第28話 闘技大会 ~総員戦~ ②
(ぶるっ!)
怖気を感じたケビンは、急に目を覚ました。
「起きたの? まだ敵は来てないわよ」
「なんか悪寒が走ったんだよ」
「試合の最中だし、嫌な予感ってやつかしら?」
(試合は関係ないな。感覚的に姉さんに見つかる時と同じだ。ヤバい……確実に姉さんは試合を見ている。これはもう、平穏な日々とおさらばするしかないのか? 気配や魔力を消しても見つかるから、逃げようがないんだよな。あれ、どうやって見つけてるんだろう? 第六感的なやつか?)
「それにしても敵が来ないわね。意外と勝ててるのかしら?」
そんなやり取りをしている中、森の中では凄惨な戦いが繰り広げられていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おい、Fクラスのやつがいたぞ。ぶちかませっ!」
Eクラスの生徒達は魔法を唱え、Fクラスの生徒たちに雨あられの如く魔法を浴びせていく。
「くっ! 斥候達が奇襲を成功させられるように、俺達が敵の攻撃を引きつけるぞ。みんな、耐えろよ!」
「おいおい、少しは避けてくれないと練習にならないだろ? 突っ立ってるだけじゃ的と変わらねーじゃねーか!」
持ち前の装備で、何とか被害を最小限に留めている時、敵の死角から斥候の1人が奇襲をかける。
「とった!」
確実にやれるタイミングで、成功するかと思われたその攻撃に、Eクラスの生徒は難なく対応してみせた。
「バーカ。やる前に喋ってたら奇襲になんねぇだろうが」
そう言い放った生徒の後方から、火柱が上がる。
「うわぁっ!」
「仕掛けておいたトラップにハマるとは、間抜けなやつだな」
魔法を無防備な状態で受けた生徒は、その場に倒れ込み気絶した。
「もっと張り合いのある奴はいねーのか? これじゃあ、俺達が弱いものいじめしているみてぇじゃねぇか」
「言わせておけばっ! みんな、耐えるのは止めだ! やり返して倒すぞ!」
その言葉を皮切りに遊撃隊は魔法を打ち始め、近接が得意なものは接近戦に挑んだ。斥候隊も奇襲は通用しないと感じ、遊撃隊に混じって攻撃に出た。
「やっとやる気になってくれたのか? せいぜい楽しませてくれよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
時を同じくして、攻撃隊の方でも戦闘は開始されていた。攻撃特化の部隊で編成しただけあって、中々の健闘をしていたが、長くは持たなかった。
「こいつら中々やるな。てっきりすぐやられると思ってたのに」
「そうね。でも、その分練習が出来ていいんじゃないの?」
「それもそうか」
敵が呑気に会話を楽しんでる間も、攻撃の手は止まらなかった。Fクラスが奮闘する中、Eクラスは練習がてら相手をしているようなものだ。
1つ上のクラスなのにこうも実力差がある事に、攻撃隊が絶望感を抱いてしまうのにそう時間はかからなかった。
「くそっ! なんだって同じ授業受けてて、こんなにも差が開くんだ!」
「分かるわけないだろ! それよりも1人でも多く倒さないと、混成隊の方に合流されるかもしれないぞ!」
「多分、あいつらはもっと苦戦しているはずだ。俺たちが踏ん張らないと、混成隊よりも先にやられたんじゃ笑われちまう」
1人、また1人とやられていく中、何とかEクラスに食らいつこうと足掻いてる時に、敵から声をかけられる。
「別グループの心配か? それはするだけ無駄だぞ。もう終わってるかもしれないしな、お前らが笑われる心配もない」
「何だと!」
「向こうのグループにはな、俺たちのクラスの中でも狡猾なやつがいるからな。搦手でやられてるんじゃないか? 罠を張るのが得意だからな。迂闊に近寄れば罠で絡め取られて終わりだ」
「それなら、尚更お前達を倒して助けに行かないとな」
「この状況でか?」
「あぁ、やれるだけの事はやってやるさ」
「中々根性あるな。お前、名前は?」
「サイモンだ。お前は?」
「オリバーだ。サイモン、次に戦う時には万全の体制でやり合おう」
