーな。さっさと接近して終わらせるぞ」
その言葉と同時に駆け出そうとした生徒に、魔法が直撃して倒れ込む。
「なっ! 伏兵か!?」
「何処からだ!」
「後ろだ!」
振り向いた先には、確かに倒れていた生徒たちが起き上がって、魔法を放っていたのだった。
「くそっ!」
前から後ろからと、魔法を撃たれて慌てる生徒達。いきなりの事で上手く対処できずに倒れ込む生徒が増えてきた。
「焦るな! 冷静に対処すれば避けれるはずだ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方Fクラスの自陣では……
「そろそろだな。カトレア、残った敵を始末出来るか?」
「んー出来なくはないかな? 疲れるけど」
「どうせ最後なんだ、疲れるくらいどうって事はないだろう?」
「えぇ……動いてない人には言われたくないなぁ」
「頭は動かしてるぞ。作戦立案してただろ? 頭を使うのも結構疲れるんだぞ」
「むぅ……」
そう言って頬を膨らませて、此方を見下ろすその仕草は、中々可愛いものがあった。
「ということで、残りの奴の始末は任せた。流石に魔法だけだと倒せないしな。他のやつも牽制の魔法はもう撃たなくていいぞ。接近戦の方が得意だろ? だいぶ数は減らせたし、あとは袋叩きにしてきてくれ、魔法は奇襲組に任せればいいから」
そして、旗の周りにいた4人の生徒達は一気に駆け出した。最後のひと仕事と言わんばかりの勢いで。
その勢いに押されてEクラスの生徒たちは、1人……また1人とやられていった。目の前の敵に意識を向けると、死角から魔法が飛んできて、為す術なく倒れていくのだった。
最後の一人が倒れると、誰とはなしに勝鬨を上げた。
「勝ったぞー!」
こうしてFクラスがEクラスを打ち負かすという、前代未聞の出来事が起こり、その日のうちに学院中に広まるのだった。
《終始動かなかった最初から諦めている、やる気のない生徒がいた》という話と共に……