「次は、俺が勝つ!」
その言葉を最後に、サイモンはオリバーの攻撃を受けて倒れた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方その頃守備隊では、呑気に寝直してる生徒とその傍らに佇む生徒、暇すぎて雑談している生徒達と分かれていた。そんな中、1人の生徒が呟く。
「お、おい、あれ敵じゃないか?」
森から出てきた生徒はクラスメイトではなく、敵のEクラスであった。
「お? 俺達が先乗りか? さっきは弱い者いじめになってしまったし、今度は楽しませてくれよ」
「それよりもあれ、寝てるやつがいないか?」
「ん? マジかよ!? 寝てるぞあいつ! やる気ないにしてもそれはないだろう。担任に怒られても知らねぇぞ」
「水でもぶっかけて、起こしてやろうぜ」
「怒られる前に起こしてやるなんて、お前優し過ぎるだろ。どうせだから思いっきりやってやれ!」
「任せろ! 《清廉なる水よ 球体となりて 我が敵を撃て ウォーターボール》!」
まだ近接戦闘するには遠い距離から、ケビン目掛けて魔法が飛来する。
誰もがケビンに当たると思っていたその魔法は、予想を裏切り途中で霧散した。
「おい、失敗してんじゃねーよ! ダサすぎんだろ!」
「おかしいな? 成功したと思ってたのに」
そんなやり取りを他所に、Fクラスは漸く戦闘態勢を整える。
「敵が近づくまでは魔法で迎え撃て。作戦通りやるぞ」
誰かがそう言うと、魔法を使えるものは詠唱を始めた。
「ねぇケビン君、敵が来たよ。戦わないの?」
「ん? 俺が戦わなくても、周りの奴らが何とかしてくれるだろ? のんびり見学してるよ」
「えぇ、ここにきてそれ? さっきは旗が壊れたら寝れなくなるから、戦うみたいなこと言ってたじゃん」
「それはそれ、これはこれ。まだ気が乗らないんだよな。寝起きだし。二度寝したい気分だ。遠くにいるんだし、まだ大丈夫だろ」
「でも、ここに来てるって事は、少なくともうちの混成隊か攻撃隊がやられたってことだよ。どっちもやられてたら敵が押し寄せるよ」
「それはそれで面倒だな。じゃあ、お前が敵を薙ぎ倒してこい。目立つ上にカッコイイぞ」
「女の子にカッコ良さ求めてどうするんだよ。どっちかって言ったら、可愛いって言われた方が、まだマシだよ」
「じゃあ、目立つ上に可愛いぞ。行ってこい」
「ヤダ。取ってつけたように言ったって全然嬉しくないし、戦ってるのに可愛さなんて出ないし」
「ワガママだな」
「どっちがだよ!」
2人がやり取りしている間も、敵味方の攻防は続く。
「おい、どうなってんだよ。何でこっちの魔法は失敗ばかりしてんだよ」
「知らねーよ。日頃、適当に練習してるからだろ」
「それにしても、失敗する確率が多すぎるんだよ」
「向こうだって失敗してんだ。お互い様だろ。もう面倒だから近接で倒そうぜ。魔法撃ったって失敗するんだし」
「くそっ! 魔法だけで無双する予定だったのによ。こうなったら、アイツらで憂さ晴らししてやる。魔法は援護だけにしろ! 近接戦でケリをつける! 相手は格下なんだ、俺らでも十分にやれる!」
「よっしゃ! ボロボロにしてやるぜ!」
その言葉を皮切りに、Eクラスが怒涛の勢いで攻めてきた。中々魔法が当たらない鬱憤が溜まっていたのだろう。しかし、守備隊の方は相も変わらず魔法を撃ち続けた。
闇雲に突っ込んでは、魔法を避けるのに必死なEクラスに対し、遠距離から的確に魔法を撃つFクラス。思ったよりもEクラスの消耗の方が激しかった。
「そろそろか……よし、敵は冷静さを欠いて突っ込んできているから、こちらは逆に冷静さを持って対処しろ。たかだか相手は同級生の1クラス上のやつだ。Sクラスに比べたら月とスッポンなんだから、勝つ気があるうちは勝てるぞ。近接が得意な奴は2人1組で敵に当たれ。魔法が得意な奴はそのまま撃ち続けろ。あれだけ魔法の練習をしたんだ、味方に当てるなよ? 相手はさっき見た通り魔法ばかり撃ってきて、近接が得意な奴は少ない。近接組は接近戦で魔法使いに負けましたなんてなったら末代までの恥だと思え。俺らを下に見た奴らに目に物見せてやれ!」
ケビンの号令と共に、守備隊のメンバーはやる気を出し、先ほどより士気が向上し奮闘するようになった。
「ケビン君って指揮官に向いてるね。みんなをのせるのが上手い。いつもそんだけやる気があればいいのに」
「そんな面倒くせぇことするかよ。これは、俺が目立たず楽するための努力だよ。これで俺が何もしなくても、勝手に周りの奴らがEクラスを撃破してくれる。俺はそれをのんびりと眺めてればいいだけだ」
「何がなんでもダラダラする気なんだね」
「当たり前だろ。にしても、お前は戦いに行かないのか? 仕事してないだろ?」
「私は大将を守ってるんだよ。重要な役割だよ」
「嘘つけ。ただ単にサボってるだけだろうが!」
「そうとも言う」
「いつもの真面目さは何処に行ったんだ?」
「今日はそこまで頑張らなくてもいいかなーって思ったから。みんなが頑張ってくれてるし。本当はあまり疲れることはしたくないんだよ。私、女の子だし」
「都合のいい女の子があったもんだな」
「そこは乙女の秘密だよ」
2人が話している間に、どんどんと数を減らしていくEクラス。そんな彼らの思考は同一のもので占められていた。
『Fクラスにやられるなんてありえない』と。
~ シーラside ~
「ねぇ、Fクラスがやられてますわよ。大丈夫ですの?」
「大丈夫よ。Fの旗を守ってるのはケビンだもの」
「言ってる傍からFの1グループがやられましたわ。このままでは旗まで攻め込まれましてよ」
「そうね。やっぱりFは毎年のことながら弱すぎるわね」
「それはそうですわ。数合わせのために選ばれた生徒達ですのよ。毎年、FがEに繰り上がることはないのですから」
「今年はそうはならないと思うわよ」
「いくらあなたの弟さんが凄くても、クラス全員をEの実力まで押し上げるのは無理ですわよ。Fは所詮Fなのですから」
「見てれば分かるわ」
「それは楽しみですわね。ほら、予想通り旗まで攻め込まれてますわ。あら? あなたの弟さん魔法で狙われてましてよ。敵が近くにいるのにまだ寝てますわ」
モニターでは、ちょうどEクラスの生徒がケビンに対して、魔法を撃つところだった。
「ケビンの眠りを邪魔するなんて、万死に値するわね」
「そんなことよりも、周りの生徒は起こさないのかしら? ダメージを受けますわよ」
Eクラスの生徒から魔法が放たれたあと、ケビンの所までは届くこともなく霧散する。
「ラッキーですわね。相手が魔法を失敗したみたいですわよ」
「あなたにそう思わせる事が出来たなら、ケビンの作戦勝ちでしょうね」
「どういうことですの?」
「今の魔法失敗はケビンの仕業よ」
「っ!? ありえませんわ。ケビン君は寝ているじゃありませんの」
「既に起きてるわよ。あの子、気配を読むのが物凄く上手いんだから」
「たとえ起きていたとしても、相手の魔法を失敗させることなんて出来ませんわよ。どれだけ距離が離れてると思ってますの? 攻撃すらしてないじゃありませんか」
「そこがケビンの怖いところね。攻撃されたと思わせないのよ。現に、Eクラスは失敗したと勘違いしてるし。誤魔化すために、味方の魔法も妨害してるわね」
モニターに映る魔法の撃ち合いは、適度に失敗している生徒が敵味方問わず散見された。
「ありえませんわ。魔法の妨害は、術者への攻撃しかありませんのよ。魔法を発動した後に、妨害して失敗させるなんて聞いたことがありませんわ」
「私も聞いたことがないわ。今初めて見るもの」
「それならただ単に失敗しているだけではございませんの? ケビン君がやった証拠なんてないのですから」
「もしかしたらそうかもしれないわね。でも、可能性は捨てきれないわ。ケビンはもう目を開けているのだから」
「目を開けると何かありますの?」
「戦場把握でしょうね。幾ら探知できるとはいえ、目で捉えた情報の方が多いから。ほら、ケビンが何か指示出ししているわね。ここから、形勢が逆転するわよ」
その言葉通りモニターの中では、FクラスがEクラスを圧倒していった。少しずつ数を減らしていくEクラスに対し、Fクラスの生徒は衰えることなく攻撃していく。
「もう何回目かわかりませんが、あえて言わせてもらいますけど、ありえませんわ」
「ケビンがそこにいる。それだけで“ありえない”事も“ありえる”のよ。入学試験で満点を取るのよ? そこらの生徒よりかは断然、頭がいいのよ」
(はぁ……今日のケビンもカッコイイわ。ハグしてあげたい)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
~ ケビンside ~
(ゾクッ)
ヤバい……やっぱり姉さんが見てる。ここまで観られてるならもう雲隠れは無理だな。早く終わらせてベッドに逃げ込みたいけど、自分で動くと絶対目立つし、人に任せると時間が掛かるしでジレンマだな。
そんな中、とうとう最後のEクラスの生徒が倒れた。
「……あ……ありえねぇ……」
「よし、攻めてきてた奴等はもういないな。みんな、急いで倒れた奴等を来た方向と別の森の中に隠せ。もうそいつらは戦えないんだから、雑に扱って構わんぞ。森の中へ投げてしまえ。残りのグループがここに辿り着く前に何事も無かったようにしておくぞ」
号令と共にFクラスの生徒たちが、Eクラスの生徒たちを森の中へと運んでいく。律儀にちゃんと運ぶ者や言われた通りに投げる者と様々だった。
「運び終わったら休憩だ。また敵が来るからのんびりしておけ。休める時に休んでおけよ」
その場に腰掛ける者や雑談を始める者、そうやって皆思い思いに戦い始める前と同様に暇な時を過ごすのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
~ シーラside ~
「これは何なんですの!? Eクラスの生徒が一部とはいえ、負けてしまいましたわよ!」
「流石は私のケビンね。カッコよすぎる手際だわ」
「あなたのかどうかは知りませんが、凄いことですわよ。私の知る限りでは、今までFは蹂躙されて終わりでしたのよ。たまに一矢報いる生徒もいましたけど」
「これは次のグループも同じように倒されるわね。もう勝つのは今まで通りのEクラスではなくFクラスよ。面白くなってきたわ」
「次も同じようになると言いますの?」
「何故、倒れた生徒を片付けさせたと思う?」
「質問を質問で返されてしまいましたわね。……戦闘の時に邪魔になるかもしれないからではないの?」
「違うわね。最初からケビンは2グループ来ていることに気づいていた。その内1グループが先に到着して、先乗りした事に喜んでたでしょ? つまり、残った1グループも何もない所に出てきたら、口に出すか出さないかはわからないけど、先乗りしたことに喜ぶはずよ。Fクラスを格下と思っているのだから。そう思わせるために、倒れた生徒を隠したのよ。そして何より、格下と思って見下している相手に慎重になる事はない。慎重になるのならそもそも見下したりはしないから。その驕りに付け込んで倒したのが、さっきの戦闘よ」
「そんな事をまだ年端もいかない1年生が考えていますの?異常ですわよ」
「そんな天才的なところもケビンの魅力よ。素敵でしょ?」
「あなたの超弩級ブラコンには敵いませんわね」
「私はブラコンじゃないわ。可愛い弟を愛しているだけよ」
「それを世間一般ではブラコンと言うのですわ」
「それは世間の認識が間違っているだけね。家族を愛せないだなんて悲しい世間ね。滅べばいいわ」
「サラリと怖いことを仰いますのね」
「何時までもそんな下らない事を言ってると、ケビンのカッコイイ姿を見逃すわよ」
「カッコイイ姿って……未だに立ち上がってすらないのですけれど? ずっと座って寝てるか指示出ししてるかですわ」
「ほら、次のグループが来たわよ。罠とも知らず間抜けね」
モニターには、Eクラスのもう1グループが、ちょうど森から出てきたところだった。




